上 下
125 / 196
第六章:大魔王復活?

その118 トゥーンの村

しおりを挟む


 <土曜の日>

 ――アイムに案内された村の入口で休んだ次の日、僕達はアイムにお礼を言うため村の中を歩いていた。畑や家畜の厩舎がそれなりにあるため、村というほど狭くないのが驚きだったりする。林の中から結構奥まったところにのどかな村が広がっていると言えば伝わるだろうか。
 寝足りないのであくびをしながら朝霧の中を歩いていると、バス子が呆れたような口調で、腰に手を当てながら回り込んでくる。

 「また女の子をナンパしたんですか? レオスさんも凝りませんねえ。そろそろお嬢様とエリィさんに刺されますよ? あ、姐さんもか」

 「僕から声をかけたわけじゃ……いや、誰だって先に言ったのは僕だからそうなるのかな……? それにどうしてルビアが出てくるの?」

 バス子の理不尽な発言に混乱しつつ、村を歩く。村人は気さくな人ばかりで、顔を見るたび声をかけてくれる。そうこうしているうちに、ようやくアイムを発見できた。

 「やあ、昨晩はどうもありがとう」

 「あ、おはよう! よく眠れた? そっちのど……女の子達も! いやあ、やっぱり都の人たちは美人さんが多いね。とりあえず親父に会って行ってくれよ!」

 そう言ってアイムは『村長の家』と書かれた看板のある家へと入っていく。わかりやすいけど、書かなくてもいいんじゃないかなあ。


 「ようこそトゥーン村へ。わしが村長のゴルです。娘の夜狩りに出くわしたとか? 粗相をいたしませんでしたかね?」

 「親父!?」

 人の好い顔をしたおじさんがアイムの頭をポカリとやりながら自己紹介をしてくれた。なるほど、村長の娘なら旅人である身元不明の僕達を招き入れてもある程度は不問になるってところかな。村人が挨拶をしてくれるのは村長の娘の客人だからというのもありそうだ。

 「夜分すみませんでした。僕は一応このパーティのリーダーであるレオスと言います。で――」

 「エリィです」

 「ベルゼラと申します」

 「あ、バス子でいいですよ」

 「メディナ」

 エリィ達もそれぞれ自己紹介すると、ドルジさんはうんうんと頷き、握手を求めてくる。

 「いいですなあ。若い子ばかりで羨ましい! わしももう少し若ければ……」

 スカン!

 「ぐあ……!?」

 「若かったら何をする気かしらねえ……? あっと、お見苦しいところを見せましたね。私はアイネ。村長の妻ですよ。ゆっくりしていってくださいね」

 「……痛っ」

 「どうしたのエリィ?」

 エリィが一瞬頭を押さえて呻いたので、心配になって耳打ちする。

 「何でもありません、頭がチクってしたんですけど、もう大丈夫です!」

 ほんの一瞬だったから大丈夫かな? 気圧の変化とかで頭が痛くなることもあるしね。安心していると、村長さんが話を続けてきた。
 
 「それで、レオスさん達はどこへ行かれるおつもりか?」

 「えっと、この先にある『黄泉の丘』ってところへ」

 「ほう『夜見の丘』ですか。確かに、きれいなお嬢さん達と行くにはいいかもしれませんなあ。その名の通り、月夜の夜に丘から見える景色は絶景ですよ」

 ん? その名の通り……? ゴルさんの言葉に違和感を感じたけど、挟む間もなくどんどん話してくる。

 「やはりここに村を作ったのは良かったです! あなた方のように冒険者や旅人が立ち寄ってくつろげるような村を目指しています」

 「いいですね、そういうの! 地図には載っていませんでしたけど、できたばかりなんですか?」

 「そうそう、まだ三か月くらいなもんさ。王都にも、ギルドにも開村したことは告げているから、地図や案内もその内できると思うよ! じゃなきゃ、ネーレさんの宿屋が商売あがったりだもん」

 やれやれといった感じのアイムがおかしくて、僕達は笑う。うん、こういう穏やかな村は是非発展していってほしいよね。

 それはともかく、今は黄泉の丘へ急がないと。奥さんであるアイネさんの淹れてくれたお茶を飲んでから、笑顔でお礼を言う。

 「それでは、僕達はそろそろ出発しますね。休ませてくれてありがとうございました! また機会があれば他の仲間と一緒にまた来ます」

 「あれ!? もう行っちゃうの!? 都の話は……?」

 「ごめんなさい。少し急いでいるので、もう行かないといけないの」

 ベルゼラが申し訳ないと言った感じで返すと、アイムは不満そうに口を尖らせるも、それ以上何も言っては来なかった。

 「……それじゃあ、見送る」

 「わしも行こう。お客さん第一号だったからな! はっはっは!」

 ゴルさんがすねる娘の背中をバンバン叩いているのを馬車のところまで再び歩いていると、慌てて走ってくる村人がゴルさんへ叫ぶ。

 「そ、村長……! 賊だ、賊が出た! 入口で男連中が止めている!」

 「何!?」

 「レオス君、私達も行きましょう」

 緊迫するワードが飛び出し、僕達は入口へ走る。村の周りは杭のような高さ10メートルくらいの丸太を何本も組んで外壁にしているので容易に乗り越えることは難しい。確かに入るなら正面からだけど、相当な自信がないとできない。
 
 駆けつけると、いかにもガラの悪い男達が武器を手ににやにやと笑っているのが見えた。地面には斬られた村人が数人うめき声を上げていて、他の村人は槍や斧などを手に、入り口から進めないように取り囲んでいる。

 「エリィ!」

 「はい! 《キュアヒーリング》」

 ザっと、僕は村人たちを庇うように立ち、エリィが回復魔法を使って癒す。

 「なんだお前達は!」

 「ゴルさん、危ないから下がってください」

 興奮した状態のゴルさんを僕が手で制していると、ごろつきの間を縫って、一人の男が姿を現した。歳は……五十歳前半って感じで、片目に大きな傷跡がある。ボスらしき男が口を開いた。

 「いやいや、済まないな。まさかまた村があるとは思わなくて……つい襲っちまった! ひゃはは! ちと訳アリで逃亡中なんだがちょっと匿ってくれねぇか? 女もいっぱいいるみたいだしよ。痛い目に合いたくはないだろ」

 「こいつ……! 親父、言ってやれよ!」

 エリィ達やアイムを見て勝手なことを言う男に怒りを覚える僕。それはみんなも同じで、相手を睨みつけながらゴルさんの言葉を待った。

 「断る! 匿ってほしいだと? どうせロクな理由じゃないだろうが。いきなり斬りかかるようなヤツらなぞ村に入れるのも胸糞悪いわ! 《フレイム》!」

 ボン! と、ボスらしき男の足元で炎の魔法が炸裂し、怯む男達。ゴルさん魔法使いだったんだ。

 「チッ、魔法使いか……お前等、行くぞ」

 「いいんですか、ボス」

 やっぱりボスだった。

 「構わねぇ」

 約20数人の男達はぞろぞろと朝霧の中へ消えていく。もしあいつらに魔法使いがいなければ村を占拠するにはごろつきでは厳しい。
 村の男の人も、こういう状況を想定しているので荒事には強そうだ。斬られた人は多分、不意打ちを受けたんだと思う。

 「まったく、折角の客人にケチがつく。皆に夜狩りはしばらく止めにするように伝えてくれ、王都のギルドに討伐の依頼を出そう」

 「わかりました。すぐに手配しましょう」

 屈強な角刈りの男性が頭を下げて走って行く。それを見送っていると、ゴルさんが笑いながら僕達へ向き直る。

 「いやはや、申し訳ありませんな! 出発に水を差したようで」

 「いえ。でも大丈夫ですか? これでも僕達は冒険者です。応援が来るまで滞在しましょうか?」

 「そうだね――」

 僕の提案にアイムは乗り気だったけど、ゴルさんは首を振って笑う。

 「いえいえ、お急ぎなのでしょう? あれくらいなら我々で何とかします! これくらいでへこたれていては村の存続などできませんからな」

 「そうですか……?」

 ゴルさんは大丈夫と念押しをしてくれ、アイムはやはり不満そうだった。悪い気もするけど、僕達には目的があるので、馬車を走らせ村を出発した。

 「……ちょっと心配ですね」

 「まあ、村は強盗に野盗に魔物などなどをいかに駆除していくかが肝ですからねえ。村長さんが魔法を使えるだけでもかなり違うと思いますよ?」

 「そうね。自分たちでできるというのだから水を差すのは悪いわよね。……それにしても、霧が凄いわね。レオスさん、道大丈夫?」

 「うん。アイムに丘の方角を教えてもらったから、大丈夫。地図の方向に進んでいるよ。夜だったら危ないけどね」

 少し霧が出ているけど、時間が経てば消えると思う。雨が降るような感じでも無かったからね。

 「……」

 しかし――


 「あ、あれ……?」

 「どうしたんですか? ……え」

 丘に向かって走っていたはず……なのに、目の前には先ほど出発した村の入口が、見えていた。
しおりを挟む
感想 448

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

処理中です...