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第五章:スヴェン公国都市

その65 潜入! 公国都市スヴェン

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 <風曜の日>


 ――そんなこんなで次の日

 「それじゃ、そろそろ準備をお願いね」

 「はい!」

 ルビアがだからと先導を取り御者をしてくれている。

 ちなみに僕達の連れてきた馬は休ませており、今はセリアさんのツテで借りた馬車での移動中。そしてそろそろ問題の門へと迫っているためルビアのセリフという感じなのだ。

 「止まれ!」

 衛兵が馬車の前に出て、槍を翳しながら大声を発したのでルビアは馬を止めて衛兵ににっこりと笑いかけて話しかけた。

 「はあい、お兄さん。あたし達、町へ入りたいんだけどいいかしら?」

 「女が御者とは珍しいな?」

 「あたし達、女所帯だからね。荷物の確認はしてもいいけど、下着を盗んだらダメよ?」

 「そ、そそそそんなことをするわけが無かろう!」

 ルビアがそういうと、もう一人の衛兵が一瞬焦っている口調になっていた。正直なことで。で、後ろから幌を開けて荷台を見渡しながら呟く。

 「……どれ……なるほど、確かに女ばかりだな」

 「きゅん!」

 「アタシ達をじろじろみるんじゃないよ」

 「ど、どうもー……」

 ペットと化したシルバに、セリアさんの薬で獣人から人間の姿になったレジナさんが衛兵に睨みを利かせるが、意に介さず肩を竦めて幌を閉め、またルビアの元へ戻っていった。

 「どうだ?」

 「女五人に、チビの狼が一匹だ。荷物はカバンがいくつかあるだけで多くなかった」

 鼻の下を伸ばすかと思いきや、きちんと仕事をする衛兵二人。そこにルビアが話しだす。

 「確認はOK? それじゃ行ってもいいかしら」

 「一応確認する。気を悪くしたら悪いが、この町へは何をしに?」

 すると待ってましたとばかりに僕達は御者台から顔を出して口を開く。

 「実は僕達、旅の商人なんです」

 「こう見えて踊りで生計を立てているんですよ!」

 「占いを少々やっておりまして」

 「わたしはグルメの手記を書いているんですがね? この町の名物を是非と思っています」

 全員見事にバラバラだった!?

 「はあ?」

 衛兵二人は何言ってるんだこいつらとばかりにポカーンと口を開けて呆然としていた。ルビアは額に手を当てて「あちゃー」といった感じに!

 僕達は慌てて荷台にひっこみひそひそと話をする。

 「いやいやいや、ここは旅の商人が無難でしょ!?」

 「いえ、レオス君。こんな服装がバラバラな商人は居ません。そしてレオス君のワンピースは商人が着る服装ではないかと」

 「それを言ったらエリィさんの踊りも怪しいじゃないですか!」

 「グルメよりマシですよ?」

 「真面目な顔で言われると傷つく!? いいとこのお嬢さんの集まりがグルメ旅行とかでもいいじゃありませんか。あ、占い師は論外です」

 「う……!?」

 と、バス子が割とまともな意見を言い、商人かお嬢様かで二択を迫られたその時――

 「大魔王が倒されたと聞いて、お友達と小旅行にきたのよ。一度来てみたかったのよねー。ね、みんな?」

 「あ、うん……」

 「はい……」

 と、ルビアが至極まっとうな理由を述べ、僕達は項垂れた。

 「そうなのか? どこから来たのか分からんが護衛も無しに移動してくるとは……見たところ可愛い子ばかりだ、悪徳奴隷商とか盗賊に会ったら危ないぞ?」

 「その点は――」

 グシャ!

 「ご心配なく♪」

 衛兵の言葉に、ルビアはスッとリンゴを取り出し、それを一瞬で粉々にしてウインクをすると、衛兵が口笛を吹いて拍手をしながら口を開く。

 「ひゅぅ! なるほど、それなりに自信があるってことか」

 「そういうこと。魔法使いもいるわよ」

 「ひょっとして冒険者か?」

 「ううん。カードは無いわ」

 「そうか、まあ登録していなくて強い奴もいるからな。カードが無いなら一人銀貨二枚でいいぞ」

 「それじゃこれで」

 ルビアがお金を手渡すと、衛兵は道を開けて進むよう促してくれた。横を過ぎる時にポツリと僕達に忠告をしてくれる。

 「公王様を追って来た賊が居るらしくてな。だからいつもより金額は倍でな。町も警戒しているから素行には注意しておけよ? 女の子でも容赦なく一日牢屋行きになるぞ」

 ふむ、公王様があんなでも町はきちんと機能しているんだ?

 「はーい、みんな聞いたわね? ……バス子、気を付けてよ」

 「どうしてわたしだけがっ!?」

 「ははは、仲がいいことで! ようこそ、公国都市スヴェンへ。ゆっくりしていってくれ」

 門が解放されて馬車はぽくぽくと町の中へと入っていく。

 「ふう……何とか町の中へは入れたね」

 「まったくよ……どうしてこういう時だけ自己主張が強いのよ……」

 ルビアがため息を吐きながらそんなことを言う間も馬車は進んでいく。通りはキレイに整備されていて、家屋やお店もしっかりとした造りの建物ばかりで、全体的に嫌らしくない気品が漂っていた。

 「バンデイルさんは公王様をいい人だって言ってましたけど、この町を見れば何となく分かりますね」

 「ええ。それにしてもセーレという魔族の動向が気になりますね。お父様なら何か知っているかもしれませんが……」

 ジャラリと大魔王のネックレスを取り出してそんなことを呟くベルゼラ。確かに『大魔王』という立場なら知っていそうだけど、残念ながら復活させるつもりは今のところ考えていない。
 ベルゼラには悪いけど、大魔王の城があった場所は元々別の国で、そこを潰しているんだからお咎めなしとはやはりいかない。

 そんなことを考えていると、鼻をひくひくさせながら遠くに見える城をながら言う。

 「じゃあ城を攻めるかい? アタシはいつでもいいよ!」

 「そういうわけにはいかないよ!? まずは城がどんな様子か確認するため情報収集だよ。ギルドもあるだろうし、町の人がどういう話をしているかも聞いておきたいしね。公王様を下手に襲撃したら僕達が町の人に糾弾されちゃうよ」
 
 「が、がう……でもシロップを早く助けないといけないし……」

 僕の説明に珍しく弱気になったレジナさんへエリィが追撃をかけてくれた。

 「刺激すると、シロップちゃんが狼質にされてもしかしたら……本当にもしかしたらですけど、殺されるかもしれませんよ?」

 「あ、ああ……シロップ……! わ、分かったよ……」

 「となると宿ですね宿! これだけいい町ならさぞや豪華な宿でしょうよ、えっへっへ」

 「言い方がアレだけど、バス子の言うとおりね」

 「そうだね、チェックインしたら町を散策してみようか。路銀稼ぎをしたいけど、目立つのは良くないから諦めるか……」

 「どんまい、おっぱいお化け」

 「うるさいよ!? ルビアのメロンに比べたら僕のなんて大したことないよ!」

 バス子が僕にちょっかいをかけてきたので反撃すると、荷台の空気が凍り付きバス子が笑い始める。

 「えっへっへ……それは宣戦布告とみなしてカモンということでファイナルアンサー?」

 「い、いや、僕は別にそういうつもりじゃ……」

 「だったらどういうつもりだってんですか! 大きな胸に憧れるお嬢様にその言葉はあんまりです! 姐さんの胸を見てため息を吐くお嬢様……ひそかに寝る前に寄せてあげる涙ぐましい努力……それをレオ子さんはお嬢様の踏みにじべらる!?」

 メゴシャ! という鈍い音がして馬車が揺れる。何故か? もちろんベルゼラがバス子をぶっとばしたからである。

 「さっきから聞いていればお嬢様お嬢様ってうるさいわね! 全部あんたの願望でしょうが!」

 「え、へっ……へっ……」

 胸倉を掴まれてぐわんぐわん首を揺さぶられるバス子は、何故か笑いながら親指を立てて沈んでいった。久しぶりに全力で体を張っているような気がする。それがいいかどうかはともかく。

 「はあ……大丈夫かなこんなので……」

 「レオ子……もといソレイユちゃん? 誰の胸がメロンだって……?」

 「あ!? ば、馬鹿な……ルビアは御者台に居たはず……」

 いつの間にか御者台にはレジナさんが座り、シルバを足に乗せて鼻歌交じりに馬車を歩かせていた。

 「宿に着いたら覚悟しておきましょうね」

 にこりと、不穏な笑顔でそんなことを言うルビアだった。

 さ、さて、お城はどうなっていますのかしら……おほほほ……

 はあ……もういっそ悪神の力で一気に片づけてやろうかしら……
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