47 / 134
FILE.3 ヒロガルセンカ
45.
しおりを挟む「ちちう……陛下、カイル少尉になんの御用でしょうか?」
「そう怖い顔をするなエリザ大佐、お前達にも関係がある話だ。……よっと」
『ふわ』
ガイラル皇帝はそう言ってイリスを抱っこして微笑む。そこへカイルが訝しむように尋ねる。
「俺達全員に、というのは珍しいな? ここで話していいことか?」
そう言って周囲に目を向けると、野次馬根性で残っている者が何事かと緊張や好奇の目でこちらを見ていた。その中にはオートスやドグルも含まれている。
『おじいちゃん、早く帰らないとシューが寂しがる』
「む、そうか? では、ここで話そう」
表情は変わらないが、声色で焦りの見えるイリスにそう言われ、ガイラルはここで話すと言い出した。キルライヒ中佐が眉間に指を当てて呻く。
「……いいんですかね……というか陛下と直接話したことはありませんでしたが、こういうお方だったとは……」
「人をくったような男ですからね。それで?」
カイルが肩を竦めてキルライヒを宥め、ガイラルへ尋ねる。
「お前達第五大隊は前線より少し後ろで支援をお願いしたい。場所は南西のイグラッチの町だ。さっきの説明で話したと思うが、この町は二番目の防衛線だ、心してくれ。そしてカイル少尉は技術開発局へ行き、武器のテストにあたってもらう」
「なんだって……? テストは各部隊でいいだろう? 大隊ごとなら、俺も行かなければおかしい」
ほぼ前線をそっちが決めるのかと思わず声を荒げそうになるカイル。だが、言葉を飲みこみガイラルへと抗議する。
「武器テストはお前でなければダメだ。悪いが、カイルの件に関しては決定事項になる。なに、テストが終われば合流してもらって構わない。拒否するなら、お前はイリスと家で待機してもらうことになる」
「カイル、拒否するんだ。私達が終わらせてくる」
エリザがカイルの肩越しに家で待っていろと言う。しかし、エリオット大尉が口を開く。
「でも、一時的にとはいえ戦力が不足するのはちょっとまずくないですかね……」
「ですです! カイル少尉は遊撃に最適ですし、フォローが上手いんですよね」
するとガイラルはとんでもないことを口にする。
「それは大丈夫だ。私が一緒に行くから。な、娘よ」
「はあ!?」
瞬間、ざわざわと周囲からどよめきの声が上がる。前線ではないとは言え、首を取られたら終わる皇帝が城を開けるなどあり得ないからだ。
「……いえ、それは……」
「拒否っても勝手についていくけどな? カイル少尉……ブライアンと一緒に武器のテスト、頼まれてくれるか?」
「兄上も戦うのですか?」
しばらく会っていない兄の姿を思い浮かべながら、エリザは首を傾げて言う。それを聞いてカイルは胸中で少し考えていた。
「(王子を残して自分が前線に? 確かに皇帝は強いが、戦争は何が起こるか分からない。死ぬ気か……? いや、この男に限ってそれはないか。だとしたら理由はなんだ? 武器のテスト……いや、セボックに何かあるのか?)」
先ほど新型武器の説明をしていたセボックを思い出す。ガイラルの肩に乗るイリスを見て、カイルは口を開いた。
「わかった。技術開発局へ行けばいいんだな?」
「……そうだ。出発前に顔を出したいから、後で一緒に行くぞ。1時間後、開発局の入り口で会おう」
「了解」
ガイラルはイリスを降ろして頭を撫でると、そのまま歩き出す。周囲の兵も話は終わったと解散していく。
(なんだかんだで娘がかわいいんだな……)
(でも前線はありえねぇだろ? 死ぬ気かよ)
(でも、ちょっと皇帝陛下いいなって思ったよ、各国を占領しまくっているから冷酷だと思っていたけど、親なんだってさ)
「……」
エリザはそんな声を耳にしながら部隊のメンバーへと顔を向けて話し始める。
「カイル、いいのか?」
「まあ、一番のトップに言われちゃ仕方ねぇな。娘であるお前のおっぱい一回で貸し借りなしにしよう」
カイルが真面目な顔で手をわきわきさせていると、パシー中尉が声をあげる。
「マジな顔で何言っちゃってるんですかねカイルさんは!? ……にしても、陛下と一緒かあ、頼もしいような怖いような……」
「腕は確かだ。今まで出会った人間でもあれほどのやつはいなかった。俺の代わりというなら、十分すぎる」
「よ、よくそんな言い方ができるな……ひやひやしてたんだぞ俺は……」
ウルラッハ少佐がカイルに口を尖らせると、キルライヒ中佐がカイルの肩に手を置いてから言う。
「……なに、帝国の方が圧倒的に有利だ。人数も武器も他の国と比べ物にならないからな。お前が来た頃には終わっているとでも言ってやるさ」
「それならそれでありがたいんですけどね。……人間同士、殺し合って何になるって話なんで、できれば俺は戦いたくないんですよね」
カイルがそう口にすると、ウルラッハ少佐が鼻を鳴らす。
「ふん、軟弱なことを言うな。やられたらやり返す。やられる前にやる。これは勝負の鉄則だろうがよ? ま、とりあえず準備に向かいましょうや、大佐」
「……え? あ、ああ、そうだな。それよりすまない、父のせいで我が部隊の行先が決めれず……」
謝るエリザにエリオットが返す。
「ま、完全な前線に行かないだけましですよ。第六大隊の衛生兵もいてくれるとありがたいんですけどねえ」
「カーミルの部隊は人数が多い。誰かが回ってくる可能性は期待できるんじゃないか? よし、あまりぐだぐだしていても始まらない。第五大隊、準備のため一時解散。出撃については一度大隊長で集まって決まる。後程伝えよう」
エリザが話を締めると、エリオット達は敬礼をして返事をする。
「「「「了解しました!」」」」
そして、ホールから出るカイル達。途中でエリザ達と別れ、カイルは技術開発棟へと歩き出す。
「(さて、何の話があるのやら……)」
10
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説
あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話
此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。
電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。
信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。
そうだ。西へ行こう。
西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。
ここで、ぼくらは名をあげる!
ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。
と、思ってた時期がぼくにもありました…
異世界を8世界ほど救ってくれって頼まれました。~本音で進む英雄譚~(仮)
八神 凪
ファンタジー
神代 陽(かみしろ はる)はゲームが趣味という普通の高校生。
ある時、神様軍団に召喚されて異世界を救ってくれと頼まれる。
神様曰く「全部で8つの世界」が危機に瀕しているらしい。
渋々承諾した陽は、「主人公」と呼ばれる特異点を救うため、旅立つことになる。
「俺は今でも納得してないからな!」
陽の末路や、如何に!!
Rich&Lich ~不死の王になれなかった僕は『英霊使役』と『金運』でスローライフを満喫する~
八神 凪
ファンタジー
僕は残念ながら十六歳という若さでこの世を去ることになった。
もともと小さいころから身体が弱かったので入院していることが多く、その延長で負担がかかった心臓病の手術に耐えられなかったから仕方ない。
両親は酷く悲しんでくれたし、愛されている自覚もあった。
後は弟にその愛情を全部注いでくれたらと、思う。
この話はここで終わり。僕の人生に幕が下りただけ……そう思っていたんだけど――
『抽選の結果あなたを別世界へ移送します♪』
――ゆるふわ系の女神と名乗る女性によりどうやら僕はラノベやアニメでよくある異世界転生をすることになるらしい。
今度の人生は簡単に死なない身体が欲しいと僕はひとつだけ叶えてくれる願いを決める。
「僕をリッチにして欲しい」
『はあい、わかりましたぁ♪』
そして僕は異世界へ降り立つのだった――
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
レンタルショップから始まる、店番勇者のセカンドライフ〜魔導具を作って貸します、持ち逃げは禁止ですので〜
呑兵衛和尚
ファンタジー
今から1000年前。
異形の魔物による侵攻を救った勇者がいた。
たった一人で世界を救い、そのまま異形の神と共に消滅したと伝えられている……。
時代は進み1000年後。
そんな勇者によって救われた世界では、また新たなる脅威が広がり始めている。
滅亡の危機にさらされた都市、国からの援軍も届かず領主は命を捨ててでも年を守る決意をしたのだが。
そんなとき、彼の目の前に、一軒の店が姿を現した。
魔導レンタルショップ『オールレント』。
この物語は、元勇者がチートスキルと勇者時代の遺産を駆使して、なんでも貸し出す商店経営の物語である。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる