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最終章:罪と罰の果て

その186 その後

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 「レオス! レオスどこ行ったの!」

 「あ、ルビア様。レオス様なら、城下町へ出られてますよ?」

 「また!? もしかしてエリィも?」

 「うふふ、そうですね。メディナ様も一緒ですよ」

 「あたしも呼んでくれればいいのに……!」

 「ダメですよ、お腹の子供に触りますから。ベルゼラ様も悔しそうに執務に励んでおられますから、お手伝いをされては?」

 「くう……! 帰ったら覚えてなさいよレオス!」



 ◆ ◇ ◆



 「へっくし!?」

 妙な悪寒を感じ、僕はくしゃみをする。

 「風邪? 暖める?」

 「すぐくっつこうとしない! メディナ、あなた魔法兵団はどうしたの?」

 「任せてきた。もう彼らは私の手から離れた。それより、私も子供が欲しい」

 「うーん、それは夜、レオスが元気だったらかなあ。ね?」

 そう言って荷台に設置してあるベビーベッドに寝かせている子供の頬を撫でるエリィを見て、僕は串焼きの準備をしながらほほ笑む。


 ――あの騒動からもう三年が経っていた。

 あの宣言の後、ベルはアスル公国の王女となり国の債権を始めた。元々素質はあったのだろう、一年目を終えるころには他国と連携して各領地が貧しいということは無くなった。国王に与さず、エスカラーチに殺されなかった貴族はナイア姫の娘だということにむせび泣き、協力をしてくれたのは大きかった。

 「えー……。あ、いらっしゃいませ!」

 本日一人目のお客さんだ。荷台はそのままで、馬達も放していたのに逃げずに僕達を待ってくれていたのでそのまま引いてもらっていたりする。

 そうそう、アレン達は戦いの後、ノワール城……エイゲート王国へと戻っていった。

 国王様からの手紙によると、アマルティアの騒動の一件と、ベルを王女にした功績でレオバールは逃亡した罪を相殺してもらい、自国への強制送還と剣聖の剥奪だけで済んだらしい。
 一緒に帰ったフェイさんとペリッティという女性の証言で、なんとか難を逃れた形かな。

 だけどレオバールは自国へ戻った後、どこかへ去って行ったらしい。罪により、国境は越えられないからどこかでひっそりと暮らしているのではないかと思っている。
 別れ際、寂しそうにエリィに微笑みながら別れを告げていたので、もう僕達の前に現れないであろうと思う。

 「きゃっきゃ!」

 「可愛い」

 「この子、メディナ大好きなのよね。なんでかしら?」

 「私がお母さんよ」

 「止めてよそういうのは……」

 後ろからそんな声が聞こえてくる。エリィよりも抱っこしている時間が長いからじゃないかな。メディナも神に近いレベルの存在だけど、いつもどおりぼーっとしている団長というイメージしかないけど、

 話がそれたけど、アレンは国王様に報告した後に故郷の村へと帰った。妹の治療費は国が負担してくれ、今はふたりで仲良く暮らしているのだそう。ルビアに声をかけようとしていたけど、結局なにも言わず去って行った。

 ちなみに光の剣は気づいたらアレンの手から消えた。ソレイユの仕業か、それとも創ったティモリアが仕掛けた『世界に危機が訪れたら勇者を選ぶ』事象のせいで一時消えたのかそれはわからない。
 アレンには迷惑をかけられたけど、全てが終わった今、幸せになって欲しい。

 「はい、串焼き一本ね」

 「ありがとー王様ー!」

 「はは……」

 そして僕はというと、結局当初の予定通りというかなんというか……ベルゼラと結婚しました……。で、見てもらっているから分かると思うけど、エリィとも結婚し昨年子供ができた。僕も今年で19歳だしね。
 結局、前世での因果からベルを残してエリィとだけ結婚するわけにはいかないと選んだ道だ。そうなると必然的に僕が国王、というわけである。

 「まさかベルよりもルビアに先に子供ができるとは思わなかったわね。まあ、ベルの次がメディナかしら?」

 「子供はたくさんいた方がいい。国王はそういうもの」

 「またメディナの王族理論だね。僕でいいなら構わないんだけどさ」

 まあ、そういうことでルビアとメディナも僕の嫁だ。
 ルビアはてっきり国へ帰るのかと思ったら、エクスィレオスとして顕現した姿に惚れていたらしい。身長はこの三年で伸びたけど、あそこまでにはなっていない。曰く、その内かっこよくなるからいいのだそうだ。現実的だったルビアがそんなことを言いだすなんて、世の中分からないものである。

 エリィとメディナがじゃれ合っているののみてそんなことを考えていると、本日二人目のお客さんの陰が見え声をあげる。

 「いらっしゃいませ!」

 「一本もらっていいかい?」

 「あ、クロウとアニス! こっちに来ていたんだ? どうだい修行は?」

 「今度、ラーヴァ国で久しぶりに開催される武闘大会に出る予定だよ。ルビアさんから継承した『拳聖』の称号に恥じない戦いをしないといけないから!」

 「へえ、気合が入っているなあ。頑張ってね! 父さんと母さんに会うのに、見に行ってもいいかも」

 すると、隣で意地悪そうな顔をしたアニスが口を開く。

 「レオスさん、そんなこと言っていいんですか? ルビアさんも赤ちゃんできたし、もう稽古つけてもらえないからってレオスさんに頼むつもりですよ」

 「え!?」

 「神をも倒したレオス相手には敵わないけど、練習にはなる……!」

 本気の目だった。

 「い、いや、僕はもう戦うつもりないからさ」

 「そんなことを言って、宝物庫にあの時の武器を残しているのは知っているよ? ねえメディナさん」

 「……」

 「……」

 僕が睨むと、即座に顔をそっぽに向けて目を露骨に逸らした。後で問い詰めねばならないかな。

 「それじゃ、後で頼むよ! ルビアさんに挨拶してくるから!」

 「またねー!」

 串焼きを手渡すとふたりは城へ向かって歩き出す。

 ふと改めて広場から町を見渡すと、賑やかな商店街や住宅地が目に入る。この広場で屋台を出すのは僕の日課で、この城下町が復興するまで屋台を出して食べ物屋をやっていた名残である。なので、僕を国王と知りつつも買いに来てくれる人は多い。

 「やれやれ、戦闘狂になっちゃったなあクロウ」

 「あれは優秀。拳聖にならなければウチに勧誘したかった」

 「努力家だよね。二年くらいでルビアと同じレベルになるとは思わなかったもの。あ、そろそろミルクの時間だわ」

 エリィがいそいそと子供にミルクを作っているのを見て僕は幸せを感じる。前世であんなことになったのに、まさか今世で子供まで授かることができるようになるなんてね。
 
 「……あいつもちゃんと生まれ変われるといいな」



 ◆ ◇ ◆



 『はい、というわけでティモリアさんは牢獄。アマルティアさんは罪を償うか、魂の消滅を裁定します』

 『は? え!? あ、ちょっと! 私の出番これだけですかぁぁぁぁ!?』

 屈強な男達に連れられ、部屋から出て行く。残されたのは、ソレイユとアマルティアの魂だけである。不意に、アマルティアが口を開く。

 「俺はどうなる?」

 『今言った通り、罪を償うか消滅か、ですね。ちなみにあなたはどちらをご所望ですか?』

 「……」

 ソレイユの問いに、アマルティアは少しだけ考えてから答えた。

 「エクスィレオスは罪を償うため、七万回転生したんだって? 俺もそれをすることはできるかい?」

 『もちろんです。でも、レオスさんほど酷い結果にはなりませんでしたからそこまでする必要もありませんけど……』

 「いや、いいんだ。力から解放されて、頭がスッキリした。俺は人間を助けたかったのに、おもちゃにすることになるなんてな。迷惑をかけた。だから同じ罰を受けようと思う」

 『ふふ、わかりました。おねえちゃーん!』

 『ほいきた!』

 「お、おお……なんだい?」

 『初めまして、ソレイユの姉、ルアです。あなたの転生コースの責任者兼、最高神に近い存在ですよ! それでは早速行きましょうか。まずはミジンコに転生し、そこからだんだんと大きな動物になっていきます。今の記憶と知識は残ります』

 それを聞いてアマルティアは青ざめる、意識を持ったままミジンコだと、と。

 「……!? そんなの地獄じゃないか……!?」

 『まあ、そうですね。世界の半分近くの人間を滅ぼしたエクスィレオスの罪はそれほど重かったんですよ。むしろ、人の身で神に近づくこと自体奇跡なんですけどね? あなたの相手はそんな人だったんですよ』

 「それじゃあもしかして――」

 『もし私達が手助けをしなくても、あなたは恐らくいつか消されていたでしょう。特に彼女達に危害を加えた後なら、なおさら。悪神と言われていた理由、お判りいただけましたか?』

 「ならどうして手助けを……」

 『……また、おなじことを繰り返したくなかったからですかね。あの時は手遅れだった。でも今度は、ってね』

 「……」

 その言葉にアマルティアは黙り、しばらくの沈黙の後に言った。

 「それじゃ、連れて行ってくれ。俺も同じ罰を受けよう」

 『はーい! それじゃミジンコから転生します! レオスさんってどれくらい生きたっけ?』

 『ミジンコは生後3秒でお魚さんに食べられたよ、お姉ちゃん。むごたらしく死んだのは子牛に転生した時にライオンさんい食べられた時だったなあ……』

 「え……」

 『それでは行ってらっしゃい!』

 「いや、待っ――」

 すべてを言い終わる前に、アマルティアの魂はミジンコへと変わった。

 『……終わったわね』

 『うん。あの世界の管理、わたしで良かったのかな?』

 『いいんじゃない? 関りがあるし、ね』

 ルアはそう言って立ち去る。ソレイユはティモリアの後釜として、世界の女神として見守ることになったのだ。

 『ま、いいか♪ もう、変なことは起きないでしょうし、もし何かが起きたとしても――』

 心優しい悪神がいるのだからと、胸中で呟くのだった。
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