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FILE.1 カラッポノニンギョウ
19.
しおりを挟む「ダムネ中尉、狙いはあまり気にしなくていい。でかい胴体にぶちかましてやれ」
「わ、わかりました……わああ!」
ドン!
カイルの説明が終わると、ダムネがトリガーを引いた。直後、重苦しい音と共に長身の重火器から弾丸が発射された。この重火器は砲身が長いため、途中に二本脚のようなものがついており、固定して発射するタイプのものだった。
「グルォォォォン!」
ドラゴンが気づいた時にはすでに遅く、さらにシュナイダーが弾丸の軌道を見せないよう立ちまわっていたため回避が間に合わなかった。
ドズ……
ドラゴンの腹に命中すると貫通はせず鈍い音が周囲に響く。
「ゲボォァァァ!?」
「ええ!?」
着弾すると同時にドラゴンが大量の血を吐き出し、ズウンと大きな音を立てて前のめりになってのたうち回る。フルーレが驚愕の声を上げると、カイルはハンドガンを持ってドラゴンへ向かう。
「あの弾はダムダム弾と言って着弾と同時にその場でひしゃげるように工夫してある。そうすることで内臓にダメージを与えられるんだ。隊長、頭が下がったから狙いを頼む」
「……承知した!」
ターン! ターン! と、オートスがスナイパーライフルをドラゴンの眉間に向かって撃ち方を始め、カイルがリュックを背負い突撃を開始する。
ドン! と、ダムネの撃つ重火器がドラゴンの脇を掠め、ブロウエルの剣が爪に当たりひびが入る。
「うぉらあああああ!」
そしてドグルのアサルトライフルが羽や腕にヒットし、このまま倒せるのではないかと一同が思ったところで状況が一変する。
「ウグゥゥゥ……グォォォォ!」
「きゃああ!?」
「ガルウウウ……!」
「なんだ!? 魔法……陣……!?」
ドラゴンが苦しみながら指先をくるりと回すと、空中にいくつもの魔法陣が出現し、そこからずるりと這い出るように――
「小さいドラゴンが出てきた!?」
「「「「キィィィ!」」」
「数が多い……! ドグル大尉はミニドラゴンの対応に当たってくれ! うおわ!?」
「くそ、本命が死にかけだってのに……!! お、ナイスだオートス!! って、あちぃ!? 野郎……!」
三十体ほど現れたミニドラゴンが一斉に飛び回り、カイルやドグルへ炎を浴びせかけてくる。オートスがミニドラゴンに噛まれながらも撃つと、弾はドラゴン本体の左目を撃ちぬく。
ドラゴンは悲鳴をあげ、ボロボロの羽を駆使して後ろへ下がるが、
「くっ……こ、これじゃ火器が撃てない……! やあ!」
「ええい!」
ドン!
「い、一発で頭が吹き飛びました……!? でもこれなら……チカちゃん、ビット君、離れないでくださいね! 弾は十一発……」
「キィィ……!?」
「くそ、ドラゴンが逃げるなってんだ!」
「私が前に出る。援護を頼むぞ」
ダムネとフルーレはチカとビットの護衛に回ったため、重火器の使用ができなくなり手数が減る。ブロウエル、シュナイダー、オートスとカイルがドラゴンのトドメを刺すため攻撃に走る。
「くそ、こんな手を使ってくるとはな! 落ちろ!」
「カイル、奴は右目が見えない。死角から回り込むぞ」
「了解!」
「ワォォォォォン!」
オートスが潰した右目の方へ移動する二人と一匹。胴体に赤黒いシミのようなものがあり、内臓をずたずたにされているであろうことを予想させる。
これなら胴体を集中攻撃して打ち破れば絶命させられる。そう思っていた矢先――
「はあああああ!」
「これで十分だろ!」
懐に飛び込むカイルとブロウエル。だが、ドラゴンはその瞬間羽を大きく広げ、跳躍した!
「まだ飛べるのかよ!? 頼むシュナイダー!」
「なんと……! 空では手が出せん!」
「ガオオオオン!」
叩き落とそうと、カイルがハンドガンを撃ちながらシュナイダーをけしかける。その様子に、ドラゴンがにやりと笑った気がした。
「ガウ!?」
「グルオオオオオ!」
メキメキメキ……!
「ギャン……!?」
「シュナイダー!」
飛び掛かったシュナイダーの胴体を手で鷲掴みにし、一気に握りつぶしたのだ。全身から血を噴出させると、ドラゴンは満足気にシュナイダーを捨てて、高くホバリングをする。踏ん張りが利かないのか徐々に高度が下がってくるがドラゴンは大きく息を吸い、そして巨大な火球を吐き出した。
「フルーレちゃん! みんな伏せろ!」
「え? あ!?」
「カイル頭を下げんか!」
カッ!
ドゴォォォォン
「うおおおおお!?」
「きゃあああああ!」
「ぐあ……!?」
狙いはフルーレ含むミニドラゴンを相手にしていた者達。火球は前に出ていたカイルとブロウエル以外の全員が巻き込めるように放ち、狙い通り爆散した。
「あいつ、俺達を引き付けるために逃げていたのか……! ミニドラゴンごとやるとはえげつないぜ……おい、シュナイダーしっかりしろ!」
「くぅーん……」
「私が空から攻撃できないことを見越しての行動か……伝説級、やはり一筋縄ではいかんのか……」
カイル達が火球でできたクレーターを見て冷や汗をかいていると、ドラゴンはフルーレを目にしながら舌なめずりをした。
「……! 食うつもりか! ……シュナイダー、どうする? このまま死ぬか?」
「ウ……ガウ……」
「……死んだ方が楽になるぞ? 魔獣のお前は処分されるかもしれない」
「ガウ……!」
「そうか。なら、あの時と同じように手を貸してくれ」
カイルは酒場の金庫から持ってきたアタッシュケースをリュックから取り出し錠を外す。開けるとそこには、深紅の色をした石、ダガーより長く、剣よりも短い一振りの刃。そして漆黒と呼んで差し支えない真っ黒な銃が一丁、入っていた。
カイルは石をシュナイダーの口へ入れ、静かに言う。
「食え、シュナイダー。そして、俺と共に戦え」
「ガウ……」
「最初からこうしていれば良かったんだな。……温存しようとした自分に腹が立つ! だから俺は甘いと言われるんだ!」
刃を左手で逆手に持ち、右手の銃の安全装置を解除し、カイルは飛び出していった。
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