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第八章:動乱の故郷

その150 黒い影とラーヴァの城下町

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 <火曜の日・夜>

 ほーほー……
 
 
 ――結局、昼間の道中では荷台で名前を決め選手権が始まり、アースドラゴンは僕の膝ですやすやと寝息を立てていた。ご飯は何を食べるのかと思っていろいろ差し出してみたところ、野菜が好きなようだった。もちろんお肉も食べるんだけど、トマトやナス、キャベツなんかを丸々かじっていたので、どうやら草食系ドラゴンらしい。

 僕のところにいることが多いけど、誰かが抱っこすると嫌がらず喜ぶので飼うのは本当に楽かもしれない。

 ……大きくなるまでは。

 それはそうと、夜になったので僕はワイワイしているみんなから離れてひとりフェロシティを待つ。

 「……で、どうしたんだい? 珍しく神妙な顔をしていたけど?」

 するとフェロシティは影から出てきて僕の前に膝をついて答えてくれる。手には卵のかけらがあった。

 「卵のから?」

 【はい。この殻、割れた瞬間に感じたのですが、なにかしらの魔法がかけられていたようです。割れてからはまるでなにも感じず、卵だった時も私はなにも気づきませんでしたが】

 「僕はなにも感じなかったぞ……?」

 【恐らく私の方が魔力で動いているので僅かな魔力の散らばりを感じ取れたのかと。実に巧妙に魔法をかけていましたね。効果は……ここまで言えばお気づきでしょう?】

 フェロシティはニヤリを笑い僕を見る。昨日の昼に感じた違和感の答え合わせというところだ。

 「恐らく、魔物を呼び寄せる魔法がかかっていたんだね? 昨日お前が誘いこんでいた魔物に、卵を主食としない魔物が随分多かった。卵に魔法がかかっていたんなら納得だよね。あの誘拐犯、僕達に復讐するつもりだったのかな……」

 あいつの目的を二回は邪魔したから有り得なくはないと考える。嫌がらせに近いレベルだけど、僕達が弱ければ魔物にやられることもあるだろう。

 【今となってはわかりませんし、ルビア様、クロウ様、アニス様しかその誘拐犯に会っていませんからね。魔法も効果が切れました。一応、問題ないということをお伝えしたかったのですよ】

 「そういうことか。ありがとう、助かるよ」

 【お安い御用ですよ。エリザベス様も戻られて、我々の役目も無くなるかと思っていましたから】

 ”四肢”達は僕の負の感情から生まれた存在なのでエリィと過ごしていれば基本的に必要ない。恐らく、バス子の策略で僕が悪神として覚醒した時の反動で四肢が出てきているのだと思う。コアが破壊されなければ死ぬことは無いので、戦力としては頼もしいからいいんだけどね。

 【では私もデバステーターと同じくしばらく休ませていただきますよ。ブルートたちもいずれ――おや?】

 「あ、レオスさんこんなところに居たんですか? ご飯できましたよ! エロシティも食べるなら来るといいですよ」

 消えようとしたところでバス子がやってきて僕達に夕食の準備を告げてくれる。

 「ああ、ありがとうバス子。どうするフェ――」

 と声をかけようとしたところで、

 【ふははは、この私に食事は不要ですよ貧乳! アヂュー!】

 「あ!? それわたしのパンツ!? それにアデューですよこのゴミ野郎! ピィィィィ! であえであえ!」

 「なに?」

 「まだ懲りていないみたいですよこいつ! ボロクソにしてやりましょう!」

 「ん」

 【影に消えられる私を捉えられますかな? ……おや!? 影に入れない!?】

 「私は冥王。影を縛るくらい訳はない」

 月明かりに照らされた影に何かナイフのようなものが刺さっていて、それがどうやら妨害しているようだ。そしてメディナとバス子がじりじりと近づいていく。

 【おう!? 主、ヘルプ!】
 
 「うん、僕が色々疑われるから一度締めてもらうといいよ。さて、久しぶりにエリィのご飯だ、ゆっくり食べようっと」

 闇の中フェロシティの絶叫が響き渡った。


 ◆ ◇ ◆


 採掘場を出てから三日。

 本来ならラーヴァの前にある町へ寄るつもりだったんだけど、魔物達を食材にしたため食料を買い込む必要がなかったので町をスルーして僕達は直接ラーヴァへと向かった。

 「テッラ、おいでー」

 「ピィー♪」

 アースドラゴンは色々な意見が出た結果、土を意味するテッラという名前に決定。荷台でちょこちょこと歩き回る姿はとても可愛い。そうこうしていると、ラーヴァの城が見えてきた。

 「ここにくるのも四年ぶりかあ……」

 「あの時は大変だったわよね。この町でレオスがカバンから商品をたくさん取り出したのをアレンが見て、旅のお供に連れて行くってレオスの実家に押し掛けたのよね」

 感慨深く目を細める僕に、エリィが当時の様子を苦笑しながら笑っていう。さらにルビアが口を開いた。

 「まさかレオスをお金と引き換えに差し出すとは思わなかったけどね……あんたのお父さん、あたしにナンパを仕掛けてきてお母さんにボロクソにされてたし、相当酷い人よね」

 「父さん……」

 少し情けなくなるが、あの時はお店が本当にやばかったから僕も二つ返事で付いて行くことにしたので仕方がない。カバンも僕しか使えないしね。

 「なるほど、お父様はイケメン?」

 「そうね、きっとモテたんじゃない? ……だからレオスも? 親子そろってってことか……」

 「それはいいがかりじゃないかな!?」

 酷い風評被害を受けながら門を抜け、城下町へと進む。四年前と変わらない風景がそこにあった。ラーヴァの城下町もハイラル王国と違わず町は結構広い。
 スヴェン公国の時計塔みたいな名所はないけど、なるべく路地裏ができないように上空からみると円状に建物が建てられているのだ。

 「まだ昼過ぎだし、先に城へ行こうか」

 「ピィー♪」

 僕の頭で喜ぶテッラを撫で、僕達は城へ向かう。

 だけどここが、ターニングポイントになるなど誰が予想できただろうか――

 早すぎた。

 いい意味でも、悪い意味でも。
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