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第十九話 秘密基地で遭遇というもの

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 「よし……!」

 先日の騒動で水回りが必要だということを思いついた僕は早速トイレを新設。
 ただ、下水道がここまで引かれていないので汲み取り式的なものになるがそこはちょっと考えてみた。

 まず秘密基地に入ってすぐ左を掘り進めていき、トイレの部屋を作成。
 そこから汚物が落ちる穴を少し斜めに掘り、さらに下へ掘り進めて汚物が貯まる部屋を作った。

 で、便座のある部屋から今度は池の方へ向かって斜め上に掘り進めていき、水が流れてきたところで地盤をしっかり固めてから水が流れるように掘り、すぐに板を使って水の流れを止めて少しずつ便座のところへ戻り、板を魔法で加工。

 「――こうすることによりこれを引っ張ると板が上にずれ、池の水を使って下の部屋へ汚物を流すことが可能なんだ!」
 【やるなあ、だけど下にはたまっていく一方なんだろ? 下水を引いた方がいいんじゃないか?】
 「まあそこまで使わないと思うから溜まらないと思うけど」

 緊急時に使うだけだし、結構奥まで掘り進めたから臭いも大丈夫。蓋もつけたし、少しくらいなら土に還ると思う。

 「後はキッチンと……ハリヤーも入れるように入り口を拡張するべきかな?」
 【いや、馬はいいんじゃないか? ……っと、お客さんのようだぞ】
 「え? バスレさんかな?」

 なにかの気配を感じたゼオラが椅子を揺らしながら入り口に視線を向けて呟く。顔と体の絵面がまったく合わないけど、お迎えなら帰らないといけないな。
 
 で、外に出てみると――

 「おお……なんだこれは……? 家? しかし木の根元に扉は……」
 「あれ? 誰?」

 ――目の前に鎧を着て槍を肩に担いだ男と目が合った。

 「うおお……びっくりした!?」
 「声でかっ!?」
 「ああ、すまんすまん。というか子供がなんでこんなところに……危ないぞ?」
 
 男は顎に手を当てながら僕をじっと見てくる。見上げて彼の顔を確認すると、あっと思う人物だった。
 そう、初めて町に行ったときに魔物に怒声を浴びせていた男だった。

 「あの時の衛兵さんだ!」
 「お? 俺を知っているのかい?」
 「声の大きい人だよね」
 「ま、まあ、確かにそう言われるけど……俺はギリアムというんだ。君は?」
 「僕はウルカ。ウルカティウス・バーン・ガイアスだよ」

 ギリアムさんというのか。
 笑顔で握手をしながら答えると、ギリアムさんの笑顔が固まる。

 「ガイアス……ってことはロドリオ様とクラウディア様のお子様……!?」
 「あ、そうだよ。父さんの名前は久しぶりに聞いたよ」
 「こ、これはとんだ失礼を!」
 「全然平気だよ。僕みたいな子供に頭を下げないといけないのも大変だね」
 「あ、うん……」

 困ったように笑うギリアムさんにどうしてここにいるのかを聞いてみることにした。

 「ここってなにも無いけどどうして衛兵さんが来ているの?」
 「ん? ああ、この辺も近い内に道が繋がって人が往来できるようになるから下見を兼ねて来るようにしたんだよ」

 話によるとかなり進んでいるらしく、森を切り開いている作業も半分くらいは終わっているそうである。
 それにしてもこんななにもところに道を続けてどうするのだろうと思う。

 「うーん、あまり人が来るようになるのは困るなあ」
 「どうしてだ? ここはあの大物が出たところだし、人が居た方がいいと思うけど」
 「それが……。ああ、見て貰った方が早いかな。入っていいよ」
 「?」

 僕が秘密基地へ引っ込むと、ギリアムさんが不思議そうな顔でついてきてくれた。
 槍が引っかかって動きにくそうだなと思いながら部屋の扉を開けると、

 「うおおお!? なんじゃあこりゃあ!?」
 「うるさ!?」

 でかい声で驚いていた。僕も声でびっくりしたけどね!
 そんな彼にかくかくしかじかして説明すると驚いていた顔のギリアムさんがニヤリと笑う。

 「なるほどな。いや、気持ちは分かるぞ! こういう隠れ家的なものは男の子が大好きなものだからな。俺も家の納屋に色々持ち込んで親父に怒られたもんだ」
 「良かった、やっぱりみんな好きなんだ」

 娯楽が少ないということもあり、冒険者ごっこやこういう隠れ家を作って同い年の子供と遊ぶことが多かったと笑う。

 「それにしてもやはり貴族は違うな。お金があるからこういうのもできるのは凄い」
 「え? 違うよ、僕が掘ったんだ」
 「え? どれはどういう――」

 ギリアムさんの前でクリエイトの魔法を使って壁を削り、元に戻すと文字通り目を丸くして口をあんぐりと開けて立ち尽くす。
 バスレさんの言う通りやっぱりこれは珍しいんだな。

 「クリエイトって魔法で色々できて面白いんだ。椅子とテーブルも僕が作ったんだ」
 「お、おお……」
 
 言葉が出ないと言った感じで周囲を見渡し、僕の顔と見比べる。

 「椅子……座ってもいいか?」
 「もちろん! あ、黒い方でね」
 【うんうん】

 恐る恐るギリアムさんが椅子に座ると、『ほう』と一言呟いて満足気に背を預けた。鎧を着ているから座りにくそうなのに。

 「これは凄いな。座り心地がいい。背もたれが頭まである椅子なんてソファくらいだし……ってこれも作ったのか? デザインもウルカ様が?」
 「あー、うん。そうだよ!」

 嘘だけど誰も知らないだろうしそこは適当に頷いておこう。
 
 「なるほど……さすがはお二人のお子様、ということか。おっと、いかん。そろそろ戻らねば」
 「オッケー」
 「ここを見つかりたくないからあまり人が来て欲しくないというのは分かった。ご両親にお願いするといいかもしれん」
 「ん? そうなの?」

 僕の言葉に『これを見せてあげれば分かるよ』と言いながらギリアムさんは秘密基地を後にした。確かにそろそろ頃合いかもしれないな。
 
 ◆ ◇ ◆

 「……」

 ギリアムは池から離れつつ一度だけ振り返り、駆け足で町へ戻り始めた。

 「すげぇぇぇぇぇぇ!! なんだあれ! あの部屋を魔法で? いやいやいや、伝説の魔法使いゼオラ・ハイマインみたいじゃないか? え、ウルカ様って何歳だ? あの椅子欲しいなあ……」

 得意の大きい声を出しながら。
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