上 下
155 / 196
第八章:動乱の故郷

その148 和やかなひと時

しおりを挟む


 ――レオスとエリィが焚火の前で話をしているころ、その様子を遠くから見ている人影があった。


 「くっ……レオスさんとエリィ、いい雰囲気で……あ、あ、キスした!? なんでエリィばっかり!」

 「ぐ……苦しい!? お嬢様! 落ち着いてください!?」

 「大丈夫、いつか私達もああなる」

 「なるんですか……?」

 「レオス次第じゃない? ベルゼラと結婚すれば一夫多妻は解決するし」

 と、クロウを除いた女性陣全員が成り行きを見守っていたのだ。興奮状態のベルゼラがバス子の首を絞めているのをやんわり解放しながらルビアがそんなことを言う。するとバス子の首から手は離さず、ベルゼラが口を開く。
 
 「……でも、前世からの恋人でふたりとも記憶を取り戻したでしょ? もう私達の割り込む余地はないのかなって……」

 「あ、あの、首から手を離してもらえませんかね……? というより甘いですよ、お嬢様! 奪い取ってやるくらいの勢いがなくてどうするんですか!」

 「既成事実、というのもある」

 「嫌なこと言わない最年長。まあ、なるようにしかならないわよ? アプローチは続けた方がいいと思うわ。あたしの元彼氏のアレンみたいじゃないからねレオスは」

 「むう……」

 「お父様とお母様に会うの楽しみ」

 「レオスは記憶を取り戻す前、気弱だったしご両親も優しいんじゃないかしらね? さ、それより寝るわよ。三日あるけどその後はお城なんだし」

 【そうしましょう。いやあ、添い寝がよりどりみどりだなんて主は羨ましいですねえ】

 「きゃあああああ!」

 「こいつ……!」

 ベルゼラの背後に急に現れたフェロシティの頭を槍で粉砕すると、フェロシティは粉々になって地面へと返っていく。

 【フフフ、またお会いしましょう!】

 「追いますよメディナさん!」

 「うん。石膏像にしてやる」

 そう言ってふたりが飛び出していく。

 「……バス子達に任せて寝ましょうか……」

 「そ、そうね……」

 「すやすや……クロウ君、好きぃ……」

 「うう、いいわねえアニスは……」

 ベルゼラとルビアはアニスに毛布をかけたあと、レオスの作った簡易ベッドに横になる。ベルゼラは、

 「前世かあ……凄く長い時間、色々あっただろうに絆が切れなかったのは羨ましいな。エリィ、羨ましいかも」

 そう呟いて目を閉じると――

 『大丈夫ですよ。貴女もしかるべき時が来れば、必ず――』

 「誰……? 何だか聞き覚えが……ある、ような……」

 謎の声を聞きながらベルゼラは意識を手放すのだった。


 ◆ ◇ ◆


 <明曜の日>


 卵孵化作戦一日目

 僕は早速水魔法で卵に水をやり、太陽に照らす。

 カタ……

 「今動いたかな?」

 何となく卵のてっぺんが揺れたような気がする。まあ、慌てることは無いとみんなが起き出してくる前に馬車の荷台を展開し朝食を作る。
 結局お店として使ったのはたったの一回という改造馬車を勿体なく眺めながら起き出してくるのを待つ。
 
 ――よく考えると最初のギルド試験からすでに間違った道、というより『力を使うこと』を行使されているんじゃないかな、というくらい騒動に巻き込まれている。それでも冒険者になっていなければ領主様が悪魔に取って代わられていたと思うし、スヴェン公国も、ハイラル王国も戦争を始めていたかも、と考えれば、良かったと思うんだけどね。

 「昔の僕みたいに、特定の人物を狙って仕掛けていているわけじゃないんだよね、旅の男。もし、仮に僕の力と正体を知っていて、僕に何かをさせたいなら好都合なんだけど」

 パチッ

 僕の呟くに呼応するかのように、焚火が爆ぜる。直後、一斉にみんなが起き出してきたので、朝食を用意し賑やかな食事が始まった。

 「あのクソ眼鏡、するすると逃げるんですよ! エロスさん、いや、レオスさん! 弱点とかないんですか!」

 「はは、まあ外の防衛をしてくれているから勘弁してあげてよ。むしろ構うと調子に乗るから放置くらいがいいと思うよ」

 外壁の向こうから聞こえる爆音や魔物の悲鳴に目を向けながらバス子に言う。そこへクロウが僕へ話しかけてくる。
 
 「食事が終わったら一勝負頼むよ! どうせ暇だしいいだろ?」

 「あ、うん……」

 気が乗らない提案に生返事をしつつ、僕はクロウと模擬戦を行う。ハンデとして魔法を無しにして、木剣のみにしたところ、クロウは以前より耐久できていた。元々センスがあるのか、物理攻撃に対する反射神経は鋭いものがあり、懐に飛び込まれそうになることもそれなりにあった。

 「くそう! これで魔法があったら絶対勝てない……もっと速く? いや、フェイントを……ルビアさんお願いします!」

 「元気ねえ。いいわよ、休憩したら勝負してあげる」

 「はい!」

 「ふふー《ヒール》っと」

 アニスに回復してもらい、水を飲むクロウを尻目に、僕は適当に作った椅子に腰かける。

 「お疲れ様」

 「ありがとう。バス子とメディナは?」

 「相変わらずフェロシティを追っているわ。構うなっていったのにね。後でレビテーションの練習したいんだけどいいかな? ベルも付き合ってくれるって」

 今度はエリィと空を飛ぶ訓練をし、その日は何事ともなく終了。

 
 卵孵化作戦二日目


 「今日は外の魔物を引き入れて戦闘訓練をしよう。主にクロウのために」

 「あ、ああ……」

 昨日と同じ調子でクロウが僕に挑んできたので、流石にそれは面倒だと思い提案する。フェロシティが選別し、魔物を一匹だけ通す、みたいなことが可能なので問題ないだろう。最悪全員でかかれば倒せない相手ではない。

 「フェロ、食べられそうなやつで、強そうなのがいいかな」

 【フフフ、承りました主! ……では、最初の対戦相手はこちら!】
 
 魔物の大きさに合わせた通路が出来上がり、そこから突撃してくる魔物。

 「クレイジーゴート……!?」

 「ちょっと強そうだけど、わたしの補助魔法と回復魔法で勝てるわ!」

 クロウが一瞬怯むが、アニスが笑顔でそういい、実際それほど労せず倒すことができていた。

 「レオスやルビアさんに比べれば遅いかったな……」

 【では次!】

 今度はアイアンベアという毛がとても硬い熊型の魔物だ。流石にリーチ差もあって苦戦していた。で、三体目はパライズスパイダー。

 「んん……?」

 少し倒したところで僕はなんだかおかしいなと思い、レビテーションで空を飛んで群がる魔物達を観察する。

 「……」

 やはり、おかしい。

 ただ、その中でも『正常』な事象もあるので僕の勘違いであればいいなと思いながら倒した魔物を解体し料理へと変えていく。

 「おいしい」

 メディナが大変ご満悦だった。

 そして三日目。

 待望のアースドラゴンが――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

処理中です...