71 / 134
FILE.4 セイセンヘノイリグチ
69.
しおりを挟む――カイル達はフルーレの実家に泊まることに決まり、メイドのグレイスに案内された部屋でカイルはひとりでベッドに寝転んでいた。イリスとフルーレは揃ってお風呂へ行っているため考える時間ができたと目を閉じる。
「さて、とりあえず目的地にはついたけど親父さんがネックか。遺跡に入る許可を貰えなかったのは痛いが……」
断られる可能性はあったので特に気にしてはいないが、フルーレが家出をしたことを聞いてはいたので『無事に家へ帰した』ということであわよくば、という考えもあった。
許可を貰えないなら、フルーレの言う通りエリザ達が来て接収することになるし、手っ取り早い。
「ま、それを待つ時間も惜しいから。親父さんには俺から話すとしようか。フルーレちゃんが居ない時の方がいいか……」
『戻りました! 大きくて泡がいっぱいのお風呂でしたよ!』
「うおん!」
「おお、お前も毛並みが良くなったな」
カイルは部屋に帰って来たイリスとシュナイダーの声で上半身を起こし、飛び込んできたイリスを抱きとめる。
「フルーレちゃんは?」
『お姉さんはおばさんと自分の部屋に行くって言ってました。朝ごはんになったら呼んでくれるそうです。うふふ……』
「お前なあ……」
カイルが苦笑しながら涎を垂らすイリスを布団に入れて寝かしつける。シュナイダーが布団の上で丸くなったところで、カイルはソファで内ポケットに入れていた酒を取り出して口に含む。それを何度か繰り返したあと、イリスが寝息を立て始めたので背を預けて目を閉じた。
そして――
『……』
音もなく扉が開かれ、スッと部屋に入ってくる人影があった。それは何の躊躇いもなく、手にした槍をカイルに突き刺してきた。
「っと、もう動いたか。案外堪え性が無いな、フルーレの親父さん」
『……!?』
酒を飲んで無防備と思われたカイルだったが、赤い刃であっさり弾き、侵入者に踏み込んでいく。
『ぐっ……!? 起きていたの……酒を飲んで寝ていたんじゃ……』
「女か。悪いな、俺は自分の家じゃないと落ち着かないんだよ、フルーレちゃんの実家だから安心しているとでも思ったか? 残念だったな」
『やるじゃない、帝国の軍人さん!』
カイルの肘が胸に入り、侵入者は後ろにのけぞる。槍を薙ぎ払い、カイルを追い払おうとする。しかし、カイルは姿勢を低くして槍を回避すると、唇に指を当てて『しー』っと言いながら喉元に刃を突き付ける。
『ばかな……あたしがこんなあっさり懐に!?』
「ま、槍はこんな狭い部屋で使うもんじゃないからな? 得物は場所を選ばないと。……で、お前さんは何者だ? 親父さんの刺客ってことで合ってるか?」
『……』
刃を突き付けられ、無言で唾を飲み込む侵入者。一瞬沈黙が訪れ、カイルは埒があかないかと口を開く。
「無言は肯定と――」
『勝った気でいるんじゃないよ!』
「おっと、そうそう機転は利かせないと……な!」
『チッ……!』
左手を後ろ手にした後、腰のダガーを抜いてカイルに斬りかかり、カイルが回避すると同時に後ろに下がった。すぐに槍を両手で持ち、高速で突いてくる。
『やあああ!』
「おいおい、部屋がめちゃくちゃになるだろうが!? 弁償させられたらお前が払えよ!」
『うるさい! くそ、何だこいつ、あ、当たらない……』
侵入者の腕は悪くない……むしろ槍を最小限の動きで扱い、狭い部屋でも戦える工夫をするレベルの戦闘能力。しかしカイルへ肉薄するもカイルは涼しい顔で槍を捌いていく。
力量は分かった、そろそろ足を止めるかと銃を取り出そうとしたその時だった。
「何だ! さっきからやかましいぞ! おお、何だこいつは!?」
『ふあ……お父さん……?』
「チッ、どっちだ……? 考えている暇はねぇか! 親父さん、逃げろ! 賊だ!」
「何!? うお!?」
部屋に入ろうとしたビギンが槍に弾き飛ばされ壁に叩きつけられる。それを見たイリスが目を覚まし、侵入者にとびかかる。
『なんてことをするんですか! <レーヴァテイン>!』
『……え!? あ、あんたは……!』
『やあ!』
『くっ……覚えていなさい……』
「逃がすか!」
窓に向かって走っていく侵入者にカイルが発砲する。太もも、右肩に命中するが構わず窓を破り外へ出て行った。
『くっ……』
「速い……!? あの傷でよく動く!」
一階の部屋なので逃げることはたやすい。しかし、足に銃弾を受けている侵入者にあっさり距離を放されるとは思っておらず、数度発砲した後追跡を止めた。
「逃げ足も一級品ってか。まあいい、次襲ってきたら捕まえられるか。それより、大丈夫か親父さん」
「う、うむ……お前、強いな……帝国軍人の癖に」
「何言ってるんだ、俺なんか底辺クラスの強さしかないって。イリス、フルーレちゃんを呼んできてくれ、親父さん心当たりは?」
「し、知らん! お、お前達が来たから誰か追って来たんじゃないのか? 悪いが、明日の朝には屋敷を出て行ってもらおう。『遺跡』には近づくんじゃないぞ?」
「……」
さて、これは偶然か? それとも……
カイルは割れた窓とビギンを交互に見ながら思案するのだった――
10
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説
あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話
此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。
電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。
信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。
そうだ。西へ行こう。
西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。
ここで、ぼくらは名をあげる!
ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。
と、思ってた時期がぼくにもありました…
異世界を8世界ほど救ってくれって頼まれました。~本音で進む英雄譚~(仮)
八神 凪
ファンタジー
神代 陽(かみしろ はる)はゲームが趣味という普通の高校生。
ある時、神様軍団に召喚されて異世界を救ってくれと頼まれる。
神様曰く「全部で8つの世界」が危機に瀕しているらしい。
渋々承諾した陽は、「主人公」と呼ばれる特異点を救うため、旅立つことになる。
「俺は今でも納得してないからな!」
陽の末路や、如何に!!
Rich&Lich ~不死の王になれなかった僕は『英霊使役』と『金運』でスローライフを満喫する~
八神 凪
ファンタジー
僕は残念ながら十六歳という若さでこの世を去ることになった。
もともと小さいころから身体が弱かったので入院していることが多く、その延長で負担がかかった心臓病の手術に耐えられなかったから仕方ない。
両親は酷く悲しんでくれたし、愛されている自覚もあった。
後は弟にその愛情を全部注いでくれたらと、思う。
この話はここで終わり。僕の人生に幕が下りただけ……そう思っていたんだけど――
『抽選の結果あなたを別世界へ移送します♪』
――ゆるふわ系の女神と名乗る女性によりどうやら僕はラノベやアニメでよくある異世界転生をすることになるらしい。
今度の人生は簡単に死なない身体が欲しいと僕はひとつだけ叶えてくれる願いを決める。
「僕をリッチにして欲しい」
『はあい、わかりましたぁ♪』
そして僕は異世界へ降り立つのだった――
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
レンタルショップから始まる、店番勇者のセカンドライフ〜魔導具を作って貸します、持ち逃げは禁止ですので〜
呑兵衛和尚
ファンタジー
今から1000年前。
異形の魔物による侵攻を救った勇者がいた。
たった一人で世界を救い、そのまま異形の神と共に消滅したと伝えられている……。
時代は進み1000年後。
そんな勇者によって救われた世界では、また新たなる脅威が広がり始めている。
滅亡の危機にさらされた都市、国からの援軍も届かず領主は命を捨ててでも年を守る決意をしたのだが。
そんなとき、彼の目の前に、一軒の店が姿を現した。
魔導レンタルショップ『オールレント』。
この物語は、元勇者がチートスキルと勇者時代の遺産を駆使して、なんでも貸し出す商店経営の物語である。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる