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第六章:大魔王復活?
その120 巻き込まれた者達
しおりを挟む「首尾は?」
「救援を呼びに行こうとした若造二人を血祭りにあげて、村の前に捨ててきたぜ」
それを聞いたごろつきのボスと呼ばれていた男が満足そうに頷き、話を続ける。
「姿を見せたのに動き出さない俺達に不安をかられていただろうな。で、救援に行ったはずの人間が三日後に村の前で打ち捨てられる。となると次に出る行動は簡単に割り出せる」
「流石はボスだ。それじゃそろそろ……?」
総勢二十人ほどのごろつき共は、村の近くで機会を伺っていたのだ。そして――
「ああ。村に潜伏しているやつにも知らせておけ。村の連中に動きがあったら伝えろとな」
「了解しましたぜ」
村に総出で破落戸共が現れた際、壁をよじ登って一人村へ侵入した者がいたのだ。注意を引くため、村人を斬り、ボスが姿を見えたという訳だった。
「そういえばあの時もこんな深い霧だったかねえ……傷がうずきやがる」
「どういうことで?」
「……いや、なんでもない。得物を磨いておけ! 大立ち回りはこれからだ!」
◆ ◇ ◆
「なんということだ……エリィ様、何とかなりませんか」
「ダメですね……もう亡くなってから時間が経っています……」
そう言って首を振るエリィは悲痛な表情をしていた。エリィには回復魔法はあれど、蘇生魔法は無い。黄泉の丘の儀式ならあるいは、というところだけど僕達がここから出られなければそれも難しい。
沈痛な面持ちの村人達によって遺体は丁重に葬られると、村の真ん中に全員が集まり話し合いが始まった。もちろんごろつき共についてだ。
「どうする村長? また誰かを呼びに行かせたら殺されるのがオチだぞ」
「わかっている……じわじわと恐怖を植え付けるつもりだろう。だが、逆に言えば奴らはわしらの動向を探れる位置にいるということ。こちらから迎え撃つか……」
「!? ちょ、ちょっと待ってください! 村人だけであのごろつきと戦うつもりですか!?」
無茶な提案に僕は驚いて声を上げるが、村長は手で制して笑いながら答えてくれた。
「なあに、わしはこれでも魔法使い。それに、この村に辿り着いたものの中には冒険者も多いのだ。この地に身を埋めようと集まった者がな。だから十分に勝算はある」
「流石親父だ! ワタシも行くからね!」
「お前はダメに決まっておるだろうが!」
と、親子喧嘩を始めたゴルさんとアイムを見て、エリィがそっと耳打ちしてきた。恐らくはまあ、そういうことだろう。
「レオス君……」
「わかってるよエリィ。ゴルさん、僕も参加させてください。こういうことは早めに終わらせた方がいいですしね」
「おお! それは助かります! ぜひ! よし、急ぐぞ。弔い合戦だ」
おー! と、意気消沈していた村の男達が色めき立ち、自分の家へ武器や防具を取りに散会する。女の人たちや、バンのような非戦闘員は村で引きこもる形となった。
「ごめん、役に立てなくて」
「ワタシだってそうだよ! もー親父のヤツ、仇を取らせてくれてもいいだろうに!」
広場ではアイムやバン、それと若い衆が残り、各々不満を述べていた。それを尻目に僕達は少し離れて話し合いをする。
「足止めを食らった挙句人死にを目の当たりにするなんて面倒なことこの上ないですねえ。えっへっへ、少し暴れさせてもらいま――」
「いや、バス子は村に残ってほしい。エリィにベルゼラ、メディナも」
ガクっとバス子が崩れ、エリィが首を傾げた。
「どうしてですか?」
「何が起こるかわからないからね、できるだけ固まっていて欲しいんだ。ごろつき相手なら僕一人で十分だろ?」
「……わかった」
すると、メディナが少し間をおいて頷いた。そういえば、と僕はソレイユに貰った指輪をエリィとベルゼラに手渡す。
「これはなんですか? きれいな指輪ですね!」
「ま、まさか結婚指輪……!? これを受け取ったらレオスが死んだりしない……?」
死亡フラグとでも言いたいのだろうか。ルビアがいなくて、緊張している今ならどさくさに紛れて渡せるだろいうという打算からだけど、そう言われると不吉な気もする。
「お守りみたいなものだよ。こっそり買っていていつ渡そうか悩んでいたんだよね」
「ありがとうございます! 大切にしますね!」
「気を付けてね? こっちはエリィもメディナもいるから戦力的には不足ないけど」
「わたしは!? ねえ、お嬢様!? あと、レオスさん、わたしには!?」
「ずるい。体で払ってもらおう」
すがるバス子と、嫉妬を含んだ声を出すメディナをスルーし、僕は入口へ向かう。
入り口で行軍するメンバーたちと合流を果たすと、すぐに出発をした。もちろん腕利きを数人村に残している。奴らが二手に分かれて村を襲わないという可能性もあるからだ。
「門はしっかり閉めておけ! いくぞ、皆の者!」
ゴルさんの合図で林の中へと入り、濃霧の中を進んでいく。ここから脱出できる手がかりが無いかと、気を張ってみるがそれらしいものは見つからなかった。
「こ、こっちに足跡があるぜ!」
「……近いか……?」
片手剣を手に、前を歩いていた男性……確か麦を作っていたイーバだったっけ? が、目ざとく足跡を見つけ、それに沿ってさらに奥へ進む。
それから30分ほど経過するも、姿はおろか気配すら感じ取れない。……嫌な予感がする、と僕が考えていたその時、村長が口を開く。
「いくらなんでも、ここは遠すぎる。あの二人が出て行ったのを見ていたなら、斥候を含めてそれほど遠くには行かないはず。戻ろう」
するとイーバが慌てて別の方向を指さす。
「あ! ああ! こっち、こっちだ……!」
「そっちは街道だろう?」
「あ、ああ、そうだっ、け……」
ガタイのいい装備を着こんだ男に指摘されたイーバはガタガタと震えながら酷い汗をかいていた。
「痛っ……! あ、そうか、そういうことか……!」
その姿を見て、僕の遠い記憶が呼び起こされた昔、前世で僕がエリーを失った時と同じ手口……!
「? 何なんだ?」
「みなさん、急いで村へ戻へ! これは囮です! 今頃ごろつき共は村を攻めているはず!」
「な、なに!?」
そこでイーバがガクリと膝を付き、頭を抱えてうずくまりながらすすり泣き始めた。
「う、うう……ご、ごめんよみんな……ウチの嫁が、人質に……あいつらいつの間にか村に侵入していて……」
やっぱりか……!
くそ、思い出すタイミングが悪すぎる……! でも、前世の時とは勝手が違う。エリィ達なら村を守り切れるはずだ!
僕達はイーバを置き、元来た道を全速力で戻り始めた!
◆ ◇ ◆
<トゥーンの村>
エリィ達は不測の事態が起こってもいいように、家の外で待機していた。レオス達が出発して三時間が経過し、緊張感の中でバス子が気を紛らわせるため口を開く。
「レオスさんならサクッと終わらせてくれるでしょうし、ご飯でも食べて待ちましょう! メディナもそれがいいって言ってます!」
「うるさい貧乳」
「おま!? いつも人のご飯を横取りしようとしているのに何て言い草ですかね! 表へ出ろい!」
「まあまあ、落ち着いてバス子ちゃん。でも言う通り、レオス君が何とかしてくれますよ。だから安心してください、アイム」
「……」
「アイム?」
エリィが元気づけようとアイムに声をかけるが、俯いたまま黙っていた。ベルゼラも様子がおかしいと思い、肩に手をかけると――
「ええ、そうね。でも、親父たちが心配だよワタシは」
そういったアイムの顔を見て、メディナ以外の三人が言葉に詰まった。メディナは珍しく目を細めてアイムを見る。そしてようやく、エリィがアイムに話しかけた。
「……心配、なのに、どうしてアイムは……笑っているんですか……?」
エリィの問いには答えず、アイムは笑顔を張り付かせたまま、村の入口の方角を見ながら呟いた。
「始まるわ」
「え? なに――」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」
エリィが口を開く間もなく、静寂の村に悲鳴が響きわたった。
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