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第五章:スヴェン公国都市
その70 情報収集
しおりを挟む「……」
「待て。そいつは味方だ」
「ご配慮どうも。というかまさかあの場にあんたが居るとは思わなかったです」
セーレは城の中庭でローブで顔を隠した人物が着地するのを見て騎士達を止めて声をかける。するとローブの人物は口元を不機嫌そうに曲げて話を続けた。この調子からすると女性のようだった。
「計画は確実に進めているからな。大魔王が消えた今、我らの独壇場と言っても構わない」
「あの時の出来事は偶然と取っていいですかね? 手加減するのも大変なんですが」
「もちろんだ。それより私を追い詰めたあの坊主は何者だ? ダンタリオンからの報告はあったがいくらなんでも強すぎる」
「……さあ? そのダンタリオンさんはどこに?」
「……奴は大魔王城へ一旦引いた。次の計画もあるし、冥王のことも含めてな」
「ふうん」
つまらなさそうに言うローブの人物へ、目を細めてセーレが言う。
「なんだその返事は。アスモデウスよ、やる気があるのか?」
チャキ……
一瞬で間合いを詰め、槍をセーレの腹に突きつけると、アスモデウスと呼ばれたローブの女性が笑いながら答える。
「……っ」
「もちろんありますよー? まあ黙って見ていてくださいな。ああ、そうそう。あの少年がこの町へ来ています。城へ乗り込んでくる可能性が高いですから十分警戒をしておいた方がいいと思いますがね」
槍を消して空へと舞い上がりながらアスモデウスがそういうと、冷や汗を拭いながら頷くセーレ。やがてどこかへ飛び去っていきセーレは安堵のため息を吐く。
「……ふむ、あの坊主がこの町に……少し急ぐとするか。奴隷は少なくともあの杖があればブーストできるだろう……」
セーレはスッと城内へと戻っていった。
◆ ◇ ◆
「やっぱり大きい町は違いますね! パレードで見たノワールの城下町より大きいかもしれません」
「パレード?」
「ええ。大魔王討伐の祝賀パレードです。お父様を倒されたベルにはあまりいい気はしないと思いますけど」
バス子とレジナさんを探すため商店街へとやってきた僕達。エリィとベルゼラが前を歩きながらウィンドウショッピングを楽しんでいた。
新しい商品とかこの国にしかないようなものが無いかなと、二人を探しながら僕もちらちらとお店を見ていたりするけど。
「人が多いわね。レジナさん、すぐ見つかるかしら?」
「きゅん! ルビアお姉ちゃん、僕を降ろして。匂いで分かると思うよ!」
「本当? ならお願いするね」
ルビアがシルバを地面に降ろすと、ふんふんと鼻を動かして元気よく歩き出した。早くシロップを助けて森に戻れるようにしないとね。そんなことを考えながら付いて行くと、人ごみ中を走ってくる人にぶつかる。
「あう!?」
「あっと、すまない! 大丈夫か?」
「う、うん。ありがとうございました」
地面に転がった僕を、槍を背負った黒髪の男性が助け起こしてくれながら謝ってくれる。槍を背負っているけど、おおよそ冒険者っぽくない格好だなあ。
「ちょっと急いでいてな。お、擦りむいたか」
「ああ、これくらいなんともないですよ」
「女の子がそういうもんじゃないって。《ヒール》これでよし! じゃあな、気をつけろよ!」
男性はささっとヒールで回復すると、気持ちのいい笑顔を残して片手を上げて去っていく。中々男気のあっていい人だ。
「……ソレイユちゃん、まさか……」
「え? 何?」
男性の背を見送っていると、エリィが驚愕の表情で僕に話しかけてくる。ベルゼラも冷や汗をかき、そしてとんでもないことを口走る。
「まさか先ほどの男性に恋を……!」
「ぶー!? そんなことあるわけないよ! わざわざ回復魔法を使ってくれるだなんていい人だなと思ってただけだよ! 体は今こんなだけど心までは変わってないから!」
「ほっ、良かった……」
「ええ……あと少しで強制的に戻すところ……」
「この格好で戻されたら引きこもるよ僕……」
まあ、ああいう人がいるってことは町の中までは魔族達の手がかかっていないようだ。再びてくてくと歩いていると、シルバが急に駆けだした。
「きゅーん♪」
「あ、レジナさんだわ」
ルビアがシルバを目で追いながら早足で追いかけると、その先にレジナさんが居た。少し心配そうにキョロキョロしているけど?
「レジーナさん!」
安直な偽名を呼ぶと、レジナさんは僕達に気づきシルバがその胸に飛び込んでいく。
「おや、シルバじゃないか。それにみんなも。情報は集まったかい?」
「ええ、そのことでお話が……ってバス子は?」
僕が訪ねるとレジナさんが困った顔をしてシルバを抱き直す。
「それが――」
レジナさんが言うには途中までは間違いなく居たらしいけど、いつの間にか姿を消していたらしい。この人ごみでは仕方ないかもしれない……というわけもなく、バス子のことだから面白そうなものを見つけてそっちへフラフラと消えていったのではないのかということで満場一致。
「お腹が空けば宿へ戻ってくると思うし、お昼に行こうか。ベルがシチューが美味しいみたいなことを言っていたし」
「きゅん! (僕もうお腹ぺこぺこだよ! シロップはちゃんと食べれているかなあ……)」
「安心しなシルバ。シロップはちゃんとアタシ達が助けるんだから」
「でも心配ですよね……助け出したらうんと美味しものを食べましょうね」
尻尾をだらんと下げたシルバをエリィが撫でて、僕達は笑う。そこにベルゼラが一軒のレストランを見て口を開いた。
「あ、ここ『町一番の味!』って看板がありますよ、ここにしませんか?」
「よほど自信があるのかしら? こういうのは楽しくていいわね、いいわよ!」
「僕もいいよ。入ろうか――」
きぃーん……!
ドォン!
「げほ! ごほ! な、なんだ!?」
と、ぞろぞろとレストランへ入ろうとしたところで、空から急速に何かが降ってきた! 通行人もなんだなんだとこちらに注目し恥ずかしいことになっていた。
もうもうと上がる煙……それが段々消え、その中にいる人物が姿を現す!
「ソレイユさぁん! 酷いじゃないですか! わたしを置いて昼食だなんて!」
「バス子!? どこ行ってたのさ! 探し……てなかったけど」
「酷いっ!? きっと探してくれると思って建物の影からずっと見てたのに……!」
「見てたの!?」
僕の胸倉をがくがくと揺らすバス子にベルゼラがその頭をガシッと掴んで、にこっとほほ笑む。
「で、あなたは情報、集めてきたのかしら?」
「へ? ……えっへっへ……えっへっへ……」
いつもの『えっへっへ』の後に言葉が続かないところを見ると、収穫が無く遊んでいたらしい。
「ふん!」
グギッ!
「えへ!?」
ベルゼラが渾身の力で頭をねじり、バス子の首から嫌な音が聞こえ、ドサリと地面に倒れた。それをルビアが足を掴んで引きずりレストランへと入っていく。
「何してるの、お腹空いたし早く入りましょう」
「……慣れましたねルビア……」
「うん。バス子をモノのように扱うあたり、ね……」
そんなこんなでレストランで食事をし、バス子は遊んでいた罰としておかわり禁止を命じられた。この程度済ませるあたり甘いなあと思う。
で、宿へと戻り、手に入れた情報を出し合う。僕は時計塔の中で何かやっている、それこそ奴隷を集めているんじゃないかと思う旨を伝える。後、レオバールがいることを。
ルビアはレオバールと聞いて嫌な顔をし、フェイという男のせいで収穫はほぼなかったと肩を落とす。
「町、というか広場は平和そのものだったわね。レジナさんは?」
「こっちもいつも通りらしいとしか。レオスの言う時計塔が封鎖されたことと、奴隷商が最近町に店を構えたというくらいか。ただ、奴隷の売買は公王が嫌いで、許可されたのが不思議だと言っていた」
「じゃあ今までは無かったのか……何か話が聞けるかもしれないね。明日はそこへ行ってみようか」
僕が提案し、みんなが頷く。
最悪、僕を買ってもらい、城へ潜り込むかな?
そう考えていたけど、次の日まさかの騒動が――
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