前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

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第六章:大魔王復活?

その99 嵐の前の快晴

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 <光曜の日>

 今日も天気だ、ご飯が美味い! 

 
 ……と、言わんばかりの陽の光がカーテンの隙間から覗かせる。昨日寝たのは深夜二時くらいで、今は午前10時くらいといったところかな。

 「うーん……!」

 昨日は先にダウンしてたから僕の部屋はどこか分からなかっただろうし、流石のエリィも僕の部屋には来れなかっ――

 「むにゃ……」

 「いるぅぅぅ!?」

 「話は聞かせてもらいました! レオスさんは欲情する!」

 ガチャリ!

 「なんで開いてるのさ!? あと、してないから! エリィ起きて!」

 鍵は確かにかけた……それに女性は二階で僕は一階……いったいどうやって……もう僕にはわけがわからないよ……いや、バス子が手引きしたという可能性もあるのでは……?

 「なんだ、いつもの光景ですね。朝食は食堂でびゅ……びゅふぇ、形式らしいです」

 「言えてないけどね……」

 色々考えていたけど、興味を失くしたバス子が部屋から出て食堂へ向かったので、僕はエリィを抱えて二階へと赴く。
 もし僕が叫ぶの前提でエリィを僕の部屋に放ち、ドアの前でずっと待ち構えていたのならバス子はとんでもないアホだなと思った。
 それはともかくエリィをルビアに預け、顔を洗って食堂へ向かうと、ベルゼラとバス子が席を確保してくれており、フルーツジュースを飲みながら待ってくれていた。

 「あ、レオスさんおはよう!」

 「姐さんたちは?」

 「もうすぐ来ると思うよ、エリィも目が覚めていたからね」

 フルーツジュースを受け取りくいっと飲み干すと、甘酸っぱい味が渇いた喉を潤してくれる。他の宿泊客を見ると、ぽっちゃりした商人風のおじさんや落ち着いた老夫婦、年配の冒険者といった顔触れが食事を楽しんでいた。

 「ふひひ、ご飯ご飯っと♪」

 そんな中、金髪ショートの女の子がお皿にパンと目玉焼き、そして大量のソーセージにかぶりついているのを目撃してしまう。

 「……朝からよくソーセージをあんなに食べられるなあ……」

 「お野菜を食べないと胸やけしそうだけど……」

 僕達の視線にはまるで気づかず、大量にあったソーセージをあっという間に平らげてリンゴジュースで喉を潤して食堂を去って行った。

 「~♪」

 「……」

 「どうしたのバス子? またお腹が痛いの? お薬飲む?」

 「流石に何度もわたしお腹痛いわけじゃありませんよ……大きいのは朝出したし」

 「ちょ、あまり大きい声でそんなこと言わないでよ!?」

 バス子に視線が注がれざわざわする中、エリィとルビアが僕達の席へとやってきた。

 「今からご飯だっていうのに止めてよね」

 「あ、エリィまだ眠そうだね。とりあえず取りに行こうか」

 「ふぁい……」

 まだ眠そうなエリィの手を引っ張って、焼き立てのパンやサラダ、目玉焼きにオニオンスープ、果物をお皿に乗せ席に戻る。

 「あれ? ソーセージは取らなかったの二人とも」

 「う、うん、さっきちょっと衝撃なものを見たからね」

 「何かお腹いっぱいになったの……」

 ルビアが「?」を浮かべて朝食に取りかかるのを見て僕も食べ始めるのだった。ちなみにパンはほんのり甘く、バターを練り込んでいる感じで、卵も新鮮だった。ゆで卵も悪くなかったけど、塩が無かったのが少し残念だったかな。

 「いやあ、わたし好きなんですよねバナナ……もぐもぐ……いたっ!?」

 ちょっとまずい食べ方をするバス子の頭を引っぱたいたところで今日の予定を決めようと僕の提案をみんなへと話すことにした。

 「とりあえず三泊四日だから、ゆっくりできるよ。僕は馬車の荷台を改造してくれる人が居ないか探してみるつもり。注文出来たら今後の為にお店も見て回りたいと思うんだ」

 「私も……ふあ……行きたいです……」

 「エリィは眠そうだし、今日はゆっくりしていたら? ルビアはどうする?」

 「うーん、あたしは適当に町を見て回ろうかしらね。馬車の改造はあまり興味ないから。あ、でもお金が足りなかったら言ってくれればレオスのカバンに預けているのから使っていいわよ」

 そういえば必要な分だけ財布にいれて、残りは僕のカバンで管理してくれって言ってたっけ。ずっと一緒にいたとはいえ信頼しすぎじゃないかなあ。というかルビアはお金に頓着が無さすぎる気がする。

 「まあ、多分大丈夫だと思うけど。ベルゼラとバス子は?」

 「私はレオスさんに付いて行って町を見て回ろうかと」

 「わらひも……モグモグ……お嬢様についていきまふ……」

 「飲み込んでから喋ってよ。それじゃ、ルビアだけ別行動ってことでいいかな? エリィは部屋だし」

 「いえ、私も行きます……!」

 「任せたわレオス」

 「う、うん」

 何故か寝ぼけ眼で拳を握り締めて宣言するエリィ。ま、最悪荷台で寝ててもいいかなと思いつつ、朝食を済ませてから宿の前で待ち合わせをし出発した。


 
 ◆ ◇ ◆

 
 「寝すぎた」

 レオス達が町中へ冥王はむくりと上半身を起こし、窓の外を見て陽がかなり昇っていることに気付く。ヴィネのベッドはもぬけの殻で、サブナックとオリアスは大きないびきをかいて寝ていた。

 「役に立たない」

 フルフルと首を振り、例のカフェへ向かうため部屋から出ていく冥王。不死の王……というわけでもなく、普通に食事ができる体質のようで食堂でサンドイッチとリンゴジュースを手早く食した後、宿から出ていく。

 「天気がいい。やつらもそろそろ到着するはず……」

 冥王はサブナック達に布団をかぶせ、スタスタと町の入口へ向かっていくのだった。



 ◆ ◇ ◆



 「お馬さん達、不満そうだったわね」

 「山を越えて来たんだし休んでて欲しいかなあ。どうせまた荷台を引いて歩くんだし」

 途中の分岐路でルビアと別れ、僕は荷台を引っ張りながら横で歩くベルゼラと話しながらてくてくと道を進んでいく。大きな町だけあって道幅は広く、ガラガラと荷台を引いても通行の邪魔にはならなかった。

 「あふ……どこにあるか分かってるんですか?」

 「うん。受付の人に聞いて分かっているよ。宿は町の入口から左だったけど、鍛冶屋さんは右に行ったところにあるんだってさ。だから、この道を真っすぐ行けば到着できると思うよ」

 外に出て歩き出したらようやく目が覚めたようで、少し後ろを歩いていたエリィも追いついてきて話しかけてきた。そこで、ポケットをパンパンと叩いているバス子が頭をぺちっと叩いてから口を開く。

 「おっと……すみません、お財布を宿に忘れて来たみたいです。ちょっと取ってきますね!」

 「あ、場所見てからでもいいんじゃない?」

 僕はそういうも、バス子は『大丈夫ですー』と振り向かずに飛んで行った。

 「また博打に行ったんじゃないでしょうね……」

 「あ、その可能性もあるのか……」

 「あ、レオス君あれじゃないですか?」

 僕とベルゼラがため息を吐いたその時、エリィが指さした先にモクモクと煙を出す煙突のあるお店が目に入る。どうやらここがそうらしいと、僕達は荷台を軒先に置いて中へと入る。

 「すみません、ご相談したいことがありまして」

 いかにもな、という感じの工房に足を踏み入れると、髭の目つきの悪いおじさんと、何人かの男性が一斉にこちらを見てきた。親方にお弟子さんって感じがする。
 鍋や包丁といった生活用具を作っている人もいれば、剣や盾など装備品を作っている人もいる。中々活気のある工房みたいだね。

 「何だい? 仕事の依頼ってことでいいのか?」

 「ええ、今、表に荷台を置いているんですけどこれを改造してほしくて。これ、図案です」

 「荷台を? ……へえ、面白いことを考えるヤツだ。おい、手の空きそうなやつはいるか?」

 図面を近くのテーブルに広げ、顎に手を当ててからぶつぶつ呟いた後、お兄さんが振り向いて仲間に声をかけると、苦い顔で手を横に振る人達ばかり。忙しいなら無理は言えないかなあ。

 「チッ、ならこれは俺が引き受けるかあ。親父もどうだ?」

 「……どれ。ふん、暇があったら手伝ってやるわい」

 「やれやれ、素直じゃないねえ。俺はボンス、この仕事引き受けよう。金は後払いで構わないが、予算は?」

 ボンスさんが僕の書いた図面を見ながら指を丸くして訪ねてくる。

 「金貨25枚で」

 革袋の口をチラリと見せると、口笛を拭いて僕に握手をしてきた。

 「オッケー、交渉成立だ。じゃあちょっと契約書を――」

 と、荷台の交渉は上手くいき後は完成するまで待つことに。ただ、意見と思い通りになっているか確認はして欲しいらしいので朝・昼・夜にそれぞれ一回は見に来て欲しいとのこと。五日はかかると言われたけど、まあそれは仕方ないか。

 「それじゃ、軽く店を見に行こうか」

 「「おー♪」」

 だが、この後とんでもない修羅場が起こるなど、誰が予想できただろうか―― 
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