上 下
156 / 196
第八章:動乱の故郷

その149 おいでませ!

しおりを挟む
 <火曜の日>

 卵孵化作戦三日目

 魔物を引き入れて訓練と食材の確保を行った二日目も終わり、いよいよ孵化予定の三日目を迎えた。今日ばかりはバス子やメディナもフェロシティを追いかけまわすことはなく、アースドラゴンの卵に興味が移っていた。

 「楽しみ」

 「メディナは可愛いもの好きだけど、ドラゴンってトカゲとかに近いし、赤ちゃんって可愛いのかしら?」

 「確かにおねえちゃんがいうように、小さいトカゲって考えたらわたしはちょっとアレかなー……」

 アニスがあははと笑い、エリィもそれに便乗する。

 「確かにそう言われるとちょっといやかも」

 「見てのお楽しみってことでいいんじゃない?」

 僕が最後の水をかけて様子を見ていると、卵のてっぺんががたがたと震えだす。もう少しで孵化しそうな感じで、図鑑とやらは結構正確な情報を載せていたんだなと感心する。
 それと同時に、僕はルビアへ尋ねた。

 「このドラゴン、産まれたらルビアが育てるってことでいいのかな? だとしたらこっちに来ておいたほうがよくない?」

 「別に誰が育てても、というよりみんなで育てればいいんじゃない?」

 「お金を出したのルビアなのに……」

 「まだお金はあるし、誘拐犯にお金を渡すのが目的だったからアースドラゴンには興味ないからね」

 「姐さん、リッチですねえ。ではわたしが丹精に育てて売りに出しましょう! 白金貨百枚はくだらないはず……!」

 すると目を光らせたメディナがバス子の後頭部をポカリと叩いた。

 「痛っ!? いきなり何をするんですか!」

 「ペットは最後まで飼う」

 ぷう、と頬を膨らませたメディナが本気で怒っていた。そんなことをやいやいしながら昨日の疲れを癒していると、フェロシティが僕の影からぬるりと出てきて頭を下げながら口を開く。

 【主、あの卵そろそろ孵化いたしますよ】

 「あ、本当に? みんな、いよいよ誕生するみたいだよ」

 フェロシティの声が聞こえていたのか、女性陣は慌ただしく卵の下まで走って行く。

 「やっぱりこういうのは男女関係なく好きなのかな? アニスもなんだかんだで様子を見に行ってるしね」

 僕がそういうとクロウが返してくる。

 「まあアニスも好奇心の方が強いからね。さ、僕達も行こう、楽しみなんだよ実は」

 「そうだね!」

 僕達も近づき、エリィ達の後ろから様子を伺うと――

 ピシピシ……

 「あ! ヒビが入った!」

 「わくわく」

 ベルゼラとメディナが興奮して喋っている通り、少しずつ卵にヒビが入っていく。

 ビシビシ……

 「……? なんか様子がおかしくない? ヒビは入るけど出てこないんだけど……」

 【ああ、もしかすると殻が固すぎて破れないのかもしれませんね。こういう時は親が割ってあげるはずですよ? ちなみに割れなかったら力尽きて死にますね! ははは!】

 「ははは、じゃないよ!?」

 ドンドン! グラグラ……

 中々破れないのか、卵の先が叩かれるもだんだん弱々しく……ま、まずいよ!?

 僕はセブン・デイズを鞘のまま卵に叩きつけた!

 「やああ!」

 ガツン! と、卵のてっぺんを殴ると、べきっという音共に破片がいくつか飛んでいく。さらに打ち付けると――

 「ピィ!」

 ひょこっと、つぶらな瞳をして一本角のちょっと大きめのトカゲのようなドラゴンが顔を出した! うわあ、かわいいかも!

 「ピピィ♪」

 アースドラゴンはポン、と卵から出ると、僕と目が合い、

 「ピィー♪:

 何とも言えない声で鳴きながら足元でぐるぐる回り始める。アースドラゴンだからか羽は無く、角もまだまだ小さい。鱗もまったく硬くないし、ほんのり産毛も生えている。

 「ヤバイ、可愛いじゃない! ええ、ドラゴンの赤ちゃんってこんな目をしてるの? だいたい目つきが怖いのに」

 「おいで、もちきんちゃく」

 「もしかしてそれ名前ですかメディナさん!? センス無さすぎでしょう!?」

 ルビアはこういう『可愛い』もアリなようで、しゃがみこんでじっと動きを見つめていた。メディナは掴みかからんばかりの勢いだが、バス子がそれを察してか羽交い絞めにしている。

 「でも本当にかわいいですねー」

 アニスも目を細めてみており、アースドラゴンはみんなに構って貰えて嬉しいのかぴょんぴょん跳ねまわっている。すると僕の足に掴まってよじ登ろうとしたので、撫でてやろうとしゃがんでみると、

 「ピィ―♪」

 「あら、気にいったみたいね」

 「えー……」

 腕をうまく伝い、僕の頭に鎮座した。アースドラゴンは大喜びだ。

 「あ、でもこれなら踏まなくていいかもしれないわ。よろしくね~♪」

 「ピィ~♪」

 「ふふ、人懐っこくてかわいいわね!」

 ベルゼラが小さい手を摘まんで握手すると、やはり嬉しそうに鳴く。こいつは人見知りしない子のようだ。エリィもにこにこと、僕の頭でごろごろするアースドラゴンの背中を撫でた。

 みんなが僕の周りで、アースドラゴンを愛でている中、フェロシティが卵の殻を拾ってじっと見ていることに気付く。

 【……】

 「フェロ、どうしたの?」

 【……ハッ!? いえ、随分硬い殻だと思いましてね? (後で主にお話があります)】

 「(わかったよ)」

 フェロシティが珍しく神妙な声で僕の頭に直接話しかけてくると、卵の殻を自身の影に回収し始める。

 それからしばらくアースドラゴンを愛でていると、だんだん雲行きが怪しくなってきた。

 もちろん天気ではなく……

 「もちきんちゃく」

 「そんな名前はダメよ、あーちゃんってどう!」

 「お嬢様、安易すぎ……」

 「ならあんたは何てつけるのよバス子」

 「成長を見越して”ファング”ちゃんってどうですかね!」

 「あんたも安易だけど、悪くないわね。やっぱりドラゴンならカッコいいやつよね! ”ブラッディ”なんてどう!」

 「いや、凶悪すぎるでしょう……」

 と、アースドラゴンの名前について揉め始めた。といってもエリィやアニス、僕とクロウは参加せず、主にルビアやバス子、メディナにベルゼラである。

 「ま、まあ産まれたばかりだし、道中で考えようよ。城に行かないといけないし、そろそろ出発しよう」

 僕の言葉で仕方なくといった感じでみんなが馬車に乗り込む。

 「それじゃ、フェロお願い。僕が一気に蹴散らすよ」

 【……いえ、その必要はありませんよ。行きましょう、主】

 「え?」

 フェロシティが穴を開けると、そこには魔物がまったくいなかった。

 「倒してくれたの?」

 【いえ。では後程……】

 そういって影の中へと消えていくフェロシティ。なんだろうと思いながら、僕達は採掘場を後にするのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

処理中です...