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第六章:大魔王復活?

その122 あまりの光景

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 大丈夫……大丈夫だ……!

 あの時とは状況が違う、エリィもベルゼラも戦えないわけじゃない。バス子だって悪魔だし、冥王だって居る。

 ――頭ではわかっていてもそう簡単に割り切れないのが心というもので、僕は村長のゴルさん達を置いて一足先にアクセラレータを使い急いで戻ってきた。

 「くそ、もう入り込んでいる……!」

 村の門が開いているのを見て、慌てて村へと入る。額に汗を出し焦る僕は周囲を確認しながら走る。そして、入り口より少し奥まったところでエリィを抱えるベルゼラが視界に入り安堵する。

 だけどそれ以上に、目の前の光景が衝撃的で思わず足を止めた。

 「あ、あがあ……!? や、めろ……食うな……! くう……ごぶ……」

 「ひ、ひひひ! 腕が、骨に……ひひひひひひ!」

 「あ、あああああ……ぐぎゃ……」

 何故かはわからないけど、ごろつき達が村人に群がられ噛みつかれ、食われている……!? 村人たちはごろつきとの戦いで斬られたのか、血まみれのまま無言でむさぼりついていた。

 「やめさせる」

 【お食事の時間だからそれは無理さ】

 「趣味が悪い食事ですねえ!」

 霧の中、メディナとバス子、それと知らない声が聞こえてくる。金属音がするということは戦っているのか? 僕はエリィ達に合流しようと足を動かそうとするも、別の悲鳴が聞こえ、そちらに目を向けた。

 ぐちゃ……ぐちゃ……がつがつ……

 「なんだ!? こりゃ一体なんなんだ!? ち、近寄るんじゃねぇ!」

 声のする方を見れば、ごろつきのボスが群がる村人を追い払いながら後ずさっているところだった。なんなんだは僕のセリフだ。どうして村を襲ったやつらが襲われているのか……

 僕が逡巡していると、バス子達の前に立っていた人影……アイムが合図をすると、村人たちはピタリと動きを止め、アイムがボスの近くへ行き口を開く。

 「ふ……ふふふ……機会はないと思っていたのに、僥倖だと器の娘が言っているぞ」

 「な、何のこと――」

 「三十年前……お前がまだ若かったころ、この近くの村を襲ったことがあるだろう?」

 「そ、そんなこと覚えているわけが……」

 「お前は覚えているはずだ、このワタシと……親父を……」

 パチン!

 ザッ……

 「!?」

 驚いたのは僕。

 いつの間に追いついたのか、僕をすり抜けてアイムの元へ向かう、僕と一緒に村をゴルさん達。その目は暗く、空洞の中に青い光が小さく灯っている。

 「……!?」

 ゴルさんの顔を見たボスの顔が醜く歪み、どっと噴き出る汗。満足したのか、アイムの姿をした『何か』はニンマリと口を歪めて喋り出す。

 「あは、いい顔よ。思い出した? 三十年前、命からがらこの村に辿り着いたあんたのパーティを親父が助けた。傷が癒えたあんた達はワタシを襲おうとしたよね? 親父が魔法であんたを叩きのめしたら逆上して村人を皆殺しにした」

 「……っ」

 空いた手で顔の傷を触るボス。身に覚えがある、ということだろう。

 「レオス達を捕らえた時、あんた達も近くにいたのは本当に僥倖だったわ!」

 「し、知ったことか! もう一回殺してやる……!」

 すると、さっきまで笑顔だったアイムの顔がスッと真顔になり、手を顔の横へ持ってくる。

 「ゆっくり、苦しみながら死んで?」

 パチン!

 弾かれた指の音が響くと、ゴルさんがガクガクと体を震わせた後、

 「う、うううう《バーキュン・ブレイド》」

 風の最上級魔法!? 

 「な、なんだ……と!?」

 ザシュ!

 ドサリ……

 ボスは魔法を受けて前のめりに倒れた。正確にはずり落ちた、と言うべきか。斬られたのは両足で、勢いのまま足だけがその場に残されたのだ。

 「あがああああああああ!? い、いてぇえ!? 血、血が……た、助けてくれ! お、俺が悪かった! 回復魔法があればまだくっつく、た、頼む……」

 「ふふ。あの時、ワタシたちがそう言った時、あんたはどうしたかな?】

 恋人に向けるような笑顔で言い放つアイム。次の瞬間、だみ声のような声に変わり、

 【ククク、いい顔、いい絶望だいい飴玉になってくれるだろう。……やれ】

 「ひっ!? や、やめ――」

 その言葉を合図にゴルさん達は倒れたボスに群がっていく。

 【ふはははははは! いいぞ、力が漲ってくる!】

 「アイム、一体どうなっているんだ……?」

 隙を見てエリィ達のところへ合流すると、半泣きのベルゼラが僕の裾を掴んで口を開いた。

 「う、うう……村人が……エリィが……」

 「エリィ? 一体何があったんだい?」

 ベルゼラの肩に手を乗せて尋ねると、メディナとバス子に声をかけられた。

 「レオス」

 「はあ……戻って来てくれましたか……ちょっと、まずい状況です」

 「どういう――」

 二人に目を向けて僕は目を見開いてしまった。なぜなら、メディナの服はボロボロになり、バス子も腕を押さえて苦しげな表情をしていたからだ。

 「あいつはソウルロード。名はガイスト。大魔王様の創った魔物の一人」

 「大魔王の? ならメディナの仲間だったんじゃ?」

 「あいつは――」

 と、メディナが話そうとしたところで、アイムの姿をしたガイストが話しかけてくる。

 【自己紹介する手間を省いてくれてありがとう、冥王。さて、この娘の悲願は果たせた。『代わり』に我の食料となってもらうぞ】

 「何がなんだかわからないけど、お前を倒せばいいってことはわかったよ。良かったね、僕の仲間に対してケガをさせただけで済んで」

 【何を言っている? 力を落としたとはいえ、冥王ですらそのざまの我に敵うとでも?】

 「大魔王を倒した僕に言うセリフじゃないね……!」

 僕はセブン・デイズを抜いてガイストへと斬り込んだ……!


 ◆ ◇ ◆

 一方そのころ――


 「ああ、お母さん……おかあ……さん……あ、あれ? ここは……?」

 ――村人が切り殺され、アイネが倒れたところを目の当たりにして発狂しかけていたエリィは、気づけば不思議な空間にいることに気付き正気を取り戻していた。

 「白い……空間、私ここを見たことがあるような……」

 『お久しぶりです、エリィさん……いえ、エリーさん』

 「あ、あなたは……? う……頭が……」

 『こういう手段で貴女の前世の記憶を呼び戻したくなかったのですが、レオスさんが暴走した抑止力となるのはやはり貴女しかいません』

 エリィに話しかけてきたのは赤と白の髪を伸ばしている女神、ソレイユだった。

 「ええと、どこかでお会いしました……?」

 エリィにそう言われ、困った顔で笑うソレイユが話を続ける。

 「覚えていないのも無理はありませんね。最後に話したのは、この世界へ転生するときでしたっけ……今はそれはいいでしょう。先ほども言いましたが、エクスィレオスとして暴走するきっかけはエリィさん、貴女でした。ですが、それを抑止するのもまた貴女なのです。本来のお二人に戻ればレオスさんはきっと……」

 と、一気に言われエリィは目をぱちぱちさせてから、口を開く。

 「な、なにがなんだかわかりません!? ハッ!? まさか私死んだんですか!? だからいっぱい喋るんですね!」

 『ええっと……どういう?』

 「死んだ私に一杯話しかけてくる……それはきっとR.I.Pサービス! なんちゃって!」

 『ええー……』

 どうすればわかってくれるかと、ソレイユは笑顔のまま冷や汗を流した。
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