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第五章:スヴェン公国都市
その79 セーレ
しおりを挟むバス子と鉢合わせた公王様に体当たりを食らわせ、床に転がすと同時にその手から杖を奪い取る。ちょうどその時、ベルゼラとレジナさんが入ってくる。
「ソレイユさん! 皆さん!」
「シロップ! 良かった、無事だった……」
「ベル、レジナさん!」
「きゅん!」
「シルバもいるんだ! バス子、きちんと伝えてくれたんだね」
「えっへっへ! 惚れ直してくれましたかねぇ! 時計塔に入るのも『わたしが』頑張ったんですよ」
得意気に話すバス子にベルゼラがジト目でそれを見ていたので、あ、多分違うなって思った。けど、いつもみたいにツッコまないあたり完全に吹いている訳でもないらしい。それと元々惚れていないけど話が面倒になるのでぐっとこらえた。
「とりあえずいいタイミングだよ。チェックメイトって感じかな?」
僕が気絶した公王様を端へ寝かせながらそう告げていると、ルビアに吹き飛ばされたセーレが膝を付きながら口を開く。
「ぐ……『印』を消されるとは……それにここまで痛めつけられるとは予想外でしたよ……」
「これはあなたの血ですか? なるほど、何となく理屈は読めました」
エリィがシロップの手の印を完全に消し去り、ティリアさんもルルカさんという人に肩にあった印を消してもらっていた。
エリィの言う理屈は恐らく血で自分の元に引き寄せる性質を持たせるのだと思う。まあ、今はそれは後回しだ。
「セーレ、大人しく僕達に捕まってくれればこれ以上痛い目を見なくて済むよ。それともう一つ。お前たちの目的を聞かせてもらいたいね」
「レオス、とりあえず手足の一本でも折ってからにしましょう。そこのあんたも手伝って」
「分かった。何かよくわからんがティリアを攫ったのはこいつみたいだしな」
カクェールさんも槍を構えてセーレの前に立ち、僕も並ぶ。僕達の後ろにシロップを抱えたエリィとルルカさん、ティリアさんが移動し、完全に追い詰めた形になった。
「……」
「ルビアは本気で手足を折りに行くよ? 降参するなら早い方がいいと思うけど」
僕がそう言うとセーレは、
「降参、ですか……くっくっく、そういう訳にもいきませんよ。確かにこの人数相手は少々厳しいですが、お約束というのものが残っていましてね!」
笑いながら叫び、全身から紫の煙を噴出させ始めた!
「させないよ!」
「ハァ!」
「おおりゃあ!」
僕は即座にセブン・デイズをセーレに振りかぶり、文字通り片方の腕を切断する勢いで斬りつける。ダークヒールであれば後でもくっつくのでまずはこいつを降参させることが先決だ! 同時にルビアとカクェールさんも仕掛けていた。
しかし――
「《テンペスト》!」
「くっ! 風の中級魔法!」
肩口にかかる直前、僕達は強烈な風に足を取られて床を転がってしまう。その間にセーレの言う『お約束』とやらが完成してしまったようだ。
「ふう……まさかこんなところで真の姿をさらすことになるとはね。改めて自己紹介をしよう、私はセーレ。物や人を移動させることが得意な魔界の住人さ」
「ば、ばかな……」
「そんな……!」
「なんてこと……」
「フフフ、恐ろしいかい? 君達なら私の魔力がどれほどのものか分かるだろう? さっきまでのようにはいかないよ」
「こんなにイケメンになるなんて……!」
最後のエリィの言葉にガクッっとセーレが崩れる。しかし無理もない。さっきまで白いローブを着ただけの陰気な男だったのが急に西洋の騎士のような格好にレイピアと羽根つきハットを身に着けた若いイケメンになったのだから。
「ま、まあ、褒めてくれるのは一向に構わないですけどね。さあ、仕切り直しといこう」
「あ!」
セーレ(真)がパチンと指を鳴らすと僕の手の中にあった杖がセーレの左手に握られていた。こいつ、これにも印をつけていたのか!
「この『イグドラシルの杖』は計画に必要という訳でも無いけど、遊ばせておくには勿体ないから頂きますよ。魔力増幅装置としての意味も大きいですしね! 《エクスプロージョン》!」
「!? 《フルシールド》!」
ゴッ!
不意に放たれた魔法を咄嗟に防御魔法でガード。地響きが起こったのかと錯覚するほど部屋が揺れ、あちこちにひびが入る。立ち込める煙の中から、ルビアとカクェールさんが飛び出した。
「助かったわレオス! 抵抗するなら覚悟しなさいよ!」
「泣いても遅いからな」
「くっく……」
カクェールさんの槍をレイピアで受け流すと、杖をルビアに向け、フレイムを放つ。それをルビアは手で払いのけると、足元へ蹴りを放った。
「危ないですね」
「チッ、こいつ紙一重で避けるのかよ」
「二人がかりなのに……!」
涼しい顔でいなすセーレは本当に先ほどまでと違い動きが軽やかで、レイピアで二人に細かく傷をつけていく。それでも拳聖であるルビアの攻撃は徐々にセーレを追い詰める。
「まだまだああ! ”空刃裂掌”!」
「うおっと!? 痛ぅ、さすがは拳聖。油断できないというところですか! それでも大魔王を倒せなかったあなたでは私には勝てませんよ?」
「なんですって!? あぐ!?」
セーレの右頬をぶん殴ったルビアだったけど、踏みとどまったセーレの物凄く速い突きで両肩と左足を貫かれた!
「”四連獄” しかし三つしか当たりませんでしたか、やりますね。そして……そこです!」
「俺がいることを忘れるなよ!」
ガッ! ガキン!
カクェールさんとセーレの激しい撃ち合い。何気にあの人、ルビア並みに強いぞ!?
「《フレイム》」
「食らうかよ! 《キュアヒーリング》!」
「! ありがとう! ”鋼牙”」
「ひやっとしましたね」
なんと戦いの最中にカクェールさんはルビアの傷を癒した。近接戦闘オンリーかなと思ったのに、回復魔法が使えるとは思わなかった。
僕が攻撃に移る隙を伺っていると、セーレがニヤリと笑って手を交差させて叫ぶ。
「”瞬転”」
その直後、ルビアとカクェールさんの姿がパッと消えてしまった。パンパンとズボンのすそを払いながらセーレは僕に言う。
「くく、レイピアで細かく私の血を塗布して『印』を書かせてもらいました。今頃城の外でおっかなびっくりって顔をしているでしょう」
「結構な能力だね」
「殺傷能力が無いのが悩みの種でしてね。さて、あなたは大魔王を倒した張本人と聞いています。しかし、私達は大魔王より強い。真の姿を出した私に、あなた達の勝ち目は無くなりました」
勝ち誇ったように言うセーレ。
だけど――
「大魔王より強い? まさかあ。あの時、僕も本気を出して居なかったけどセーレよりは強かったと思うよ? こういったら怒られそうだけど、聖職四人が相手にならなかったんだから」
「……聞き捨てなりませんね。では、大魔王を倒したあなたの力、見せてもらいましょうか」
「そうだね。いい加減話数も多くなってきたし、大魔王エスカラーチの時よりちょっとだけ多めに力を出してあげるよ。その杖、厄介そうだしね」
「おおう……かっこいい……女体なのに……」
「バス子、黙りなさい!」
外野を無視して僕はセーレに迫った!
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