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FILE.3 ヒロガルセンカ
51.
しおりを挟む<帝国の南西>
「……父上まで出張ってくることは無いのでは? 玉座にどっしり構えていた方が良いと思いますが」
「そう邪険にするな。何かあってもお前の兄がいるから問題ない」
「しかし……では、せめて自動車を使っては?」
「発達してきたとはいえ、やはり戦は馬が良いものさ」
そう言って馬の手綱を動かし、前へと進むガイラル皇帝。そこへキルライヒ中佐がエリザに声をかける。
「陛下、一体どういうつもりなのでしょうか……? 先日もいわくつきの島へ行ったばかりだというのに、危険な場所へ自ら出向いておられませんか?」
「私にも父上の……皇帝陛下の考えは分からん。危険が及べば護衛するしかあるまい。まあ、私達がしんがりだからそうそう戦闘になることはあるまいが……」
「やっぱり娘が可愛いんですかね? ……正直、第十一大隊の弓兵より後になるとは思いませんでしたしねえ……」
パシーがガイラルの背中を見て目を細めると、エリオット大尉が口を開く。
「まあまあ、いいじゃないか。僕達は軽装兵だし、町の補給部隊を守るってことでさ。戦争なんておっかないし」
「それでもちゃんと股間についているんですか? 男ならばーっと行ってばーっと散りましょうよ」
「それこそおっかないよ!?」
「ははは、いい彼女を持ったなエリオット!」
「「違います!!」」
「ウルダッハ、今のは良かったぞ」
――と、戦場までの道中は比較的穏やかに進んでいく。
大隊長会議で決まった割り振りの通り、エリザの第五大隊はしんがりを務めていた。予想通り、ダムネの居る重装兵の第四大隊が先頭を進み、二番手にドグルの所属する、重火器を扱う第二大隊が。
その他、第八、第十一大隊が続き、オートスの居る第三大隊が、時間差で出発し目標の国境付近へと向かっていた。
第一大隊の諜報・隠密部隊は各大隊に数名、魔通信機以外の伝令としての役割を担い。同じく、第六大隊の衛生兵も数名ずつ編成されている。
「まさかエリザ大佐と同じになるとは思いませんでした」
「そうだな、フルーレ中尉。知らない仲じゃないし、よろしく頼むよ」
フルーレがエリザの横に馬を寄せて笑顔で言う。エリザもそれに対し、笑いながら口を開いた。だが、フルーレはこの場にいないカイルのことを口にする。
「はい! ……カイルさん、大丈夫ですかね……? 武器開発に回されたみたいじゃないですか? 元技術開発局長ならできそうですけど、嫌がってましたし……」
「……まあ、あいつは何とかする男だ。……五年前だって、私のために……」
「え?」
「いや、何でもない。もしあいつが好きなら、落とすのは難しいぞ? なんせ朴念仁だからな」
「あー、鈍感そうですもんね。それとエッチそうなのに、こっちからそう言うと慌てそうですよね」
「ははは、そうだな。……カイルは本当、いいやつなんだ……」
そんな話をしながら向かうは南西の町”オターレド”野営を見込んで、三日はかかる行軍である。
――そして、先を進むドグル達も緊張な面持ちで馬を走らせていた。
「隊長、たばこ吸っていいすか?」
「構わんぞ。というか俺はもう吸ってる」
「げ、ずるいっすよ。では遠慮なく……」
第三大隊隊長のアンドレイ=ワルズ大佐が悪びれた様子もなく煙草を指に挟んで振り返り、ニカっと笑う。ドグルは口を尖らせて胸ポケットから煙草を取り出し火をつける。
「にしても戦争が起こるとはなあ」
そう呟いたのは中佐のサイス=ヒッテラ。
たれ目がちでオレンジのくせっ毛をした彼が、髪の先をいじりながらそう言うと、褐色の肌をしたガンツ=レッツ大尉が笑う。
「帝国に逆らう国があるだけでも驚きですからねえ。シュトーレンも結構南の方なのによく進軍してきますよ」
「それくらい自信があるってこった。足元をすくわれねぇようにな?」
「わかってますよ、ドグル少佐」
しかし、新型の武器は到着が遅れることをセボックが大隊長会議で告げ、アンドレイが落胆しながらドグル達に報告。それを聞いたドグルは、カイルと話が出来なかったことを悔やんでいた。
「(カイルの持っていた武装類は先日見た新型よりもさらに上だ。できれば一丁借りて、やばくなったら使いたかったんだがな。ダムネの使っていた大型ライフルやスナイパーライフル、剣ですら一級品だった。アレを使った後、”ウッドペッカー”じゃ物足りなぇんだよなあ……)」
ドグルは空を見上げながら胸中でそんなことを思う。世に知られたら取り上げられるであろうカイルの傑作。新作も試射したものの、しっくりこなかった。
「やれやれ、まあ山の中で籠っているよりかマシかね?」
「ぼやくな。第九、第十大隊に失礼だろうが」
「いってぇ……へいへい」
速度を落としたアンドレイにポカリと殴られ、煙草の紫煙を吐く。
そして、予定通り国境へ辿り着く一行――
◆ ◇ ◆
<シュトレーン国>
「何故攻めん? 国境を占拠できるチャンスだったと聞いている。油断していたところを一気に叩いておけば後が楽になろうに」
「まあまあ、焦っちゃいけませんや。こちらにも時期ってものがあります故」
「それで防備を固められたら元も子もあるまい! 兵が集まる前にすぐに攻め入れ!」
国王のモーグルが激昂し、持っていた杖を床に叩きつける。目の前にいる男、ニックは笑みを崩さず杖を拾ってモーグルへと返しながら口を開く。
「まあ、そろそろ頃合いでしょう。ここから奴らの国境まで、五日。部隊展開が終わるころですかね?」
「なにを……!」
悠長なことを、と言いかけたところでニックが人さし指を立ててから踵を返す。
「まあまあ、見ていてくださいよ。『損はさせません』から」
「……」
そう言って背中を見せたまま指を広げると、指の間には赤、黄色、青の珠が挟まれていた。それをポケットに入れ、ニックは謁見の間を後にする。
「出陣ですか?」
「うん、そろそろ頃合いかと思ってね。……さて、俺を見て皇帝はどうでるか楽しみだなあ」
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