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第四章:オークション

その53 裏

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 「――ゅん……」

 「この鳴き声、犬かしら?」

 「そんな感じだよね、この辺りだと思うけど……」

 「あれじゃないですか? いかにも怪しい荷台がありますよ」

 僕達は声を頼りに集会所の裏に辿り着き、周辺を確認するとバス子が暗がりの中に幌付きの荷台を見つけ、見れば建物の横にひっそりと置かれていた。

 「そこに居るのかな?」

 「……! きゅん! きゅーん!」

 僕が小声を出すと中から子犬が激しく鳴き始め、僕は焦る。中を確かめるため近づこうとしたら、ルビアに首根っこを掴まれて耳元で囁かれた。

 「待って、誰か出てくるわよ」

 「え?」

 サッと身を隠して様子をうかがうと、ギィ……っと裏口が開く音がし、ランタンを持った人が出てきたではないか!

 「危なっ!? ルビアに止めてもらわなかったら鉢合わせだったね」

 「エリィとベルがこうじゃなかったら制圧しても良かったんだけど」
 
 「シッ、お二人とも静かに。何か喋ってますよ」

 バス子がそう言って口に指を当てて言うので、僕とルビアも聞き耳を立てて様子を伺ってみることにした。すると男の声がし、荷台に蹴りを入れながら文句をたれていた。


 「うるさいですよ! まったく、誰かに見つかったらどうするのですか? 折角いい商売を始めて最初の取引きですから買われるまで大人しくしておいてください」

 「おい、連れてきていいぞ」

 「おや、そうですか? では行きましょうか」

 ジャラ……

 「きゅーん」

 「きゅんきゅん……」

 「ほら行きますよ」

 ふと、ランタンの灯りが声の主の顔を照らし、僕は驚愕する。

 「!? あいつは!」

 そして鎖で繋がれた二匹の狼が出てきたところでバス子が目を丸くして僕の肩をゆする。

 「あ、あれ! 森で会ったチビ達じゃありませんか!?」

 「それもだけどあの男、見覚えがある!」

 狼、確かシルバとシロップを鎖で引っ張っている男はフォーアネームの町に住んでいた領主様の専属医として雇われていたあの医者、確かティモリアとかいう名前の男だった。

 「知ってるの?」

 「うん。ルビア達と合流する前の町で魔族とトラブっていたんだけど、その時領主様のところに居た医者があの男なんだ」

 「魔族とトラブってたって、今初めて知ったんだけど……

 「エリィが心配しそうだたかあんまり言いたくなかったからね。あの医者と魔族が何か繋がっていないか聞くチャンスでもあるか」

 「何か訳アリって感じかしらね? あたしは行ってもいいわよ」

 「行かないとあいつら売られちゃいそうですし、皮とかはがされたら寝覚めが悪いですしねえ。わたしもいいですよ」

 何かルビアもバス子もやる気みたいなので、僕は頷きカバンからロープを取り出してルビアとベルゼラを結び、ルビアに僕とエリィを結んでもらう。

 「ふにゃ……レオスさん……」

 「お嬢様、愛しいレオスさんの背中じゃないのになんて緩い顔を……ぷぷ」

 バス子がベルゼラの頬をつんつんしながら笑いをこらえている横でルビアが格闘用のガントレット“ドラゴンバスター”を装着して拳を握る。

 「これで両手が使えるわね。派手にぶちかますわ」

 「一応中を確認してからね。誘拐で間違いないと思うけど、他に犯罪者が居るならそっちも捕まえないと、今回はいいけどまた別の人が被害に逢うかもしれないからさ」

 「オッケー」

 ルビアが神妙な顔で頷き、僕は魔法を使う。

 「<サイン・オフ>」

 ふわっと霧のようなものが僕達の体に降り注ぎ、バス子が不思議顔で口を開く。

 「何ですか? 聞いたことが無い魔法……」

 「気配を遮断する魔法だよ。これなら誰かとぶつからない限り簡単には見つからないんだ。けど、ルビアみたいな達人クラスだとあっさりバレるから過信はしないでね。行こう」

 「うーん、レオスがどんどん分からなくなっていくわね」

 「一つ言えるのは恐らく現時点でこの世界に敵はいないってことくらいですかねえ……」

 僕が先行し、二人が呆れながら付いてくる。扉の鍵は……開いたままか、不用心というかアホというか……見張りも居ないのでさっさと中へ入っていく。
 昼間にオークションで見ていたのが幸いし、迷わず地下の会場まで行くことができ、出品者側の袖からそっと壇上を見ると――

 「百人は処刑したと言われる曰くつきの剣は金貨150枚で落札されました!」

 わあああああ!

 「へへ、これで人を斬ったら気持ちよさそうだな!」

 ――昼間と同じようなオークションが繰り広げられていた。ただし、客層は一般人とは程遠い、身なりのいい人物ばかり。さっきの男はさらに言えば、人間の女の子に獣人など鎖で縛られた人も商品のようだった。

 「曰くつきの品、いかがだってでしょうか? 盛り上がってまいりました闇のオークション。いよいよ、本命の奴隷オークションになります!」

 わああああああああああ!

 昼間とは違う司会が言うと、一層声を上げてお客さんが興奮する。それに引き換え、商品であろう人たちはブルブルと震えていた。

 「タルや木箱に隠してはるばる連れてこられた奴隷達。買ってしまえば、こき使おうが性奴隷だろうが思いのまま! そして今回は目玉商品がございます!」

 司会がバッと手をかざし、後ろからあのティモリアが姿を現す。

 「フフフ、さあワタシの商品をご覧あれ! シルバーフェンリルの兄妹です!」

 おおおおお……!

 「何と、森に住んでいて中々町に現れないシルバーフェンリルの子供です! 今は子狼の姿をしていますが、もちろん人型にもなれますよ。ほら、変身しなさい」

 「がるるる……」

 くるん、と少し大きめの狼が回ると、男の子の姿になり、小さい方は女の子に姿を変える。やっぱり、シルバとシロップだ!

 「うぇぇ……にいちゃとわたしをおうちに返してよぅ」

 べそべそと泣くシロップにティモリアは肩を竦めて首を振った。

 「んー、残念。あなた方はワタシが捕まえたのですから生殺与奪の権限はワタシにあります。いい人に買われるといいですねえ?」

 「森で遊んでいた僕達を矢で眠らせたくせに……!」

 「クック……森の動物は狩ってもいいんですよ? 殺されなっただけでもいいと思いなさい。ま、皮をはがれて死ぬかもしれませんけど」

 しらっとそんなことを言い、シルバはシロップを庇うように立つ。その間にもオークションは進んでおり、シルバ達はおろか、女の子達にも値がついていく。

 「狼の女の子に金貨350だ!」

 「俺が360出す!」

 「じゃあ361!」

 「せこいな!?」

 司会も興奮気味で声を上げる。

 「金髪の子はエルフと人間のハーフですよ! 白金貨1枚じゃ足りませんね!」

 「んー……!?」

 髪を引っ張り、壇上の前へと引きずり出し、服を破ると、奴隷紋が肩にあるのが見えた。あの子は本当に奴隷のようだ。かなり淘汰されたけど、借金のカタ何かで売られる人は一定数まだいるというのは本当みたいだね。

 「……レオス、そろそろいいかしら?」

 「そうだね、まずは司会と出品者を抑えよう。客はバス子、お願いできるかい?」

 「合点承知の助! わたしの魅了スキルで男女問わず骨抜きにしてやりますよ……!」

 行こう、そう決めた時――

 「その狼の子と奴隷は全て私が買おう。合計で白金貨1000枚。どうだ?」

 するとティモリア以下、奴隷を扱っている男たちは声をそろえて売った! と叫んだ。

 「あいつ、公王様の隣にいた執事じゃないか!? まさか裏オークションにいるなんて!?」

 僕が驚いていると、今度はドタドタとガラの悪い男達が入ってきた。

 「おら、全員そこを動くな! ようやく尻尾を捕まえたぜ……まさかお前だったとはな、イーゼル」

 「あ! あいつは、ショバ代を払えって言ってきた兄ちゃんですよレオスさん! はんばーぐを食べた!」

 バス子が指さす先には赤いツンツン頭の兄ちゃんだ!

 「くっ……狼とハーフエルフだけでも」

 「待ちなさい! お金を払ってからいきなさい!」

 壇上では執事とティモリアが押し問答を開始する。

 ツンツン頭の会話はまだ続いていた。司会の男が目を細めてツンツン頭に言う。

 「何だぁお前は? 首領の手先かと思ったけどびびらせんじゃねぇ! こっちにも用心棒は居るんだ、出てこい!」

 イーゼルと呼ばれた男が叫ぶと、ずらりと強面の男達が姿を現し、それぞれ武器を手にしてにやにやと笑っていた。
 
 そしてツンツン頭は――

 「ああ、そういえばこの姿じゃ分からんか……これならどうだ?」

 バッ!

 服を脱ぎ捨てたツンツン頭は、次の瞬間灰色の髪をオールバックにし、黒のスーツ姿の男に変わっていた。

 「げっ!? ド、首領……!? 城下町へ仕事に行ってたんじゃ……!?」

 「そういえばこれを開催すると思ってな? まんまと引っ掛かったわけだ!」

 「くそ……! お前等やっちまえ!」

 うおおおお!

 きゃああああ!?

 うわああああ!?

 首領が合図をすると、全面対決が始まり、お客さんが悲鳴を上げる。壇上では、ティモリアが執事の男に蹴り飛ばされたところだった。

 「狼はもらっていくぞ」

 「ああーん! にいちゃ! にいちゃ!」

 「シロップ! 待て!」

 「ああ、ワタシのお金の元が!?

 「レオス、狼ちゃんが連れていかれるわよ!」

 「ああ、もう情報が多すぎる! まずはシルバとシロップを助けるよ! 次は奴隷達! いい?」

 「オッケー……!」

 ルビアが走ると、ベルゼラが頭をガンクガクンしていた。バス子は入口を封鎖しに行ったかな? 姿が見えないけど。

 「それじゃ、僕も――」

 「うおおおお! ウチの可愛い子供たちはどこだぁぁ!」

 「母ちゃん!」

 「お母さん! うえええ……」

 「シルバ、シロップ! 今アタシが助けてあげるからね!」

 僕も駆けだそうとしたところで、シルバ達のお母さんらしき獣人がバトルアクスを振り回して乱入してきた!

 だから情報が多いって!?
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