93 / 196
第六章:大魔王復活?
~Side5~ あの人たちは今
しおりを挟むバシャバシャバシャ……!
ゴロゴロゴロ……
レオバールは走る。
雨の中をひたすらに。
何故か? それはフェイことフェイアートから逃れるために――
「俺が……こんなことで……! はあ……はあ……」
ノワール城からレオスを追って来た道を戻りながらぼやく。フェイアートは言っていた『初めから監視』していたと。であればレオスを攻撃したことも、エリィを傷つけたことも知られている。そして一番まずいのは国王へ虚偽の報告をしたことだ。
そもそも、国王の願いで商人を大魔王討伐には居なかったとし、レオスがそれを飲んでくれた。だが、アレンは装備を押し付け金を巻き上げ、レオバールはどさくさ紛れに始末するつもりだった。
このことがフェイアートから国王に告げられれば自分たち二人は大魔王討伐の恩賞が帳消し、それどころかレオバールは極刑になる可能性が高い。
それを恐れたレオバールは一目散に逃げたという訳だ。
レオスを襲った時のように戦えばいい、と思うが、マスターシーフは聖職に匹敵する強さを持ち、特に搦手が得意なので正面からやりあうことを得意とするレオバールでは相性が良くない。
そしてもちろん――
「そろそろ限界だろう? 大人しく捕まってくれると助かるんだけど」
「……!?」
いつの間に……声に出さすレオバールはズザザザザ、と急ブレーキをかけ止まる。戦うしかないとレオバールが考えているとフェイアートが喋り始める。
「好きな女を取られて亡き者にするつもりとは……情けない限りだな? 剣聖が聞いて呆れるぞ」
「うるさい。貴様に何が分かる! 俺は剣聖だ! エリィに……賢聖に釣り合う男は俺しかいないんだ!」
「その考えがそもそも思い違いなんだけどなあ。相手が想ってくれてこそ、だろ? 愛されない女を手に入れてどうしようと? ……暴力で言うことを聞かせそうだよな、あんた。それがエリィちゃんも分かってたんだろうなあ」
「黙れ! ”裂空刃”!」
レオバールが剣を振るうと、剣圧がかまいたちのようになりフェイアートを襲う!
「短気でもある、と」
「レオスと戦った後に声をかけてきたのはお前だな……!」
「お、ご名答。あんたにはレオス達を追ってもらう必要があったからな。光の剣や小汚い鎧はちゃんと持っているか?」
「貴様が置いていったマジックバッグに入れてある。……どうだ? アレンの装備を渡すから見逃してくれないか? 俺は故郷とは別の国にでも行って大人しくする。だから……」
「却下だなあ。あんたを捕まえれば装備も持って帰れるし、褒美も出る。それに、あんたみたいなのは一度折檻を食らって思い知った方がいいしな。レオスに負けてなお不遜な態度。もう少し謙虚ってのを知った方がいい」
そういってフェイアートは隠し持っていたショートソードを抜くと腰を落としながらそんなことを言う。レオバールは正面からなら、とフェイアートへ一気に駆けだす。
「知ったことか! 俺は剣聖だ、選ばれた男なんだ!」
「たまたま大魔王討伐で勇者に目をかけてもらっただけでそこまで思い上がれるとはな! 大魔王を倒したのもまぐれだろうな!」
チィン! ブオン!
レオバールの攻撃がフェイアートへ繰り出され、それをショートソードで受け流し、避け、一進一退の攻防が繰り広げられる。しかし雨の中、重い鎧を着ているレオバールは体力の限界が近かった。
「ぬうおおお!」
「いくら強くても心が曇っていたらどうしようもないな! 大魔王を倒したのはあんたにとって良くなかったよだ」
レオスをいじめていたあたりそういう気質はあったのだろう。大魔王を倒したことでそれが助長されてしまったことを見抜いたフェイアートがさらに言葉を続ける。
「俺も雨の中戦いたくないからな、そろそろ終わりにさせてもらおうか」
「ぬかせ! 疲れてはいるがそれはお前もだろう!」
「フフ、俺には彼女がいる……そう言ったのを覚えているかな?」
「それがどうした、こんな時に自慢か!」
「そうじゃない。彼女は……ほら、そこにいるんだ」
「な!? ……に!?」
ニヤリと笑ったフェイアートが言った直後、レオバールの背後に女が現れ、背中に蹴りを入れるとそのまま後ろから組み伏せ、ダガーで首を掻っ切ろうとダガーを首筋に当てる。
「ど、どこから現れた……!? くそ……!」
「殺したらダメだからな? これが俺の彼女ペリッティだ。ジョブはアサシン。俺がレオス達といる間はペリッティがあんたを監視していたって訳だ。さ、拘束して連れて帰るぞ。馬車は?」
「あっちにあるわ。ったく、エリィエリィ言ってたヤツがすぐ別の女の子に取り入ろうとするなんて、最低な奴だわ」
黒髪の女が呆れたように言い放ちながらレオバールの両手を鎖のついた拘束具で動けないようにする。
「これで任務は完了、か。帰ったらゆっくりしたいもんだ――」
「く……」
フェイアートがレオバールからカバンを奪った直後、それは起きた。
「《エクスプロード》」
「!? 避けろペリッティ!」
「もう避けてるわ!」
ドゴン! という音と共にフェイアートとペリッティが居たところに爆発が起こり、雨がじゅうじゅうと地面を冷やす音が響く。フェイアート達が顔を上げると、レオバールを担いだ全身ローブの人影が喋り始めた。レオバールはエクスプロードの直撃を受けて気絶しているようだった。
「この男のゲスい心……とても良い。我らの先兵として働いてもらうとしよう」
「……何者だ?」
「語る必要なし。帰ったら国王に伝えるんだな、もはや勇者などでは止めることなどできん、と」
「どういう意味……?」
「いずれ分かる――」
「あ、待て! もう少し詳しく聞かせろ!」
フェイアートの叫びはスルーされ、ローブの人影は空へと舞い上がる。
「我が名はウェパル! いずれまた見舞えることもあろう!」
そして高速で雨の空を飛んでいくのだった。
「流石に空を飛ばれたら無理か……! それにしても語る必要なしとか言いながら……」
「名乗ったわね……」
アホなのだろうかと思いつつ、冥王にセーレ、そして剣聖を連れて行ったウェパル。また何かが起ころうとしていると苦い顔をして二人はエイゲート国、ノワール城へ帰還を急ぐのだった――
10
お気に入りに追加
1,602
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる