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第五章:スヴェン公国都市
その74 一方そのころの話
しおりを挟む――時はレオス達が時計塔に入るあたりに遡る……
「動かなくなったか?」
「ああ、問題ない」
ギルドマスターのハダスがレオバールに訪ねると短く返り、話を続ける。
「それにしてもコアを破壊したあの男、中々やるな」
「あいつはこの町の人間じゃないんだがな。しかしウッドゴーレムの動きが鈍かったとは言え、剣聖が町にいて助かった。物理攻撃は通りにくいからもう少し苦戦していたはずだ」
「伊達に剣聖と呼ばれているわけではないからな。足を斬ってバランスを崩せばあれくらい当然だ。それよりあの槍を持った男はどこへ行った?」
「そういえば居ないな……まあいい、俺は手伝ってくれたみんなのところへ行く。特別報酬も出すからギルドへ顔を出してくれ」
「分かった」
レオバールはため息を吐き改めてウッドゴーレムを見ながら呟く。
「一体誰が何のためにこんなものを町に出した……? 大魔王を倒して大魔王側についていた魔族は大人しくなったと思うが……。そういえばレオスのやつが妙なことを言っていたな? 公王が操られているだったか」
ふむ、と顎に手を当て考え始めた。もし、このウッドゴーレムが公王を操っている魔族のしわざならこの町は魔族に侵食されるつつある可能性が高い。基本的にクソ野郎ではあるが、正義感が無いわけではないレオバールが、
「少し探ってみるか、アレン達は居ないがその辺の小癪な魔族相手に遅れはとるまい。ん? ……あれは昨日の女の子!?」
ちょうどレオス達が時計塔へ入っていくのが見え、直後にスッと姿を消した。
「一人、男に手を引かれていたな……まさか脅されているのでは!? い、いかん、助けねば!」
そう呟くと、時計塔に向かい歩き出そうとして、その直後背後から騎士に声をかけられた。
「そこのお前! 時計塔へ近づいてはならん」
「今、時計塔に誘拐犯が入っていったんだ、すまないが俺は行くぞ」
「何を馬鹿な……ここは公王様が封鎖した場所、お咎めを受けたくなければ戻るんだ」
こんな時に、とレオバールは胸中で舌打ちをして口を開く。
「仕方ない……む、おい、ちょっと来てくれ、何かおかしい」
「どうした? ……う!?」
「一階の床に穴が開いている、おかしいだろう? ……急ぐか」
騎士を気絶させてレオバールは時計塔に入ったレオスを追いかけていく……結局自分の為に行動する残念な男であった。
◆ ◇ ◆
「チッ、暴れられなかったよ」
「きゅーん!」
「ふう、大きかったから魔法が変な方向に行っても大丈夫だったわね。ソレイユさん達は居なかったみたいだけど、騒ぎを聞きつけてくるかしら?」
一方のベルゼラ&レジナ(とシルバ)組は丁度ウッドゴーレムの襲撃に巻き込まれ、一段落したところだった。レオス達とちょうど逆サイドにいてお互いを認識できず、レオス達が時計塔を向かうのに気づけなかった。
「時計塔が被害にあったみたいだけど、騎士が集まっている……入るのは無理かしら……」
「正面突破していいんじゃないかい?」
「あまり目立つとセーレという魔族に目を付けられますから、それはよしましょう。とりあえずレオスさん達と合流をしないと……」
ベルゼラがそうレジナに呟くと、屋根の上からバス子が降りてくる。
「お嬢様! 無事ですか?」
「バス子! あなたこそ無事? というかレ……ソレイユさんは?」
「時計塔へ行きました。それを伝えるために探して居たんですよ、追いかけられるか分かりませんが行きましょう」
「分かったわ。では、レジナさん」
「ああ、急ぐよ」
ベルゼラ達が時計塔へ向かうと、すでに騎士たちが数人時計塔を取り囲んでいて、容易に入れない雰囲気であることが伺えた。
「こりゃ、厳しいですねえ。ウッドゴーレムの解体も騎士達がやるみたいですねえ。冒険者は遠ざけられた感じ?」
「シッ、誰か運ばれてくるわ」
建物の影から会話を聞くため耳を大きくする二人。
「そっと運べ、誰にやられたか見ていないのか?」
「現場には誰も……まさか時計塔に侵入者が?」
「……そうだな、あり得なくはないな。何人かこのまま地下通路へ行け。ウッドゴーレムのコアを破壊した槍の男かもしれん。城のことを嗅ぎまわっていたらしい。ギルドの連中も何か企んでいそうだから理由をつけて追い返したが……」
「なるほど、ハダス殿は愛想笑いで戻って行きましたが油断はできんということですね。地下通路は了解であります」
「頼むぞ」
それだけ会話し、騎士達は持ち場へ行くように散らばっていく。ベルゼラは腕組みをしてバス子とレジナへ話しかける。
「地下通路……レオスさんもそっちへ行ったんでしょうね」
「ええ、間違いないでしょうねえ。わたし達も行きますか?」
「そうね。でもあの警戒網を抜けるのはしんどいわよ?」
「えっへっへ、お嬢様。わたしが誰か忘れていませんかね?」
「バス子?」
腰に手を当ててない胸を逸らすバス子に訝しげな眼を向けると、バス子は得意げに口を開く。
「わたしはサキュバスですよ? そして騎士は男ばかり。この問題、推理するまでもなく解けていますよ!」
「あ、待ちなさい!」
「むははは! じっちゃんはいつも一人!」
自信満々にダメそうなキャッチフレーズを口走って騎士たちの元へ歩いていくバス子。ベルゼラがはらはらしながら見守っていると、騎士達がバス子を見つけて声をかけた。
数は三人で、バス子がやらかしてもレジナが居れば制圧はできるだろう。だが、騒ぎになるのは避けたいと思っていた。
「ん? ここから先はダメだぞ、立ち入り禁止だ!」
「いやあ、そうなんですけどね? お兄さんたちお仕事していてかっこいいなあって思ってぇ? 良かったらわたしと遊びませんかぁ? ……秘儀”魅了の魔眼”!」
「はっはっは、お嬢ちゃんみたいな子供と遊んでたら捕まっちゃうよ。ほら、あっちへ行った行った」
「いやだなあ、このセクシーギャルを見て子供だなんて♪ ”魅了の魔眼”!」
「セクシー? 最近の子供はませているんだなあ……ウチの娘も気を付けないと」
「子供、居るんですねぇ。禁断の恋、しましょうよ……”魅了の魔眼”!」
「……ふん! はあ! ちょいさー!」
「今、ちょうど十歳で、君と同じくらいなんだよ。ほら、仕事の邪魔だからもういきな――ぐあ!?」
「どうした……!? ふげ!?」
「お前! 何をし――」
ドサ……ドサ……ドサ……
「お嬢様ー、レジナさんー、悪は滅びましたよ! さ、行きましょう! ぐ、うう……」
秘儀がまるで通用せず、バス子は素手で制圧した。泣きながら。
「え、ええ……結局物理じゃない……」
「いい一撃だったな! こいつらはここに隠しておこう」
レジナが三人を軽々と引きずっていき、時計塔の壁へ騎士を置いて地下へと潜り込む。先へ進んだレオス達はというと……
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