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第八章:動乱の故郷
~Side7~ アレン
しおりを挟む「……どうしてこんなことに……! もう少ししたら姫と結婚して何不自由なく暮らせていたのに……」
ここはレオスが冒険者試験を受けたミドラの町。
そのギルドでジョッキを叩きつけながらアレンが愚痴をこぼす。もちろん、ノワール城を追い出された件についてだ。
時はレオスがハイラル王国を出るあたり。アレンはこの町で数日ほど腐っていた。横で椅子を傾けて同じく酒を飲んでいるフェイアートが口を開く。
「まあ前にも言ったかもしれんが自業自得ってやつだ。だいたいレオスに命を助けられているのに金は奪うわ、始末しようとするわ……」
「暗殺者の私も目が飛び出るわよ? 処刑にならなかったのは大魔王の下まで辿り着いた功績があったからだし。良かったわね」
フェイアートの恋人であるペリッティも頬杖をつきながら呆れたように言う。それを聞いて渋い顔をしたアレンはジョッキの中身を一気に空けてから口を尖らせた。
「……確かにおかしいなとは思っていたんだ。あの戦いの時、ぶっ飛ばされたのは俺達の方だ。それが次に目が覚めた時、大魔王が灰になっていたんだからな。……他人のふんどしで甘い汁を吸おうとした罰ってことか」
はあ、とため息を吐きアレンは続ける。
「で、あんた達はどこまで付いてくるんだ? レオバールを見つけるまでか?」
「そのつもりだぞ? ま、お前さんが逃げるっていうなら止めはしないが」
さらりとフェイアートがそんなことを言い、ぎょっとするアレン。
「そんなことをしたら、お前達が酷い目に合うんじゃないか……?」
「あら、仲間を裏切るような男が殊勝なことを言うわね。別に逃げてもいいわよ? 国王も期待していないでしょうしね。ただ、この国の土は二度と踏めないでしょうけど?」
「……」
ペリッティが無感情に言い放ち、アレンは俯きなにかを考えるように呟く。
「そうか……そうだよな……」
「もし逃げるなら追わない。代わりにここへ戻ってくれば確実に処刑になるよう働きかける。それで自由が手に入る。金もあるだろうから苦労もしないだろう、どうだ?」
フェイアートが意地悪く笑いながら言うと、アレンはすぐに返事をする。
「……いや、それは……ダメだ……」
「どうして?」
「……俺の故郷はこの国だ、当然住んでいた村はこの国にある。俺が逃げ出したと知ったらみんなどう思うかはわかるだろ? ……それと、これは誰にも、それこそレオバールやルビア、エリィにも言っていないが、俺には妹がいるんだ。病弱な妹が。だから俺は姫との結婚を選んだんだ。治療を受けさせてやりたかったからな。最悪、どうにもならなければ裏オークションにでも行って霊薬を手に入れるつもりだったんだ」
「それで裏切るような真似を? 姫と結婚して呼ぶのは良かったかもしれないが、姫を好いていないのに結婚するのはどうなんだ? 仲間を裏切った金で助かって妹が喜ぶと思っているのか?」
「う……」
先ほどまでと違い、鋭い視線を投げつけられて委縮するが、アレンは口を開く。
「そうだよな……。よし、決めた」
「どうするの?」
「レオバールを探しに行って連れ戻す。で、あいつ含めて、改めて国王様にお詫びだ。許されれば村に帰るよ。できればレオスとルビアにも謝っておきたいが……」
「あいつはラーヴァに戻るだろうから、行けばいいんじゃないか?」
「いや、今から行くところを考えるとそれは無理だろうな」
「お、なになに? レオバールをさらったやつに心当たりがあるの? 名乗っていたけど潜伏先までは言っていなかったわよ?」
ペリッティの言葉に、アレンは小さく頷いた後、
「フェイアートさん。あんた、スヴェン公国で冥王と戦ったと言っていたよな? それと協力関係にあったらしい男とも」
「そうだな。ルビアやレオスが撃退したぞ」
「……冥王が生きていたなら、怪しいところは一つだ」
「?」
フェイアートとペリッティが首を傾げていると、アレンは続ける。
「大魔王城だ。俺達が帰った後、あそこを根城にしている可能性が高い。なんせ大魔王領は殆ど人がいないから隠れるにはうってつけだ。大魔王も消えてしまったからな」
「……なるほどな。何もなくなって安心しているからこそそこを使うか。有り得なくはない」
「それじゃ、明日から出発するのね」
「ああ。馬車でペンデス国を経由していくぞ。そうと決まれば……お姉さん、もう一杯!」
ガクっとフェイアートとペリッティがバランスを崩していた。そこへ、レオスが世話になったギルドマスターのヒューリが声をかけてくる。
「よう、フェイじゃないか。それにこっちは……勇者様かい?」
「あんたは?」
「アレン、こいつはギルドマスターのヒューリだ。ああ、ちょっとお忍びで任務をな」
「……勇者が出張るような案件か?」
「ま、秘密さ。それより、このギルドもいい冒険者を抱えているみたいじゃないか」
フェイがそういうと、ヒューリは苦笑しながら奥に座っている冒険者の集団を親指でさしながら答える。
「まだまだ鍛える必要はあるが、悪くない。あそこのシーフの嬢ちゃんは若いころのペリッティにそっくりだぜ」
「あら、私はもう若くないっての?」
すると、冒険者の一団がヒューリの下へやってきて口を開く。
「ヒューリさん、その人達は?」
「噂をすれば、か。リラ、こっちの女はペリッティ。こっちはフェイアートだ。お前と同じシーフだよ、で、こっちが勇者アレンだ」
「え!? フェイアートさんって……マスターシーフの……」
リラが驚愕の表情を浮かべていると、隣に立っていたエコールもアレンを見て驚いていた。
「あ、あんた、勇者アレンでねぇか!? レ、レオスから金を巻き上げたあの!?」
「あ、いや、それは……あんまり大きい声で言わないでくれ……」
気合を入れたアレンをあざ笑うかのようにエコールが叫び、金を巻き上げた勇者がギルド内で好奇の視線を浴びることになった。
アレンの勘と予想は果たして合っているのだろうか……?
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