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第六章:大魔王復活?

その87 交差する目的

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 <火曜の日>


 ざああ……

 「うーん、止みませんね」

 「まだ食料はあるし、もう少し様子を見ようか」

 スヴェン公国を出て早三日……僕達は大雨に立ち往生してしまい、街道から少し離れた林の中で雨宿りをしていた。
 僕のクリエイトアースで馬達と僕達の寝床を作って晴れるのを待っているのだけど、中々どころか雨足は一向に弱まる気配はなかった。

 「それにしても雨にも強いのね、このお家」

 「土だけだと雨で崩れちゃうからそこの岩壁からも拝借しているよ。しばらくは大丈夫だと思う」

 窓枠から話しかけてくるルビアに返事をしていると、その横でバス子が顔を出してきてニヤリと笑う。

 「えっへっへ……これで商売できるんじゃないですか? 頑丈な家とか売り文句にして!」

 「いや、これって僕が作った魔力で建っているから遠ざかると崩れちゃうんだ。だから売り家にはできないよ」

 「ちぇー」

 金勘定が先走るバス子を商人として見習うべきかと考えながら、僕は外に作った屋根付きの焚火場で鍋を混ぜつつ、隣に座るベルゼラへ話を移す。

 「ベルゼラ、とりあえず前に聞いた時は復活には聖杯、ネックレス、生き血……それと何か儀式をすれば、みたいなことを言っていたけど、儀式に心当たりはあるの?」

 僕が訪ねると渋い顔をしてベルゼラが口を開く。

 「いえ、結局レオスさん達と行動を共にしている中で見つけるつもりだったから全然……」

 「生き血も結構大変じゃありません? 聖杯一杯に満たすんでしょう?」

 と、バス子が訪ねてきたので僕は、

 「え? バス子の血を使おうと思ってたけど?」

 「え? ……あ、ちょ、なんでロープでぐるぐる巻きにするんですか姐さん!?」

 「先に抜いておこうかなって」

 「いやああああ!?」

 「聖杯、ネックレス、バス子……後は儀式だけかあ」

 「ナチュラルに生き血の部分をわたしに変えている!?」

 「まあまあ、ジョウダンダヨ」

 「お家帰るー!?」

 「ここがあなたのお家よ……?」

 ルビアがいい笑顔で舌なめずりをしたところでエリィが器にスープを注ぎだす。

 「まあ、流石にバス子ちゃんを絞ると死んでしまいますからそこは考えないといけませんね。儀式はなんでしょう。魔族に伝わる復活の儀式とかありそうですよね」

 「私はずっとお城に居たからあまりそういうことに詳しくないのよね。本は好きだったけどお城は元々人間のだったから魔族っぽい書物も無かったし」

 僕の作ったテーブルにスープ、パンを並べ、僕からお肉の串焼きを受け取りお皿に盛ると、クリエイトアースの家で遊んで(暴れて)いたルビアとバス子も出てくる。

 「おほ! 美味しそう♪ 次の町で何かあるといいですけどねえ。あ、その前に村に寄らないといけないんでしたっけ?」

 「そうそう。次の町は山を越えると近道だから、麓にある村で休んでから行くことになりそうだね」

 串焼きにかぶりつきながら地図を広げて指をさす。村までは後二日ほどで到着できそうだけど――

 「この雨だと山越えは難しいから、下の道も考えないといけませんね。ふう……スープが温まります」

 「ま、実家に帰るだけなら急がなくてもいいんだけどね。でも明日まで雨が止まなかったら出発しよう。食べ物も無限じゃないし」

 「もぐもご……ガツガツ……そふれふね! じめッとした気分のままじっとしていると滅入りますし、行きましょう行きましょう」

 「ゆっくり食べなよ、もう……」

 僕はそういって地図を片づけ食事に戻る。

 正直なところ大魔王復活も情報を得るためだけの副産物に過ぎない。残る懸念点は冥王と愉快な仲間たちだけど、あいつらってどれくらいの勢力なんだろう。


 ◆ ◇ ◆


 <大魔王城>


 ブワン……

 今はもう座る者が居ない玉座のある謁見の間にて、わずかな空間の歪みが現れるとそこから冥王が姿を現す。レオスにやられた時のまま、髑髏顔の一部が破損している。

 「モドッタゾ」

 「ぐ、うう……」

 ドサリ、とボロ布からセーレを落としながら冥王が呟くと、気配を感じたのか謁見の間に入ってくる人影があった。

 「冥王、それにセーレか。酷い傷だな。ブエル?」

 「任せてください。アガレス殿は冥王とお話を聞いてください。ほら、行くぞセーレ」

 「あうあうあ……」

 ブエルと呼ばれたくせっ毛をして白衣をまとったメガネの男に肩を貸すと、元来た道を戻って行く。そしてそれを見送った後、アガレスと呼ばれた老人が冥王に目線を戻し口を開く。

 「こっぴどくやられたようだな。勇者がまた現れたか?」

 「チガウ。イヤ、セイショクドモトハタタカッタガナ」

 「相変わらず聞き取りにくいな……仮面を外せ、どうせ修理も必要だろう」

 アガレスが手を出すと、しぶしぶ髑髏顔の仮面を外して手渡し息を吐く冥王。

 「ふう……聖職の三人も手ごわかったが、それ以上に変な女に苦戦した。私の仮面を壊し素顔を見られた……! あいつは殺す! 絶対にだ!」

 アガレスはフッと笑い、白い顎髭を手で撫でながら冥王へと尋ねる。
 
 「変な女、そやつも聖職ではないのか?」

 「知らん。前に勇者と戦った時にも見たことも無い奴だった」

 「聖職クラスだとしたらそれは脅威だな。どうすれば倒せそうだ?」

 「……数人戦力を借りれば必ず……!」

 「(ほう、わしらの手下にはならんと息巻いていた者が戦力を貸せとは珍しい。よほど悔しかったか?)」

 「どうなんだ? 借りれるのか?」

 目を細めて笑うアガレスに苛立ちを覚えた冥王が詰め寄ると、アガレスは手で制してから指を折り、三を作ってから言う。

 「サブナックとヴィネ、それとオリアスを連れて行け」

 「分かった。それとあいつと大魔王の娘はどうする?」

 「我等の計画の障害になりそうなものはすぐに排除せねばならん。大魔王の娘はできれば連れてきてくれ。殺しても構わんが……頼むぞ」

 こくりと頷いた後、冥王はその場にしゃがみこみ……足元にいたぼーっとした顔しているワニを見て、

 「こいつはなんだ?」

 冥王がワニをツンツンしていた。

 「ん? わしのペット、ワニのカイくんだ。首に巻いたリボンがおしゃれだろう? カイくんも気にいっている。な?」
 
 アガレスが目線を合わせると、カイくんは面倒くさそうにカパッと口を開けてあくびをし、冥王にすり寄っていく。

 「……かわいい」

 冥王がカイくんの背中を撫でると気持ちよさそうに目を瞑る。

 「そうだろうそうだろう……どれ、わしも……」

 と、アガレスが手を出したところで、カイくんの口がカッと開き、アガレスの手を噛もうとした!

 ガチン!

 「うおおおおい!? ……さ、さあ、ブエルに治療してもらってから行くがいい! 仮面はその時に渡す!」

 「分かった。ばいばい」

 冥王がカイくんへ手を振ると、ガチガチと歯を鳴らして見送っていた。アガレスは口をへの字に曲げてから胸中で呟く。

 「(大魔王亡き今、計画を進められるチャンス。万が一復活などされては面倒だからな……そのためにヤツがいるが、確実にことを進めねばならん……)」
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