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第六章:大魔王復活?
その112 まさかのお友達?
しおりを挟む<闇曜の日>
「これは……」
「困りましたね……」
野営から二日。予定通り国境まで到着できたのだけど、それは喜びとは程遠いものだった。
僕とエリィのぼやきを聞いたメディナがフワリと馬車の屋根に乗り、遠く……すなわち国境の門がある方を見てから僕達に声をかける。
「この列は50人くらいいる。しかし不思議だ。向こうから来る人達はどんどん進んでいく」
「確かにそうですね。ハイラル王国に入るのがシンドイって感じですかね。荷物とか逐一調べているみたいですけど」
バス子も御者台に立ってそんなことを口にする。確かにこっちの列は進まないのに、向こうから入ってくる人達は明らかに多い気がした。
何かあったのか……? もしかしてセーレの時のように僕達のことが出回っている? となるとこのまま行っていいものか考えるが、結局ここを通る以外に先へ進む方法も見当たらないので大人しくすることにした。空を飛べばいいけど馬車を手放すことになるのは嫌だしね。
「50人くらいで列が進まないんだからよっぽなのね……あ、そうだ。待っているのも退屈だし、レオスお店やってみてよ。パンケーキの味見してあげるわ」
「あ、それいいかも! レオスさん、売り子やるわよ!」
ルビアの提案は正直悪くないかも、と思う。列に並びながら屋台を出してはいけないというルールはないからね。見れば僕達の後ろにも列が増えだしたので、売れるかも?
「じゃあ、僕は後ろに行くから誰か御者を頼むよ」
「あたしがやるわ。だから初めにちょうだいね」
にっこり微笑むルビアと入れ違いに交代し、僕は早速準備に取り掛かる。
ガコン、ギィィ……
キッチン部分の屋根をレバーで上にあげ、逆サイドも開いて完全にオープン状態になる。そこで前後に居た人はぎょっとし、他の人もざわざわとし始めた。ふふふ、注目されているね。
さて、火の魔石をカバンから取り出し、二連式のかまどの中へ放り込んで火を熾す。あたたまってきたところで大きめの鉄板を出してかまどの上に乗せる。
「えっと、エリィ手伝ってもらっていい? ここのスペースに果物を置いて欲しいんだ。ベルゼラはこっちの牛乳と、溶かしたバターを混ぜて生クリームを作ってくれないかな?」
「わかりました!」
「こう?」
生クリームはまだこの世界で確認されていないので僕が初になりそうだ。バニラエッセンスとかがあれば美味しいものが作れそうだけど、とりあえずミルクとバターでできるさらっとした生クリームで様子見だ。
「バス子、ハチミツをこの瓶に詰めてもらえる?」
「ほいほい」
「私も何かする」
みんながいそいそと働き出して不満なのかメディナも何かさせろと僕の服を引っ張る。うーん、もう手はいらないけど……
「メディナはこれに文字を書いてもらっていい?」
スパパパ……!
木を一本切り倒して看板のようなものを作ると、メディナに紙とペンを渡し『フルーツパンケーキあります』と書かせることにした。
「任せろ」
何故か自信満々でペンを手に取って作業に入る。まあ、これで大人しくなるしいいかな。では、ということでパンケーキの材料の小麦粉とミルク、卵に砂糖だ。砂糖はちょっと高かったけど、小麦粉は10kgほどで銀貨六枚。だいたい200グラムで一枚作れる計算だから200枚は作れるはず。材料費は全部で金貨一枚と銀貨くらいかな。フルーツなども村長さんからもらったのでそこまで出費は痛くないのだ。
「いろいろ見ておくもんだね」
「何がです?」
「前世の記憶があって便利な瞬間ってことさ」
エリィに返事をした後、生地を作り終わったので鉄板に油を引いて焼き始める。砂糖が入っているので、ポツポツと表面に穴ができ始めると、いい匂いがふわりと風に乗って辺りを漂い始めた。
「お、なんだかいい匂いがするなあ」
「パパ、お腹空いた!」
屋台は匂いを食べさせると言っても過言ではない……そろそろ声をかけようか。メディナに看板のできを伺う。
「どう? 看板できた?」
「力作」
バァーン!
という効果音が似合うくらい達筆な看板ができていた!? おお! ……おお……。
「文字がおどろおどろしいわね……」
僕のがっかりを代弁してくれたベルゼラの言う通り、とても字体が怖い。そこは冥王だからと思うしかないのか……
「ま、まあ、いいや。それじゃルビア、一枚どうぞ。生クリームとハチミツは好みでかけて。それとこっちで食べてくれるかな?」
「いいわよ。あら、リンゴもあるのね。あたしの好物を乗せてくれるなんて、嬉しいじゃない! ん……あむ……美味しい!」
ルビアが満面の笑みで感想を言う。オープンになっているので、四方からルビアが見えるのも肝。美人が美味しいというものは興味が出るはず……!
「それじゃ売っていくよ! フルーツパンケーキです! 待っている間におひとついかがですか? 銅貨四枚ですー」
「美味しそうだね、二つ貰おうか」
早速、後ろの乗合馬車に乗っていた親子が降りて買いに来てくれた。女の子は8歳くらいかな? とても元気そうにフルーツを見ている。
「はい! 基本はバターで食べます。それとこちらで作った『生クリーム』という調味料はお付けしますか? ハチミツもありますし、お好きなフルーツを一つ盛りつけられますよ! フルーツは二種類以上に追加すると銅貨五枚になります」
「パパ、あたしバナナも食べたいー」
「わかったわかった。私はなまくりいむとハチミツだけでいい。それとこの子の分にはバナナを頼むよ」
「わーい!」
親子は馬車に戻って使い捨てのフォークでもぐもぐと食べ、女の子は終始美味しいを連呼。父親も「ほう」と生クリームに舌鼓を打っていた。
「へ、へえ。美味そうじゃん……お、俺も」
「あたしもー!」
そこからは早かった。あれよあれよと購入者が増え、飛ぶように売れた。
「せっせせっせ……」
「うおおお……こぼさないように……!」
全員一丸となり、少しずつ進みながら販売を続ける。列も後15人くらいになったかな、というあたりで客足も少し減ってくる。到着した時は昼前だったけど、陽も傾き始めていた。
僕達も休憩がてらパンケーキを食べてくつろいでいた。
「レオス。一生ついていく」
「おおげさだけと思うけど……でも、飲み物も用意してセットで売っても良かったかな? 結構好評だったし、コーヒーとかフルーツジュースとかもいいかもしれない」
「レオスさんのカバンがあれば日持ちは気にしなくていいのは……もぐもぐ……いいわよね」
「私もお料理にまわりますよ!」
「そうだね、生地が少なくなってきたから――」
「すみませんー、二つ貰えますか?」
「あ、いらっしゃいませ」
「わたし、桃が食べたい!」
「はいはい。それじゃパンケーキを二枚で、一枚は桃のトッピングで」
と、冒険者風の男女が買いに来た。カップルかな? 僕と同じ年くらいにみえる男性はマントを羽織っている。女の子は金髪に赤いリボンがよく似合っていて、可愛らしい。こちらも同い年くらいだと思う。
「お待たせしました!」
「ありがとうございますー!」
「お二人はカップルなんですか?」
「ブッ!?」
「エリィ、そういうのは聞くものじゃないよ」
ササっと作って二人に渡したところで、エリィに尋ねられて噴き出す男性。真面目そうな感じがするからこういうのは苦手かな?
「……ふう。僕は修行の旅をしているんだ。そしたら幼馴染のこいつがついてくるって聞かなくて……」
「えー。わたし役に立ってるでしょ? それに旅の間変な女の子に目をつけられても嫌だし」
「いいですね!」
「あー……はは……」
無責任なエリィの発言に苦笑いをする僕と男性。そこに御者台からルビアが顔を出す。
「あー進まないわ……お水貰える?」
「……!? あ、あなたは!?」
「え? 誰?」
ルビアを見た途端、目を丸くして驚く男性。そして、彼はパンケーキを一気に口に詰め込んでからルビアに頭を下げる。
「僕はクロウ。拳の修行をしています。拳聖のあなたに是非、お手合わせをお願いしたいです!」
「え!? この美人さんが……もっとゴリラみたいな人かと……」
「こら!? しつれいだぞアニス!? す、すみません……どうですか……?」
まさかのルビアをご指名したクロウ。なんだろう、アニスって子と話しているのを見ていると親近感がわくのは……。
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