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第八章:動乱の故郷

その157 全力と狡猾

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 「レオス……エクスィレオス? 大丈夫なの!」

 【ああ、君達の知っている『レオス』も無事だよ。僕という存在は――】

 「レオス、前!」

 説明する間もなく、ルビアの叫び声を聞き目を向ける。するとそこには壁際まで転がっていたはずのアマルティアが目前に迫っていた。

 『ははは! 折角だし遊んで行ってよ! ”クラッシュ”!』

 【悪いけどそんな暇は無い! <インフェルノブラスト>!】
 
 『馬鹿の一つ覚えみたいな魔法が効くと思っているのかな! ……う!?』

 ゴォォォォォ!

 一段と火力の高い炎がアマルティアを包み込み、肌の焼けこげる匂いがする。そこへすかさずモラクスの拳がアマルティアの顔面に突き刺さった。

 『邪魔だ!』

 「うおぉ!?」

 【はあああ!】

 『ぐお!? こいつ!』

 【ぐ……!? 負けるか! <クリムゾン・アッシュ>!】

 『”ヴォイド”』

 「射線をあけてくれ!」

 「お嬢様と
 僕の魔法に多少なりとも脅威を感じたのか、魔法を回避や防御をするようになってきたな? それと分かったことは、多少のダメージはあるようだけど悪魔達の攻撃は決定打になりにくいようだ。
 そしてセブン・デイズに一瞬目を向けるが、この世界の武器だからダメージが通らなかったのだと考えれば拾う意味は少ない。これなら直接殴った方がいいか、それとも防御に使うか?

 瞬時にそんなことを考えていると、最初に放ってきた力を行使してきた。

 『私は悪神と遊んでいるんだ! 雑魚は黙ってるんだね! ”ドロップアウト”』

 「ぐぬう……!?」

 【<フルシールド>】

 地面に叩きつけられるモラクスとバルバトス。僕は咄嗟に防御魔法で耐えることができた。満足げに笑うアマルティアが僕を見てニヤリと笑う。だけど体はそれなりに傷ついている。これなら何とか倒せるかもしれない……!

 『どうしたんだい? 私に恐れを為したかな? 結構傷ついちゃったし、これは危ないかな?』

 フェイクか本気か……確かめるには攻め立てるしかない。

 【一気に行かせてもらうよ! たああああ!】

 ガガガガ!

 『これくらい……!!』

 僕は素手で人体の急所を狙って打ち続ける。元が人間なら神といえど効くはずだ。ついでに言うと、元勇者だけに素手での攻撃は得意ではないらしい。

 「バルバトスさん、足を縫い付けてください!」

 バス子ちゃんがそう言うと、ドロップアウトから抜け出た弓兵バルバトスは瞬時にそのオーダーを実行する。

 『足が……!』

 【モラクスって言ったっけ? 昏倒させるくらいの勢いで後頭部を! 僕は胴体を中心に攻撃をする!】

 「わ、わかった!」

 「やれやれー!」

 ついでに起き上がったモラクスと攻撃をお願いし、乱打戦にもつれこむ。

 ゴッ! ボゴッ!

 『調子にのってるね!』

 【くっ!?】

 『足を縫い付けても君達が攻撃してくるから逆に動かなくてもいいくらいだよ! はははは!』

 こんな状態でもきっちり反撃をしてくるアマルティア。

 【ああああああ!】

 『しつこいね、まったく』

 だが、ついにいら立ったのか、恐るべき手段に出てきた。

 『チッ、《エクスプロージョン》』

 右手で殴りかかりながら近距離で上級魔法を使ってきたのだ!

 【自分にも当たる距離で使う!? だったら<アクアカッター>を!】

 『なに!?』

 避けるかフルシールドでガードするのを見越していたのか、初めて驚愕の表情を見せるアマルティア。それも無理はない。神であればこの後どうなるかが予測できているはず!

 キュボ……!

 【<フルシールド>&<ウインド>……!】

 『水蒸気ばくは……うがあああああああああ!?』

 ズゴォォォ……!

 モラクスたちをウインドで吹き飛ばし、僕はその場でフルシールドを展開して踏ん張る。余波が後ろに行かないとも限らないと思ったからだ。
 案の定、水蒸気爆発を起こし、防御をしなかったアマルティアは直撃を受けた。水蒸気が水滴に代わり、雨のように降り出したところで煙も晴れると、

 「ア、アマルティアが……! レオスさん、やりましたよ……!」

 バス子ちゃんが飛び上がって叫ぶ。

 【ふう……これで何とか君達悪魔も帰還できるかな? 完全に自由を奪っておいた方が良さそうだし、取り込まれた悪魔達も気になるよ】

 「レオス、気を付けて!」

 「あれで死んでないってのがヤバイわね……き、気を付けてね!」

 エリィとルビアが声をかけてくれ、一瞬振り返って手を上げてからアマルティアの下へ。白目を剥いているけど呼吸はしているようだ。

 【さて、どうやって拘束するか……】

 生半可な魔法では逃げられてしまう可能性が大きいので、僕は前世で使えるものがないか考える。そういえば影に潜り込む魔法があったっけ。あれで首だけ出すみたいなことをすればいけるかな?

 そう思っていた次の瞬間――

 ガシッ!

 『ははは! 油断したな?』

 【もう意識を!?】
 
 『違うね。気絶したフリってやつさ! ただ、君の強さは予想外だった。それは認めよう。だからこそ、全力に近い形で戦い、やられたふりをする必要があった! そして一度掴まえてしまえばっ!』

 キュゥゥゥゥ……

 【な……! これは……】

 『バアルと同じく、君の力をもらうよ。異世界の神に近いふたりの力を得れば、私は完全な存在になる』

 まず……い……! 傷だらけになったのも演技だったのか!? じわじわと僕の魔法が消えていく感覚に襲われる。魔力と同時に吸い取っているのか!?

 【あ、ぐ……で、出ろ! デバステーター、フェロシティ、ブルート、メナス……!】

 バシュ!

 【主……!?】

 四体の四肢が全て解放され、デバステーターが驚愕の声を上げる。駆けつけようとした時には、時すでに遅く、僕は『レオス』に戻っていた。

 「あ、ああ……ぼ、僕が……消えて……」

 『さて、能力はいただいた。これでこのガキに用は無い』

 【させませんよ!】

 セブン・デイズを手に取り、床にへたりこむ僕に斬りかかろうとしたので、フェロシティが止めに入ろうとするが、

 『もはや四肢ごときで私は止められないよ? <インフェルノブラスト>』

 【うお……!?】

 アマルティアの放ったインフェルノブラストがカウンターでフェロシティを襲った!

 【”水鏡”】

 ビジュウゥゥ……

 【ブルート、助かりましたよ】

 水を司る四肢、ブルートの防御で何とか防いでくれたようだ。

 【構わない。だが、俺達では……】

 『ま、そういうことだね。とりあえず、レオスの力は取り込んだからここで死んでもらおうか。エリィは剣聖あたりにくれてやればいいし、拳聖は飢えた男どもの嬲りものにするのが面白そうだ。大魔王の娘は……そうだね、アスル公国を滅ぼした大魔王の娘ってことで公開処刑でもしようか! ははは! 私を手こずらせたんだ、それくらいのショーは見せてもらわないとね!』

 「お前……!!」

 今度はエリィ達を見世物にするつもりだとアマルティアは下卑た笑いをしながら大声で笑う。僕は立ち上がってアマルティアへ殴りかかるがあっさりと避けられ――

 「いやああああ!」

 「ごふ……」

 セブン・デイズで斬られ……無かった……? 今の声は……!?

 「メディナ!?」

 刺されたのは僕を庇って前に出たメディナだった。

 「諦めたらダメ」

 『冥王だったっけ? 君もよくそんな体に変えた大魔王の娘と一緒にいるよ……ね!』

 バシュ!

 腹に刺したセブン・デイズを切り上げ、メディナの身体が切り裂かれ、ぐらりと僕の方へ倒れた。それを支えて回復魔法を使うも、発動しない。

 「四肢達! こいつの足止めを!」 

 【任せて――】

 『”ロスト・ジャッジ”』

 「!?」

 デバステーター達が仕掛ける前に、僕の最大技で全員吹き飛ばされてしまった。万事休すか……!

 ずるずるとメディナを引きずっていると、ルビアとバス子がこっちへ来るのが見えた。

 「だ、ダメだ! みんな、逃げてくれ!」

 『残念だね、レオス君。ゲームオーバーだ♪』

 ドシュ……
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