上 下
56 / 196
第四章:オークション

その52 表

しおりを挟む

 ――どこかにあるという神樹イグドラシル。

 アレン達と旅をしている時に、その存在は知っていたけど結局どこにあるのか分からなかった。もっとも、大魔王討伐で必要なものという訳でもなく、全世界をくまなく旅したわけでも無いので僕達が知らないだけの可能性がある。
 男の出したその神樹でできているという杖も驚いたけど、それよりも驚いたのはスヴェン公国の公王ディケンブリオス様がオークションに参加していたという事実だ。
 大魔王討伐の旅の途中で僕はこの国には立ち寄っていないけど、歳は29と先代から受け継いでそれほど時間が経ってないって話だった。

 「そ、それでは公王様が落札です! お、恐れ多いです!」

 「気にしなくていいよ。私もここではただの顧客の一人にすぎない。フフ、他の買い付けにきて中々面白いものを手に入れたな」

 「ええ、神樹の杖とは縁起がいいですな」

 執事風の男と席に戻っていく公王様。お客さんは静かに、そして驚きながら背中を見ていた。でもなんだろうこの違和感は……初めて見たのに、何となく公王様の目が冷たいような気がした。

 とまあ、そんな大物が出てくるサプライズはあったけどその後は先ほどと同じように賑やかな状態で進行。


 「魔法で動き掃除や旅のお供に最適なハニワの魔道具、金貨五枚からどうだ!」

 「~♪」

 「姐さん、あのハニワ買いましょう!」

 「要らないでしょ、結構大所帯よあたし達」

 
 「このローブ、サラマンダーの鱗と火食い鳥の羽を織り込んだ傑作品ですわよ! 金貨十枚からどうざます!」

 「ベルにあのローブをプレゼントしますね」

 「ええ!? エ、エリィ、お金は大丈夫なの……?」


 
 「金貨四十三枚! おっし、エメラルドの指輪ゲットぉ! これを結婚指輪にするわ」

 「えっへっへ、姐さん相手が居ないのに見栄を張って……ぶへ!?」

 「あんたのブラジャーよりは現実的よ?」

 「言いましたねこのおっぱいおばけ! げひゃひゃひゃ、下剋上の時は今! ……げふ!?」

 「激震拳……成敗……!」

 遠いから何を話しているのか分からないけど、じゃれ合っているのが見え、エリィ達もいくつか買っていたので楽しんでいたようだ。神樹の杖を越えるアイテムは出てこなかったけど、骨とう品や絵画など、武器防具以外も出ていたのは中々興味深く、僕の財力では買えないまでも、見ているだけでも楽しかった。

 「ダイヤの腕輪とミスリルの短剣はまた路銀が怪しくなったら売るかな。」

 そう思いカバンを見ると、アレンの装備一式と聖杯が目に付く。

 「鎧は店に飾るのもアレだし、どっかで売ってもいいかなあ……ルビア達に相談してみよう……」

 思い出さないようそっとカバンを閉じると、司会者が大声で終了の挨拶を告げているところだった。

 「では、今回のオークションはこれまでです! また来月お会いしましょう!」

 大きな拍手が起こり、しばらくしてお客さんがぞろぞろと出ていく。公王様は……いつの間にかいなくなっていたようだ。エリィ達も移動を始めたので僕も参加者側の控室へと戻るため、席を立って移動を始めた。すると、控室で声をかけられた。

 「お、昨日の柔らかい肉を焼いた奴じゃねぇか」

 「あ、こんにちは」

 赤いつんつん頭のお兄さんだ。腕組みをして壁を背もたれにして片手を上げて僕に近づいてきたので、挨拶をする。

 「今日はオークションですか?」

 「いんや、誰かから聞いたかもしれんけど俺は見回りだ。荒事とかは珍しくねぇからな。稼げたか?」

 「ええ、おかげさまで」

 お兄さんは笑いながら僕の肩を叩いて言う。

 「そうかそうか、そいつは何よりだ! またあの柔らかい肉を食いに行くぜ。今度は持ち帰りもできると嬉しい」

 「分かりました! ちなみにあれはハンバーグというんです」
 
 「ハンバーグだな、覚えたぜ。仕事中だからまたな」

 きょろきょろしながらお兄さんは歩き出す。誰か探して居るのかな? 

 気にはなったけど、とりあえずエリィ達を待たせてはいけないと思い直し、僕は入口へと向かう。別れた通路まで戻ると、みんなすでに待っていた。

 「レオス君、こっちですこっち!」

 「ごめん、お待たせ。あれ、ベルゼラその恰好……」

 「あ、そうでした! これ私がプレゼントしたんです。これから旅をするとなるとあの服じゃ汚れたりして勿体ないですし」

 「に、似合いますか?」

 そう上目遣いで聞いてくるベルゼラは、髪に合わせたのか、アクアマリンの宝石がついたロッドに、それとは対照的な紅蓮のローブという火耐性の高い赤を基調としたローブを羽織っていた。下もドレスから冒険者が着るような服に着替えていた。

 「うん、とても似合うね! 髪が青いから、赤が凄く映えるよ。エリィのマントも可愛いし」

 「あ、ありがとうございます!」

 「えへへ」

 そう言って顔を赤らめる二人は素直に可愛いと思った。

 「天然のタラシって怖いですね、姐さん」

 「レオスは下心が無いからいいのよ。まあ、無さすぎて二人にはかわいそうな気もするけど」

 「タラシって……バス子は何も買ってないとして、ルビアは指輪だっけ?」

 「まあね、深い緑色が気になってさ。いい男が現れたらこれを結婚指輪にするのよ!」

 ふん、と鼻息を荒くしてルビアが言い、続けてバス子が口を開く。

 「何も買ってないとは心外な!」

 「じゃあ何か買ったの? パンツは高かったでしょ?」

 「すみません見栄を張りました」

 あっさりと90度の角度で頭を下げるバス子にプライドとかそういうのは無かった。

 「素直なのはいいことだけど早かったね……」

 するとエリィが困った顔で笑いながら、

 「何だかんだでもう夕方ですよ。ちょっと早いけどご飯にしませんか?」

 と、時間が結構経っていることを告げてくれた。

 「あ、本当だ! うーん、肉屋さんに行きたかったけど、朝早くでいいか」

 「仕方ないからバス子はあたしが奢ってあげるわ」

 「姐さん……!」

 どうでもいい感動の場面を無視して、僕達はレストランへ。それなりに儲けも出たし、プチ宴会のようにお酒も頼んでいい気分になったので僕達。

 「はらほろ……」

 「あ、ベルはお酒弱いんですね。でもお酒だけに『ベル、もっと』うふふふふふ」

 「エリィ、そろそろやめた方が……」

 「レオス君……」

 「ん?」

 「再会してからお祝いをしてなかったんですからのみましょうー」

 「いやいや、その予定は勝手にエリィ達に作られたものだし、別れてから二週間くらいなんだけどさ」

 「げひゃひゃ! 酒もってこーい!」

 「あのお子様がお酒はちょっと……」

 「んだとー! あたしは大人だー!」

 うーむ、バス子の説得力の無さはさておき、何となく予想はしていたけどこうなったか。頭を掻いていると、ルビアが笑いながらくいっとグラスを傾けて言う。

 「まあたまにはいいじゃない。アレン達と旅をしている時より楽しいわよ? あのクソ野郎、宿に入るたび迫ってきやがって……」

 「はは……」

 まあ他のお客さんに迷惑をかけていないのが幸いかと思い料理を食べ進め、ベルゼラが寝入ってしまったあたりでルビアと頷き合いお会計を済ませる。

 エリィは僕が、ベルゼラはルビアが背負い、バス子は眠そうな顔をしながら僕の頭を掴んでふよふよと浮いていた。

 「エリィって結構ベルゼラに構うよね。何でだろ」

 「恋敵ではあるけど、背丈も似てるし歳も近いから友達ができてうれしいのよ。レオス、あんたもそうだけど12歳で大魔王討伐の旅は色々失うものも大きかったってことよ」

 ましてエリィは孤児だったしね、と付け加えてスタスタと歩いていくルビアは何となくエリィのお姉さんに見えた。なるほど、友達か。

 「吐く……これは吐いてしまう……」

 「僕の頭の上で不穏なことを言うのは止めてくれない!? あ、集会場だ」

 ちょうど帰り道にある集会場が目に入り、僕は一瞬足を止める。またお宝ができたら参加したい、そう思い再び歩き出そうとしたところで――

 「――ん」

 「ん? 今何か声が……」

 「どうしたの?」

 「いや、動物の鳴き声が聞こえたような……」

 「――ゅん……」

 気のせいじゃない、か細い犬の鳴き声が聞こえてきた。

 「待って、ルビア! ちょっとこっちに行っていいかな?」

 「? いいけど……」

 僕は声が聞こえてくる方へ慎重に歩く。声は集会場の方から聞こえてきていて、塀と集会所の間をゆっくりと進む。

 「きゅーん……」

 夜静かなので気づいたけど、昼間なら気づかなかったかもしれない本当に小さい声が近くなってきた。

 そして――
しおりを挟む
感想 448

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~

mimiaizu
ファンタジー
 迷宮に迷い込んでしまった少年がいた。憎しみが芽生え、復讐者へと豹変した少年は、迷宮を攻略したことで『前世』を手に入れる。それは少年をさらに変えるものだった。迷宮から脱出した少年は、【魔法】が差別と偏見を引き起こす世界で、復讐と大きな『謎』に挑むダークファンタジー。※小説家になろう様・カクヨム様でも投稿を始めました。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

処理中です...