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第八章:動乱の故郷

その144 レオスの考えと予期せぬトラブル

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 <木曜の日>


 「ぐぐ……つ、強い……強すぎるんじゃないか!?」

 「いやあ、全然惜しく無かったねクロウ君!」

 「うるさいよアニス!?」

 「<ダークヒール> どうだった? 僕は魔法も使えるから拳一本のクロウは相性が悪いかもしれないね。でもいい拳筋だったと思うよ」

 「レオス……」

 「クロウ、騙されちゃダメよ。レオスはあたしの見立てだと五割くらいの力しか出してないわよ」

 「くっそぉぉぉ!」

 「余計なこと言わないでよルビア!?」

 「ご飯できたわよー」

 ――国境まであと二日ほどのところにある森の中で休憩をしている僕達。

 何をやっていたのかというと、どうしてもクロウが一戦お願いしたいというのでお昼ご飯前に模擬戦を行っていたのだ。その辺の木を適当に木剣に加工して通常のスタイルで戦った結果……開始三分で決着がついた。
 
 様子見をしながら戦うつもりだったんだけど、クロウの踏み込みが鋭く、超近接になったので剣の柄で応戦し、隙ができたところに足元へ小規模のファイヤーボールを爆発させてよろけたところを横薙ぎの一閃で吹き飛ばし終了、という流れで終了。

 「いくらなんでもあっさり負けすぎだ……ルビアさんより強いどころじゃない……」

 「ま、まあ、自分で言うのもなんだけど、ちょっと僕は特殊だからね……。とりあえずラーヴァまでは順調に行けそうで良かった。さすがにこれ以上トラブルは避けたいよ」

 「そういえば先にレオスの実家へ行くの?」

 エリィが野菜炒めを口に入れながら僕に尋ねてきたので、ちょうどいいと思い今後の予定をみんなに話すことにした。
 
 「えっと、一応僕の予定では王妃様の書状を持っていくのを先にしようと思ってるんだ。実家はラーヴァまでくれば目と鼻の先だけど、旅の男について協力を仰ぐ書状は急務だからね」

 「城とレオスの家がある町って結構離れてるけど……私とルビアで行ってこようか?」

 「あたしはそれでもいいけど?」

 僕を引き入れた時にラーヴァ国へは来ているので、エリィとルビアは実家の場所を知っている。なので、別れても実家には来ることはできるのだが――

 「いや、僕も行くよ。いざ国へ行ったら妨害やトラブルがあるかもしれないだろ? クロウとアニスもメディナが何とかしてくれたから良かったけど、その時居なくて後悔したくないかなやっぱり」

 「えっへん」

 「そっか。じゃ、ちゃんと守ってもらおうかな」

 エリィがそう言って微笑むと、ベルゼラが唸りを上げた。

 「もう、記憶が戻ってからエリィがリードしているみたいで悔しいわ……! レオスさん、私も守ってよね!」

 「そ、そりゃもちろんだよ。エスカラーチにも頼まれたし……」

 「ううー。なんか義務的……」

 そう言われても、と思いながら苦笑する僕。

 結婚うんぬんはさておき、みんなに危ない目に合って欲しくないのは事実だ。できることなら騒動が終わるまでみんなの近くにいたいと思っている。

 しかし、問題となっている旅の男の情報は少なく、どこにいるかもわからない。故に国に協力を仰ぎ、実家で待機して情報を待つのがいいのではと考えた。実家なら場所を伝えるは簡単だしね。
 で、何もなければそのまま実家で暮らせるので、国王様に面通しだけでもしておけばいざというとき動けるのではと考えたのだ。

 「でもようやく帰れるわね。大魔王退治の旅を始めて四年……本当に長かったわね」

 「まあ、記憶を取り戻してエリィと再会できたのは本当に良かったし、嬉しいけど」

 しみじみと僕とエリィが苦笑し合うと、ルビアが微笑みながら僕達に言う。

 「早くゴタゴタを終わらせて、ゆっくりしたいわね。ねえ、ふたりの前世の話聞かせてよ。あまりいい記憶じゃないのかもしれないけど、興味あるわ」

 「そう? あまり面白くないと思うけど……」

 「やっぱりパン屋さんのこととかかしら? あれは――」

 ゴト……

 と、エリィが話し始めたところで荷台から音がし、

 「ひひーん!?」

 「ぶるるる!?」

 と、馬達が騒ぎ始めたので慌てて馬車の方を振り返ると――

 ゴトゴト……

 「うわあ!? ジャイアントバイパーが三匹もいる!?」

 「ええ!? なんでこんなに! 大変、ヴァリアンとエレガンスが食べられちゃう!」

 「急ごう!」

 「離れなさい! 《フレイム》!」

 「頭を潰せば……!」

 僕達は武器を構えて馬車へ向かい、馬の方にいた二匹を僕とベルゼラで仕留める。その時、ルビアが荷台の方にいた一匹の尻尾を掴んで絶叫する。

 「こいつ!? アースドラゴンの卵を狙ってきたのね! た・べ・さ・せ・るかぁぁぁぁ!」

 あ、そういうことか!? ただの蛇ならアースドラゴンの卵なんて食べられないけどジャイアントバイパーならあの大きさの卵でも丸のみできる。匂いに釣られたのか分からないけど、荷台に放置していれば絶好の餌だ。

 「ルビア、そのまま持ってて、私がやるわ《テンペスト》!」

 「オッケー!」

 ルビアやクロウの拳だと蛇にダメージを与えるのはなかなか難しいため、エリィの風魔法でズタズタにする算段だ。目論見は成功し、ぶつ切りになったジャイアントバイパーがぼとぼとと地面に落ちた。

 「危なかったね。次からは馬車から離れないように焚火をしないとダメかな?」

 「それもだけど、森や林で野営するときは夜中も見張りを――」

 僕が提案を口にしようとした直後、アニスの悲鳴が上がる。

 「きゃあああ!? おねえちゃん! いっぱい来たよ!?」

 「え!?」

 見ればうぞうぞと大量のジャイアントバイパーが馬車に向かって来るのが見えた! 昨日までは開けた場所だったからこういうことにはならなかったけど、どうやらドラゴンの卵は蛇魔物にとって随分とご馳走らしい。

 「《ダークシックル》レオス、ここは逃げよう。いくらでも来そう」

 メディナの黒い鎌が迫りくるバイパーの頭を切り裂く。しかし、怯まず生き残りは突き進んでくる。

 「そうしよう! ルビア馬を動かして! 忘れ物はない?」

 「だ、大丈夫!」

 「僕達は荷物を荷台に置いているから大丈夫だよ!」

 「じゃあ馬車に乗り込んで!」

 「レオスはどうするの?」

 「僕はしんがりを務めるよ、レビテーションですぐ追いつけるから。エリぃとベルゼラは正面から来るやつらをお願い!」

 「わかったわ! レオスさんなら大丈夫だと思うけど、気を付けてね!」

 僕はこくりと頷くとファイアアローで牽制をしながら後退する。インフェルノブラストでもいいけど、森林火災になるのは避けたい。

 「いや、まいったな……こりゃさっさと国境まで行かないと休めないかも……!」

 僕は一人呟きながら魔法を連射するのだった。

 そして、予定よりも一日早く僕達は国境へ到着することになった――
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