帝国少尉の冒険奇譚

八神 凪

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FILE5.キョウキノカガクシャ

FILE5.エピローグ

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「首尾は上々のようだね」
「ああ、そっちの『ウォール』は残念だったが」
「……そうだね。で、そっちが?」
「セボックだ」
「モルゲンだよ。ようこそ、天上人の最前線へ!」

 ゲラート帝国を抜け出したウォールはセボックを連れてモルゲンと合流した。場所はまずはお互い手にした成果を紹介するとウォールはセボックを前に出した。

「君がカイルの後釜、ねえ。役に立ってもらわないと困るけど、実力はどの程度なのかね?」
「そいつはこの資料を見てから判断してもらうしかないな……。それより、そっちの二人はなんだ? どうも生気が感じられないが……」

 持って来た資料をモルゲンに渡しながら背後に控えている二人に目を向けるセボック。モルゲンはその問いに笑いながら答える。

「くっく……この二人は‟終末の子”という兵器さ。今は制御下にあるため無言で意識は僕の意識一つでなんとでもなるよ。シオンを夜のお供に貸してやろうか?」
「人形相手にそんな気になるかよ」
「そうかね? 君はずっとそんな人形と一緒に居て『それ』に劣等感を持っていたはずだがね。ということは人形に意識を割けるということだと思うけどね」
「なんだと? それはどういう――」
「カイルのことさ。あいつも‟終末の子”の一人で、いわゆるプロトタイプ。0番目の男、それがカイル」

 ウォールがセボックの問いに口を挟み、笑いながらカイルのことを暴露する。それを聞いたセボックは片目を瞑ってからさらに質問を投げかけた。

「ということはあいつも作られた存在だって言うのか? だからあれほどの才能をもっているのか! だったら俺は追いつくことができないのか……!」
「んー、まあまあ悪くない研究成果だね。カイルと一緒に仕事をしていたらインスピレーションも沸くからかな? 彼は小さいころからああだったからねえ」
「小さい頃……あんた達はカイルを知っているのか? ……うお!?」

 意味深なことを口にするモルゲンにやはりセボックは怪訝な顔をして尋ねる。するとモルゲンは彼に顔を近づけてニヤリと笑う。

「そうだね。終末の子を作ったのは僕だから知っていて当然だ! しかしカイルはで地上へ落ちてきてしまってね。ガイラルとブロウエルに拾われたらしい。あの頭脳は僕に匹敵する。サンプルとして手元に置いておきたかったんだけどねえ」
「ま、セボック君もモルゲン博士についていればすぐにカイルを越えるさ。先日、モルゲン博士とカイル達がそこの二人を回収する際に俺のクローンを連れて行ったけど、かなり仕事をしたようだからな」
「ク、クローン……!? できるかどうかもわからないとされている技術だぞ……!」

 さらりと恐ろしいことを口にして煙草に火をつけるウォールにセボックが叫ぶ。それに対してモルゲンが資料を机に置きながら言う。

天上そらではこれくらい当然だ。なにせ超天才の僕が居るからね? さて、君には仕事を頼みたい」
「仕事……?」
「そう。君はこのウォールと地上で兵器と転送装置の製造を頼みたい」
「転送装置……?」

 モルゲンは頷くと今度は自分の資料をセボックに渡して説明を始めた。

「僕達天上人は復旧した地上を手に入れるための侵攻作戦を計画している。本来ならガイラルと地上に置いた終末の子を使って地上人を奴隷にするつもりだったんだけど、ガイラルが裏切ってくれちゃってねえ」
「ガイラルって……皇帝……あの方も天上人、だったのか?」
「まあ、それは今どうでもいい。二人は手に入れたが向こうは五人終末の子を連れている。能力が解放されれば不利なのはこちらなのだ」
「だから天上人を戦力として地上に降ろして侵攻することに決めたってわけ」
「……」

 セボックは資料をめくりながら冷や汗を流す。話の内容も、資料の内容も理解しがたいもので、帝国の技術開発局に居たら絶対に手に入らない知識だった。

「これを新参者の俺に……?」
「そうだね。カイルを見返すチャンスだと思う。君みたいなコンプレックスがある人間はこういう時に裏切らないと僕は知っているからね」
「なぜ」
「かつて僕が……いや、それはいいか。今は関係ない。それで、やってくれるかい? 一応、しばらくはウォールを監視につけるけど概ね自由にしてもらって構わない」
「ここまで来たんだ、よもややらないなんて言わないよな……?」

 ニヤニヤと笑みを浮かべながらウォールがセボックの肩に腕を回す。資料に目を向けていたセボックはモルゲンの目を見てから小さく頷いて肯定の意を示す。

「オッケー! 今日から僕達は同志だ! ということで今日はお祝いをしよう。ウォール、早速料理の準備をしてくれないか? ああ、ケーキは大きめがいいね。この二人にも食わせてやろう!」
「へいへい、それじゃ買い物に行ってきますよ。タバコもいいのがあるといいんですがねえ。戻った時に持ってきてくださいよ」
「分かっているよ」

 ウォールは頭を掻きながらアジトを出て買い物へと赴いた。それを見たモルゲンは満足げに笑う。
 そしてセボックに向き直ると目の前まで歩いていく。

「な、なんだ……?」
「本当に君には期待しているよ? ああ、そうだこの資料も渡しておくよ」
「まだあるんですか? ……これは!? モルゲン博士――」
「楽しみだろう? 早く転送装置を作ってくれることを天上うえで祈っているよ」
「あ、あんたは――」

 資料を握りつぶさん勢いで満面の笑みを見せるモルゲンにそれ以上なにも言えなかった。
 セボックは青い顔で『確かにカイルを越えるチャンスかもしれない』と、胸中で考えていた――



FILE5.狂気の科学者 FIN

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