82 / 134
FILE5.キョウキノカガクシャ
79.
しおりを挟む「――以上です。カイルを追っていたのは正解でしたが、申し訳ございません」
「気にするなブロウエル、ウォールの策に乗った私に責がある。それよりカイルはどうだ?」
「……身体に問題はありません」
「そうか」
――ヴィクセンツ領から火急で帝国まで戻ったブロウエルが、顛末の報告をガイラルへ終えたところだった。
ガイラルはウォールがカイルを追うことは分かっていたのでブロウエルを向かわせたが、一歩及ばずにカイルが自身の正体を知ることになったことに責任を感じていた。
「”終末の子”No.0のカイル、か」
「そういえばカイルには専用の武器は無いのですか? イリスのように」
「無い。あいつの能力は知識と創造。ブロウエルも見たはずだ、自身の血と魔力で生成した剣と銃を」
「……ええ」
「サイクロプスから手に入れた素材も元は天上にあったもので、カイルは幼少期に【改造】された直後から装備を作っていたよ、先日の遠征で作ったものはそれの延長だ」
ガイラルが懐かしいといった感じで微笑むと、ブロウエルは帽子のつばに手をかけながら言葉を返す。
「……カイルはどうして地上へ? 5千年前に『遺跡』へ封じられなかったのはなぜですか?」
「あいつは……いや、これはどこで漏れるか分からんからお前にも話せないか。地上へ来た理由は簡単だ、私が派遣された時に一緒に連れてきたからな」
「私が拾ったことにしたのは、終末の子だという記憶が無かったからですかな」
「そうだ。エリザと夫婦になったのは予想外だが、それでもいいと思っていたが――」
五年前の事件があった、とガイラルは口にする。
本来であればそのままjカイルとエリザは結婚して戦いから退ける予定だったのだが、カイルの正体がばれてしまったのであえてカイルに殺させ、自分を仇に見せるように演出したと語った。
「……難儀なものですな」
「ああ、上手く行かないものだ、嫌になるよ」
「お孫さんは?」
「……」
「失礼しました。では、私の報告は以上です」
「ご苦労だった、下がってくれ。カイルの見舞いへは私が行こう」
「左様ですか、また恨まれてしまいますかな」
「はは、珍しく冗談を言うじゃないか、良してくれよ」
そう返すと、ブロウエルは珍しく口元に笑みを浮かべると、敬礼をしてこの場を後にする。それを見送ったガイラルは椅子から立ち上がり、雨が降りしきる庭園を見て目を細める――
「……ウォール、カイルへの仕打ち……高くつくぞ?」
――皇帝ガイラルが本気で怒りを見せた瞬間だった。
◆ ◇ ◆
「……」
カイルは自宅のベッドで上半身を起こした状態でじっと自分の手を眺めていた。もちろんウォールの話を覚えているからで、自身は終末の子……それも最初に作られたプロトタイプであることを聞かされ、目が覚めたのは帝国へ戻ってからだったが気持ちがずっと落ち着かないのだ。
『おとーさん、大丈夫ですか?』
「わふん」
「ん……ああ、大丈夫だぞ? どうした、イリス」
ベッドに身を乗り出し、足をパタパタとさせるイリスと、容赦なくベッドの上に乗って顔を舐めてくるシュナイダーの頭を撫でて力なく笑う。
『むー、なんか元気がありません! お外にいきましょう!』
「いや、俺はいいよ。お前達だけで行ってこい」
『えー! 嫌です! お父さんと一緒がいいです!』
「……やれやれ」
ふくれっ面のイリスを見てカイルは苦笑しながらベッドから出ると、適当な服に着替えてから家から出る。戻ってから三日は経っているが、今日が戻って初めての外出だった。
『公園がいいです! そのあとハンバーグを食べたいです』
「真顔で言うな。……ま、爺さんには頼みごとをしているし、丁度いいか……」
『シュナイダーとってこーい!』
「わぉぉん♪」
公園につくと、ボール遊びでイリスとシュナイダーが遊びだしたのでカイルはベンチに座ると、前かがみになって手を組むとぽつりと呟く。
「……終末の子、そのプロトタイプ……それが俺、カイル=ディリンジャー……。一体どういうことなんだ? 俺は天上人だってのか? サラが俺に敵対しなかった理由がこれなら皇帝の前で話そうとしたのはこのことだろう。……となると、皇帝は俺の正体を知っている、ということになる、のか……?」
そこで、何故知っているなら言わなかったのかという疑念と――
「エリザと結婚させたのは何故だ? 俺が厄介な兵器と知っているなら結婚に行きつく前に分断するだろう……五年前のあの日まで知らなかったということはないはず……。ん?」
「まあ、その通りだカイル。私はお前がプロトタイプであることを知っていたよ」
「……!? 皇帝……」
地面を見つめていたカイルの影に、別の影が重なったので顔を上げると、トレンチコートに革の手袋、中折れハットを被って微笑むガイラルの姿があった――
10
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説
あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話
此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。
電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。
信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。
そうだ。西へ行こう。
西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。
ここで、ぼくらは名をあげる!
ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。
と、思ってた時期がぼくにもありました…
異世界を8世界ほど救ってくれって頼まれました。~本音で進む英雄譚~(仮)
八神 凪
ファンタジー
神代 陽(かみしろ はる)はゲームが趣味という普通の高校生。
ある時、神様軍団に召喚されて異世界を救ってくれと頼まれる。
神様曰く「全部で8つの世界」が危機に瀕しているらしい。
渋々承諾した陽は、「主人公」と呼ばれる特異点を救うため、旅立つことになる。
「俺は今でも納得してないからな!」
陽の末路や、如何に!!
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜
二階堂まりい
ファンタジー
メソポタミア辺りのオリエント神話がモチーフの、ダークな異能バトルものローファンタジーです。以下あらすじ
超能力を持つ男子高校生、鎮神は独自の信仰を持つ二ツ河島へ連れて来られて自身のの父方が二ツ河島の信仰を統べる一族であったことを知らされる。そして鎮神は、異母姉(兄?)にあたる両性具有の美形、宇津僚真祈に結婚を迫られて島に拘束される。
同時期に、島と関わりがある赤い瞳の青年、赤松深夜美は、二ツ河島の信仰に興味を持ったと言って宇津僚家のハウスキーパーとして住み込みで働き始める。しかし彼も能力を秘めており、暗躍を始める。
レンタルショップから始まる、店番勇者のセカンドライフ〜魔導具を作って貸します、持ち逃げは禁止ですので〜
呑兵衛和尚
ファンタジー
今から1000年前。
異形の魔物による侵攻を救った勇者がいた。
たった一人で世界を救い、そのまま異形の神と共に消滅したと伝えられている……。
時代は進み1000年後。
そんな勇者によって救われた世界では、また新たなる脅威が広がり始めている。
滅亡の危機にさらされた都市、国からの援軍も届かず領主は命を捨ててでも年を守る決意をしたのだが。
そんなとき、彼の目の前に、一軒の店が姿を現した。
魔導レンタルショップ『オールレント』。
この物語は、元勇者がチートスキルと勇者時代の遺産を駆使して、なんでも貸し出す商店経営の物語である。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる