上 下
84 / 196
第五章:スヴェン公国都市

その79 セーレ

しおりを挟む

 
 バス子と鉢合わせた公王様に体当たりを食らわせ、床に転がすと同時にその手から杖を奪い取る。ちょうどその時、ベルゼラとレジナさんが入ってくる。

 「ソレイユさん! 皆さん!」

 「シロップ! 良かった、無事だった……」

 「ベル、レジナさん!」

 「きゅん!」

 「シルバもいるんだ! バス子、きちんと伝えてくれたんだね」

 「えっへっへ! 惚れ直してくれましたかねぇ! 時計塔に入るのも『わたしが』頑張ったんですよ」

 得意気に話すバス子にベルゼラがジト目でそれを見ていたので、あ、多分違うなって思った。けど、いつもみたいにツッコまないあたり完全に吹いている訳でもないらしい。それと元々惚れていないけど話が面倒になるのでぐっとこらえた。

 「とりあえずいいタイミングだよ。チェックメイトって感じかな?」

 僕が気絶した公王様を端へ寝かせながらそう告げていると、ルビアに吹き飛ばされたセーレが膝を付きながら口を開く。

 「ぐ……『印』を消されるとは……それにここまで痛めつけられるとは予想外でしたよ……」

 「これはあなたの血ですか? なるほど、何となく理屈は読めました」

 エリィがシロップの手の印を完全に消し去り、ティリアさんもルルカさんという人に肩にあった印を消してもらっていた。
 エリィの言う理屈は恐らく血で自分の元に引き寄せる性質を持たせるのだと思う。まあ、今はそれは後回しだ。

 「セーレ、大人しく僕達に捕まってくれればこれ以上痛い目を見なくて済むよ。それともう一つ。お前たちの目的を聞かせてもらいたいね」

 「レオス、とりあえず手足の一本でも折ってからにしましょう。そこのあんたも手伝って」

 「分かった。何かよくわからんがティリアを攫ったのはこいつみたいだしな」

 カクェールさんも槍を構えてセーレの前に立ち、僕も並ぶ。僕達の後ろにシロップを抱えたエリィとルルカさん、ティリアさんが移動し、完全に追い詰めた形になった。

 「……」

 「ルビアは本気で手足を折りに行くよ? 降参するなら早い方がいいと思うけど」

 僕がそう言うとセーレは、

 「降参、ですか……くっくっく、そういう訳にもいきませんよ。確かにこの人数相手は少々厳しいですが、お約束というのものが残っていましてね!」

 笑いながら叫び、全身から紫の煙を噴出させ始めた!

 「させないよ!」

 「ハァ!」

 「おおりゃあ!」

 僕は即座にセブン・デイズをセーレに振りかぶり、文字通り片方の腕を切断する勢いで斬りつける。ダークヒールであれば後でもくっつくのでまずはこいつを降参させることが先決だ! 同時にルビアとカクェールさんも仕掛けていた。

 しかし――

 「《テンペスト》!」

 「くっ! 風の中級魔法!」

 肩口にかかる直前、僕達は強烈な風に足を取られて床を転がってしまう。その間にセーレの言う『お約束』とやらが完成してしまったようだ。

 「ふう……まさかこんなところで真の姿をさらすことになるとはね。改めて自己紹介をしよう、私はセーレ。物や人を移動させることが得意な魔界の住人さ」

 「ば、ばかな……」

 「そんな……!」

 「なんてこと……」

 「フフフ、恐ろしいかい? 君達なら私の魔力がどれほどのものか分かるだろう? さっきまでのようにはいかないよ」

 「こんなにイケメンになるなんて……!」

 最後のエリィの言葉にガクッっとセーレが崩れる。しかし無理もない。さっきまで白いローブを着ただけの陰気な男だったのが急に西洋の騎士のような格好にレイピアと羽根つきハットを身に着けた若いイケメンになったのだから。

 「ま、まあ、褒めてくれるのは一向に構わないですけどね。さあ、仕切り直しといこう」

 「あ!」

 セーレ(真)がパチンと指を鳴らすと僕の手の中にあった杖がセーレの左手に握られていた。こいつ、これにも印をつけていたのか!

 「この『イグドラシルの杖』は計画に必要という訳でも無いけど、遊ばせておくには勿体ないから頂きますよ。魔力増幅装置としての意味も大きいですしね! 《エクスプロージョン》!」

 「!? 《フルシールド》!」

 ゴッ!

 不意に放たれた魔法を咄嗟に防御魔法でガード。地響きが起こったのかと錯覚するほど部屋が揺れ、あちこちにひびが入る。立ち込める煙の中から、ルビアとカクェールさんが飛び出した。

 「助かったわレオス! 抵抗するなら覚悟しなさいよ!」

 「泣いても遅いからな」

 「くっく……」

 カクェールさんの槍をレイピアで受け流すと、杖をルビアに向け、フレイムを放つ。それをルビアは手で払いのけると、足元へ蹴りを放った。

 「危ないですね」

 「チッ、こいつ紙一重で避けるのかよ」

 「二人がかりなのに……!」

 涼しい顔でいなすセーレは本当に先ほどまでと違い動きが軽やかで、レイピアで二人に細かく傷をつけていく。それでも拳聖であるルビアの攻撃は徐々にセーレを追い詰める。

 「まだまだああ! ”空刃裂掌”!」

 「うおっと!? 痛ぅ、さすがは拳聖。油断できないというところですか! それでも大魔王を倒せなかったあなたでは私には勝てませんよ?」

 「なんですって!? あぐ!?」

 セーレの右頬をぶん殴ったルビアだったけど、踏みとどまったセーレの物凄く速い突きで両肩と左足を貫かれた!

 「”四連獄” しかし三つしか当たりませんでしたか、やりますね。そして……そこです!」

 「俺がいることを忘れるなよ!」

 ガッ! ガキン!

 カクェールさんとセーレの激しい撃ち合い。何気にあの人、ルビア並みに強いぞ!?

 「《フレイム》」

 「食らうかよ! 《キュアヒーリング》!」

 「! ありがとう! ”鋼牙”」

 「ひやっとしましたね」

 なんと戦いの最中にカクェールさんはルビアの傷を癒した。近接戦闘オンリーかなと思ったのに、回復魔法が使えるとは思わなかった。
 僕が攻撃に移る隙を伺っていると、セーレがニヤリと笑って手を交差させて叫ぶ。

 「”瞬転”」

 その直後、ルビアとカクェールさんの姿がパッと消えてしまった。パンパンとズボンのすそを払いながらセーレは僕に言う。

 「くく、レイピアで細かく私の血を塗布して『印』を書かせてもらいました。今頃城の外でおっかなびっくりって顔をしているでしょう」

 「結構な能力だね」

 「殺傷能力が無いのが悩みの種でしてね。さて、あなたは大魔王を倒した張本人と聞いています。しかし、は大魔王より強い。真の姿を出した私に、あなた達の勝ち目は無くなりました」

 勝ち誇ったように言うセーレ。

 だけど――

 「大魔王より強い? まさかあ。あの時、僕も本気を出して居なかったけどセーレよりは強かったと思うよ? こういったら怒られそうだけど、聖職四人が相手にならなかったんだから」

 「……聞き捨てなりませんね。では、大魔王を倒したあなたの力、見せてもらいましょうか」

 「そうだね。いい加減話数も多くなってきたし、大魔王エスカラーチの時よりちょっとだけ多めに力を出してあげるよ。その杖、厄介そうだしね」


 「おおう……かっこいい……女体なのに……」

 「バス子、黙りなさい!」

 外野を無視して僕はセーレに迫った!
しおりを挟む
感想 448

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~

mimiaizu
ファンタジー
 迷宮に迷い込んでしまった少年がいた。憎しみが芽生え、復讐者へと豹変した少年は、迷宮を攻略したことで『前世』を手に入れる。それは少年をさらに変えるものだった。迷宮から脱出した少年は、【魔法】が差別と偏見を引き起こす世界で、復讐と大きな『謎』に挑むダークファンタジー。※小説家になろう様・カクヨム様でも投稿を始めました。

前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。

八神 凪
ファンタジー
久我和人、35歳。  彼は凶悪事件に巻き込まれた家族の復讐のために10年の月日をそれだけに費やし、目標が達成されるが同時に命を失うこととなる。  しかし、その生きざまに興味を持った別の世界の神が和人の魂を拾い上げて告げる。    ――君を僕の世界に送りたい。そしてその生きざまで僕を楽しませてくれないか、と。  その他色々な取引を経て、和人は二度目の生を異世界で受けることになるのだが……

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

処理中です...