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第四章:オークション

その56 レオスとエリィ

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 <明曜の日>

 
 ――翌朝

 「そんなことがあったんですね……すみません、安心しきって寝ていました……」

 「よくあれで起きなかったよね……旅している時はそんなこと無かったのに」

 目覚めたエリィが経緯を聞いてしょんぼりしているところへ、ルビアがお茶を飲みながら口を開く。

 「大魔王討伐の時ほど緊張感が無くなっているのは確かね。特にエリィは前衛でずっとピリピリしているわけでも無かったからそういうのには疎いのよ」

 「そうじゃないよルビア。そもそもあれだけ騒いでいたら起きるでしょって話だよ」

 「確かにね。でも慣れないお酒を結構飲んでたし、仕方ないんじゃない?」

 町以外でお酒を飲ますまいと決めた瞬間だった。そんな会話をしていると、バス子が僕の部屋へ入ってきた。

 「お嬢様、死亡確認」

 「不吉なことを言わないでよ。大丈夫そう?」

 「まあ、お酒なんて普段飲まない上に大立ち回りで頭を揺らされたので一日、二日は動けないでしょうね」

 「仕方ないか、気にはなるけど公国首都は急ぎでもないし、どうせ情報が来るまで動くつもりもないから、ベルゼラが元気になるまで待とう」

 エリィとルビア、バス子が頷きしばらく安静にさせることで同意すると、エリィが僕に訪ねてくる。

 「今日はどうしますか?」

 「んー、僕は仕入れをして露店に出向こうかなって思っているよ。というか別に僕がリーダーってわけでも無いし、聞かなくても好きに動いていいからね?」

 「ま、あたしはちょっと二度寝してから考えるわ。ベルも心配だし、部屋にいるわね」

 ルビアはそう言って席を立ち、ベルゼラのために取っておいた朝食を持って部屋へ戻る。そこへ、エリィがパンと手を叩きながら僕に言う。

 「では私はレオス君に付いて行っていいですか? 昨日のベルみたいに売り子くらいはできますし」

 「え? いいの? 賢聖に売り子をしてもらうのは何だか気が引けるけど……」

 「いいですよ! 私を見てすぐ賢聖だと思う人はいないでしょうし」

 「わたし、また肉を潰していいんですかね!」

 「あ、うん、是非……」

 というわけで珍しい組み合わせで露店を出すことに決めると、早速市場でお肉を購入。今日も同じ値段で購入できたのはとても助かった。

 「今日は持ち帰りできるように紙袋かなにかが欲しいけど、脂が出るから難しいなあ」

 油取り紙みたいなものがあればと思い雑貨屋を巡ってみるが、そういったものはやはり無く、仕方なく昨日と同じフォークとお皿で提供することにした。

 「えっへっへ、捻じれろ! その肉を我に捧げよ!」

 「うるさいよバス子! エリィ、次のやつ焼けたよ」

 「はーい、お待たせしました。熱いので気を付けてくださいね」

 「おー、昨日は店出てなかったし、この前は食えなかったんだよ。おほ、こりゃうめえや」

 「あれ? 一昨日の子と違う。あの子も可愛かったのに、兄さん浮気はダメだよ?」

 「今日は寝込んでいるんですよ」

 と、おおむね開店から人は集まってきていた。
 昨日はオークションで時間を取られて店を出さなかったのは勿体なかったかな? 肉ももうちょっとあればいいけど、バラ肉じゃない良い肉で作ったら値段を上げないといけないから悩む。
 
 今日も全部なくなるかなと思ったあたりで、黒スーツの男が声をかけてきた。

 「よう、賑わってるな」

 「あ、バンデイルさん。今日は変装していないんですね」

 僕が返事をすると、バンデイルさんは僕の肩に腕を回してひそひそと耳打ちしてきた。

 「シッ、あれはいざというときのためのやつだ、あんまり言うな」

 「あ、すみません。もしかして情報が?」

 「いや、まだだ。今日は客として来たんだ」

 そう言って店の前に回り、二つ貰えるかと笑った。

 「どうぞ!」

 エリィが渡すと、ハンバーグをじっと見てから僕に訪ねてくる。

 「この皿とフォーク、少し借りていいか?」

 「え? はい、もう売り切れるのでいいですけど……」

 「ちょっと食べさせたい人が居てな。またな!」

 「あ、多いですよこれ!」

 エリィが受け取ったのは銀貨一枚で、二つで銅貨二枚なのでもらいすぎである。だけど、片手を上げて去っていくバンデイルさんは返してもらうつもりはないらしい。

 「レオスさん、肉をウン〇にしましたよ」

 「言い方! でもありがとう!」

 そんなこんなで売り切り、バス子へ銀貨三枚のお給金を渡すと、

 「今日は勝つ!」

 と、またどこかへ行ってしまった。僕達はルビアとベルゼラの様子が気になるので、宿へと戻ることに。

 「お昼をちょっと過ぎたけど、ルビアちゃんとお昼食べてるかな?」

 「案外まだ寝ているかもしれませんね。そういえば、レオス君と二人になるのは初めてかも?」

 「言われてみればそうかも。アレン達と旅をしている時はだいたいロクな目に合ってない気がするし……主にレオバールのせいだけどに」

 僕がそういうとエリィが顔を曇らせて頭を下げる。

 「すみません、本当は私達が連れて行ったのだから守るべき対象のはずなのにあんなことになってしまって。無事に倒せたから良かったですけど、レオバールのクソ野郎から守れなかったのをずっと謝りたいと思っていました」

 「まあ、男女別の部屋だったから仕方ないと思うよ。流石に地味な嫌がらせが多かったけど」

 「そう言ってもらえると助かります。それで、大魔王を倒したのは本当にレオス君なんですか? だとしたら、私やルビア、アレンにレオバールは褒美や名声を貰うのは違うかなと思うんですけど」

 うーん、何とか誤魔化していたけどベルゼラのせいでこの認識は覆しにくい。まあ故郷まで帰ればいいかと思っていたけど、まさか報酬の件を持ちだしてくるとはまじめなエリィらしい。この話はこれで最後にしようと、嘘真相を告げる。

 「いいんじゃないかな? 大魔王討伐までの道のりは間違いなくアレンやエリィにルビア。ついでにレオバールが頑張った結果だし、最後も何となく目の前に落ちてきた光の剣を振ろうとしてこけたら会心の一撃だっただけだし」

 「え? かいしん……?」

 いけない、動揺しておかしなこと言ってるぞ僕!?

 「ま、まあ、みんなで頑張ったからいいんだよ、うん」

 「そ、そうですか? 居なかったことにされているのは悔しいんですけど……」

 「いいよ、いいよ。エリィやルビアが知ってくれているしね。目立ちたいわけじゃないし。あ、でも、アレンが結婚した後の国は見てみたいかなあ」

 「私はもうアレン達に会うのはこりごりですけどね!」

 「はは、僕より嫌ってるんだ」

 「当たり前です! まあ、大魔王も倒し、レオバールも居なくなって平和になったので、いいですけどね」

 心底嫌だったのだろうとレオバールに若干同情が沸くけど、仕方ない部分の方が勝っているのでエリィの主張は黙って聞く。

 だけど急に、

 「……でも、ベルが私達をどう思っているかが心配です。大魔王は悪い存在でした。でもベルにとってはお父さんですから。レオス君に惚れている、というのは本当のようで無理しているような、そんな気もします」

 真面目にそんなことを言う。

 「そうだね。唐突すぎるからね、色々」

 別の視点で考えてもやはり違和感はあるらしい。大魔王が倒されてひと月も経っていないからなおのこと。二人きりになったので、口にしたというところかな。
 警戒はしておくに越したことは無いと思わされた。

 宿へ戻り、ルビア達と昼食を取ろうと部屋へ行く、

 「ただいまー」

 「おかえりー……」

 「わ!? ルビア、下着のまま出てきちゃダメですよ! レオス君も見ちゃダメです!」

 「あ、うん!?」

 「いいわよ、レオスだし。あ、エリィちゃん顔が怖い」

 
 しばらくして――


 「ベルはさっき起きて水を飲んだらまたダウンしたわ。でも起き上がれるくらいにはなったみたい」

 「あ、本当? なら良かった。こっちはまだ情報は無いって報告があったよ」

 「そっか。ならもう少し待つしかないわね。どうも嫌な予感がするのよね、レオスは別の魔族を知ってたみたいだし、他に何か知らない? ……単刀直入に言うわ、何か隠してない?」

 余計なことをいう必要があるだろうかと黙っていたけど、魔族に関わるなら言っておかねばならないと僕は意を決して言う。

 「……冥王を覚えているかい?」

 「はい、あの黒いボロボロの布切れを来た骸骨顔の魔王ですよね」

 「僕が以前戦った魔族が冥王が魔族を束ねて征服するって口走ってたんだ」

 「それを早く言いなさいよ! どうして黙ってたの!」

 ルビアがテーブルを叩きながら立ち上がる。僕は冷静に返事を返した。

 「悪いけど、真偽は分からなかったからね。だけど今回も魔族が暗躍していることを考えると、少し信憑性は増したかなと思って今言ったんだよ」

 言う必要はないけど、僕は正義の味方じゃない。冥王が暗躍していても、直接僕達に危害が及ばなければ手を出す必要はないと考えている。どこに居るのか分からない冥王を探す旅なんてしたくないしね。

 「……そう。使命って訳じゃないけど、大魔王の残党がいるならちゃんと倒しておかないと寝覚めが悪いからさ」

 「うん。だから今回はルビアの提案した公国行きは賛同するよ」

 「うんうん」

 ルビアも真面目だなぁと思いながら、僕はお茶を口に運び、

 「それじゃ情報が入ったらすぐに――」

 コンコン

 「あの、すみません、こちらにお泊りになられているレオス様にお手紙です」

 「え? はい、僕ですけど」

 「確かにお渡ししました!」

 「誰から……行っちゃった」

 「なんて書いているんですか?」

 僕は封をといて手紙を読む。

 「えっと『お前の仲間であるピンク髪の娘は預かった。返してほしくば賭けに負けた金貨一枚を持って来い。さもなければ売り飛ばす』だって」

 「ええー……」

 ルビアがとても疲れた声をあげ脱力し、僕も顔を顰めているのが自分でも分かった。

 「ど、どうするんですか!? バス子ちゃんこのまま売り飛ばされちゃいますよ、早く行かないと……」

 「まあ、落ち着いてエリィ。僕の答えは一つだ」

 「どうするの……?」

 ルビアがごくりと喉を鳴らす。

 「もちろん、放置だ! 別にバス子いなくても困らないし、重要なのは大魔王の娘のベルゼラでしょ? あいつ居なくても大丈夫だって! むしろサキュバスだし、売られた方がいい生活でき――」

 ガチャ! バタン!

 「うおおおおい!? 助けに来てくださいよぅ!?」

 「あ、バス子ちゃん」

 「やはり狂言だったね」

 「う……! なぜノータイムでバレたんですかねえ……」

 「そもそも、どこで待ち合わせか書いていないし、賭けに負けたからって大人しく手紙を出すごろつきは居ないし、それにこの町の人はだいたいいい人だったからだよ!」

 「ぐう、試合にかって勝負に負けましたね……」

 よくわからない悔しがり方をして膝をつくバス子に僕は肩に手を乗せて呟く。

 「まあ売られても、それはそれで構わないけどね?」

 「酷いっ!? 鬼! 悪魔!」

 まあ悪神なんだけどね。

 すると、ベッドからベルゼラがむくりと起き出し、バス子へ近づいてきた。

 「ベル、大丈夫ですか?」

 エリィの声に一瞥した後、ベルゼラはバス子へと向かう。

 「お嬢様……聞いてくださいレオスさんが……!」

 「うるさーい! 頭に響くのよあんたの声は! う、うえ……」

 「ぎゃあああああ!?」

 「あーあ……」

 「きゃああ、ベル、バス子ちゃん!」

 まだ駄目だったらしいベルゼラのアレがバス子を強襲したのだった……
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