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FILE.3 ヒロガルセンカ
52.
しおりを挟む<技術開発局>
「ぐがー……」
『すー……』
「きゅーん……ぴひゅるるる……」
――エリザやガイラル皇帝達が出発してからすでに一週間。
ずっと、詰めて装備の開発を進めていた。入れ替わりで、セボックから見て優秀な研究員を貸してもらうなどして協力を仰ぎ、サイクロプスのスキンを縫合した上着は完成した。
出払っている兵士全員分には素材が足りなかったが、それでも前線で戦う部隊には回せるであろう数はあった。
今は徹夜というデスマーチを行い眠っているところだった。
イリスも助手のような形であくせくと手伝ってくれており、シュナイダーは尻尾を振るだけであまり役に立っていなかった。
そんな中、あくびをしながらセボックがサイクロプスを寝かせていた地下訓練場に入ってくる。
「ふあ……かぁーやっぱすげぇなカイル局長は。研究員が手伝ったにしても早すぎだろう……。こっちの方は生産が半分ってところなんだがなあ……」
と、ぼやきながら床で寝ているふたりと一匹を見ながら頭を掻くと、見事に解体されたサイクロプスの横に、大きな鉄の塊があることに気づく。大人の平均身長くらいの長さで、それを二人並べたくらいの太さをしたそれを見てセボックは寝ぼけた頭を覚醒させる。
「……なんだ? こんなもんは無かっ――まさ……か!?」
「んあ……? なんだ……? ああ、セボックか、どうした?」
セボックが声を上げると、カイルが目を覚まし声を出す。イリスが起きないよう、袖を掴んでいた手をそっと外して起き上がる。
「どうした、じゃないぜ! これ、陛下が行っていた広範囲兵器じゃないか!?」
「声が大きい、イリス達が起きたらどうする」
驚いて詰め寄るセボックの口を塞ぎ、カイルはあくびをかみ殺しながら鉄の塊について答える。
「……その通りだ。あれは皇帝がオーダーした兵器。急ごしらえだが、一発だけ作ってみた」
「そんな……アレをか……? お、お前、大量に殺人ができる兵器の開発は嫌がっていたじゃないか」
あっさりと言い放つカイルにセボックはごくりと喉を鳴らし、焦りながら問う。スキンの上着を制作しながら広範囲兵器まで作っていたことに驚きを隠せない。自分だったらこれを作るだけで一週間はかかると胸中で呟く。
研究員の手伝いがあってもこの速度での開発はおかしいとも。
「……まあな。だが、皇帝の口ぶりが妙に気になって、予防線として作ってみた。使わないに越したことは無いが、こいつを地表に落とすと中の燃料が広範囲に散り、発火して燃やし尽くす。正直、とんでもない代物だ。少し皇帝の案にアレンジを加えているが、威力は向上した……させてしまった」
何故かはわからないが気づいたらそうなっていたとカイルが語り、セボックは鉄の塊を触りながら無言で聞く。
「とりあえず俺の方は作業が終わった。この装備を運びつつ俺も参戦するつもりだけど、どうやって運ぶ? 運搬部隊は居るのか?」
「ああ、陛下にカイルの装備が完成したら飛行船で追うように言えと言われている。その広範囲兵器……って、呼びにくいな。名前はねぇのか?」
「ん? こいつか……そうだな……”ファイアフライ”ってところかな」
「”蛍”ねえ。そんな生易しいもんじゃねぇだろうに」
セボックが苦笑して煙草に火をつけて言うと、カイルも一瞬笑い、すぐに真顔になってイリスの下へ足を運ぶ。
「試射はしていないからこんなもんだろ?……よし、研究員を貸してくれ、こいつを運ぶ。……イリス、起きろ飯食ったら出撃するぞ」
『ごはん……? おはようございますお父さん』
「くぅん?」
イリスとシュナイダーが目を覚まし、寝ぼけ眼のイリスを抱っこし、カイルは出口へと足を運ぶ。
「どこ行くんだ?」
「一度家へ帰る。準備をしないといけないからな、後のことを頼んでいいか?」
「ああ、任せろ。ついでに今できている分のアサルトライフルを積んでおくから、それも頼む」
「了解だ。どれくらいでできる?」
「ふー……。そうだなあ、だいたい三時間ってところか」
カイルは首だけ振り返って頷き、イリスへ言う。
「ゼルトナ爺さんのところに行ってハンバーグにするか。景気づけにいいだろ」
『うん……』
「はは、まだ眠いか。じゃあ後でな!」
カイルが訓練場から出ていき、煙草を咥えたまま片手をあげて見送る。そして煙草を床に捨てて目を細めて、踏みつぶす。
「……仕事すっか……にしても、局長、アンタはヤバすぎるぜ……。アンタがいなきゃ俺が――」
◆ ◇ ◆
<国境付近>
「ダムネ大尉、やつら勢いが落ちません……!?」
「無理しなくていい、ケガをしたら下がるんだ! くう……!」
――ダムネ達が国境の門へ辿り着いたのは二日前。現在カイルが装備を運び込むため飛空船を用意しているころ、銃声と剣戟の音が鳴る戦場は誰もが帝国に分があると思っていたのだが――
「ガァァァァ!! コロス、コロ、ス……! アガ……」
襲い来る敵兵の額を槍で貫き、倒れた相手にダムネが訝しんだ目を向けて呟く。
「こいつら、あの島に居た村人と同じような感じになっている……? だけどあの島とシュトレーン国は関係ないはずだけど……」
「シネェェェェ!」
「はっ! わずかに意識があるみたいだからやはり違う?」
答えてくれるものは居らず、ただ敵を倒すダムネ。直後、背筋に寒気を感じてその場を飛びのく。
「避けたか! やるな」
「なんだ……!? こいつ、他の兵士と気配が違う……!」
白い刃を半身で構えてにやりと笑う男は、シュトレーンから出て来たニックだった。
「今のを受け止めていれば、そこの奴みたいになっていたのにな。残念だよ」
「……!? た、隊長!」
「う……」
ニックの目線の先には、隊長が片腕を斬られて倒れていた。頑強な装甲が紙きれのように切断され、目の前の男がやったことに、戦慄と怒りが同時にこみあげる。
「お前がシュトレーンの兵を率いているみたいだね、頭を倒させてもらうよ!」
「デカブツが俺を殺せるか! 笑わせるなよ! やれ、シュトレーンの勇敢なる兵士たち! ……なんてなぁ!」
「ウォォォォ……!」
「コ、コロス……テキ、コロ、す……」
ダムネがニックに詰め寄ろうとした瞬間、ニックがにやにやとした嫌な笑いを浮かべながら赤い珠を掲げてシュトレーンの兵に指示を出す。
「この数は……!? フィリュード島の村人達もお前の仕業か!」
「はいそうですかと答える馬鹿がいるかよ? とりあえず死んどけや!」
「くぅ!?」
ダムネは大楯と槍を構えて応戦を始めた――
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