29 / 245
第二十八話 お墨付きというようなもの
しおりを挟む「こんにちはー」
「なんだよ、ここになにがあるんだよ。職人さんに怒られるのは嫌だぞ俺は……」
男たちの仁義なき争いが終わらないなーと思っていると外で子供の声が聞こえてきた。
「あら、誰か来たわよ? ……あら、ジェニファー?」
「こけー」
「にわとりー」
少し開いていた扉の隙間から入ってきたのはジェニファーで、どこかへ居たはずなのに不思議そうに言う。そこでステラが即座に反応してにわとりに飛びつくと、それに続いて猫がついてきた。
「猫もきた。ちょうど二匹……喋るの?」
「さっきのはこいつらじゃないよステラ。あの声はフォルドとアニーかな?」
僕と母さんが工房の扉を開けるとそこには予想通り、あの二人が立っていた。僕の姿を見るとアニーが元気よく手をあげて挨拶をする。
「ウルカ君だー! 全然遊びに来ないから忘れられたかと思ったよ!」
「ホントだぜ! 俺の魔法を教えてくれる約束もあったのに」
「いや、それは約束していないけど」
「あれ!?」
一気に賑やかになったなあ。
結局、初対面から半月の間一回も会わなかったからアニーの言う忘れていたかも疑惑はわからないでもない。
「ウルカ君、この二人は?」
「えっと、こっちの男の子がフォルドで僕達と同じ五歳。女の子がアニーで四歳だったっけ? 兄妹なんだよ」
「わたしはステラ。あそこで遊んでいるギルドマスターがパパ」
ステラが仲良く喧嘩しているクライトさんを指さすと、フォルドが拳を握って口を開く。
「うお……!? めちゃくちゃ楽しそう! というか俺とアニーは兄妹じゃないぞ」
「え? お兄ちゃんって言ってなかった?」
「うん! 小さいころから一緒でお兄ちゃんって呼んでるのー」
「紛らわしい!?」
いわゆる幼馴染というものらしいや。
まあ、違っても特に問題があるわけでもないしいいかと気を取り直しているとステラが僕の方に向いてから言う。
「とりあえずどうしようか? パパ達はしばらく帰ってきそうにないし」
「確かに……」
「にゃーん」
「暇だったら一緒に遊ぼうよ! あれ私もやってみたい!」
アニーが移動装置となってしまったゲーミングチェアを指さして僕の手を振り、フォルドももう一台ないのかと言い出した。
「遊ぶのはいいんだけど……母さん、外に出てもいい?」
「え? そうねえ、町の外側に行かなければいいわよ」
「おや?」
意外にもあっさり許可が出た。
いつもならあの蛇の時みたいに『危ないから』という理由でついてくるんだけど、心変わりが? そう思っていると、
「ウルカちゃんはヴァンパイアハーフとして覚醒したからよほどのことが無ければ大丈夫だと思うわ。みんなを守ってあげるのも貴族の役割よ」
「おお……母さんがかっこいい……」
「ふふん」
最強種の一角が腰に手を当ててドヤ顔だ。
なるほど、ある意味で大人として認定されたってことかな。人間とはまた違った価値観なんだろうね母さんの場合。
「ありがとう母さん! それじゃちょっとこのへんの木と金属を買ってもらっていい?」
「ウルカ様ー、その辺にあるやつは使っていいですぜー。クライト、そろそろ降りろ仕事にならねえ!」
「ステラちゃん、ウルカ君と仲良くね!」
「わかってる」
ステラが滑走するクライトさんに親指を立てているのを横目に、僕は遊び道具を作ることにした。
「フォルドの要求を呑んでみよう」
「のん……? なんだ?」
五歳じゃ分からないかと苦笑しつつ木の板や金属を使ってイメージを形にしていく。
【なにを作るんだ?】
まあ見ててよと胸中で呟きクリエイトが材料を道具へと変えていき、それは完成した。
「じゃーん! 手押し車!」
「おお……! すげぇ!」
僕は車輪が四つのトロッコのようなものを作成。
中には椅子を二つ作り、後ろから前へかけて段々斜めになっていてジェットコースターの先頭に近い感じだ。
後ろには取っ手がついていてこれを掴んで押していくスタイルである。
「よし、フォルドとアニー乗って」
「ここ、か?」
「わー、なんかすごい! おいでジェニファー、猫さん!」
「こけー」
「ふにゃあん」
二人が乗り込むと、僕はステラは取っ手を掴んでゆっくりと押し始める。
「それじゃ行ってくるよ」
「気を付けてね」
笑顔の母さんに見送られて工房を後にすると、出合頭にハリヤーと目が合う。
「行ってくるよー」
声をかけると『自分も行きたいです』と言いたげな目をして見送ってくれた。ごめんよ、一人歩きが解禁されたなら今度ハリヤーで町へ行こうと思う。
それはともかく簡易ジェットコースターを楽しんでもらおうかな。
「大通りへ行こう!」
「おおおお!?」
「ひょー!」
タイヤじゃないのでガラガラと激しい音を立てながら石畳の上を爆走する僕達。
フォルドが手すりに掴まって強張り、アニーは両手をあげて喜んでいた。
「わたしは風になるのだー!」
「こけー!」
「ふにゃぁぁぁ!?」
「すげぇけどはえぇぇぇ!? ちょ、ストップ! ストップ!」
「え?」
フォルドが叫ぶので足を使いブレーキをかけると、
「ふお!?」
「あ! お兄ちゃんが!」
瞬間、手すりから手を離したらしく派手に前へ飛んで行った。
「だ、大丈夫かい!?」
「お、おお……今のはちょっと面白かった……」
「タフだ」
ステラがうんうんと唸っていた。
これはシートベルトなどの改良が必要かとフォルドに手を貸しながら考えていると、立ち上がった彼が笑いながら言う。
「最初は怖かったけどこれは面白いかもしれねえな! 今度は俺が押してやるぜ」
「お、それじゃ頼むよ」
【ふあ……子供はいいねえ】
「わたしおすー!」
「それじゃステラと一緒に乗ろうか」
「うん」
フォルドとアニーが押し始めるとゆっくり動き始める。
「こりゃいいや」
「そんなに重くないけどウルカほど速くないなあ」
「だねー。ウルカ君の力が凄いのかな?」
「ウルカは凄い」
「あー、そんなにくっついたらダメー!」
ステラがフフフと含み笑いをしながらくっついてくると、アニーが大きな声を出して頬を膨らませていた。
このままどこへ行こうかと話そうとした瞬間、ゼオラに声をかけられ、目の前でうずくまっている人を見つけた。
【ウルカ、あの人なんか様子がおかしくないかい?】
「なんだ? ……苦しそうな……フォルド、あの人のところへ!」
「お? オッケー!」
ガラガラとうずくまっている人のところへ行くと、女の人だった。僕はトロッコから降りて駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「え? あ、ああ……ちょっと足をくじいてしまって。赤ちゃんになにも無くて良かったわ……」
「あ、本当だ」
よく見れば確かに赤ちゃんを抱っこしている。
「帰れますか?」
「ちょっと休めば……痛っ」
「足が腫れているかも」
ステラがそう言い、確かに足首の色が変わっている気がする。これは病院に行った方がいいかな。
「これに乗ってください。病院まで運びますから!」
「え、でも……」
「私が肩を貸す。赤ちゃんはこっちに座らせるといい」
「わ、分かったわ。ありがとう……なんか凄いわねこれ……」
女の人と赤ちゃんを載せ、軽いアニーが赤ちゃんが落ちないよう一緒に乗り込むと僕とフォルドでゆっくり転がしていく。
「ゆっくりだぞ」
「分かってるって! 役に立ったなこれ」
「だなあ」
ああ、もしかするとベビーカーなんかは喜ばれるかもしれない?
どのくらい赤ちゃんが居るか分からないけど、試しに作ってもいいかも。
自転車が欲しいけどゴムが無いからなあ。
「病院についたぜ!」
「私、お医者さんを呼んでくる」
というわけで病院に到着し、女の人はすぐに治療を受けた。捻挫だったらしいけど、放置していたら治りが遅くなっていただろうということで僕達はかなり褒められた。
遊びの延長だけど人助けができたのは良かったよ。あのジェットコースターもどきも改良を加えたいな?
2
お気に入りに追加
999
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ
あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」
学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。
家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。
しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。
これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。
「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」
王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。
どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。
こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。
一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。
なろう・カクヨムにも投稿
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる