163 / 196
第八章:動乱の故郷
その155 隙と隙の間
しおりを挟む「じ、自分から……!?」
『ははは! 驚いたかい! そら』
「ぐ!?」
アマルティアは左手でセブン・デイズを掴み、右手で僕の首を握り持ち上げてきた。必死に腕を動かすけどびくともしない。
それよりも……!
『心臓を突かれてどうして死なないのか? そういう顔をしているね』
「そ、そうだね……お、教えてくれると助かるけ、ど?」
「レオス!」
「レオスさん!」
そこへルビアとベルゼラもこちらに来てアマルティアを取り囲み僕を呼ぶ。呻きながら端の方をチラリと見ると、エリィとアニスはまだ回復を騎士達にかけているようだ。
『賢聖はいないか。ま、いい。先ほども言ったように私は神だ。この世界を創った創造主、これはわかるね?』
「だからなんだってのよ……! レオスを離しなさい!」
「《フレイ――》」
『おっと、動くとエクスィレオスの首を今すぐ折るよ?』
そう言われてルビアとベルゼラ、そしてメディナの動きが止まる。そのことに満足したのか、アマルティアはさらに続ける。
『で、創造主ということはこの世界のことは私が創ったということ。まあ、力を乗っ取った神だけどね? ということはどういうことだと思う?』
「……どういうことなんです?」
睨みつけるバス子に目を向けて口の端を歪めてから、
『つまり……この世界の武器や魔法で私に傷をつけることはできないってことさ! ははは! さあ、いくらでも攻撃してくるといいよ! じゃないと愛しのレオス君が死んでしまうよ?』
メキッ……
「ぐあ!?」
僕が感じた恐怖の正体はこれだったのか……! そうなるとルビアやメディナではこいつに勝つことはできない。
可能性があるとすれば、前世の世界の魔法とベルゼラのカオティックダークムーンくらいなものだろう。骨の軋む音を聞きながらアマルティアの右手を外そうともがいていると、ルビアが飛び出した!
「レオス!? ”鋼牙”!」
「あっちむいて……《フレイム》!」
「メディナさん、わたし達も行きますよ!」
「当然」
「や、やめるんだ、みんな! こいつは……」
『ははは! ”ドロップアウト”!』
ズン……!
「え!?」
「きゃあ!?」
アマルティアが左手を掲げ、下へと振り下ろした瞬間、重苦しい音が響きルビア達は床に叩きつけられていた。四人は身動きが取れず、まるで重力に押しつぶされているような状態だ。
『はは、神に逆らうとこうなるんだよ?』
「こ、いつ……!」
僕はセブン・デイズから手を離し、体を曲げてから両足でアマルティアの顔面を蹴り飛ばした。その反動で右手を離し、僕は後方へ着地する。
「げほ……! ごほ!」
『おっと、手放してしまった。いけないいけない……』
「ベルゼラ!」
「レ、レオスさん……!」
僕はベルゼラを抱きおこし、耳元で囁く。
「この世界じゃない僕達の技と魔法しか、恐らくこいつには通用しない……。エスカラーチから受け継いだ技、使えるかい?」
「う、うん。多分……大丈夫!」
「僕も”ロスト・ジャッジ”で仕掛ける、せーのでいくよ」
「わかったわ!」
『はは、何か策があったかい? ”ドロップ――”』
アマルティアが左手を上げた! いまだ!
「ベルゼラ! せーの!」
「”カオティック・ダークムーン”!」
「”ロストジャッジ”!」
『!?』
ダークムーンの黒い半月状の塊と、僕の魔法波動が同時に襲い、左手を上げたアマルティアはその奔流に飲み込まれていく。
「おまけで《インフェルノブラスト》!」
『こいつら……!?』
最初に弾いたのは何か防御魔法でも使ったのだろう、今度はインフェルノブラストも効果を発揮したようだ。
爆風が謁見の間の扉をぶち破り、部屋が大きく揺れ、壁が崩れ、ヒビが入っていく。覚えたてといえどカオティック・ダークムーンも相当な威力を誇っている。
「ハッ! 動くわ! やったの?」
「レオスとベル、凄い」
「いえ、待ってください!」
バス子が槍を構えたまま叫ぶ。が、一足遅く――
ズシュ……
「あ……!?」
僕のお腹にセブン・デイズが突き刺さっていた。その時、咄嗟に僕は魔法を放つ。
「《ウ、ウインド》……ごほ……」
「レオスさん!」
ベルゼラの声を受けながら、ブワッと強烈な風がベルゼラやルビアを玉座近くまで吹き飛ばしていく。そして目の前には服をボロボロにし、皮膚が傷ついたアマルティアがセブン・デイズを握り、立っていた。
『いや、いい着眼点だよ。でも止めを刺すならもう少し連続で撃たなくっちゃあね? あーあ、お気に入りだったんだけどなこの服』
「《ダークヒー……》」
『いい玩具だったんだけどね、君。異世界から来た悪神が世界を救う! そういうシナリオだったんだ、最後はアスル公国をベルゼーラと継いでハッピーエンド! でも大魔王の娘ってのがバレて全ての国を敵に回す、惜しかったなあ。次はもっとうまくやらなくちゃ』
ゴキン!
首が折れるような音を最後に、僕は意識を失った。エリィ……ごめ……
◆ ◇ ◆
「……な、なによあれ……!? 神……ば、化け物じゃない……! あの拳聖のお供の二人の攻撃もだけど、ものともしないなんて……!?」
「だが、ここまで来た甲斐はあったというものだ。なあ、バルバトス?」
「……そうだな。どうなることかと思ったが、あいつが元凶のようだ。レオスとかいう小僧と大魔王の娘が鍵だと考えるならここで死なせるわけにもいくまい」
「な、なにする気!? わ、わたくしは嫌よ!?」
「ルキル、君はここで隠れているんだ。あいつの言葉が正しいなら君は何の役にも立たない」
「う……」
そう言われて口を噤むルキル。そしてバルバトスが弓をたずさえ、煙草をくわえる。
「援護する。前は任せた、モラクス」
「ああ、任せて置け。まずは坊主だな。あいつの話が本当なら、俺達の攻撃は刺さるだろ。お、アスモデウス様がこっちに気づいたぞ」
「無駄口は終わりだ。GO!」
バルバトスが合図した瞬間、モラクスが全力で謁見の間へ突っ込んでいった!
0
お気に入りに追加
1,602
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる