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第八章:動乱の故郷

その147 フェロシティという”欲望”

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 「で、こいつはなんなの? レオスの影から出てきたみたいだけど」

 「結構イケメンだよね? えっちみたいだけど」

 メディナとバス子にボロクソにされているフェロシティを見ながらルビアとベルゼラが僕に聞いてくる。とりあえず僕にダメージは無いのでフェロシティは放っておき、説明をする。

 「あれは僕が悪神時代だった時に使役していた……まあ、分身みたいなものなんだ。両手足にそれぞれ属性と共に宿っていてね、あいつはフェロシティと言って左腕に宿る土属性の能力を持っている」

 「分身、にしてはなんかチャラい感じがするわね。レオスさんって冷静な感じなのに」

 ベルゼラが首を傾げると、エリィが苦笑しながら肩に手を乗せて言う。

 「レオスはああ見えてエッチなのよ。レオスの分身って、無意識から生まれた存在で、それぞれ色々な感情を表しているの」

 「……エリィに言われるのは複雑だけど、フェロシティは”欲望”なんだ。ルビアやクロウは見ていないけど、デバステーターっていう火を属性とした”闘争”の感情を表した右腕が覚醒してるね」

 「足は?」

 「覚醒していないよ。あえて『まだ』、とは言わないけどね。足は比較的おとなしいけどさ」

 左足は特にそうだけど、できるならそのまま寝て居て欲しい。それにしてもなんでこいつなんだろうと思いながら、そろそろ止めないと消滅しそうなフェロシティに近づいていく。

 【お、おお……主……私が死にかけるとはなにごとか……】

 「それは僕のセリフだけどね? デバスは危ないところを助けてくれたけど、お前は何しに出てきたんだ?」

 僕がそういうと、ずぶずぶと土の中に溶けていき、しゃっきっとした格好に戻ったフェロシティが僕の前で膝魔づいて答える。

 【アースドラゴンと言えば土! 土と言えば私! そして土壁を作るなら私しかいないではありませんか!】

 「ああ、そういう……?」

 割とどうでもいい理由だった。単に目立ちたいだけ……まあ、欲望が具現化しているから仕方ないといえばそうか……

 「む、復活が早い」

 「もう一回ボコれるボーナスゲームと思えばいいじゃないですか!」

 「あー、フェロシティは体が土くれだからコアが壊れない限り何度でも復活するし、基本的なダメージは与えられないから時間の無駄だよ。それよりドラゴンの卵を埋める手伝いをしてよ」

 【お安い御用!】

 立ち上がったフェロシティはすぐに穴を掘り、卵のてっぺんだけが見える状態で埋めた。そこで満足げに語り出す。

 【なかなか良い卵ですね。生命力を感じますよ! 恐らく立派なドラゴンが産まれるかと】

 「わかるんですか?」

 【ええ、伊達に土を冠する四肢ではありませんよ。それでは主、どうやら土壁周辺に魔物が集まってきたようですので、迎撃行動に移ります】

 「いいかい? 結構追われてたからみんな疲れているし、頼むよ」

 【ハハハハハ! 疲れ知らずの私にお任せあれぇぇぇ! ……その前に】

 もにゅん

 「!? この!」

 【ぐは!? ……フフフ、ごきげんよう】

 瞬時に影を伝ってルビアの胸に触り、土と同化して消えた。我ながら酷い分身もあったものだ……

 「粉々にしたのに……! あの能力、エッチなことやりたい放題じゃない!」

 「速攻で、殺す気つもりの拳を出したのはさすがだ……でもコアが壊れないと本当に不死身なんだね。あいつがいれば無敵じゃない?」

 「ま、言うほど無敵でも無いんだよね。……そういえば、あいつが前世でやられたのは白い髪をした女の子だったっけ。メディナに雰囲気は似ていたかな」

 「嬉しくない」

 「まあまあ。ほら、卵に水をかけましょう? 陽の光を浴びせるんだったわよね」

 「三日間ね! 《アクア》!」

 エリィの言葉で、ベルゼラの水魔法が卵にちょろちょろとかかり、じわっと蒸気があがる。すると――

 ギシャァァァァ!?
 
 グオォォォ!?

 ザシュ! ブシュ! という生々しい音が外から聞こえてきた。もう戦闘が始まっているらしい。まあ、本当に疲れ知らずだし、空からくる魔物にだけ警戒していればいいのはとても助かる。

 クリエイトアースで家を数件建て、中央に焚火を作っていると、段々陽が落ちてきて暗くなっていく。夕飯も食べ、各々家へ入っていき、僕が焚火の前に座っているとエリィが隣に座った。

 「ふふ、みんな疲れていたからすぐ眠ったわね」

 「そうだね。エリィは疲れてない?」

 「私も結構魔力を使ったから、多分明日はなかなか起きないかも」

 僕はちょうどいいかと聞きたかったことをエリィへ尋ねた。

 「記憶が戻ったけど、今はどう思っている?」

 「どう、かあ。正直なところ、私は嬉しかったよ。この世界に来るとき、全部の記憶は無くなって、もう会うことも無いと思ってたから。ソレイユ様がレオスの暴走を食い止めるため、仕方なくとはいえこうして一緒にいられるのは本当に奇跡」

 「うん……。あの時守れなかったのは本当に悔しくてあんなことになっちゃったけど、今度こそ僕が守るよ」

 「ふふ、大丈夫! 今の私は賢聖でもあるのよ、もし何かあってもなんとかするわ!」

 ぐっと拳を握り、ウインクしてくる。それを見て僕は噴き出し、口を開く。

 「あはは! それもそうだね! ……正直なところ、バス子達を元の世界に戻すことは力になりたいけど、世界のことはなるべく関わりたくないんだよね。振り払う火の粉は払うけど、僕は正義の味方ってわけじゃない。みんなと楽しく過ごせたら、それだけでいいんだよね」

 「それはそれでいいのかもしれないわ。私達は力があっても、それを振りかざす必要はないもの。悪人がいれば私は懲らしめちゃうかもしれないけどね」

 そう言って笑うエリィ。

 結局、旅の男もバス子のため、という個人的な目的で追っているだけなのだ。もし見つからないなら、見つかるまでバイトとして雇うのも面白いかもしれない。
 
 「大魔王もいい人だったし、悪魔達もバアルって人のことで荒れているだけだから話は聞いてくれそうだよね。憂いはキラールが会ったという旅の男だけか……何とか今世はまっとうに生きれそうだよ……」

 「そうね♪ さっさと聖職を誰かになってもらって、お店をやりたいわ。前世ではかなわなかったけど、今世こそはレオス、あなたと、ね」

 「それは……もちろんだよ。絶対幸せにする」

 揺れる焚火の中で、僕達は今世で初めて口づけをかわすのだった――
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