上 下
7 / 245

第六話 何故かいつもより元気というもの

しおりを挟む

 「ん……」
 「おお、目を覚ましたか!」
 「父さん? 僕は」
 「ウルカちゃぁぁぁぁぁん!」
 「うは!? か、母さん、苦しいよ!」

 目が覚めると父さんの歓喜した顔が入り、すぐに母さんが抱き着いてきた。えーっとなにがあったんだっけ……?
 よく見ると服はパジャマではなく泥だらけの外出着。
 
 「母さん落ち着いて、僕は大丈夫……だと思う」
 「本当に!? 痛いところはない?」
 「うん。なんだかスッキリしているよ」

 頭が冴え体が軽い気がする。
 そこで僕は倒れる前になにがあったのかを思い出してきた。

 「あ!? そうだ、僕はでかい蛇に襲われて――」
 「そうよウルカちゃん……地響きみたいな音がしてママが急いで駆けつけた時にはウルカちゃんが鼻血を出して白目を剥いていて……」
 「ああ、そうだった……美人幽霊のおかげで倒せたんだった……」
 「ん? 美人の幽霊?」

 父さんが首が首を傾げていたので経緯を説明……しようと思ったけどややこしくなりそうだからどうするかな。

 「あと少し私が到着するのが早かったらズタズタに引き裂いてやったのにっ!」
 「あはは……。それじゃ母さんが連れて帰ってくれたんだ?」
 
 僕の問いに父さんが頷き、あの後のことを教えてくれた。
 鼻血を出して白目を剥いていた僕を母さんが抱き上げ、すぐに屋敷へ戻ると父さんに報告。
 兄さん二人を呼び戻すのと丘の下にある町の近衛兵を連れてくるため執事のウオルターを使者に出したとのこと。
 ちなみに窓から外を見るとすでに真っ暗で結構な時間気絶していたことが伺える。

 「今はどうなっているの?」
 「あの蛇について調査中だが……恐らく池に封印されていた魔物が復活したようだ。池の水を抜いたところ巨大な魔石が沈んでいたらしいよ。怖かったろう、パパ泣いちゃったよ!」
 「まったくね! それじゃお風呂に行きましょう、泥を落としてゆっくり寝ましょう――」

 目を離したのが良くなかったと母さんは寝るまで僕にべったりだったけど、今日くらいはいいかと目を瞑ることにした。
 
 そして翌日――

 「ふあ……よく寝た……昨日も思ったけど体が軽いなあ。……ん? なんか腕が重い……
 「すぴー……ウルカちゃん……」
 「いつの間にベッドに!? 母さん過保護すぎるよー」
 
 だけど目の下にクマがあるところを見ると僕が眠った後も心配でついていてくれたんだと思えば嬉しいものだ。
 まだ起きそうにないので絡まれた腕を外し……外――

 「外れない……!? 力強っ!? 流石に五歳児でもこれくらいは出来……あ、トイレに行きたくなってきた!? だ、誰かー!!」
 「呼んだかウルカ!?」
 「あ、ロイド兄ちゃん! 母さんの手を外して、トイレに行きたい」
 「おしっこか! 任せとけ。母ちゃん、起きろウルカが困ってんぞ」

 あ、そこは起こすんだ。
 色々台無しになった気がするけど漏らすよりはいいかとロイド兄ちゃんに任せることに。

 朝食の席についたところでギルバード兄ちゃんとロイド兄ちゃんから声をかけられた。

 「ウルカ、昨日は本当に心配したんだぞ? 一人で森へ足を踏み入れるなよ」
 「ごめんなさい。そんなに離れていないし魔物も出てこないから大丈夫かなって思ってたんだ」
 「や、でも兄貴やオレも森で遊んでいたし大丈夫だと思うぜ? ありゃあ運が悪かっただけだ!」
 「パパも遊びたい」
 「それは私もですわ。ところであの池の魔物はどうなったんです?」
 
 真面目な顔で変なことを言う父さんに、母さんが質問を投げかけると僕達を見渡してから小さく頷いて言う。

 「……あれは五百年ほど前にさる大賢者が封印した邪神……」
 「え!?」
 「かもしれないしそうじゃないかもしれない」
 「なんだよ!?」

 父さんの真剣な表情から繰り出された冗談により僕達は派手にずっこけ危うくコーンスープを零しそうになった。
 
 「ぬっはっは! 昨日の今日で正体がわかるはずないではないか! まあ遺体は引き渡したし、報奨金も出るみたいだ」
 「へえ、凄いじゃないか」
 「しかし問題もある」
 「問題?」
 「あれを倒した人物についてだ」
 「あー……」

 常識的に考えて僕が倒せるとは思えないだろうからそういう話になるのも道理である。となると次にあがる話題は――

 「ウルカはあの魔物が倒されるのを見ていないかい? 物凄く正確に脳天を撃ち抜いている技量はさぞ名のある人物だと近衛兵が口々に言っていた」
 「い、いや、僕は追いかけられた時に転んでそこからは……」
 「だよなあ。……案外ウルカが倒してたりして」
 「あはははははは、そんなわけ無いじゃない! ……痛っ」
 
 まあバレても困ることは無いと思うけど面倒ごとっぽいし適当に笑ってごまかし、パンを口に入れると下唇を噛んだ。

 「どうしたのウルカちゃん!?」
 「笑いながらパンをかじってたから唇を噛んじゃったよ。……ん? あれ、なんか片方の歯が鋭いような……欠けた?」
 「……血が出ているぞ、これで拭き取っておけ」
 「ありがとうギルバード兄ちゃん!」
 「……」

 とりあえずアレの正体はおいおいということで話は終わり、兄ちゃんズは学院へ出かけて父さんも仕事へ。
 僕の屋敷は使用人らしき人は父さんの執事であるウオルターさんと母さんについているメイドさんだけなので必然的に母さんも家事をすることになり、朝食後のこの時間は割と暇になる。

 「ウルカ様ー、ウルカ様ー」
 「ちゃんと居るよー」
 「ああ、良かった。昨日の今日でさすがに出て行っていませんでしたね」

 部屋でくつろいでいると、メイドのバスレさんが部屋をノックしながら僕が居ることを確認していた。
 僕が産まれた時からここに居る人でショートボブの赤い髪に眼鏡が印象深い美人さん。

 美人なんだけど――

 「部屋のお掃除をさせてくださいね」
 「うん」
 「では……」
 「なんでさ!?」

 ベッドで寝転んでいた僕の隣にバスレさんが添い寝するみたいにしてきた。
  
 「ああ……可愛いウルカ様……」
 「ちょ、抱き着かないでよ、暑苦しい!」
 「も、もう少しだけ!」
 「ええー……」

 という困った人なのである。
 年は十四歳で兄ちゃんズより少し年下で今年から雇ったメイド。学院には行かず働いている娘さんだ。
 この世界は平民が学校に通うのはなかなか難しいようなので別に特殊というわけでもないみたい。

 「ウルカ様ー、大きくなったらわたしと結婚するんですものね。するって言ってください」
 「はいはい、バスレさんは美人だから僕じゃなくてもいいと思うけどね」
 「大人ぶって可愛い」
 「もう……」

 初対面から僕が大好きなので掃除にかこつけて愛でに来るのにも慣れてしまった。まあ十四歳なのに出るとこは出ているし美人だから悪い気はしないけど――

 【……】
 「うお……!?」
 「どうしました?」
 「い、いや……。あ、ちょっと庭に出てくるよ、部屋の掃除お願い!」
 「あ、ウルカ様! ちぇー 」

 窓の外で恨めしそうに見ているあの幽霊に気づいた僕は庭へ行くことにした。
しおりを挟む
感想 480

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね

いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。 しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。 覚悟して下さいませ王子様! 転生者嘗めないで下さいね。 追記 すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。 モフモフも、追加させて頂きます。 よろしくお願いいたします。 カクヨム様でも連載を始めました。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

処理中です...