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第六章:大魔王復活?

その121 異変

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 「見つけられるかな?」

 「この霧だ、すぐには見つからないかもしれん。だけど、見つけさえすれば冒険者ランクが高いやつもいる。腕はなまっちゃいないだろうし、すぐに終わるさ」

 「みんな無事で帰ってきて欲しいね」

 村の入口付近で警戒をするバンと、居残った冒険者上がりの男がそんな話をしていたその時――

 「出て行った奴らより、自分たちの心配をするんだな?」

 「え?」

 ドシュ……

 「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」

 「な!? お、お前は……あああああ……!?」

 背後から声をかけられ、振り向いた瞬間……ごろつきの仲間にバンと男は一瞬で腹をショートソードで抉られ、その場に崩れ落ちた。地面にはじわりと血が広がり、ごろつきの男はすかさず門へと走って行く。

 「貴様どこから!? くっ、やあああ!」

 「一人か? なら――」

 門の周りには数人の警備がついていた。その中で、近くにいた二人が門に迫るごろつきを倒そうと斬りかかる。

 「はっ、当たるか。構っている暇は無い、後で遊んでやる」

 そう言うと、二人の斬撃をするりと躱し、門へ迫る。

 「まずい!? やらせるか!」

 「遅い!」

 ごろつきの男はかんぬきを一気に抜いた!

 「開くぞ!」

 男が叫ぶと、入り口で待ち構えていたごろつきの集団がなだれ込む様に入ってきた――

 「やれ。抵抗する奴は皆殺しだ。村をこのままそっくりいただくぞ」

 ボスがニヤリと笑いながら言葉を発すると、中へ入れまいと村の男達がごろつきへ飛びかかって行った。

 「くそ、どうしてこいつら全員ここにいるんだ!? うおおお!」

 「クク、お前等の行動などお見通しよ!」

 ボスのロングソードが村人の腹を薙いだ。

 「ぎゃあああああ!」


 ◆ ◇ ◆


 「今のは!?」

 「入口の方だわ、行くわよバス子!」

 「ほいきた!」

 「危ないからみんなで行きましょう!」

 「みんな、気を付ける」

 メディナがそう言いながらアイムをチラリと見る。アイムは少し俯き、表情は伺えなかった。

 「メディナ、急ぎますよ!」

 「わかった」

 エリィに促され、アイムを気にしつつメディナは後を追う。やがて村の入口に辿り着いた時、エリィ達は驚愕の光景を目撃する。

 「そんな……!?」

 「うわあああ!」

 「きゃああ! や、やめて……!」

 「うわははははは! 抵抗したな? 死ね!」

 「いや――」

 ザクッ!

 その光景は、村の入口が開かれごろつき共が村を蹂躙している様子だった。すでに幾人かの人間は切り伏せられ、動かない屍と化していた。
 不意打ちを受けた者や、腕利きも数の前には歯が立たず、次々と殺されている。そこへベルゼラが魔法で止めようとした。

 「や、やめなさい! 《フレイム》!」

 ゴゥ!

 ベルゼラの放った炎が明後日の方へ飛んでいき、別のごろつきを襲う。

 「ぐあ!? 魔法使いか!? よくみりゃ女ばかりじゃねぇか、いただくぜ!」

 炎を浴びた男は焦げながらもベルゼラを狙い、駆けてくる。それをバス子が槍で牽制した。獲物がまだいたかと、他のごろつきも数人やってくる。

 「えっへっへ、あんた達の相手はわたしですよ! さ、エリィさん、ここはわたし達に任せて村人の救出を!」

 「……あ、ああ……」

 「エリィ! どうしたの! このままじゃみんな殺されちゃうわ! ……この、やめろって言ってるのに! メディナ、なんで動かないの!?」

 「う、うう……あ、頭が……痛い……」

 顔色の悪いエリィが頭を押さえて苦しみだし、メディナがそれを支えながら視線を周囲へ動かす。

 「わ、私はいいですから……村の人を……」

 「……」

 「あうう……指が、熱い、です……」
 
 「もうすぐ、終わる」

 メディナがそんなつぶやきをすると、背後からアイムの母親、アイネが走ってきているのが見えた。

 「はあ……はあ……た、助け、て」

 「ははは! ほら、追いつくぞぉ!」

 しかし、その後ろには男が迫っており、追いつかれる寸前だった。ベルゼラが魔法を使いながらメディナに言う。

 「アイネさん!? メディナ早く助けないと――」

 だが、

 「……」

 エリィを抱えたままメディナは動かず、

 ザシュ……!

 「きゃああああ! ……ア、アイム……あなた……」

 血しぶきを上げてアイネはドサリと地面へ倒れ、エリィの目が大きく見開かれた。

 「あ、ああ……いやああああああ!? お母さん!」

 「な、なに!? エリィ、どうしたのエリィ!」

 「ああああ! うあああああああ!」

 頭を押さえてうずくまるエリィはメディナを振り払い、地面に膝を付いて叫び続け、レオスからもらった指輪が鈍く輝いていた。


 「エリィさんはダメか、ならわたしがやるしかありませんね。メディナ、何考えているかわかりませんが貸しですよ!」

 「悪い。任せた」

 「いつもそうやって素直ならいいんですがね! くそ、人が散りすぎて間に合わない……っ!」

 バス子が奮闘し、ごろつき共も倒れていく。だが、逃げ惑う村人の犠牲が多く、バラバラに逃げていくのでバス子の手が足りないのは目に見えて明らかだ。

 「チッ、まだ抵抗できるやつがいたか。野郎ども!」

 そこにボスが合図をし、残ったごろつきを自分の元へ集合させた。

 「よく頑張っているようだが、村長たちが戻ってくるのはまだ先だ。戦えるのはお前達だけのようだな? そこのちびっこと魔法使いだけでこの人数は捌けまい?」

 「ウッドゴーレムが使えたら楽なんですがねえ……」

 「なんでダメなの?」

 「適当な木じゃ大した奴は作れないんで」

 畑はあるが、太い木は見当たらないとぼやくバス子。敵はボスを含めたごろつき十三人。

 バス子は本気で行けば抹殺できるかと槍を握り直した直後、村全体が奇妙な気配に包まれ始める。霧が、漂っていた霧が死んだ村人に吸い込まれるように消えていく……

 「なんだ?」

 「チャンス……!」

 「バス、ダメ! こっちへ来る!」

 「ええ、始末するチャンスですよ!? ……くっ、お嬢様こっちへ! う、うわ……!?」

 「なに、あれ……!?」

 珍しく大声をあげたメディナに毒づきながらもベルゼラを回収してメディナとエリィに合流するバス子。直後、アイムがスッとごろつき達の前に姿を現した。

 「なんだお前? 襲われたいのか……って、お前の顔、どこかで……」

 ボスが目を細めると、アイムはニィッと口の端を上げて笑い、ごろつきへ告げる。

 「フフフ、新しい餌が来たと思ったらまさか仇に出会えるとは思わなかったわ……そう思うでしょ、みんなも?」

 「何を言ってるんだこいつ? とりあえず殺してその口を――」

 ごぶっ

 「は?」

 間抜けた声を上げたのは、『何を言っているんだこいつ』と言った男の隣にいた男だった。何故か?

 ……回答は、急に血を吐いたからである。

 その原因は――

 「ぎゃああああ! な、なんだ!? さっき殺した奴らが……や、止めろ、こっちへ来るな……!」

 「ぐあ!? か、肩を噛みやがった」

 ゲキゲキ……

 「あ……がはっ……」

 「な、なんだお前等、来るな! ……へ、へへ、心臓を貫いたら……な、何で動けるんだよ!? ああああああ……」

 霧を吸い込んだ村人たちが次々と起き上がり、ごろつき共へ襲い掛かり始めたのだ。それも、

 「うううう……こ、ここはトゥーンの、村……いいところ、だよ……」

 「ま、町から来たのかい……おみやげでも買って行ってくれよ……」

 「うちの畑で……採れた野菜……うま、い……」

 などと、うわ言のように同じ言葉を繰り返しながら。

 「まあ、あなた、も……アイムも……おかしな、ことを……言う、わ……ね……」

 そして、アイネもまた、ふらふらとごろつきどもへ歩いていく。

 「あう……うぐう……お母さんお母さん……」

 「何、なんなのこれ……しっかりしてエリィ! レオスさん、早く戻ってきて……!」

 エリィの肩をゆするベルゼラをよそに、目線をきらずにバス子はメディナに問いかける。

 「……黒幕はアイム。そういうことですか?」

 「そう。これは過去の残滓。それと現在の因縁。そこに私達が巻き込まれた」

 「どういう――」

 ことだ、と言い終える間もなくアイムがくるりと振り返って、笑う。

 「あなた達は極上の餌としてこの村で飼ってあげるから安心して?」

 「断る。お前はここで消滅させる。ソウルロード、ガイスト」

 メディナの言葉にアイムはピクリと眉を動かし、じっとメディナの顔を見たあと、大きく目を見開いて手をパンと一度叩いた。

 【……ほう、ほうほう! その姿、お前は冥王か! 随分貧弱そうな体をしているかわからなかった! なるほど、それならワタシの名前が出てくるのも道理か!】

 アイムの口から、ダミ声が響き渡る。

 【力も弱まっているな? その体、もらい受けよう……!】
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