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第六章:大魔王復活?

その90 温泉奪還

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 「レビテーション、久々に使うなあ。魔族ならいざ知らず、人間が空を飛ぶ魔法は確立されていないのが厄介だね。多分この世界の人も使えると思うんだけど」

 フルシールドを傘代わりにしながら僕は山の傾斜に沿って空を飛んでいた。みんなが居ないならこれが移動手段としては一番手っ取り早いし汚れないため。
 ちなみに温泉を引いているのはもちろん鉄の管などではなく、水路に見立てたコの字型の溝に、板を張っているという簡単なものだった。蓋をしているので冷めにくいのかもしれないけど、ちょっともったいない気もする。

 「少し緩やかになってきたから、そろそろかな?」

 温泉が湧いているのはそんなに遠くないということなので、緩やかになってきたならこの辺りにありそうだ。本当はここに作りたかったけど、魔物は出るし中途半端な地形だから村までお湯を落とし込んでいるのだそう。さて、そんな村の事情はさておき雨の中で立ち上る湯気が見えてきた……と思った矢先

 ヒュン!

 「うわ!? 何か飛んできたぞ!?」

 咄嗟にバレルロールな動きで回避すると、また飛んでくる。フルシールドを前方に展開し受けてみると――

 ガツン!

 「石みたいだね、それも結構大きい……当たったら大けがだよ」

 投石が来た方向を見ると、木の上にラリアーモンキーだと思われる赤い瞳がギラギラと輝いていた。猿、というのは人間に近く手を器用に使う生き物だ。だから石を投げてくるくらい訳もないと思う。
 厄介なのは縄張り意識が強く、敵対するものには牙を剥いて襲ってくるのが怖いかな? なんで詳しいかって? 転生の罰を受けていた時にもちろん猿にもなったことがあったからね……結局つがいを作らずひっそりと死んだけど……

 と、暗い過去を嘆いていても仕方ない! 次々と飛んでくる投石をかわしつつ、僕は温泉の源に着地する。

 「へえ、いいお湯だね。……っと、先客が居たみたい」

 木の上にいるラリアーモンキーは投石を止め、キィキィと威嚇してくる。なぜやめたのか? それはこの温泉に浸かっている周りの猿より大きな存在に当てないためだと推測される。こいつがボス猿で間違いないか。

 「まあ、浸かっていてもいいけどね。僕の目的はこの大岩だし」

 「……」

 歴戦の勇士みたいな傷だらけのボス猿をスルーし、僕はせき止めている大岩の前に立つ。なるほど、これを温泉の中に落ち込んでいるのか……水路も少し壊れているしついでに直しておこうかな?

 「さて<クリエイト――>」

 「グオォォォォ!」

 「うえ!?」

 と、魔法を使おうとした瞬間、ボス猿が吠え僕に襲い掛かってきた! 器用に泳いできて地上に居る僕に剛腕を振るう! もちろん避け……るまでもなくフルシールドに剛腕は弾かれた。

 ごぃぃぃぃん!

 「ぐぎぇぁ!?」

 「あー、今のは痛い音だね……手首やったんじゃない?」

 「ぐ、ぐるう……キシャァアア!」

 キキー! と、ボス猿の合図で手下も襲ってくる。

 「あらら、それじゃ全身に展開っと」

 もちろん通常の魔物に僕のフルシールドを破れるほどの力は無い。撃沈していく猿たちを尻目に、僕はスッと手を上げて大岩に向けて、

 「<ファイヤーボール>!」

 どっごぉぉぉん!

 「キキィ!?」

 「グ、グオウ!?」

 大岩が派手に吹き飛び、猿たちが恐れおののき後ずさる。本当はクリエイトアースで加工するつもりだったけど、大技でびっくりさせたほうが効果があるからね。大岩が崩れ、少しずつ温泉が水路に流れ始め、

 「さて、それじゃ次は君達の番だね」

 にっこりとして振り返ると、猿たちは鼻水を流しながらボス猿の後ろに逃げ隠れ、ボス猿はわなわなと体を震わせていたけど、ボスとしてのメンツがあるのか、ざばっと湯船から出て僕に向かってきた! あれ? こいつ――

 「その度胸は認めてあげるよ! <ファイアアロー>!」

 ドスドスドス! 炎の矢がボス猿の腕や足にヒットし動きが鈍る。しかしボス猿は腕を振り回し接近してきた。フルシールドがあるからダメージは入らないけど、拳も居たいだろうし楽にしてやろう。
 そう思い、セブン・デイズを抜いて踏み込むと足を切り裂き、両方の肩口を刺して攻撃をさせないようにした。 
 そして止めを刺そうと剣を振り上げたその時、

 「ウキィィ……」

 ボス猿はその場で土下座の態勢になりペコペコと頭を下げた!? 僕は慌てて急ブレーキをかけて止まり、ボス猿の前に立つ。

 「潔いのは命を救うね。僕も鬼じゃない、もう攻撃してこないならここまでにしよう。というか君はそのせいで温泉に入っていたんだね」

 見れば僕が攻撃していない箇所の足をケガしており、恐らくだけどこれを治療するのに温泉を利用していたのだろう。賢いみたいだし、言い聞かせれば大丈夫かな?

 「<ダークヒール>」

 「!?」

 僕がファイアアローの火傷と足を治療してやると、驚いたように立ち上がり、足をコキコキと鳴らすしぐさをするボス猿。ぴょんぴょんと何度か跳ねて感触を確かめた後、僕に向き直ると抱き着いてきた。

 「キキィ!」

 「うわ、でかいなあ。温泉はもういいだろ? で、人に迷惑かけないようにね。さ、行きなよ」

 「ウッキー♪」

 僕が言うと、猿たちは飛び跳ねて喜び大合唱。というか雨だから早く巣に戻ればいいのにと、クリエイトアースを使って大岩を加工して温泉の流れを良くする。

 「ふう、これで良し! それじゃ戻ろうっと。じゃあね。冒険者に退治されないよう気を付けるんだよ」

 帰ろうとしたところでボス猿が奥の林を指さしてコクコクと頷く。こっちへ来てくれと言っているような感じだけど……?

 「何かあるのかい?」

 「キキッ!」

 どうやらそうらしい。何があるのか分からないけど、暇つぶしがてらちょっと行ってみようかな。エリィ達が居ないのも久しぶりだし、お宝でおくれたらお土産になりそう。

 そう思って付いて行ったのだけど、それがいけなかった――


 ◆ ◇ ◆


 「お、おい、見たか……?」

 「ああ……ボス猿をああも簡単に……」

 「馬鹿、あの魔法だよ!? ファイアでもフレイムでもない。エクスプロージョンとまではいかねぇがとんでも無い威力だぞ」

 「と、とりあえず温泉は戻ったみたいだし、大丈夫だな。あれ!? あいつボス猿に付いて行くぞ!?」

 「何だってんだ……? 追いかけるぞ、俺達はあいつを助けにきたんだ」

 厩舎でレオスの姿を見ていた冒険者とその仲間が追いつき、陰からこっそり覗いていたのだった。決してラリアーモンキーが怖かったからではない!
 
 三人の冒険者はレオスを追いかけるのだった。 

 
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