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第八章:動乱の故郷
その155 隙と隙の間
しおりを挟む「じ、自分から……!?」
『ははは! 驚いたかい! そら』
「ぐ!?」
アマルティアは左手でセブン・デイズを掴み、右手で僕の首を握り持ち上げてきた。必死に腕を動かすけどびくともしない。
それよりも……!
『心臓を突かれてどうして死なないのか? そういう顔をしているね』
「そ、そうだね……お、教えてくれると助かるけ、ど?」
「レオス!」
「レオスさん!」
そこへルビアとベルゼラもこちらに来てアマルティアを取り囲み僕を呼ぶ。呻きながら端の方をチラリと見ると、エリィとアニスはまだ回復を騎士達にかけているようだ。
『賢聖はいないか。ま、いい。先ほども言ったように私は神だ。この世界を創った創造主、これはわかるね?』
「だからなんだってのよ……! レオスを離しなさい!」
「《フレイ――》」
『おっと、動くとエクスィレオスの首を今すぐ折るよ?』
そう言われてルビアとベルゼラ、そしてメディナの動きが止まる。そのことに満足したのか、アマルティアはさらに続ける。
『で、創造主ということはこの世界のことは私が創ったということ。まあ、力を乗っ取った神だけどね? ということはどういうことだと思う?』
「……どういうことなんです?」
睨みつけるバス子に目を向けて口の端を歪めてから、
『つまり……この世界の武器や魔法で私に傷をつけることはできないってことさ! ははは! さあ、いくらでも攻撃してくるといいよ! じゃないと愛しのレオス君が死んでしまうよ?』
メキッ……
「ぐあ!?」
僕が感じた恐怖の正体はこれだったのか……! そうなるとルビアやメディナではこいつに勝つことはできない。
可能性があるとすれば、前世の世界の魔法とベルゼラのカオティックダークムーンくらいなものだろう。骨の軋む音を聞きながらアマルティアの右手を外そうともがいていると、ルビアが飛び出した!
「レオス!? ”鋼牙”!」
「あっちむいて……《フレイム》!」
「メディナさん、わたし達も行きますよ!」
「当然」
「や、やめるんだ、みんな! こいつは……」
『ははは! ”ドロップアウト”!』
ズン……!
「え!?」
「きゃあ!?」
アマルティアが左手を掲げ、下へと振り下ろした瞬間、重苦しい音が響きルビア達は床に叩きつけられていた。四人は身動きが取れず、まるで重力に押しつぶされているような状態だ。
『はは、神に逆らうとこうなるんだよ?』
「こ、いつ……!」
僕はセブン・デイズから手を離し、体を曲げてから両足でアマルティアの顔面を蹴り飛ばした。その反動で右手を離し、僕は後方へ着地する。
「げほ……! ごほ!」
『おっと、手放してしまった。いけないいけない……』
「ベルゼラ!」
「レ、レオスさん……!」
僕はベルゼラを抱きおこし、耳元で囁く。
「この世界じゃない僕達の技と魔法しか、恐らくこいつには通用しない……。エスカラーチから受け継いだ技、使えるかい?」
「う、うん。多分……大丈夫!」
「僕も”ロスト・ジャッジ”で仕掛ける、せーのでいくよ」
「わかったわ!」
『はは、何か策があったかい? ”ドロップ――”』
アマルティアが左手を上げた! いまだ!
「ベルゼラ! せーの!」
「”カオティック・ダークムーン”!」
「”ロストジャッジ”!」
『!?』
ダークムーンの黒い半月状の塊と、僕の魔法波動が同時に襲い、左手を上げたアマルティアはその奔流に飲み込まれていく。
「おまけで《インフェルノブラスト》!」
『こいつら……!?』
最初に弾いたのは何か防御魔法でも使ったのだろう、今度はインフェルノブラストも効果を発揮したようだ。
爆風が謁見の間の扉をぶち破り、部屋が大きく揺れ、壁が崩れ、ヒビが入っていく。覚えたてといえどカオティック・ダークムーンも相当な威力を誇っている。
「ハッ! 動くわ! やったの?」
「レオスとベル、凄い」
「いえ、待ってください!」
バス子が槍を構えたまま叫ぶ。が、一足遅く――
ズシュ……
「あ……!?」
僕のお腹にセブン・デイズが突き刺さっていた。その時、咄嗟に僕は魔法を放つ。
「《ウ、ウインド》……ごほ……」
「レオスさん!」
ベルゼラの声を受けながら、ブワッと強烈な風がベルゼラやルビアを玉座近くまで吹き飛ばしていく。そして目の前には服をボロボロにし、皮膚が傷ついたアマルティアがセブン・デイズを握り、立っていた。
『いや、いい着眼点だよ。でも止めを刺すならもう少し連続で撃たなくっちゃあね? あーあ、お気に入りだったんだけどなこの服』
「《ダークヒー……》」
『いい玩具だったんだけどね、君。異世界から来た悪神が世界を救う! そういうシナリオだったんだ、最後はアスル公国をベルゼーラと継いでハッピーエンド! でも大魔王の娘ってのがバレて全ての国を敵に回す、惜しかったなあ。次はもっとうまくやらなくちゃ』
ゴキン!
首が折れるような音を最後に、僕は意識を失った。エリィ……ごめ……
◆ ◇ ◆
「……な、なによあれ……!? 神……ば、化け物じゃない……! あの拳聖のお供の二人の攻撃もだけど、ものともしないなんて……!?」
「だが、ここまで来た甲斐はあったというものだ。なあ、バルバトス?」
「……そうだな。どうなることかと思ったが、あいつが元凶のようだ。レオスとかいう小僧と大魔王の娘が鍵だと考えるならここで死なせるわけにもいくまい」
「な、なにする気!? わ、わたくしは嫌よ!?」
「ルキル、君はここで隠れているんだ。あいつの言葉が正しいなら君は何の役にも立たない」
「う……」
そう言われて口を噤むルキル。そしてバルバトスが弓をたずさえ、煙草をくわえる。
「援護する。前は任せた、モラクス」
「ああ、任せて置け。まずは坊主だな。あいつの話が本当なら、俺達の攻撃は刺さるだろ。お、アスモデウス様がこっちに気づいたぞ」
「無駄口は終わりだ。GO!」
バルバトスが合図した瞬間、モラクスが全力で謁見の間へ突っ込んでいった!
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