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第六章:大魔王復活?

その128 復活……?

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 「ここが……」

 黄泉の丘――

 原っぱだと呼んで差し支えないその場所。そこから見る景色は、ふわりとした風と相まってほのぼのとした気持ちになれた。

 「よいっしょ」

 「ありがとう」

 「あんまり無理しないでくださいよ?」

 「そういえば、仲が悪いと思っていたけどバス子はメディナを心配していたよね」

 正直意外だった、とは言えないが。

 「まあ、なんだかんだで一緒に居るわけですから死なれるのは寝覚めが悪いんですよねえ。ほら、『鹿』が合うって言うじゃありませんか」

 それを言うなら――と僕が挟もうとしたところでメディナが言う。

 「私は『馬』が合う。二人そろって」

 「「馬鹿」」

 「なんですよ」

 「おー。いいコンビネーション。イチゴ大福仲間だもんね」

 ガクっとなる僕とベルゼラに、エリィだけはパチパチと称賛の拍手を放っていた。ま、まあ、仲がいいのはいいことだよね……
 とりあえず回復していないメディナを背負い、僕達は終着で間違いないと思われるストーンサークルへと足を踏み入れた。

 「天気がいいのに空気がひんやりしているような気がするわね」

 「確かにそんな気も……。それより、ここで儀式をする、ってことですけど具体的になにをやるんでしょうねえ」

 ベルゼラとバス子が石の柱に手を当てながら見上げ、そんなことを話している。

 このストーンサークルは奇麗な円柱が十二本地面に刺さっていて、その上に四角い石柱が、円の形に沿ってぐるりと横倒しに乗っている、という形だ。
 ベルゼラの言う通り、サークル内と外では外気温が違い、さらにシン、としていて風の音すらも遮断されているような空間だな、と感じる。
 
 「レオス、降ろす。座っていれば平気」

 「やるわね、メディナ」

 「?」

 「そういうのは変わってないんだね……」

 ダジャレっぽい言い回しに反応するエリィに目を細めると、口に手を当てて焦る。

 「あ、あはは、記憶は確かにエリザベスだけど、根本は『エリィ』だから仕方ないのよ。ソレイユ様もしばらくは記憶の混濁があるって言ってたしね」

 「なるほどね。まあ、僕も最初はそうだったしわかるけど。さて、とりあえず聖杯と大魔王の灰をっと……」

 サークルの中心で僕はカバンから必要な道具を取り出していると、ベルゼラがネックレスを差し出してきた。

 「これもよね?」
 
 「あ、そうそう。悪いけど借りるね」

 聖杯に灰とネックレスを入れる。

 「いいわよ、お父様の復活のためだし。後は……聖杯を満たす生き血ね」

 「そういえば……」

 そんなことを言っていたような覚えがある……まずい、用意していない!?

 「……無いですね、血」

 「うん……魔物でも倒して手に入れようと思ってたけど、ゴタゴタに巻き込まれていてすっかり忘れていたよ……」

 その話を聞いたのもベルゼラとバス子に出会った時だし、忘れていても無理はない。と、心の中で言い訳をしつつ、冷や汗を流す。ここまで来てダメでしたというのはいくらなんでもあんまりだ。
 どうしよう、みんなに待っていてもらって魔物の生き血をかき集めてくるかな? でも、魔物の血で大丈夫なのか心配でもある。やっぱり女の子の生き血? でもみんなにそんなことはさせられないし、町に戻るのは少し遠いし、どう言いくるめて血を採るかもすぐに思いつかない。
 じゃあ僕の血で、と言いたいけど聖杯を満たすほどの血を抜いたら死んでしまいそうである。

 「レオス」

 「あー、まいったなあ……ん? メディナ、どうしたの?」

 僕の裾をくいくいと引っ張り、呼ぶのでメディナへと振りむくと、いいアイデアがあると言わんばかりに眉を吊り上げていた。相変わらずそれ以外で感情は読み取りにくい。

 「多分、レオスの血なら、少しあればいいと思う」

 「そうなの?」

 エリィが首を傾げて聞くと、メディナはこくりと頷き、また僕を見て口を開いた。どうやらここからが本番らしい。

 「拳聖がいれば楽だった。けど、ここは私の出番」

 「ルビア? なんでルビアが関係あるのさ」

 「すぐにわかる。レオス、聖杯を持って私を見る」

 「? こう?」

 「嫌な予感しかしないんですけど……」

 言われるがまま、聖杯を持ってメディナを見ると――

 ぺろん

 と、服の前をはだけ、形のいいバストを露わにした……!? 着痩せするタイプ……! とかそういうことを考えている余裕もなく、

 「ぶはっ……!?」

 と、僕の鼻から血が噴き出した。

 「大噴火!? というかあんた姐さんほどじゃないですけど大きいですね!?」

 「ぶい」

 「くっ……」

 「ベル、そんなに悔しそうな顔をしなくても……」

 そんな会話を聞きながら、ぼたぼたと流れる血を聖杯へと注いでいく。全部を満たすことはできないけど、灰とネックレスが血に染まるくらいは噴き出したようだ。

 すると――

 「あ! レオスさん、中央! サークルの中央が光ってます! 聖杯を置くんじゃないですか!?」

 「本当だ! よし……!」

 「鼻血を出しながらキリっとした顔も悪くないわね」

 ほっといてよ!? 反論する間も惜しいので、僕は聖杯を光の中心へ置く。どうやら、太陽の光がここだけに射しているみたいだ。聖杯を光の中へ置いて、一歩下がる。

 ボシュゥ……

 「聖杯が……!」

 「いよいよお父様が……!」

 聖杯から奇妙な煙が噴き出し、ストーンサークルを覆っていく。今度は聖杯が輝き、カタカタと震えだした。

 カタカタ……カタカタカタカタカタ……

 カッ!

 「うわ!?」

 「きゃあ!?」

 「まぶしい」

 「ふふふ……」

 「め、めがぁあ!?」

 聖杯がひときわ輝き、僕達は視界を奪われる。だが、それも一瞬のことですぐに光はおさまり、聖杯の様子を伺おうと目を向けると――

 「ふはははは! 我、復活せり!」

 居丈高に若い男が笑っていた。

 ……尻丸出しで。となるともちろん……

 「いやあああああ! 変態ぃぃぃ!」

 ベルゼラの悲鳴を皮切りに、エリィが顔を赤らめ、両手で顔を覆う。

 「……最低……」

 そしてバス子が大魔王(?)と思われる男へ槍を投げる態勢に入っていた。

 「悪よ滅びろ……!」

 「やめるバス子」

 メディナが足を掴んで止めていた。やはりご主人に危害を加えるのは良しとしないのか。

 「槍が汚れる。ここは魔法で吹き飛ばすのが得策」

 「なるほど」

 違った。

 わーわーと僕達が暴れていると、男が僕達に気付き、振り返ろうとした!?

 「む、小僧か! それに我が娘もいるよう――」

 「こっちを向くなぁぁぁぁ! <ファイヤーボール>!」

 「なんでっ!?」

 ボゴン!

 勢いよく地面にファイヤーボールがヒットし、爆風で男が吹き飛んでいった。奇跡的にうつ伏せで倒れてくれたのは僥倖というほかない。

 が、男はその後ピクリとも動かなくなってしまう。


 「あ、あれ? だ、大丈夫……ですか?」

 「はらほろ……」

 布を持っておそるおそる近づくと……男は気絶していた。

 それにしても、随分若い顔をしているな……本当に大魔王?
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