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FILE.3 ヒロガルセンカ
59.
しおりを挟む『モクヒョウ、カクニん』
「イ、イリス、どうしたんだ……!?」
「!? エリザ離れろ!」
イリスがレーヴァテインをエリザに向け、淡々とした口調でエリザに近づいていく。近くにいたエリザを標的にしているようだ。カイルは慌ててイリスの下へ向かうため、駆け出した。
「イリス……!」
『ジャマ、をスルナラ、オマエカラショブンシマス』
首根っこを掴んで引き寄せると、イリスの首がぐるんとカイルへ向き、まばたきをしない金色の瞳をカイルに向けてぽつりと呟いた。
刹那、ニックと同じ『遺跡から出たモノ』なのだとカイルは唇を噛みながら胸中でそんなことを考える。すると、イリスは右手に持っていたレーヴァテインを振り上げ、カイルの額を狙ってきた。
「っと……!?」
『テキセイ、ソンザイ、カイヒコウドウ、つギのドウサへイコウシマス』
「イリス、目を覚ませ!」
カイルの手を逃れ、イリスはカイルに武器を向ける。そこへ横からガイラルが割り込んでくる。
『モクヒョウ、ゾウカ。タダチニセンメツシマス』
「ふん!」
レーヴァテインを突き上げるように振り、ガイラルがそれを力でねじ伏せる。瞬間、飛び上がったイリスが蹴りを放ち、咄嗟にガードする。
「皇帝、ダメだ! イリスは……」
「カイル、残念だが――ぬう!」
「止めるんだイリス!」
『……』
「ニックに殴られて元の兵器に戻ったようだな。可哀想だが、ここで処分する。人間のために」
カイルの声に耳を貸すこともなく、イリスはガイラルと壮絶な打ち合いを繰り広げる。
レーヴァテインを軸に、攻撃に、土台にと千差万別に繰り出される技に割って入る隙が無く、どうするか考えていたところに、
「きゅふん!」
「あ! シューちゃん!」
シュナイダーがガイラルの斬撃を受けて片膝をついたところでイリスの右手に噛みついた。抑揚のない目を向けて、イリスは口を開く。
『ショウゴウ、メモリー、カラ、シンリンオオカミ……マジュウ……コタイめイ、シュナイだーとハン、メイ……シュナイ……だー?』
「動きが止まった? やるなら……今か?」
ふーふーと鼻息を荒くしてイリスに噛みつくシュナイダーを見て立ち尽くすイリスに、ガイラルは大剣を持ち直し言う。
「待て! ……あいつは俺が何とかする。あんたは治療があるしな」
「……お前に処分できるか?」
「……その時が、くれば」
険しい表情で冷や汗をかきながら、赤い刃を握りイリスへと向かうカイル。
「イリス! 目を覚ませ」
『ワタシ、ハ、イリスナドトいうナデハアリマ、セン。 ……? メモリーニ、ナニカ……?』
「きゅん! きゅん!」
シュナイダーが鳴き、カイルがイリスを抱きしめる。ガラン、とレーヴァテインを取り落とすと、フッと消える。
「頼む、元に戻ってくれ! 俺はお前を殺したくない!」
「そうだイリス! 何故こんなことになっているか分からんが、いつものイリスに戻ってくれ……!」
「イリスちゃん!」
エリザとフルーレも声をあげ、イリスはカイルに抱っこされたまま首を二人に向ける。そしてシュナイダーの頭にそっと手を乗せた後――
『ア、アアアアアアア……! アタマが……メモリーがヤケ、ル……! ワ、ワタシはNo.4! イリス、ナドトイウナマエで、は!』
「くそ……! 何とかならないのか! うおお!?」
「きゃいん!?」
「きゃ!?」
イリスが頭を抑えながら放った衝撃波でカイルはイリスを取り落としてしまう。体勢を立て直すと、イリスはすでにレーヴァテインを再び具現化させ、カイルの左足に突き刺した。
「うぐ……!?」
『モクヒョウ、ワズカニズズズズ、レ、』
「ぐうおおお……! ……なんだ、動揺しているのか……?』
その時、カイルの脳裏にイリスが目覚めた時のことがフラッシュバックする。
(コンディション・オールグリーン。ケツエキカラノマスタートウロク、カンリョウ)
(マスター登録……? 何だ、お前は)
「そういえば、俺をマスターだとか言っていたか! もしかして!」
『コロス……コロシテハイケナイ……コロスコロスコロス……』
「イリス……いや、No.4、俺の血だ! マスターの、父ちゃんの言うことを聞きやがれぇぇぇ!」
足からにじみ出る血をイリスの顔に塗り、名前を呼ぶ。直後、硬直したように体の動きが止まり、ギギギと、カイルの方へ目を向ける。
『マ、スター……?』
「そうだ! マスターだ! カイル=ディリンジャーだ!」
『ケツエキショウゴウ、データ……ケンサク……』
「ええいまどろっこしい! 早く思い出せ、馬鹿娘!」
カイルが刺さったレーヴァテインをさらに深く突き刺しながらぶつぶつと呟くイリスに拳骨を食らわす。
「わんわん!」
「カイルさん!?」
シュナイダーが抗議の声をあげ、フルーレが口に手を当てて目を丸くする。ガイラルが片膝をつきながら、瞳孔を見守っていると、イリスの体がガクガクと震えだした。
『マスター、マスター……ア、がががガガ……ケイヤクズミ……ワタシ、はNo.4……イリ、ス?』
「そうだ、お前はイリスだ!」
カイルが頭に手を乗せて叫ぶと、びくんと体が一瞬跳ね、動きを止めた。
そして――
『マスター……? カイル=ディリンジャー……シュナイダー、エリザおねえさんにフルーレお姉さん……? 私は、一体? おとう、さん……?』
「ふう……戻ったか……」
『戻った……? 私はNo.1に向かって行ったような? ……!? お父さん、足が! 戻れ<レーヴァテイン>』
イリスが慌ててレーヴァテインを消すと、カイルはイリスにもたれるように倒れこむ。
「いってぇ……でも良かったぜ……」
『わ、私……お父さんを……?』
「きゅん!」
『いいんですか? シュー?』
「わん!」
「……なんて言ってるんだ?」
『自業自得だって言っています。私を早く元に戻さなかったから、と』
それを聞いてカイルは寝転がりながら、逃げようとしたシュナイダーの首を掴む。
「きゃいん!?」
「お前なあ! ……ま、良かったよな……痛ぇ……ちょっと、休ませてもらう、わ……」
『お父さん!? フルーレお姉さんこっちです』
「あわわわ!? 凄い血!?」
気絶したカイルにフルーレが回復術を使い始めたころ、カイルとイリスを見ながらガイラルは目を細めて胸中で呟く。
「(元に戻ったか……。ああなっては無理だと思っていたが、No.4……イリス、今後障害にならねばいいが)」
そして次にカイルが目を覚ますと――
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