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第五章:スヴェン公国都市
その84 フェイの正体
しおりを挟む謁見の間から出た僕達はお城の外へと出て、お城を振り返る。お城の三階の壁がめちゃくちゃに壊れているのが見えて痛々しいなと感じる。
実はメイドさん達から部屋を用意していると言われたんだけど、僕は早く戻りたかったから村に行くためそれをお断りした。エリィ達には残ってもらって構わなかったんだけど、付いてくると言うので全員勢ぞろいってところだ。
「うーん、スッキリしないけどこれ以上は探りようが無いかぁ」
「私達にできることはそう多くありませんからね。聖職を国が雇ってくれるなら話は別ですけど」
「気にはなるけど、あの調子だと冥王はレオスを狙ってきそうだしね」
エリィとルビアがそういうと、レオバールが口を開く。
「これからお前たちはどうするんだ? 冥王を探して倒すつもりか?」
「うーん、少なくとも僕はそのつもりは無いよ。大魔王城まで行くのも大変だし、また実家へ戻るたびに戻るよ。まだ全然進んでないし……」
「そうか……それと、お前はその姿のままなのか?」
「そんなわけないよ。僕は男だからね、今も元に戻る薬をもらうために歩いているんだし。あ、馬車を回収しておかないと」
するとレオバールが僕の肩に手を置いてぼそりと呟く。
「そのままで、いいんじゃないか……? ほら、商人は女でもできるだろ?」
「嫌だって言ってるじゃないか……僕の見た目がレオバールにハマったのかもしれないけど、男だからね?」
「気持ち悪いですね、相変わらず」
「ぐ……」
容赦ないエリィの言葉に言葉を詰まらせたレオバールは咳ばらいをして話を続ける。
「あれだ、心も女性に変える薬とかないのか? それを飲めば解決だろ?」
「しないよ!? しかもそれを当事者に聞くって頭は正気かい!? とりあえず何かなごんでいるけど、レオバールはこの辺りで消えて欲しいんだけど。僕を追い出したこと忘れてないし、斬りかかってきたのも腹立たしい。この際もう一回言っておくけど、僕は男に戻るし、エリィは渡さないからね?」
僕の剣幕に押させてレオバールが立ち止まり呻く。
「くっ……だが、冥王が生きていたのは気になる。それにレオスを狙っているなら俺も着いて行くつもりだ。次は必ず倒す」
「アレンと二人でいってきてよ……光の剣は返したし」
「なあに、お前も強いし、もう足手まといにはならないだろ? 冥王ならアレンが居なくても倒せる!」
何を勝手なことを……と、僕はため息を吐くと、エリィとルビアもうんざりしているのか僕と同じ顔をしていた。だが、意外な人物が語り出すことで事態が変わる。
「くっく……いやあ、君達は本当に面白いな。だからこそ大魔王討伐に旅ができたのかな? さて、剣聖レオバール。君はレオス達に付いて行くことはできない。俺と一緒にノワール城へと帰ってもらう」
なんとフェイさんがそんなことを言いだしたのだ。ルビアではなく、レオバールに声をかけたのも驚きだけど、内容も度肝を抜かれる勢いだった。それを聞いたレオバールが足を止めて目を細める。
「何だと? 俺を剣聖と知ってその発言。お前は……何者だ?」
「そうね、そこはあたしも知りたいわ。どうも変装していたあたしの正体も気づいていたみたいだし? 鍵開けも見事だった。正体を言いなさい」
ルビアが睨みつけるように言うと、フェイさんがフッと笑い、顎に手をかける。ま、まさか変装をしていたのか!?
バリバリと何かをはがし、素顔が現れ――
「同じ顔じゃないか!?」
「いやあ、はっはっは! こういう『実は自分の正体は!』みたいなのに憧れてたんだけど、思いつかなくてね」
さわやかに笑うフェイさんが「よくできてるだろ?」と顔を脇に抱えながら話を続けてきた。
「さて、俺の正体だが、レオバール。君には一度声をかけている。レオスに負けたあの森でね」
「……!?」
心当たりがあるのか、レオバールの顔に冷や汗が噴き出す。
「俺の名はフェイアート。ノワール城の国王様の命を受けた宰相が俺に頼み、レオバールの監視をしていたんだ」
「え!?」
友達の友達が言ってたんだけど、みたいなノリで衝撃な告白があった。というかエリィやルビアじゃなくてレオバールなのはどうしてなんだろう?
「レオバール、君はレオスが勇者の装備を盗んで逃げた、と言っていたそうだけど森でのやりとりは全部聞いていた。アレンから買い取ったものだったと。君は嘘をついてレオス達を追ったってわけだ。奪い返して無かったことに。さらにレオスを口封じできればいいと思っていたな?」
「そんなこと言ったんですか!? 最低!」
「うわあ、お姉さんドン引き……」
元・仲間がごみを見るような目で見ると、レオバールは後ずさる。
「ち、違う……お、俺はエリィの……い、いや、アレンの為に……」
「どちらにせよ森でレオスを襲ったのは事実だ。俺と一緒に戻ってもらうぞ? 後は国王様の前で弁明するんだな」
「あ……う……」
「なるほどね、本当の筋書きは僕を殺してエリィとルビアに僕を盗人に仕立て上げ、エリィを奪うって感じだったのかな? それでよく僕(女)を手に入れようとしたね」
虚偽に殺人計画……聖職を剥奪され、牢に入れられてもおかしくない事例だ。レオバールにもそれは分かっているらしく、踵を返して脱兎のごとく走りだした!
「俺は大魔王討伐を果たした英雄だ……! こんなことで……!」
違うけどね、などと思っていたらフェイさんが口を開いた。
「やれやれ、面倒なことだな。黙って捕まえても良かったけど、レオス達にも経緯は知っておいてほしかったんだよな。さて、短い間だったけど楽しかったよ。ごめんねルビアちゃん、俺、故郷に彼女が居るんだよ。だから、君とは付き合えないんだ」
「全然、あなたのこと好きでも何でもないからいいけどね」
「はっはっは、つれないなあ。ま、いい人が見つかるのを祈っているよ」
「追いかけなくていいんですか?」
伊達に聖職ではないレオバールが段々小さくなっていくので、僕が声をかける。最悪僕は追いつけるけど、正直もう関わり合いになりたくない。
「大丈夫。俺のジョブは『マスターシーフ』だ。追跡調査に宝箱を開けるのはお手の物ってね! それじゃ!」
そういうとフェイさんはスッと姿を消し、気配も完全に断たれた。
「シーフって言うかもうアサシンじゃないかなあ……」
「でもこれでレオス君の疑いも晴れますし、良かったです!」
確かにエリィの言う通り(自分も知らなかった)罪から疑いが晴れ、レオバールも詰問を受けるだろうからもう僕達に構うことはできないはずだ。そう思えば足取りも軽くなる。
「えっと、そういえばレジナさん達はどうするの?」
にこにこしながら二人と手を繋いで歩いていたレジナさんが僕に向いて言う。
「まだ陽は高いから、このまま森へ帰るよ。また近くに来ることがあったらシルバーフェンリルの村に招待してやる!」
「たまたまだったけどね。シルバも頑張ったよね」
「きゅん! 怖かったけど面白かった!」
そういってルビアに抱き着くシルバ。
「きゅきゅん! またお肉食べたいなあ。絶対遊びに来てね!」
「うん。一回実家に戻ったら考えておくよ」
シロップを撫でながらそんな話をし、途中で馬車を回収し、町の外へと出た。
「それじゃあお元気で!」
「ああ。何か困ったことがあったらアタシ達に言うんだぞ? シルバーフェンリルは恩を忘れない。覚えておくんだね」
「うん。ありがとう」
僕がレジナさんと握手をしているとシルバが名残惜しそうにルビアに喋りかけていた。
「僕、大きくなったらルビアお姉ちゃんと一緒に旅をしたい! そしたらずっと一緒だよね!」
「うーん、大きくなったらね? お母さんと同じくらい強くなったら考えておくわ」
「わーい!」
困った顔で笑うルビアを微笑ましく見ていると、気づいたのか手であっち向いてなさいとジェスチャーしていた。
「じゃあねレオスにいちゃ! ありがとー」
「さ、父ちゃんが寂しがってるから急ごうか」
ぼふん、と三人は狼の姿に変化して来た道を戻り、走って行った。森に入る直前、一度だけ振り返った後、姿が見えなくなった。
「行っちゃったね」
「はい……一気に人が居なくなったから静かになっちゃいましたね。では、レオス君を男の子に戻すためセリアさんのところへ行きますよ!」
「うーん……レオバールじゃないけどもうちょっといろんな服を……」
「やめてよ!?」
と、馬車を走らせ始めたその時、
「うあああああ! もう我慢できません! わたしにも喋らせろぉぉぉ!」
バス子が荷台をごろごろ転がりながら壊れた。
「ちょ、落ち着きなさいバス子! 大魔王の娘である私達を考慮してくれたんだから黙っておくに越したことはないでしょ?」
「でも! 前の話で一度も口を開いていないんですよ! このわたしが!」
「いや、知らないけど……」
「この扱いにバス子は不服を申し立てます。イチゴ大福三個。これで手を打ちましょう! レオスさん、いいですよね!」
なぜイチゴ大福……そう思い荷台を除くと、ぎゃあぎゃあと騒ぐバス子がルビアとベルゼラに絞められてダウンしていたとさ。
程なくして村の入口が見え、僕は安堵のため息を吐いた。
「やっと戻れる……」
二日のことだったのに、すごく長かったような気がするよ……
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