帝国少尉の冒険奇譚

八神 凪

文字の大きさ
上 下
83 / 134
FILE5.キョウキノカガクシャ

80. 

しおりを挟む

 
 「……皇帝……ふん」
 「ああ、助かる。歳を取ると立っているのもつらいんだ」

 不意に訪れたガイラルに戸惑いながらもカイルはベンチを少し開けて座るように促し、ガイラルは帽子を取りながら隣に腰かけると、カイルは煙草に火をつけながら悪態をつく。

 「なにが『歳を取ると立っているのも辛い、だ! この国でも最強戦力のあんたが言うと皮肉にしか聞こえねえよ」
 「フッ、お前にもいずれ分かる」
 「分かる……のかねえ。俺は‟終末の子”らしいや。ちゃんと成長しているけど、実はそんなに長く生きられないかも……イリスとサラだってどうなるか……俺達が作られたならあいつらにいいようにされたりするんじゃないか……?」
 「不安か?」

 タバコを吸いながら頭を抑えて捲し立てるように喋るカイルに、父親が息子にやるように頭に手を置いてからガイラルは笑う。嫌な笑みでは無く、カイルを想っての顔で。

 「不安だ……。俺は結構いいかげんだと思っていたけど、実は人間じゃありませんでしたって聞かされて鼻で笑い飛ばせるほど楽な性格じゃなかったらしい。はは……あんたを殺すなんて意気込んでいた感情ですら自分のものかすら怪しいと思うくらいには、な」

 呻くように、そして乾いた笑いを浮かべてカイルが胸中を吐露する話をガイラルは黙って聞きながらずっと頭に手を置いていた。

 「なあ、エリザは大丈夫なのか……? 子が出来たことがあったけど、身体は――」
 「心配するな。お前の体の殆んどは人間のそれと変わらん。イリスも、サラも‟終末の子”のベースは人間。そういう風に作られているからな」
 「なんでそう言いきれる? ……あんたはどこまで知っているんだ?」


 カイルがガイラルの顔を見ながら訝しむと、ガイラルはフッと笑い空を仰ぎながら口を開く。

 「……私がヴィクセンツ領へ向かう前に言ったことを覚えているか?」
 「ん……なんだったか……?」
 「お前が戻ってきたら一つだけ、お前の知りたかったことを教えてやると、私は言った」
 「……! そういえばそんなことを言っていたな。忘れていたぜ……」

 カイルが煙草を地面に落としながら呟く。
 そして再び二人が無言になり、カイルが真顔でガイラルを見据え、ガイラルは少し微笑みながら視線を返すと、カイルは息を少し吸ってから口を開いた。

 「聞きたいことは……そうだな、本当ならどうしてエリザとの結婚を認めた後、それを反故にしたか、だったんだが……今は俺達(終末の子)のことを聞かせてくれるか? 分かる範囲でいい」
 「ふむ、そう来たか。『分かる範囲』ならいいだろう。イリス、こっちへ来なさい」
 『……? おじいちゃん? はーい』

 突然イリスを呼び、シュナイダーとガイラルの前に来ると、

 「イリスや、あそこにいる屋台で好きなものを買ってきなさい。アイスとかあるはずだ」
 『アイス! はい! 行ってきます!』
 「わんわん!」

 イリスはガイラルにお金を貰うと、あっという間にその場から立ち去り、ガイラルは笑いながら言う。

 「はっはっは、元気だな。……さて、カイルの問いだが、お前達‟終末の子”は基本的には人間と変わらない。成長もするし子を作ることも可能……だが、どこかしら必ず身体を改造されていてな、サラなら脚力、イリスなら腕力、お前なら脳だ。ニックは眼だったかな? まあ、そういうことだ。そして神具を呼び出すことができる」
 「ああ……イリスは【レーヴァテイン】とかいうのを出していたな。でも俺にはそういう記憶がないぞ」
 「当然だ。お前には神具が無い、はずだ」
 「歯切れが悪いな……」

 カイルが舌打ちをすると、ガイラルは気に留めず話を進める。

 「それには理由が二つ。ひとつはお前はプロトタイプだったからそれを用意できていないこと。もう一つは自身でそれを生み出すための脳改造を施したからだ」
 「……それは!?」
 「そう。お前が技術開発局へ回した理由はそこだ。特に兵器に関しての知識を叩き込まれていて、彼になにかがあった時、そのバックアップとしての役割を果たすことができる。それがプロトタイプ”カイル”の存在理由」
 「お……」

 なにかを言おうとしたカイルだが、いつの間にか真顔になっていたガイラルに気圧され言葉を失う。ガイラルはゆっくり目を閉じると、驚愕の言葉を放つ。

 「完全に改造される前に逃がしたのは私の親友キトウという者……彼が最後の封印の前にお前をいずこへと放逐した」
 「ど、どうして……」
 「それは……言えない。すまない、キトウの話はまた今度だ。そしてお前達に改造を手掛けた男は今、地上に来ている」
 「なんだって!?」
 「ウォールと共にやってきた男……ヤツの名はモルゲン=フィファール博士。人体実験で快楽を得る……最低最悪の男だ……!」
 「こ、皇帝……?」

 珍しく激高した声色と表情で吐き捨てるように言うガイラルに、ベンチからずり落ちるカイル。だが、すぐに立ち上がり、言う。

 「……そいつは残りの終末の子を探しに来た、ってところか」
 「フッ、流石だな。そういうことだ」
 「どうするんだ? 先にこっちから確保する、か?」
 「まあ、急ぐな。考えている……まずは」
 「まずは……?」

 ごくりと唾を飲むカイルに、ガイラルは視線を逸らす。

 「イリスの買ってきたアイスでも食べようではないか」
 「なんだよ!? ……くそ、調子が狂うぜ……」
 『どうしたんですかー? 喧嘩はダメですよ!』
 「はっはっは、そうだなイリス」

 そう言って抱きかかえるガイラルは、笑顔だった。

 「(博士、か……。順当に残っているなら残り五人。イリスとサラと同等の力を持った相手は厄介だぞ、どうするつもりだ?)」


 ◆ ◇ ◆
 
 
 「……くっく、ここだ……ここにまず一体……。……ウォールか?」
 「おっと、流石ですねえ。気配は消していたと思いますが?」
 「くく、この生体流動ユニットがあれば気配を消したところで、体温、呼吸といったもので反応するようになっているんだ」
 「これはこれはまた面白いものを」
 「それより報告を聞かせたまえ」
 「ええ、カイルと接触しました」

 ウォールが背中越しに白衣の老人に声をかけると、老人は背筋を伸ばし、ギギギ……と首をウォールへ向けて満面の笑みを見せる。

 「そうか! いたか! くく、やはり逃がした後に保護したのだな……アレは私の最高傑作、なんとしても取り戻したい! ……連れて来ておらんのか?」
 「いやあ、ブロウエルに邪魔されましてね」
 「かーっ! 使えん奴じゃ! まあいい、まずはNo.8を解放するぞ、帝国に攻めるにはもう一体くらい欲しいがのう」
 「手伝いますよモルゲン=フィファール博士」

 そう言って二人は『遺跡』に入っていく。

 足元にある、自らが殺した大量の死体を踏みにじりながら。
しおりを挟む
感想 262

あなたにおすすめの小説

あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。 電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。 信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。 そうだ。西へ行こう。 西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。 ここで、ぼくらは名をあげる! ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。 と、思ってた時期がぼくにもありました…

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

異世界を8世界ほど救ってくれって頼まれました。~本音で進む英雄譚~(仮)

八神 凪
ファンタジー
神代 陽(かみしろ はる)はゲームが趣味という普通の高校生。 ある時、神様軍団に召喚されて異世界を救ってくれと頼まれる。 神様曰く「全部で8つの世界」が危機に瀕しているらしい。 渋々承諾した陽は、「主人公」と呼ばれる特異点を救うため、旅立つことになる。 「俺は今でも納得してないからな!」 陽の末路や、如何に!!

まじぼらっ! ~魔法奉仕同好会騒動記

ちありや
ファンタジー
芹沢(せりざわ)つばめは恋に恋する普通の女子高生。入学初日に出会った不思議な魔法熟… 少女に脅され… 強く勧誘されて「魔法奉仕(マジックボランティア)同好会」に入る事になる。 これはそんな彼女の恋と青春と冒険とサバイバルのタペストリーである。 1話あたり平均2000〜2500文字なので、サクサク読めますよ! いわゆるラブコメではなく「ラブ&コメディ」です。いえむしろ「ラブギャグ」です! たまにシリアス展開もあります! 【注意】作中、『部』では無く『同好会』が登場しますが、分かりやすさ重視のために敢えて『部員』『部室』等と表記しています。

超克の艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
「合衆国海軍ハ 六〇〇〇〇トン級戦艦ノ建造ヲ計画セリ」 米国駐在武官からもたらされた一報は帝国海軍に激震をもたらす。 新型戦艦の質的アドバンテージを失ったと判断した帝国海軍上層部はその設計を大幅に変更することを決意。 六四〇〇〇トンで建造されるはずだった「大和」は、しかしさらなる巨艦として誕生する。 だがしかし、米海軍の六〇〇〇〇トン級戦艦は誤報だったことが後に判明。 情報におけるミスが組織に致命的な結果をもたらすことを悟った帝国海軍はこれまでの態度を一変、貪欲に情報を収集・分析するようになる。 そして、その情報重視への転換は、帝国海軍の戦備ならびに戦術に大いなる変化をもたらす。

レンタルショップから始まる、店番勇者のセカンドライフ〜魔導具を作って貸します、持ち逃げは禁止ですので〜

呑兵衛和尚
ファンタジー
 今から1000年前。  異形の魔物による侵攻を救った勇者がいた。  たった一人で世界を救い、そのまま異形の神と共に消滅したと伝えられている……。  時代は進み1000年後。  そんな勇者によって救われた世界では、また新たなる脅威が広がり始めている。  滅亡の危機にさらされた都市、国からの援軍も届かず領主は命を捨ててでも年を守る決意をしたのだが。  そんなとき、彼の目の前に、一軒の店が姿を現した。  魔導レンタルショップ『オールレント』。  この物語は、元勇者がチートスキルと勇者時代の遺産を駆使して、なんでも貸し出す商店経営の物語である。    

ヒビキとクロードの365日

あてきち
ファンタジー
小説『最強の職業は勇者でも賢者でもなく鑑定士(仮)らしいですよ?』の主人公『ヒビキ』とその従者『クロード』が地球の365日の記念日についてゆるりと語り合うだけのお話。毎日更新(時間不定)。 本編を知っていることを前提に二人は会話をするので、本編を未読の方はぜひ一度本編へお立ち寄りください。 本編URL(https://www.alphapolis.co.jp/novel/706173588/625075049)

怠惰の魔王

sasina
ファンタジー
 年齢一桁で異世界転移してしまった天月 鈴。  運良く拾ってもらい、10年間育てられる。  ある日、この異世界イデアが違う世界と繋がってしまい、その繋がってしまった世界と言うのが10年前の地球だった。  折角、繋がったので懐かしの地球に行ってみると、世界の強制力か、体も10年前の姿に戻ってしまった。

処理中です...