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第三十一話 犬以上、狼未満というもの

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 「おー! お前の名前が決まったのか! タイガか、かっこいいじゃねえか」
 「にゃーん!」
 「おお、しゃきっとしたな。ロイドが洗ってブラッシングをしているから最初に比べたら見栄えがいい」
 
 工房から帰った夜、結局ついてきたジェニファーとタイガだけど、ロイド兄ちゃんに猫の名前が決まったと伝えたところ喜んでいた。
 心の中では『チャタロウ』と呼んでいたらしいけど、ステラと同レベルである。

 「ギル兄は犬派だもんな」
 「別に嫌いじゃないぞ。ただどちらかと言えば犬だというだけだ」
 「猫とにわとりというのもおかしな感じだけどね」
 「はっはっは! 違いねえ! まあ賑やかでオレはいいけどな。ほらタイガ取ってこい」
 「こけー!」
 「なんでジェニファーが興奮してるんだよ」

 とまあ、割と兄ちゃんズも一匹と一羽は気に入っているようでなによりだ。今度の休みは一緒に遊ぼうかな?
 
 とか思っていると、工房に赴いてから数えて七日が経った。

 あれから兄ちゃんや父さんと町へ行くことはあったんだけど、家具屋と鍛冶屋へ行くばかりでステラやフォルド、アニー達と会うことはなく、少々残念な日々を過ごしていた。
 代わりといってはなんだけどザトゥさんのゲーミングチェア製作は順調で僕がアシストする感じでそろそろプロトタイプができそうだ。
 それと新・秘密基地に網戸を新設することができ、快適に過ごすことが――

 「暑い……!」
 【ふんふふーん♪ お? どうした?】

 ――できていなかった。

 やっぱり氷柱だけじゃちょっと物足りない。窓を増設すると秘密基地感が薄れるので他に考えないといけないな。

 「外の風は涼しいし、やっぱり扇風機かな? でもモーター部分はどうすれば」
 【なんだい、また発明かい?】
 
 ゼオラが自室から出てきて寝転がっている僕の顔を覗き込んできてその手にあったものを僕のお腹に乗せて笑う。

 「またカブトムシ……どこから採ってきたんだよ」
 【男の子はやっぱカブトムシだろ? それより旧・秘密基地までの道ができたらしいじゃないか。一応見回ってみた方がいいんじゃないか?】
 「あー、そうだね。ジェニファーとタイガがびっくりするかもしれないし行ってみようか」

 僕はカブトムシを壁に貼り付けて外に出るとしっかり鍵をかけて池へと向かう。
 散歩道はそこそこ幅があり、馬車がすれ違えるくらいはあり、道の両脇に沿って塹壕のような穴を掘り、さらに池の水を流している。
 こうすることで魔物が簡単に道へ入れないように配慮しているようだ。
 さらに衛兵が巡回するので本当に安全に配慮した作りだな。

 池の水は湧き水のようで流れても減らず、田畑の水に使われているのも賢い。

 「休憩所として使ってもいいかなあ……あ、でも今の時期は暑いかな」
 【ならいっそ窓を作って風通しを良くしたらどうだ? あ、でもジェニファー達が怒るか?】
 「もう屋敷に小屋を作ってあげるよ。言い聞かせればハリヤーと一緒に寝るかもしれないし」
 【いいかもな。ハリヤーとも遊んでやろうぜ】

 そういえば最近一緒に散歩をしていないなと思っていると、旧・秘密基地が見えてきた。

 来たのだが――

 「こけー!!」
 「ふしゃぁぁぁ!!」
 「今のは!?」

 ジェニファーとタイガの咆哮が聞こえてきた。
 侵入者か? ただごとではない鳴き声だったから急いで扉を開けて声をかける。

 「ジェニファー、タイガ!!」
 【おや、あれは――】

 ゼオラが覗き込むように部屋の方に目を向けて呟く。

 「ばうわう! ばうわう!」
 「……犬?」
 【いや、フォレストウルフだな】

 柴犬くらいの犬……じゃなくてフォレストウルフが吠えていた。
 吠えていたんだけど、

 「ちょっと細すぎないかこいつ……? あ、もしかして」
 【思い出したか? 多分、お前が町に初めて行ったときに見た群れに入っていない個体だな。まだ生きてたみたいだけどガリガリすぎるねえ】
 「ばう……わう……!」

 僕がまったく怯んでいないことに焦ったのか尻尾が下がっていく。あんまり餌がとれていないんだろう。目も毛並みも良くない。
 さて、どうするかと思っていたところでフォレストウルフが振り返りジェニファーとタイガへと向き直ると急に飛び掛かった。食べる気か!?

 「ジェニファー、タイガ避けろ! 魔法を――」

 初の魔物退治かと手をかざしたけど、そこから魔法が発動することは無かった。

 「こけー!!!!」
 「しゃぁぁぁぁ!!」
 「わぉぉぉぉん!?」
 
 一羽と一匹にボッコボコにされていた。弱っ!?

 【まあニワトリと猫とはいえ、よく運動していいもの食ってるやつとじゃ勝負にならんわな】
 「それもそうか。それにしても酷いありさまだなあ。ジェニファーとタイガ、ストップ」
 「こけ」
 「にゃー」

 僕が声をかけるとサッと離れてベッドの上へ避難する。
 床ではぴくぴくとほぼ死にかけになった哀れなフォレストウルフが転がるのみとなっていた。

 「おい、大丈夫か? 見逃してやるからこれに懲りたらここには来るんじゃないぞ? なんかあったかな……」
 
 ポケットを探るとおやつ用に持って来たクッキーがあったのでそれを口に入れてやる。

 「うぉふ……!」
 「うわ、びっくりした」

 フォレストウルフは瞬時に起き上がりクッキーをむさぼり始め、あっという間に平らげた。

 「くぅーん……」
 「もうないよ!?」
 「わふ」
 「お腹を見せてもダメだって。ほら出ていくんだ」

 扉を指さしても動く気配がなく、ジェニファーが蹴っても微動だにしない。肩を竦めているとゼオラが顎に手を当てて口を開く。

 【ウルカ、フォレストウルフが腹を見せるってことは結構重要でね。お前に屈服したんだよ】
 「ええー? どうすればいいのさ」
 【まあジェニファー達と同じ扱いだな】

 飼うのか。
 
 「魔物を飼うのは大丈夫?」
 【ウルカはヴァンパイアハーフだから眷属扱いにすればいいんじゃないか? よくわからんけど、母君に聞いてみたらどうだ】
 
 確かに吸血鬼のお供に狼は居るけど……

 「頼りないなあ」
 「わふ!? ばうわうばうわう!」
 【お、アピールしているな。ここで拾われなかったら多分近いうちに餓死だろうからな】
 「嫌なことを言うなよ」

 くっくと笑うゼオラの後頭部をチョップするが空しくすり抜けてしまう。だけどこのままここで息絶えるのも困るか。

 「オッケー。なら母さんにやり方を聞きに一旦、屋敷に帰ろうか。大人しくできるか?」
 「おふ!」
 
 スタッっと立ち上がり元気よく鳴くフォレストウルフ。しかし足は笑っている。続いてジェニファー達も『悪さしようとしたらとっちめますぜ』と言わんばかりに鳴いていた。頼もしい。

 「まあいいや。ほら連れて行ってやるからおいで」
 「くぅーん」

 五歳の身体にはちょっと大きいけどこれくらいならいけるかとフォレストウルフを抱っこして歩き出す。

 「臭いなお前」
 「おふ!?」
 
 帰ったら洗うかと顔をしかめていると、少し遠くから声がかかる。

 あの声は――

 「おーい! ウルカくーん!」
 「遊びに来たぜー……って犬?」

 フォルドとアニーだった。
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