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第二十七話 醜い争いというもの
しおりを挟む父さんが工房の扉を大げさに開けながら戻ってきた。
僕が作るゲーミングチェアの前に立つと、話を続ける。
「確かにこれは息子のアイデアで、魔法による作成が可能。しかし一人で量産するとなると時間もかかるしなによりお金の問題もある」
「どういうことですかい?」
「例えば息子が作って売ることは難しくないが、それだとウルカにしかお金が入ってこないだろう? それよりは職人がこの椅子の構造を覚えて作成すれば各方面の職人も儲かるという仕組みが作れる」
「ほう」
父さんと一緒に来ていた男の人が感心したような声を上げ、なるほどと小さく頷く。
要するに僕がアイデア料を貰い、残りは作成者。この場合ザトゥさんが売り上げを回収すればいいというものらしい。キャスターや革のシートなどを発注すれば他の職人も潤うであろうというのが父さんの考えた案らしい。
「それは構いませんが、少し座ってもいいですかね?」
「いいよー。まだ未完成で、これにシートとクッションをつけるんだ」
「では失礼して。……ほう、これは面白いな、高さと背もたれの角度をつけられるのか。これで未完成とは……座布団があれば十分に使用できるぞ」
ザトゥさんが座り心地を確かめている間、父さんと一緒に来た男の人が僕の前に屈みこんで挨拶をしてきた。
「初めましてウルカ様、イデアールと言い、鍛冶屋の息子でございます」
「初めまして! 僕には普通に話してもらっていいよ?」
僕が両親の顔をチラリと見ながらそう言うと、二人とも『ウルカがいいなら』と笑顔で答えてくれた。
「ありがとう! というわけで頼まれた金属をいくつか持って来たけどどう使うんだい?」
「たくさんあるのは嬉しいかな。それじゃあこれくらいで足りると思うけど――」
まだ塊である小さい鉄を一つ受け取り、椅子を作る際に余った木と一緒にクリエイトの魔法でキャスターを作る。
プラスチックが無いし木だけでもいいんだけど、やはり重量がかかるので接合部は金属を使いたい。
「これは車輪……?」
「そう。これを椅子につけるんだ」
椅子を倒してまったりしていたザトゥさんを降ろして椅子にキャスターをくっつけて立て直す。
「これで移動が楽になるよ」
「おおおお……これは……ウルカ、パパが座わりたいんだがいいかな?」
「みんなで順番にね」
そして男達三人はキャッキャッしながら椅子を転がし、他の人が押してみたりと楽しんでいた。
「楽しそうねえ」
「そうだねえ。あ、戻ってきた」
ひとしきり遊んだ後、父さんが僕の前に戻ってきた。
「ふう、移動が楽でいいな。私の書斎にひとつ欲しいものだ」
「完成したらお試しで使ってみるといいかも?」
「そうだな、後は革と綿だが……遅いな」
「ん? 誰か来るの?」
「ああ、店の者に頼んでいたんだよ。職人が加工した後の物の方がいいかと思ってね」
ソファやクッションに使われている綿などはこの世界だと高価なので、父さんが手配したらしい。綿花からでも多分できるんだけどここは父さんの顔を立てておこう。
「お昼寝をするのもすぐできるし、いいわね」
「うん。だから綿を背もたれに敷いて革でカバーしたいんだよね」
母さんとそんな話をしていると――
「やあ、面白そうなことをやっていると聞いて」
「お? クライトじゃないか」
――工房に父さんの部下とギルドマスターのクライトさんが入ってきた。そしてクライトさんの腕には、
「ウルカ君やっほー」
「ステラもいるんだ。やっほー」
無表情系少女のステラが抱っこされていた。
相変わらず目元の動きは細微で、口元だけが良く動いている。
「どうしたんだクライト、娘まで連れて」
「ちょうどステラの散歩をしようと外に出たら大量の綿と革をもって急ぐヨハンさんが見えたから面白そうな予感がしたんだ」
「ふむ、さすがはギルドマスターだな。いい嗅覚をしている。ウチの息子がいいものを作っているんだが見ていくかい?」
「ウルカ様が?」
「いす?」
ステラがクライトさんの腕から降りてゲーミングチェアの前へ行き、首を傾げていたので僕も椅子の前に行き説明を始める。
「これを今から完璧なものにするんだ。そのために綿と革が必要で持ってきてもらったってわけ。というわけで――」
早速、綿でクッション材を作り、革を加工してシートを作る。なんとなく枕もつけてゲーミングチェアへくっつけると思い描くゲーミングチェアが完成した!
「ふう、これが完成形かな」
「おお……これはまた……」
「高級そうな椅子になったなあ……」
「この足のところにあるのはなんだい?」
「それは足置きでこうやって伸ばして、背もたれを倒すと横になって休憩ができるんだ。父さんか母さん座ってみる?」
「それじゃ売り出そうとしている私が座ろう。……ほう、これは……!!」
一旦、通常状態に戻した椅子に腰かけると父さんの目がかっと見開かれて声を上げる。
「木の椅子でも問題なかったがソファに勝るとも劣らない柔らかくなった背もたれに自分の好きな角度で座れ、高さも変えられるという汎用性! さらに足を伸ばせる足置きのおかげで簡易ベッドにもなる! 枕もついているという至れり尽くせり!」
「おー」
「パパ、かっこいいわ♪」
椅子をガックンガックンさせながら父さんが絶賛していた。こだわりポイントとしてひじ掛けも高さを調節できるようにしているのだ。
そこへザトゥさんが咳ばらいをしながら父さんの肩に手を置いて言う。
「そいつを作るんだろ? なら一度座らせてもらわないといけねえや」
「いや、もう少し……」
「そんなにいいのかい……?」
父さんの態度にザトゥさんとクライノートさんが寄っていき口々に『次は自分の番だ』と主張する。
いつもの優しい父さんだが、今日はすぐに首を縦に振らなかった。
「もう少し待ってもらおう」
「あ!? 車輪を使って逃げたぞ!」
「捕まえろ!」
「仲良くねー」
そこから数十分、大人たちの争いは続き――
「うおお、こりゃあいい! 俺の執務室の椅子にしようこれ! 買う買う!!」
「これはプロトタイプだからな。ザトゥに工程を確認してもらったら私の部屋に置くのだ」
「ずるいよロドリス様!? 町のために頑張っているギルドマスターにご褒美と思ってどうですかね!?」
「ふむ、しばらくワシが使うとしようか」
「すぐに調査を終わらせてくれ。屋敷に持って帰るから」
「息子に作ってもらえよぉぉぉ!!」
――奪い合いが勃発していた。恐るべしゲーミングチェア。デスクワークは辛く、リクライニングは癒しとのことだった。
まあ、父さんには悪いけど量産するなら一度ばらさないと駄目だからすぐに屋敷に運ぶのは無理だ。
僕がステラと並んで三人の争いを見ていると、
【ウルカ、ウルカ】
「ん? なに?」
【あたしのもアレにしてくれ!】
ゼオラが目を輝かせてそんなことを言うのだった。
材料さえあればいくらでもできるんだけどね。そういえば最近あんまり魔力が減った感じはしなくなったような?
そんな感じでしばらく様子をみていると――
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