172 / 196
第八章:動乱の故郷
その163 レオスの不安
しおりを挟む<闇曜の日>
――ガクさんの町を出発し、僕達は急ぎアスル公国を目指していた。だけどアマルティアが何かしたのか、魔物と遭遇する確率がグンと上がっていた。
「……はっ!」
「ナイスですカゲトさん!」
馬達めがけて襲い来るキラービーの群れに対し、羽を落として確実に仕留めるカゲトさん。そして落ちてきたキラービーを、
「潰れろぉ!」
ギギィ!?
キラービーは針が怖いけど、顎も強い。だけどガクさんは攻撃できない背中を蹴り飛ばし、胴体をグッシャグシャにしていた。僕もセブン・デイズで胴体から切り離し、絶命させる。
「針だけでも回収しとこうぜ、売れば金になるしな!」
「ですね。ガクさんに返さないとだし」
「む、急げ、魔物気配だ」
「マジか……この辺はそんなに多い方じゃないんだけどな……」
ガクさんがぼやきながら荷台に乗り込み、カゲトさんも後に続き乗り込んだ。すぐに馬達を走らせると、蛇の魔物がキラービーの死体に群がろうとしていのがチラリと見えた。あのまま回収に手間取っていたら巻き込まれていたかもしれない。
この前も思ったけどやはり魔物が多い……。アマルティアが干渉しているのだろうか? そんな調子で順調とは言えない旅になっていた。
<火曜の日>
「ぶるる」
「ひひん」
「ほら、ゆっくり食べるんだよ」
さらに進むこと二日。ガクさんの領地からはすでに出ており、夜通しとはいかないまでもかなりの距離を走った。ただ、馬達には無理をさせているのでいつものような元気な返事は聞けない。
「ピュー」
テッラが馬の背中でもぐもぐとニンジンを齧るのを尻目に、僕もガクさん達と夕食を取る。今日はトマトのスープと食パンにチーズをのせた簡素なもの。そこでガクさんが溶けたチーズを伸ばしながら口を開く。
「国境前に町があるから、そこで半日休息だな」
「え!? 折角急いでここまで来たのに、それだと意味が……」
「……レオス、焦っていてはことを仕損じる。馬を休めるのが目的だろう?」
カゲトさんが、ズズ……とスープを飲みながら片目を開けてガクさんに尋ねると、腕組みをして鼻を鳴らす。どうやらビンゴのようだ。
「その通りだ。が、レオス、お前も相当疲労が溜まっているからちゃんと休ませる必要があると思ったんだよ。鏡がねぇからわからんだろうが、酷い顔だぜ? クマもある。……お前、寝てないだろ?」
ギクリ、と図星をつかれて僕は食事の手が止まる。そう、ガクさんの言う通り僕は眠れていなかった。ガクさんの屋敷でもそうだったけど、寝入るとかならずエリィ達が酷い目にあう夢を見てしまうからだ。数時間すると酷い寝汗と共に目が覚めてしまう。
だから、寝ていたとしてもちゃんと眠れていないからこんな状態なのかもしれない……ガクさん達には話していなかったけどバレていたらしい。
「戦闘の動きも少し鈍いから、半日は休め。眠れなくてもいい、野営だといつ魔物に襲われるかわからない緊張からも眠りにくいからな……っと、お出ましか。飯くらいゆっくり食わせて欲しいもんだ」
そう言ってガクさんは立ち上がり、ガントレットを装備して魔物達を迎え撃ち、僕とカゲトさんも応戦に入る。
そしてようやく到着した町で、僕は久しぶりに眠りについた――
◆ ◇ ◆
『さて、後は君達に任せていいかな?』
「はっ、侵入者が来たら必ずやお知らせいたします」
『ははは。頼もしいね。ああ、レオバール君、エリィを手籠めにするのはもう少し待っておくれ。大魔王の娘の処刑というショーが終わってから絶望を突きつけた後の方が面白いだろ? まだ彼女たちはレオスが生きていて助けに来ると信じている。しばらく待ってやっぱり来ない……で、ベルゼラの首を落とす。それだけで生きることを諦めるんじゃないかな? ああ、ウェパルの能力でじわじわと殺すのもいいね。はは……ははは!』
そう言ってアマルティアは自室へと戻って行き、謁見の間に残されたのはレオバールと、レオバールを攫った悪魔、ウェパルだった。
悪魔でありながら、アマルティアに協力するようなそぶりでうやうやしく頭を下げていた。やがて気配が完全に消えたことを悟ると、レオバールがボソリと呟く。
「……そんな生きた屍を手に入れても仕方がないんだがな……」
「貰えるものはもらっておくのだ。お前を攫った意味が無くなるだろう」
「あの時、マスターシーフから俺を逃してくれたことは感謝するが、あいつは何だ? エリィやルビアをさらってくるなんてタダ者じゃない」
同じ聖職として、そして大魔王討伐の旅をしていたので実力は知っている。それがあんな優男にみすみす攫われるとは思えないと考える。
「アマルティアは――」
ウェパルは自身がこの世界のものではないことを話し、アマルティアの中に自分の仲間が取り込まれていることを口にする。
「異世界……。大魔王とは……」
「うむ。私もヤツに取り込まれそうになったのだが協力するという形で難を逃れているのだ。バアル様達をどうにかして外に出せないか、とな」
そこでレオバールは眉を潜めてウェパルに尋ねる。
「どうしてお前は取り込まれなかったんだ?」
「ふむ。私の能力は”傷の悪化”なのだ。負傷や腫物を化膿させ、傷口に蛆を瞬時に沸かせたりできる」
「えぐいな……」
レオバールが少し後ずさるが、ウェパルは気にせずに続ける。
「だから私は言ったのだ。『アマルティア様の力は強大です。力を吸収するより、私を傍に置いて手分けをした方が楽しめるでしょう』とな。それを快諾してくれたため今こうしていられるのだ。しかし、そのあたりは見抜かれていると考えていいだろう。そして、他の悪魔達がここへ来るのを待っている」
「どうしてだ?」
「我等悪魔の力を手に入れるためだろう。なにせヤツは人間を使っての愉悦しか娯楽がない。で、その人間を弄ぶだけ能力を持つ悪魔は数多いからな」
「俺を助けたのは?」
一番疑問だったことを口にするレオバールに、ウェパルは頷いて答えた。
「お前の執着心だ。負の心というのはなかなか育つものではない。それは理性がストップをかけるからだな。だが、お前はかつての仲間だった者を殺してでも奪い取るというとんでもない行動に出た。今までこの世界を色々見てきたが、お前のようなやつは誰一人いなかった。そしてアマルティアは悪意というものがない。ヤツは自分が行った行動は全て正しいと思っている。神を消し去ったのも世界の為だと言っていたからな……」
「褒めているの、か?」
「そんな訳がないだろう。正直お前の執着心は異常だ。女に振られたくらいで人を殺して奪おうなど考えないぞ? だが、その悪意はアマルティアに通用するかもしれないと思った。あの男にはこの世界の人間の武器や魔法は通用しない。だが、この世界で『唯一』である悪意をぶつければあるいは、という訳だ」
するとレオバールは舌打ちをして踵を返す。
「……つまらん理由だが、今の俺はエリィを手に入れられる立場にある。レオスは死んだらしいし、そんな感情はどこにもない……誤算だったな」
レオバールも自室へ戻り、ウェパルだけが残された。レオバールの言うことは最もで、もしかするとウェパルの思惑を感づいてさらってきたという可能性もある。
だが――
「甘いぞ剣聖よ? アマルティアを使ってエリィを殺すよう仕向けることもできるし、アマルティア自身、エリィ達を生かすとも思えない。お前は使われる。必ず」
0
お気に入りに追加
1,594
あなたにおすすめの小説
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる