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第六章:大魔王復活?

その109 残る不安

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 <闇曜の日>

 「拳聖、暴力は良くない」

 「世界を恐怖に陥れていた大魔王の配下だったあんたに言われたくないんだけど? というかご飯食べるのね。歳とかあるの?」

 「私は21歳」
 
 「まさかの年上ですって……!?」

 「フッ」

 口の端を少しだけ吊り上げて笑ったのだろうけど、全然そんな風に見えない。そんな会話を見ていると、エリィが話しかけてきた。

 「大丈夫ですかレオス君《キュアヒーリング》」

 「何とかね……」

 と、エリィに答えたものの、まだ顎がガクガクしている気がする。僕でなければ奥義を食らった時点で死んでいたかもしれない。冥王メディナは別にアンデッドとかではなく、僕達に近い体質をしているそう。
 冷たいのは基礎体温が低いだけで、ご飯も食べるしお風呂にも入るのだとか。大魔王が作った割にはしっかりしていると思う。

 「もっしゃもっしゃ」

 「自分で言わなくていいんですよ? また面倒なのが増えましたねえ」

 「あんたも大概じゃない」

 「お嬢様はわたしの味方だと思ったのに!?」

 とまあ、にぎやかな朝食風景はともかく、夢で聞いた女神達の動向を待つ間もこちらはこちらでいろいろとしなければいけないことがある。早速大魔王を復活させるべく僕達はまた町を……出ることができなかった。

 「あ、そうだ、馬車の荷台を改造中だった……」

 「忘れていたのレオスさん? 鍛冶屋さんが完成まで五日はかかるって言ってたじゃない」

 ベルゼラの言う通り、鍛冶師のボンスさんがそう言っていたのを思い出し、僕は腕を組む。昨日頼んだのだから今日を含めて後4日か……

 「……とりあえず聞くけど、みんなはどう過ごす感じ?」

 「あたしは今日ごろごろするー」

 「わたしも昨日レオスさんにやられましたからね。大人しくしておきますよ」

 ルビアとバス子は大人しくしているらしい。

 「エリィ達は?」

 「お買い物は昨日しましたけど、メディナとバス子ちゃんの件であまり町を回っていませんからお散歩しましょう」

 「私はレオスと一緒にいる」

 「もちろん私もよ」

 「僕は市場に行っ、屋台でやる店を考えようと思うけどついてくる?」

 そういうと三人はコクリと頷き、今日の予定は決まったのだった。


 ◆ ◇ ◆


 ――初日から騒動だったのでゆっくり見ていなかったけど、このミュンヘルの町は隣国に近いだけあって結構大きい町だ。
 立ち寄ってはいないけどギルドから冒険者が活発に出入りするのも確認できる。そうなると当然市場も大きく、足を踏みいれてから、僕はいろんなお店に目移りをしていた。

 「海魚は無いんだね。湖か川の魚がメインか……肉は鶏が多いね。卵は買っておこうかな? 大きいし。なら親子丼……いや、屋台と言えば焼き鳥……」

 「コケッコー! コケ!」

 僕の考えを抗議するかのようにニワトリがけたたましく鳴き、真顔でエリィが呟く。

 「焼き鳥……」

 「どうしたのエリィ?」

 「い、いえ、ニワトリが可愛いなと思ったんです。……あと、こうやって見るとちょっと食べるのは可哀そうだな、って」

 「丸々としている」

 メディナの感想はちょっと違うなと思いつつ、僕は前世でエリーが飼っていたニワトリを思い出す。

 「ベティか。懐かしいね」

 「違う女か」

 「違うよ!? 昔、本当に大昔に飼っていたニワトリなんだ。卵を産ませる雌鶏だったんだけど、よく懐いていた」

 ……はずだ。あいつはなにかあると僕の足をくちばしで刺していたからなあ……嫌な思い出か、と考えているとベルゼラが僕の横にきて言う。

 「ふーん。前世のレオスさんか。興味あるわね」

 「面白いことなんてないよ。僕は人間を憎んで、亡ぼそうとした極悪人さ」

 「でも、反省して許してもらったんですよね?」

 「そりゃもちろんそうだけど、昨日のアレを起こした身としては複雑なんだ」

 「あれは凄かった。過去は過去。気にしても仕方がない」

 うんうんとどこを見ているか分からない眼でメディナが頷く。

 「仕方がない、か。……うん、そうかもしれないね。今後、僕に何かあったら容赦なくぶっ飛ばして欲しい」

 「いや、世界最強に挑むのは無理があるわよ……でも、わかったわ!」

 「ふふ、その通りですね」

 ベルゼラが笑い、エリィもつられて笑う。何も考えていないのかと思ったけど、良いことを言ってくれた気がした。

 「すこし気が楽になったよ、ありがとうメディナ」

 「ん」

 「ん?」

 僕が笑いかけると、小さくうなずきスッといずこかへ指を向け、僕はそれを目線で追う。

 「お礼はあれでいい」

 「豚串……」

 肉屋さんの一角にあった販売スペースで、豚串がいい匂いを出していた……さっき朝ごはん食べたばかりなんだけど……

 そこからは緊張もいい具合にほぐれ、商店を物色。屋台はその時、町で買える安い食材で店を出そうという結論に達し、パンケーキ屋さんに決定した。幸いミルクはサンロック村の村長さんに貰ったし、ここの町には新鮮な卵がある。バターと小麦粉、ハチミツを買い、お試しで金貨一枚分の材料を買った。

 「いやあ、安いお店を探して買う。そして値切り。商人冥利につきるね!」

 「でも、どこで商売をするんですか? この町は荷台ができたらすぐに出発するんですよね? もしこの町で商売をしたとして、人気が出たら動けなくなりませんか?」

 エリィにスラスラと指摘され、僕は冷や汗をかきながら……

 「ごもっともです……」

 と、項垂れるしかなかった。

 とほほ、次の町までお預けかなあ……

 張り切って新しい荷台で商売ができると思った矢先に出ばなをくじかれたのだった。



 ――そして、

 「バス子、ちょっとジュース買ってきてくれない?」

 「自分で行ってくださいよ……」


 「メディナさん、レオスさんと一緒に寝るのは交代ってルビアさんに言われたでしょ!」

 「ちっ」


 「エリィさんずいぶん飛ぶのうまくなりましたねえ」

 「まだバス子ちゃんみたいに自由に動けませんけどね」


 あっという間に荷台が出来上がる日がやってきた――
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