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FILE.4 セイセンヘノイリグチ
75.
しおりを挟む「うおっとぉ!?」
『うーん……』
「ひゅーん……」
「おお、悪い! ほら、しっかりしろ!」
猛スピードでフルーレの屋敷に戻って来たカイルの車が急停車すると、大きく車体がはねてイリスとシュナイダーが目を回す。
『ふわーい……』
「わふ」
カイルは慌てて二人を起こすと、雨の降る中トランクを開けて刃の赤い剣と銃を取り出し屋敷に向かう。
――すると
「くっ!?」
『お父さん!』
ドアノックをしようと玄関に手をかけたところで、玄関を突き破ってカイルの顔の横を槍が出てきた。咄嗟に危険を感じて避けたが、そのまま動かないでいたら正面から貫かれて死んでいただろう。
本気で殺しに来ていることに冷や汗をかきながら、カイルは玄関から距離を取り銃を構えると、玄関が飛んできて驚愕する。
「めちゃくちゃしやがる!?」
『あはははは! 最初の一撃で死ななかったアンタは凄いけどね! 昨日といい、勘は鋭いわ』
「チッ、槍か! その言い草だと寝室で襲ってきたのもお前か」
目を見開き口を歪めて笑う女が玄関を目隠しにし、カイルに突撃してきた。槍の猛攻撃を剣で弾きながら銃を発砲すると、女は玄関を盾にし体当たりを仕掛けてきた。
『そぉら!』
「うお!?」
『とどめ!』
「あおーん!」
『チッ、魔獣か……!』
胸に振り下ろされるはずだった槍は、シュナイダーが噛みついて逸れたため地面に突き立った。
『シュー! <レーヴァテイン>!』
『LA-164か! <ルーン>』
削岩機のようなレーヴァテインを炎が噴き出した槍で受け止めると、二人は反発する磁石のようにはじけ飛ぶ。
『くっ……』
『ふわああ』
「おっと」
女は踏ん張るが地面を滑り、イリスは後転するが、カイルが受け止め事なきを得る。
「いきなり攻撃してくるとはやる気満々だな。フルーレちゃんはどこだ?」
『教える必要があるかしら? それよりLA-164を返してもらうわよ』
「LA-164……イリスのことか。返す? お前はイリスの仲間じゃないのか?」
『ええ、話が早くて助かるわね。私は終末の子が一人ミサよ。どうせ死んじゃうから覚えなくていいけど?』
ミサが槍を肩に担ぎ、挑発的な笑みでカイルに言う。
「まあ、お互い様ってやつだな。終末の子はニックとかいう男を倒したが、後を追うなら手伝ってやる」
『ニック……?』
「なんかNo.1とか名乗っていたんだっけ? まあ、強かったけど、なんとか倒した」
『ああ、あいつか……調子に乗るやつだったからあり得ない話じゃないわね』
「……」
カイルはニックが倒されたことで逆上して襲ってくることを期待したがそうはならず、冷静に相手を見据える。仲間意識は薄いのか、そう思ったところでサラは口を開く。
『まあその子は返してもらうけどね? 使命を果たすなら使える駒は取っておかないとね♪』
「地上人の抹殺か。それをさせるわけにはいかない。イリスを狙うというなら……ここで果ててもらう」
『ふふ、いいわその目、ゾクゾクするわね……この後来る帝国兵を皆殺しにするウォーミングアップには申し分ない。あんた、名前は?』
「カイル。カイル=ディリンジャーだ……!!」
『!?』
カイルがそう言った瞬間、サラの顔が驚愕に彩られた。だが、カイルはそれに気づかず発砲しながら突っ込んでいく。
『わたしも行きます』
「わおわおーん!」
『チィ、ちょっと待て……!』
「待てるか!! 帝国兵を皆殺しなんてさせるわけにはいかないからな!!」
雨の中ぬかるむ地面に苛立ちを感じつつも発砲しながら近づき、剣の範囲内に入った瞬間、胸のホルダーに銃をしまうと赤い刃を振り、槍の間合いの内へと入っていく。
『待てと言っている!!』
『こっちです!』
『ちょっと待ってNo.4! はあああ! <ルーン>よ、炎を巻き上げ目の前の敵を灰燼と化せ!』
「でかい!? イリス!」
サラが槍を頭上で回転させると、雨が蒸発する勢いの炎が噴き出しカイルは慌ててイリスの首根っこを掴んで手元に引き寄せた。
「あぶねえ……こいつは戦い慣れている、ニックなんかより強いぞ……」
『あんなのと一緒にしてもらったら困るわね……って、そんなことより、あんた本当にカイル=ディリンジャーなの?』
「え? ああ、そりゃ自分の名前を間違えるわけはない。カイルだ」
槍を肩に置いて目を細めるサラに違和感を覚えるカイル。すると、サラは踵を返し、首だけ振り返って口を開く。
『止め止め。あんたがカイルなら私はあんたに手を出せない。中へ入るわよ、風邪ひきたくないし』
「……? どういうことだ?」
『話は中でってね』
そう言ってウインクをした瞬間、
「カ、カイルさん、イリスちゃん無事ですか!! サラ、あなたは……! あ、あれ?」
『ああ、フルーレお姉ちゃん二人にタオルをお願いしていい?』
「ええー……? なに、何があったんですか?」
『……』
サラは何も言わず、槍を消して屋敷の中へと入っていった。
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