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第六章:大魔王復活?

その110 商人の子か悪神か

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 <風曜の日>

 なんやかんや……本当になんやかんやあったけど、改造荷台が完成する日がやってきた! ……三泊四日だったのが四泊五日に繰り上がり、メディナが追加という痛い出費はあったけどね……冥王様は無一文でした……いや、なんとなくそんな気はしていたけど。


 「ありがとうございました。この町に立ち寄られた際には、当宿をご利用ください」

 「はい。無理言ってすみません、ありがとうございました」

 出発を告げると、チェックインした時と同じ目の細いオールバックの受付男性に見送られた。

 残りの四日間はみんな大人しく過ごせていたんだけど、メディナがビュッフェ荒らしとして他の泊り客にひそひそされていたのは内緒だ。
 何気に食事を採らなくてもいいという便利な体らしいんだけど、僕がご飯を食べるから一緒のことをしたいのだそうだ。何故食べなくてもいいのかは本人にも分からないらしい。

 「ひひん!」

 「ぶるるん!」

 「やあ、元気そうだね。また頑張ってもらうよ」

 僕が馬に声をかけると二頭とも嬉しそうに鳴いた。あ、そうそう、折角ゆっくりしていたから馬の名前も決めたんだよね。

 「今日からあなたの名前は――」

 「大黒丸」

 「ひひん!?」

 「ち、違いますよ! 却下された名前をさも当然のように言わないでください! こほん。あなたの名前は――」

 メディナが何故か推しまくっていた名前をエリィが訂正し、気を取り直してもう一度、

 「バナナ!」

 「バス子ちゃん!」

 言おうとしてバス子に邪魔をされていた。ちなみにぶるると鳴く雄は『ヴァリアン』で、ひひんと鳴く雌は『エレガンス』となった。

 「あたしが考えたのよ。またよろしくねヴァリアン」

 「ぶるる!」

 「あなたは私よ! 鬣が優雅ですもんね」

 「ひひん♪」

 ちなみ次点はエリィのアドマイヤと、僕のマイネルである。……あれ?

 「……大黒丸……」

 「大丈夫、他で挽回しましょう……!」

 ……バス子とメディナは割といいコンビなのかもしれないね。そんなほのぼのとした会話をしながらポクポクと馬を歩かせて鍛冶屋へと向かう。

 「こんにちはー。できてますか?」

 開けっ放しの入口へ顔を覗かせて声をかけると、ボンスさんが振り返って手を上げてこちらへ歩いてくる。笑顔なのでどうやらうまくいったらしい。

 「やあ、待たせたな」

 「できたんですね?」

 「あ、ああ……できたのはできたんだけどな……こっちに来てくれ」

 「?」

 裏庭に置いてあると言うのでそちらへ向かう。すると――

 「死屍累々」

 「うわ、死体がこんなに!?」

 「ははは、違う違う! ウチの作業員だよ。親父、引き取りに来たぞ」

 ボンスさんが地面で寝ている親父さんに声をかけると、親父さんは唸り声をあげながら上半身を起こす。

 「……おう、坊主か……精魂を込めて作った。確認しろ」

 「あ、はい」

 「いやあ、あの設計図凄いな。素人が書いたとは思えなかった」

 ボンスさんにそう言われながら箱形になった荷台を後ろから乗り込む。

 ……うん! 注文通りだ! 早速荷台の壁をギィっと開けてみる。

 「わあ、そういう風に開くんですね! そこはキッチンですか?」

 「そうだね。この下に火の魔石を置いて調理ができるようになっているんだ。二つに分けているから、上に乗せるのは鉄板でも網でもいいかな? 僕のカバンは無限収納だし、取り外せれば馬達も負担が少ないでしょ?」

 「ふあーあ……屋台はそういうもんだが、普通荷台部分は商品を置くだけの場合が多いのに、こいつは馬車としての機能もそのまま使えるようにしているからなあ」

 ちょっと荷台部分は拡張しているんだよね。キッチンと逆の部分は倒すとテーブルにもでき、折り畳みの椅子も作ってもらった。でも全部しまいこむとちゃんと屋根付きの馬車に早変わり。ちょっとキッチン部分に薄い鉄を使っているから重量は増した。だから代わりに――

 「それと、荷台の後ろにかごもつけておいたけど、どうするんだい?」

 「ああ、これは馬達に負担をかけないようにこれを入れるんです」

 僕はその辺にあった石を手に取りぐっと魔力を込める。今日はちょうど風曜の日なので楽に風の魔石を作ることができた。

 「はあ!? ま、魔石かそれ!?」

 「ええ。これを左右のかごに入れて……」

 魔石をトントンと叩くと、少し荷台が動く。あ、ちゃんと車輪は四つだから安定性もいいよ?

 「……貴重な魔石をそういう使い方かよ……坊主、お前ウチで働けよ」

 「親父の言う通りだよ……設計図もあれ一枚でそうとう金になるぞ……」

 「希望通りに作ってくれたんで設計図は差し上げますよ? こういう馬車作れます! とかで売り出したら面白いかもしれませんよ?」

 思った以上にいい出来だったのでご機嫌な僕の提案にボンスさんが驚いて叫ぶ。

 「マジで言ってるのか!?」

 「ええ。誰でも思いつく代物ですし。あ、でもアレンジ次第で宿泊スペースとテーブルがある荷台とかもいいかもしれませんね」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ流石にそれ以上は……」

 ボンスさんが頭を押さえて困惑していると、親父さんが声をかけてきた。

 「お前がいいと言うならこいつは俺達が有効活用させてもらう。今、言った案も含めて買い取らせてもらう。金貨三十枚でどうだ?」

 「ええ? いや、いいですよそんな――」

 と、言いかけたところで親父さんが首を振って僕のところへ歩き……

 ポカリ!

 「あいた!? な、何するんですか!?」

 「お前は賢いのかもしれんが、頭は悪いぞ? さっきこいつも言ったがこの設計図、結構な金になる。お前は商人だろう? それをほいほい渡してどうする。商人なら自分の利益を追求すべきだ。俺達鍛冶師とて、そういうのは考えるぞ」

 う……確かにお金儲けを考えるなら親父さんの言う通りだ……商人だ、商人だと言っている僕自身、そういう部分が薄いのだろう。『商人になるんだ』と思い込もうとしているだけなのかもしれない。
 
 それは記憶を取り戻してから特にその傾向が強くなっている気がする。揉めごとを力で解決することが多いから、なんだろうか。
 ともあれ、親父さんの言うことには一理あるので、僕は頭を下げて親父さんへ提案する。

 「……金貨25枚、でどうでしょうか? この荷台、結構安く仕上げていますよね? 鉄を薄くするのは難しくないし、塗装も完璧です。正直、僕の想像以上でした。だからその値段で設計図を譲ります」

 「交渉成立だ! ボンス、金持って来い」

 「お、おう! マジか……こりゃ大々的に宣伝したら売れるぞ」

 町が大きいので当然屋台や露店が多い。それにオープンにする機構はアレンジがしやすく、かつ、僕の設計図がないと真似は難しいと思う。昔作った戦車よりは簡単だけどね。戦車は……そういえばあれを作るのは相当魔力を使ったっけ……
 おっと、話がそれたけど、ボンスさん達が先行して稼げば金貨25枚はすぐに取り返せるんじゃないかなと思う。設計図があっても僕は腰を据えて鍛冶をするわけじゃないしね。

 「はい。これ」

 「ありがとうございます。それで――」

 と、いくつかサラサラと走り書きでアレンジバージョンを渡すと、ボンスさんが目を白黒させ、親父さんは豪快に笑っていた。

 「いい人達でしたね」

 「うん。僕も父さん……というか母さんに怒られないよう、ちゃんと商売人として考えないとなあ」

 おニューの手綱をつけた馬に荷台を引かせ、町の出口へ向かう途中ベルゼラがほほ笑む。

 「大丈夫。レオスは世界の支配者になる」

 「ならないよ!?」

 「ふふ。レオス君は商人になりたいんですもんね」

 そう言って笑うエリィ。僕はその言葉に笑って返す。

 「そういうことだね。面倒ごとは勘弁してほしいよ。ねえ、バス子、メディナ?」

 「わたしですか!? ……えっへっへ、冗談きついですよレオスさん」

 「冗談は顔だけにする」

 「うるさいですよ! どこ見ているか分からない目をしているくせに!?」

 「はいそこまで」

 ベチン、と二人の頭を叩き、ルビアが口を開く。

 「折角新しくなったんだから壊すんじゃないわよ? 壊したら……分かってるわね?」

 「決着は次」

 「望むところです……!」

 ボッと人差し指から炎を出すルビア。この四日でずいぶん制御できるようになったものだと僕は思う。恐らく冥王メディナあたりとは一人でも戦えるくらいになっているんじゃないかな? 
 
 「通って良し!」

 「どうも」

 もう少し町をゆっくり見たかったかな、と思いつつ、ハイラル国を目指して町を出るのだった。
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