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お盆のあの日
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あれは私が子供のころだったか……そう、小学校3年生の夏休み。
あの日、私は奇妙な出来事を数カ月に渡り体験することになった。
その体験談を、ここにまとめたいと思う。
あれは暑い夏の日だった――
◆ ◇ ◆
「暑っちぃなぁ……」
――丸山涼汰10歳。
今日は私の誕生日。本来であればデパートで誕生日プレゼントを探しに出かけるのだが、この日は少し様子が違い、夏休みの宿題もそこそこに、朝9時を回ったあたりでお墓参りに行くということになったので私は準備を進めていた。
夏でも朝は涼しいと言われるが、暑いものは暑い。その暑さに対してぼやきながら靴下、ズボンを履きリビングへ行くと母が朝食のおにぎりと卵焼きにソーセージというシンプルなメニューを用意しながら私に笑いかけてくる。
「車の中はクーラーが効いてるから涼しいよ」
「まあね。食べたらばあちゃん家に行ってからお墓?」
「そうそう、終わったら誕生日プレゼントを買いに行くから、早くしないとね」
「え、本当に!? やった……!」
麦茶を飲みながら喜ぶ私を見ながら目を細める母。父も程なくして起床し、穏やかな朝食が終わると、すぐに車を出し、自宅から30分ほどの祖母の家へと向かった。
「おはよう。よう来た涼くん。育子と義三も暑い中、ご苦労さんじゃ」
祖母は私達を見ながら目を細めて微笑むと、私の頭を撫でる。私はいわゆるおばあちゃん子で、祖母のことがとても好きだった。それにこの日は帰りにデパートへ行って誕生日プレゼントを買う予定になっていたため、祖母が良いものを買ってくれるとテンションが上がっていた。
「うん! 早く行こうばあちゃん! 帰りにハンバーグを食べるって約束してるんだ!」
「もう、涼太は……! ごめんねお母さん、はしゃいじゃって」
「痛っ!?」
はしゃぐ私が母に叩かれると、父が笑いながら言う。
「夏休みも半分を過ぎたし海にももう行けないからな。誕生日だからちゃんとプレゼントを買ってやるけど、宿題もするんだぞ?」
「ちぇー分かってるよ! ほら、早く行こうよ!」
「そうじゃの、義三さん頼むわい」
「ええ、お安いご用ですよ」
そう言って、また車に乗りこむとそこから30分程度の墓地へと向かう。道中、車の中で海に行っただとか、友達をカブトムシを取りに行ったなど、他愛のない話を祖母に話していると程なく到着した。
「ふう……ふう……あちぃ……!」
「終わったらレストランに行くんでしょ? 頑張って」
苔むした墓石を磨く私に声をかけながら花とお供え物を用意する母。父と共にようやく掃除を終え、花とまんじゅうを供えてから手を合わせる。
「むむむ……」
「ほっほ、力む必要はないんよ」
「ふふ、涼太ったら……あら?」
そろそろ帰ろうか、と動き始めた私達。だが、母がふと大木の方を見てポツリと呟き、私は気になりそちらを向く。だが、特に気になるようなものは無く、母に尋ねた。
「どうしたのお母さん?」
「うーん、今あそこに男の人が立っていたような……」
「どんな人だったんだい?」
「まばたきをしたと思ったら居なくなってたから良く分からないけど……ずいぶんボロボロの服だったような……でも多分見間違いよ」
困惑しながらも、心配する私達に気を使って気のせいだと連呼する母に、祖母が難しい顔をして口を開いた。
「……ホームレスかなんかかもしれんの。ひとけが少ないし、お供え物を狙ってるのかもしれん。物乞いをされても困るし、もう行こうじゃないか」
「そうですね。よっと……それじゃ、お待ちかねのデパートだ! いいおもちゃがあるといいな!」
父が私を肩車して、車に向かい、母が微笑みながら着いてくる。
だが、祖母はデパートでおもちゃを買う私、いや、母を見ながら難しい顔をしたままだった。
――その日は最後にケーキを買い、何事も無く一日が終わった。しかし、この日を境におかしなことが起こり始めるのだった。
あの日、私は奇妙な出来事を数カ月に渡り体験することになった。
その体験談を、ここにまとめたいと思う。
あれは暑い夏の日だった――
◆ ◇ ◆
「暑っちぃなぁ……」
――丸山涼汰10歳。
今日は私の誕生日。本来であればデパートで誕生日プレゼントを探しに出かけるのだが、この日は少し様子が違い、夏休みの宿題もそこそこに、朝9時を回ったあたりでお墓参りに行くということになったので私は準備を進めていた。
夏でも朝は涼しいと言われるが、暑いものは暑い。その暑さに対してぼやきながら靴下、ズボンを履きリビングへ行くと母が朝食のおにぎりと卵焼きにソーセージというシンプルなメニューを用意しながら私に笑いかけてくる。
「車の中はクーラーが効いてるから涼しいよ」
「まあね。食べたらばあちゃん家に行ってからお墓?」
「そうそう、終わったら誕生日プレゼントを買いに行くから、早くしないとね」
「え、本当に!? やった……!」
麦茶を飲みながら喜ぶ私を見ながら目を細める母。父も程なくして起床し、穏やかな朝食が終わると、すぐに車を出し、自宅から30分ほどの祖母の家へと向かった。
「おはよう。よう来た涼くん。育子と義三も暑い中、ご苦労さんじゃ」
祖母は私達を見ながら目を細めて微笑むと、私の頭を撫でる。私はいわゆるおばあちゃん子で、祖母のことがとても好きだった。それにこの日は帰りにデパートへ行って誕生日プレゼントを買う予定になっていたため、祖母が良いものを買ってくれるとテンションが上がっていた。
「うん! 早く行こうばあちゃん! 帰りにハンバーグを食べるって約束してるんだ!」
「もう、涼太は……! ごめんねお母さん、はしゃいじゃって」
「痛っ!?」
はしゃぐ私が母に叩かれると、父が笑いながら言う。
「夏休みも半分を過ぎたし海にももう行けないからな。誕生日だからちゃんとプレゼントを買ってやるけど、宿題もするんだぞ?」
「ちぇー分かってるよ! ほら、早く行こうよ!」
「そうじゃの、義三さん頼むわい」
「ええ、お安いご用ですよ」
そう言って、また車に乗りこむとそこから30分程度の墓地へと向かう。道中、車の中で海に行っただとか、友達をカブトムシを取りに行ったなど、他愛のない話を祖母に話していると程なく到着した。
「ふう……ふう……あちぃ……!」
「終わったらレストランに行くんでしょ? 頑張って」
苔むした墓石を磨く私に声をかけながら花とお供え物を用意する母。父と共にようやく掃除を終え、花とまんじゅうを供えてから手を合わせる。
「むむむ……」
「ほっほ、力む必要はないんよ」
「ふふ、涼太ったら……あら?」
そろそろ帰ろうか、と動き始めた私達。だが、母がふと大木の方を見てポツリと呟き、私は気になりそちらを向く。だが、特に気になるようなものは無く、母に尋ねた。
「どうしたのお母さん?」
「うーん、今あそこに男の人が立っていたような……」
「どんな人だったんだい?」
「まばたきをしたと思ったら居なくなってたから良く分からないけど……ずいぶんボロボロの服だったような……でも多分見間違いよ」
困惑しながらも、心配する私達に気を使って気のせいだと連呼する母に、祖母が難しい顔をして口を開いた。
「……ホームレスかなんかかもしれんの。ひとけが少ないし、お供え物を狙ってるのかもしれん。物乞いをされても困るし、もう行こうじゃないか」
「そうですね。よっと……それじゃ、お待ちかねのデパートだ! いいおもちゃがあるといいな!」
父が私を肩車して、車に向かい、母が微笑みながら着いてくる。
だが、祖母はデパートでおもちゃを買う私、いや、母を見ながら難しい顔をしたままだった。
――その日は最後にケーキを買い、何事も無く一日が終わった。しかし、この日を境におかしなことが起こり始めるのだった。
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