上 下
48 / 196
第四章:オークション

その44 森の出来事

しおりを挟む


 <風曜日>



 どこを見ても木。

 それはそうだろう、ここはふかいふかーい森の中。僕達は何のトラブルもなく森の中へと入ることができた。
 
 草原は魔物が身を隠す場所が少ないからか、昆虫系の魔物以外と戦うことは少ないので早かったけど、森の中は格段に魔物が増えるので注意が必要だ。

 おや、早速出たかな?

 ゴブ……

 ゴブゴブ……

 ゴブゴブゴブ……

 目の前にはゴブリンが三体。剣とダガー、それに錆びた剣を持っている。三匹目は喋りづらくないかなそれ……。するとルビアがナックルをガチンと合わせながら前に出る。

 「珍しくもないゴブリンね。ちゃっちゃとあたしがやるわ」

 「あ、待って。今後の参考にベルゼラとバス子に退治してもらおうよ。別に強敵と戦うわけじゃないけど、どれくらい戦えるか知っておいた方がいいかと思って」

 「レオス君の故郷、ラーヴァ国の魔物って強いですしね」

 「そうなんだよね……山越えもあるし」

 エリィの言葉を肯定すると、ベルゼラがほほ笑んでから頷く。

 「わかりました。私も大魔王の娘、お役に立てることをお見せしましょう!」

 「あ、自分の身を守れるくらいあればいいんだけど……」

 「ふふふ、ついにこの私の実力を見せる時が来ましたね! 行きましょうお嬢様、わたし達のアルカディアへ!」

 「あ、バス子」

 どこから取り出したのか、三つ又の槍を取り出し、嬉々として突っ込んでいく。お前の理想郷は一体どこなんだとツッコミたくなるが、槍を器用に扱い、ゴブリンを翻弄。空も飛べるので多角的な攻めができていて、相当手加減しているのが見て取れる。

 そこへベルゼラが魔法を放つ。

 「ゴブリンくらいこれで! 《ウォータバレット》!」

 「あ、中級の水魔法ですね!」

 「うん。結構楽に出しているから多分上級まで使えるんじゃないかな? 頼もしいね」

 「ま、大魔王の娘だしねえ」

 見守っている僕達の前で、ゴブリンの胴体が吹き飛ぶ。おー、と僕らが歓声を上げていると……

 「と、隣のやつを狙ったのに。ええい《フレイム》!」

 「え?」

 僕達の困惑に第二射を放つ!

 「いやああ!? 熱いぃぃぃ!?」

 「ああ、バス子が!?」

 バス子が一体のゴブリンを串刺しにした直後、その背中に直撃したのだ。

 「大変!? 《キュアヒーリング》」

 ゴブゴブ!

 ゴブリンが回復しているエリィとバス子へ斬りかかっていく。ベルゼラはゴブリンの前に立ちふさがり魔法を使う。

 「《ウォータバレット》!」

 ドズン!

 ゴブ!?

 見事、ゴブリンの頭を吹き飛ばし三体とも倒した。すると回復したバス子が頭をかきながら口を開く。

 「お嬢様の魔法、強力なんですけど狙ったところにいかないという欠点があるんですよ。でも、ある程度の距離ならきちんと入るから近接魔法みたいな感じですねえ」

 「うう……」

 大きく落ち込むベルゼラに声をかける。

 「ま、まあ、そういうこともあるよ。威力は高いからいいんじゃないかな」

 「でも、今のバス子みたいに後ろから当てられるのは厳しいわね……エリィと一緒に練習した方がいいと思うわよ?」

 「そうですね。ベル、頑張って克服しましょう!」

 「ごめんなさい、お願いします……」

 ふう、とりあえずベルゼラのことはこれで良さそうだ。次にバス子へと目を向ける。

 「バス子は問題ないね。圧倒的だったし、もっと強い相手でも大丈夫なんじゃない?」

 「えっへっへ、そうでしょうそうでしょう。サキュバスはエロ担当。そう思っていた時期がわたしにもありました。だけど、時代は多様性……そこで訓練を重ねたんです!」

 へえ、考えているんだなあ。そう思っていると、ルビアが意地悪な顔をしてバス子の肩を叩く。

 「……その体じゃサキュバスの能力は活かせないからでしょ?」

 「がーん!? 姐さん、それは酷いですよ! くうう、この乳か! 乳が男を狂わせるのか! レオスさんもこれで誘惑するんでしょ!?」
 
 バス子が胸を揉みしだくと豊かな胸が揺れる。

 「あはははは! ちょ、くすぐったいって! レオスは弟みたいなものよ、ねえ?」

 「そうだね」

 「鼻血ー!?」

 「ちょっとレオス君どうしたんですか!? 《ヒール》! ああ、止まらない!?」

 「大丈夫だから」

 「凄い優しい目をしてますよレオスさん!?」
 
 エリィとベルが大騒ぎしている中、バス子が舌打ちをする。

 「チッ、やはりレオスさんも男ですね」

 謎のいら立ちを覚えていた。

 まあ、そんなこんなで時に休憩、時に魔物退治を挟みつつ、僕達は森を進んでいく。僕やエリィ、ルビアは旅をしている時にこの森に踏み入ったことは無いけど、結構大きな森らしい。場所にもよるけど、今から行く町方面へ抜けるまでに丸二日はかかる。

 となるともちろん野営になるのは必然だ。

 ほー……ほー……


 「月が出てきたね、そろそろ休もうか」

 「ふう……」

 「大丈夫ベル?」

 僕が提案すると、ベルが近くの石に腰掛けため息を吐き、心配そうにエリィが訪ねていた。

 「お嬢様は箱入りでしたからこういう旅はしたことないんですよ。わたしと二人なら飛んで移動するから体力はないんです」

 「バス子!」

 「いいじゃないですか。知っておいてもらった方が。えっへっへ」

 「それじゃ、ゆっくり休めた方がいいかな? 女の子ばかりだし、安全面も考慮してっと<クリエイトアース>」

 ぼこぼこぼこ……ずずずず……

 僕のイメージした形に土が動き、それなりの広さの家屋が出来上がった。窓とドアは無いけど。

 「うん、強度もいいね。あとは硬いけどベッドを四つを」

 ぽこんと簡素なベッドを作り僕は満足して振り返る。

 「みんなここで寝ていいよ。窓は布とかを使ってふさいでおくと――うわ!? ど、どうしたのさ」

 振り返ると、四人とも目を丸くして呆然と立ち尽くしていた。

 「いや、何これ? 今の、魔法?」

 「こんな魔法聞いたことありませんよ……」

 「あ!?」

 ルビアがかすれた声を出し、エリィが大きく首を振る。しまった、無意識に安全をと思って一人の時と同じノリで作ってしまった!?

 「あ、これは……ギルドの試験で魔法が使えるってなった時にやってみたらできたんだ……」

 我ながら苦しい!

 「そ、そうなんですね! オリジナル魔法だなんてレオス君、もしかしたら私より凄いかもしれません! さ、みなさん、折角作ってくれたんですからちょっと入りましょう!」

 「そ、そうですね……これを維持する魔力って……」

 「あー……大魔王様を倒したってのがちょっと納得できましたわ……」

 みんな気を使ってくれた。

 「じゃ、じゃあ、僕は枯れ木を拾ってくるからゆっくりね!」


 ◆ ◇ ◆


 「……行ったわね」

 「はい……レオス君、凄いですね。私達の魔法も元々は創った人がいてそれを伝承されていますから、魔法を創ること自体はできないことはないんですけど、ここまではっきりと具現できる人はお師匠様でも無理ですよ……」

 「うーん……あの子本当にどうしちゃったのかしら。大魔王を倒した後からよね、おかしくなったのって」

 「そうですね。お城で国王様とのやりとりも堂々としていましたし」

 そこへベルゼラが手を挙げて声を出す。

 「私はあのレオスさんしか知らないんですけど、そんなに違うんですか? お父様を倒した時は容赦なく灰にしてましたけど」

 「そもそもレオスが魔法を使うこと自体知らないわよ……」

 「まあまあ、いいじゃないですか。レオスさんはレオスさんですよ! えっへっへ……皆さんが要らないならわたしがレオスさんを貰っちゃいましょうかね」

 「な!? あ、あなたそんな素振り全然なかったじゃない!」

 「半信半疑でしたが、大魔王様を倒す強さにこのオリジナル魔法にお昼ご飯で食べた料理の腕……これだけで結婚すれば将来は安泰でしょ? 商人としてはどうか分かりませんが、この魔法がお金になる提案をすれば遊んで暮らせる……!」

 バス子の目はお金のマークに変わっていた。

 「それはいけません! レオス君はお金の道具ではありませんよ! 断固阻止します!」

 「えっへっへ、決めるのはレオスさんですからね!」

 「……三つ下か……」

 「ルビアさん!? あなたさっき弟みたいなもんだって言ってたじゃありませんか!?」

 「へ!? あ、ああ、何でもないのよ!?」

 「ルビアまで……これは油断できません……」


 レオスが夕飯の声をかけるまで女性陣はぎゃーぎゃーと騒いでいた。


 ◆ ◇ ◆


 パチパチパチ……

 「たきぎを拾いにいって、ロックバードを倒せるとは思わなかったなあ。鶏肉に似ているから照り焼きが美味しいんだよね」

 四人は夕飯時になにやらギスギスしていたけど何かあったのだろうか。エリィとルビアが話さないのは珍しいなと思った。
 僕はロックバードの胸肉と、取りおいていたトルミノスボアのバラ肉をいつでも食べられるように焼いて保存し眠りにつく。何かあった時のため、僕は焚火のそばで長椅子を作って寝転がった。



 そして深夜――



 「美味しい!」

 「にいちゃ、これ美味しいねえ」

 おっと、寝ちゃってた……。ん? 子供声……?

 「これも美味しい。にいちゃ、あーん」

 「あーん。ボア肉だ!」

 まさか……!?

 「こら、誰だ!」

 「「!?」」

 毛布をがばっと取り払って声のする方へ顔を向けると、

 「が、がおー!」

 「がおー!」

 「じゅ、獣人……?」

 灰色の犬耳をした子供が二人、僕が焚火であぶっていた肉を口の周りをべたべたにして咥えていた。

しおりを挟む
感想 448

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~

mimiaizu
ファンタジー
 迷宮に迷い込んでしまった少年がいた。憎しみが芽生え、復讐者へと豹変した少年は、迷宮を攻略したことで『前世』を手に入れる。それは少年をさらに変えるものだった。迷宮から脱出した少年は、【魔法】が差別と偏見を引き起こす世界で、復讐と大きな『謎』に挑むダークファンタジー。※小説家になろう様・カクヨム様でも投稿を始めました。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...