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FILE.1 カラッポノニンギョウ
4.
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カイル達が飛行船へ乗り込もうとしたその時、
「『遺跡』調査部隊、ご苦労さん。ちょっとこいつも連れて行ってくれよ」
軽そうな感じをさせる笑みを見せながらくわえ煙草をふかす白衣の男が近づいてきた。
ガラガラと後ろから檻がついてきているのが気になったが、カイル達は足を止めてそちらを向く。
すると、オートスが驚愕の表情で白衣の男に声をかけた。
「そ、その白衣と階級章はまさか技術開発局長……!? いつも研究棟から出てこないと聞いていますが……」
「こりゃ珍しいもんが見れた、か?」
ドグルも引きつった顔で呟くが、フルーレとダムネは知らない様子で首を傾げていた。
「技術開発局……?」
「講義でそんな話があったような……」」
オートスの言った『技術開発局』はその名の通り、魔科学を研究する科学者たちの巣窟である。部隊ではないが、かなりの数を有しており、北の山側に研究棟を構えている。
銃火器などの武器から生活道具までさまざまなものを実験と称して試作品を色々な舞台へ与えることがある。有用なものならいいが、変なものをよこしてくる可能性が高いため、人身御供が必要とされていたりするので注意されている集団だ。
オートス達の白衣の男はくわえていた煙草を指に挟んで口を開いた。
「はは、俺達だって外の空気は吸いたくなるさ。なあカイル?」
「それでも出てくるのは珍しいじゃないか、セボック。どうしたんだ?」
「!? お前、局長と知り合いなのか……?」
白衣の男がカイルへ気軽に声をかけ、カイルもそれに応じるのを見てオートスが驚く。
「そうだ……です。少佐の言うとおり、五年も少尉をやっていると色々知り合いもできるってもんですよ?」
カイルが苦笑しながらオートスへ返答すると、技術開発局長のセボックがカイルへ先ほどの問いの答えを話し出した。
「どうしたもなにも、見ての通りだ。こいつを一緒に連れて行ってくれって最初に言ったろう?」
檻に目を向けながらそう言うと、フルーレが興味本位で檻へと歩いていく。この子は目が離せないかもしれないなとカイルが思っているとフルーレが声をあげる。
「わあ、可愛い狼さんですね! ……って、こ、この子、”魔獣”じゃないですか!?」
「ぐるる……」
檻の中には一匹の狼が寝そべっていた。首にボロ布が巻かれていて、赤い瞳をフルーレに向けて喉を鳴らす。その目はチラリとカイルへと向けられていた。
フルーレが驚いて口にした”魔獣”とは動物が狂暴化した生き物で、狂暴化する原因には理由がある。それは空気中にある魔力が一か所に集まって淀むのだが、それを”魔症”といい、魔症を取り込んだ動物が狂暴化するというわけだ。
特徴は二つあり、どういった動物であっても瞳が赤くなることと、毛の一部が黒く染まる。元々黒い毛の動物は瞳の色で判断するしかない。
また、元の動物の危険度でクラスが振り分けられていて、
低級、中級、上級、脅威級、厄災級となっている。
当然、厄災級ともなれば大隊をひとつ、またはふたつ以上丸ごと出動するほどの騒ぎに発展し、混乱に陥るのは必至だ。
話を戻すとこの檻の中にいる狼は上級であり、手ごわいクラスのためフルーレが驚いたのも無理はないと言える。
セボックはカイルにいたずらを仕掛けるような顔で檻の前へ呼ぶので訝しんだが、このままでは出発できないかと、カイルはフルーレの隣へ行く。
「こいつは……!」
「!?」
カイルが目を大きく見開いて狼を見ると、狼もカイルを見て立ち上がり目をカッと開けた。セボックは部下に指示し、檻の扉を開ける。
「あ!? お、檻を……! きゃあああ!」
フルーレが身構えるが、狼は鋭い動きで檻を脱し飛びかかってきた。だが――
「あ、あれ……?」
「お前、シュナイダーか! 元気だったか!」
「おんおん♪」
頭を押さえて蹲るフルーレの頭上を飛び越えた狼はカイルに飛びかかり、ぺろぺろと顔を舐めて甘えていたのだった。
「ええ……魔獣が懐いているんですか……?」
「おう、シュナイダーは俺が拾ったただの子狼だったんだけど、魔症に侵されて魔獣になってな。でも俺のことをちゃんと覚えていて狂暴化までには至らなかったってこったな」
「まあ、前例がないわけじゃないからな。乳牛が魔症にやられても大人しかったケースはある」
セボックが煙草をふかしてそういうと、カイルは目を細めてシュナイダーを撫でながら問う。
「……処分される予定じゃなかったか?」
「……さあ、俺はこいつをお前に引き渡すように言われただけだからな? それとこいつも持っていけ」
カイルは『引き渡すように言われただけ』という言葉に何かを言いかけたが、意味がないことかと言葉を呑む。そしてセボックが合図をし、長方形の大型の箱が目の前に現れるとカイルはもう一度驚きの声を上げた。
「これって……!?」
「まあ、使わないで済むと祈っておくよ。それじゃ、頼まれたことは済んだし撤収だ」
セボックが煙草を靴で踏んで消すと、部下たちに撤収の合図をし踵を返す。カイルは慌ててその背に声をかけた。
「お、おい、待て、セボック!」
「気にすんな。書類上は問題ない。安心して使えー」
振り向かずにひらひらと手を上げ、胸ポケットから煙草を取り出してその場を後にした。オートス以下、ポカーンとした調査隊のメンバー。
それを見てブロウエル大佐がため息を吐いてオートスへと言う。
「オートス隊長、アレはああいうこちらの軍規とは外れた存在だ。いちいち気にしても仕方がない。飼い犬が一匹増えたくらいで狼狽えては士気に関わるぞ? 締めてくれ」
「は、はあ……。しかし、あの箱は一体……」
ツッコミたい気持ちは多分にあるが、大佐の前で失態を見せるわけには行かないとそれを押し殺して高らかに声をあげる。この『遺跡』調査を無事終えれば、中佐、はたまた大佐への昇級は確実だからだ。
「コホン! では諸君、出発だ! 我等『遺跡調査混成部隊』これより任務地へと赴く!」
「「「「は!」」」」
「わんわん!」
全員がびしっと決めた後、シュナイダーが尻尾を振って後に続き、ガクっと崩れる。
「ったく……もういい、乗り込むぞ」
「へいへい」
「は、はい!」
「うふふ、おりこうさんですね? 撫でていいですか?」
「おん♪」
「相変わらず女の子好きなのかお前?」
「……ふん、カイルが言えたことではないな」
「きっついすね大佐……」
そして飛行船は浮き上がり、グリーンペパー領に向けて静かに移動を開始した――
「『遺跡』調査部隊、ご苦労さん。ちょっとこいつも連れて行ってくれよ」
軽そうな感じをさせる笑みを見せながらくわえ煙草をふかす白衣の男が近づいてきた。
ガラガラと後ろから檻がついてきているのが気になったが、カイル達は足を止めてそちらを向く。
すると、オートスが驚愕の表情で白衣の男に声をかけた。
「そ、その白衣と階級章はまさか技術開発局長……!? いつも研究棟から出てこないと聞いていますが……」
「こりゃ珍しいもんが見れた、か?」
ドグルも引きつった顔で呟くが、フルーレとダムネは知らない様子で首を傾げていた。
「技術開発局……?」
「講義でそんな話があったような……」」
オートスの言った『技術開発局』はその名の通り、魔科学を研究する科学者たちの巣窟である。部隊ではないが、かなりの数を有しており、北の山側に研究棟を構えている。
銃火器などの武器から生活道具までさまざまなものを実験と称して試作品を色々な舞台へ与えることがある。有用なものならいいが、変なものをよこしてくる可能性が高いため、人身御供が必要とされていたりするので注意されている集団だ。
オートス達の白衣の男はくわえていた煙草を指に挟んで口を開いた。
「はは、俺達だって外の空気は吸いたくなるさ。なあカイル?」
「それでも出てくるのは珍しいじゃないか、セボック。どうしたんだ?」
「!? お前、局長と知り合いなのか……?」
白衣の男がカイルへ気軽に声をかけ、カイルもそれに応じるのを見てオートスが驚く。
「そうだ……です。少佐の言うとおり、五年も少尉をやっていると色々知り合いもできるってもんですよ?」
カイルが苦笑しながらオートスへ返答すると、技術開発局長のセボックがカイルへ先ほどの問いの答えを話し出した。
「どうしたもなにも、見ての通りだ。こいつを一緒に連れて行ってくれって最初に言ったろう?」
檻に目を向けながらそう言うと、フルーレが興味本位で檻へと歩いていく。この子は目が離せないかもしれないなとカイルが思っているとフルーレが声をあげる。
「わあ、可愛い狼さんですね! ……って、こ、この子、”魔獣”じゃないですか!?」
「ぐるる……」
檻の中には一匹の狼が寝そべっていた。首にボロ布が巻かれていて、赤い瞳をフルーレに向けて喉を鳴らす。その目はチラリとカイルへと向けられていた。
フルーレが驚いて口にした”魔獣”とは動物が狂暴化した生き物で、狂暴化する原因には理由がある。それは空気中にある魔力が一か所に集まって淀むのだが、それを”魔症”といい、魔症を取り込んだ動物が狂暴化するというわけだ。
特徴は二つあり、どういった動物であっても瞳が赤くなることと、毛の一部が黒く染まる。元々黒い毛の動物は瞳の色で判断するしかない。
また、元の動物の危険度でクラスが振り分けられていて、
低級、中級、上級、脅威級、厄災級となっている。
当然、厄災級ともなれば大隊をひとつ、またはふたつ以上丸ごと出動するほどの騒ぎに発展し、混乱に陥るのは必至だ。
話を戻すとこの檻の中にいる狼は上級であり、手ごわいクラスのためフルーレが驚いたのも無理はないと言える。
セボックはカイルにいたずらを仕掛けるような顔で檻の前へ呼ぶので訝しんだが、このままでは出発できないかと、カイルはフルーレの隣へ行く。
「こいつは……!」
「!?」
カイルが目を大きく見開いて狼を見ると、狼もカイルを見て立ち上がり目をカッと開けた。セボックは部下に指示し、檻の扉を開ける。
「あ!? お、檻を……! きゃあああ!」
フルーレが身構えるが、狼は鋭い動きで檻を脱し飛びかかってきた。だが――
「あ、あれ……?」
「お前、シュナイダーか! 元気だったか!」
「おんおん♪」
頭を押さえて蹲るフルーレの頭上を飛び越えた狼はカイルに飛びかかり、ぺろぺろと顔を舐めて甘えていたのだった。
「ええ……魔獣が懐いているんですか……?」
「おう、シュナイダーは俺が拾ったただの子狼だったんだけど、魔症に侵されて魔獣になってな。でも俺のことをちゃんと覚えていて狂暴化までには至らなかったってこったな」
「まあ、前例がないわけじゃないからな。乳牛が魔症にやられても大人しかったケースはある」
セボックが煙草をふかしてそういうと、カイルは目を細めてシュナイダーを撫でながら問う。
「……処分される予定じゃなかったか?」
「……さあ、俺はこいつをお前に引き渡すように言われただけだからな? それとこいつも持っていけ」
カイルは『引き渡すように言われただけ』という言葉に何かを言いかけたが、意味がないことかと言葉を呑む。そしてセボックが合図をし、長方形の大型の箱が目の前に現れるとカイルはもう一度驚きの声を上げた。
「これって……!?」
「まあ、使わないで済むと祈っておくよ。それじゃ、頼まれたことは済んだし撤収だ」
セボックが煙草を靴で踏んで消すと、部下たちに撤収の合図をし踵を返す。カイルは慌ててその背に声をかけた。
「お、おい、待て、セボック!」
「気にすんな。書類上は問題ない。安心して使えー」
振り向かずにひらひらと手を上げ、胸ポケットから煙草を取り出してその場を後にした。オートス以下、ポカーンとした調査隊のメンバー。
それを見てブロウエル大佐がため息を吐いてオートスへと言う。
「オートス隊長、アレはああいうこちらの軍規とは外れた存在だ。いちいち気にしても仕方がない。飼い犬が一匹増えたくらいで狼狽えては士気に関わるぞ? 締めてくれ」
「は、はあ……。しかし、あの箱は一体……」
ツッコミたい気持ちは多分にあるが、大佐の前で失態を見せるわけには行かないとそれを押し殺して高らかに声をあげる。この『遺跡』調査を無事終えれば、中佐、はたまた大佐への昇級は確実だからだ。
「コホン! では諸君、出発だ! 我等『遺跡調査混成部隊』これより任務地へと赴く!」
「「「「は!」」」」
「わんわん!」
全員がびしっと決めた後、シュナイダーが尻尾を振って後に続き、ガクっと崩れる。
「ったく……もういい、乗り込むぞ」
「へいへい」
「は、はい!」
「うふふ、おりこうさんですね? 撫でていいですか?」
「おん♪」
「相変わらず女の子好きなのかお前?」
「……ふん、カイルが言えたことではないな」
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