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第二十八話 お墨付きというようなもの

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 「こんにちはー」
 「なんだよ、ここになにがあるんだよ。職人さんに怒られるのは嫌だぞ俺は……」

 男たちの仁義なき争いが終わらないなーと思っていると外で子供の声が聞こえてきた。

 「あら、誰か来たわよ? ……あら、ジェニファー?」
 「こけー」
 「にわとりー」

 少し開いていた扉の隙間から入ってきたのはジェニファーで、どこかへ居たはずなのに不思議そうに言う。そこでステラが即座に反応してにわとりに飛びつくと、それに続いて猫がついてきた。

 「猫もきた。ちょうど二匹……喋るの?」
 「さっきのはこいつらじゃないよステラ。あの声はフォルドとアニーかな?」
 
 僕と母さんが工房の扉を開けるとそこには予想通り、あの二人が立っていた。僕の姿を見るとアニーが元気よく手をあげて挨拶をする。

 「ウルカ君だー! 全然遊びに来ないから忘れられたかと思ったよ!」
 「ホントだぜ! 俺の魔法を教えてくれる約束もあったのに」
 「いや、それは約束していないけど」
 「あれ!?」

 一気に賑やかになったなあ。
 結局、初対面から半月の間一回も会わなかったからアニーの言う忘れていたかも疑惑はわからないでもない。
 
 「ウルカ君、この二人は?」
 「えっと、こっちの男の子がフォルドで僕達と同じ五歳。女の子がアニーで四歳だったっけ? 兄妹なんだよ」
 「わたしはステラ。あそこで遊んでいるギルドマスターがパパ」

 ステラが仲良く喧嘩しているクライトさんを指さすと、フォルドが拳を握って口を開く。

 「うお……!? めちゃくちゃ楽しそう! というか俺とアニーは兄妹じゃないぞ」
 「え? お兄ちゃんって言ってなかった?」
 「うん! 小さいころから一緒でお兄ちゃんって呼んでるのー」
 「紛らわしい!?」

 いわゆる幼馴染というものらしいや。
 まあ、違っても特に問題があるわけでもないしいいかと気を取り直しているとステラが僕の方に向いてから言う。

 「とりあえずどうしようか? パパ達はしばらく帰ってきそうにないし」
 「確かに……」
 「にゃーん」
 「暇だったら一緒に遊ぼうよ! あれ私もやってみたい!」

 アニーが移動装置となってしまったゲーミングチェアを指さして僕の手を振り、フォルドももう一台ないのかと言い出した。

 「遊ぶのはいいんだけど……母さん、外に出てもいい?」
 「え? そうねえ、町の外側に行かなければいいわよ」
 「おや?」

 意外にもあっさり許可が出た。
 いつもならあの蛇の時みたいに『危ないから』という理由でついてくるんだけど、心変わりが? そう思っていると、

 「ウルカちゃんはヴァンパイアハーフとして覚醒したからよほどのことが無ければ大丈夫だと思うわ。みんなを守ってあげるのも貴族の役割よ」
 「おお……母さんがかっこいい……」
 「ふふん」

 最強種の一角が腰に手を当ててドヤ顔だ。
 なるほど、ある意味で大人として認定されたってことかな。人間とはまた違った価値観なんだろうね母さんの場合。

 「ありがとう母さん! それじゃちょっとこのへんの木と金属を買ってもらっていい?」
 「ウルカ様ー、その辺にあるやつは使っていいですぜー。クライト、そろそろ降りろ仕事にならねえ!」
 「ステラちゃん、ウルカ君と仲良くね!」
 「わかってる」

 ステラが滑走するクライトさんに親指を立てているのを横目に、僕は遊び道具を作ることにした。

 「フォルドの要求を呑んでみよう」
 「のん……? なんだ?」
 
 五歳じゃ分からないかと苦笑しつつ木の板や金属を使ってイメージを形にしていく。
 
 【なにを作るんだ?】

 まあ見ててよと胸中で呟きクリエイトが材料を道具へと変えていき、それは完成した。

 「じゃーん! 手押し車!」
 「おお……! すげぇ!」
 
 僕は車輪が四つのトロッコのようなものを作成。
 中には椅子を二つ作り、後ろから前へかけて段々斜めになっていてジェットコースターの先頭に近い感じだ。
 後ろには取っ手がついていてこれを掴んで押していくスタイルである。

 「よし、フォルドとアニー乗って」
 「ここ、か?」
 「わー、なんかすごい! おいでジェニファー、猫さん!」
 「こけー」
 「ふにゃあん」
 
 二人が乗り込むと、僕はステラは取っ手を掴んでゆっくりと押し始める。

 「それじゃ行ってくるよ」
 「気を付けてね」

 笑顔の母さんに見送られて工房を後にすると、出合頭にハリヤーと目が合う。

 「行ってくるよー」
 
 声をかけると『自分も行きたいです』と言いたげな目をして見送ってくれた。ごめんよ、一人歩きが解禁されたなら今度ハリヤーで町へ行こうと思う。
 それはともかく簡易ジェットコースターを楽しんでもらおうかな。

 「大通りへ行こう!」
 「おおおお!?」
 「ひょー!」
 
 タイヤじゃないのでガラガラと激しい音を立てながら石畳の上を爆走する僕達。
 フォルドが手すりに掴まって強張り、アニーは両手をあげて喜んでいた。

 「わたしは風になるのだー!」
 「こけー!」
 「ふにゃぁぁぁ!?」
 「すげぇけどはえぇぇぇ!? ちょ、ストップ! ストップ!」
 「え?」

 フォルドが叫ぶので足を使いブレーキをかけると、

 「ふお!?」
 「あ! お兄ちゃんが!」

 瞬間、手すりから手を離したらしく派手に前へ飛んで行った。

 「だ、大丈夫かい!?」
 「お、おお……今のはちょっと面白かった……」
 「タフだ」

 ステラがうんうんと唸っていた。
 これはシートベルトなどの改良が必要かとフォルドに手を貸しながら考えていると、立ち上がった彼が笑いながら言う。

 「最初は怖かったけどこれは面白いかもしれねえな! 今度は俺が押してやるぜ」
 「お、それじゃ頼むよ」
 【ふあ……子供はいいねえ】
 「わたしおすー!」
 「それじゃステラと一緒に乗ろうか」
 「うん」

 フォルドとアニーが押し始めるとゆっくり動き始める。

 「こりゃいいや」
 「そんなに重くないけどウルカほど速くないなあ」
 「だねー。ウルカ君の力が凄いのかな?」
 「ウルカは凄い」
 「あー、そんなにくっついたらダメー!」

 ステラがフフフと含み笑いをしながらくっついてくると、アニーが大きな声を出して頬を膨らませていた。
 このままどこへ行こうかと話そうとした瞬間、ゼオラに声をかけられ、目の前でうずくまっている人を見つけた。

 【ウルカ、あの人なんか様子がおかしくないかい?】
 「なんだ? ……苦しそうな……フォルド、あの人のところへ!」
 「お? オッケー!」

 ガラガラとうずくまっている人のところへ行くと、女の人だった。僕はトロッコから降りて駆け寄る。

 「大丈夫ですか?」
 「え? あ、ああ……ちょっと足をくじいてしまって。赤ちゃんになにも無くて良かったわ……」
 「あ、本当だ」

 よく見れば確かに赤ちゃんを抱っこしている。

 「帰れますか?」
 「ちょっと休めば……痛っ」
 「足が腫れているかも」

 ステラがそう言い、確かに足首の色が変わっている気がする。これは病院に行った方がいいかな。

 「これに乗ってください。病院まで運びますから!」
 「え、でも……」
 「私が肩を貸す。赤ちゃんはこっちに座らせるといい」
 「わ、分かったわ。ありがとう……なんか凄いわねこれ……」

 女の人と赤ちゃんを載せ、軽いアニーが赤ちゃんが落ちないよう一緒に乗り込むと僕とフォルドでゆっくり転がしていく。

 「ゆっくりだぞ」
 「分かってるって! 役に立ったなこれ」
 「だなあ」

 ああ、もしかするとベビーカーなんかは喜ばれるかもしれない?
 どのくらい赤ちゃんが居るか分からないけど、試しに作ってもいいかも。
 自転車が欲しいけどゴムが無いからなあ。

 「病院についたぜ!」
 「私、お医者さんを呼んでくる」
 
 というわけで病院に到着し、女の人はすぐに治療を受けた。捻挫だったらしいけど、放置していたら治りが遅くなっていただろうということで僕達はかなり褒められた。

 遊びの延長だけど人助けができたのは良かったよ。あのジェットコースターもどきも改良を加えたいな?
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