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第二章:実家はまだ遠い

~Side3~ 近づく災厄

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 「ふう、結構距離がありましたね」

 「まあ、あたしは鍛えているから平気だけど、エリィは大丈夫?」

 「少し疲れましたけど、まだ元気ですよ! 早速レオス君を探しましょう」

 「ええー……元気すぎるでしょ……」

 乗合馬車を使ってフォーアネームの町へと到着したエリィとルビア。野営をしながら四日かけて到着したのだが、エリィは元気よく歩き出す。
 途中の街道でレオスに遭遇しなかったので、この町にいるとエリィは確信し張り切っていた。


 「やはりギルドでしょうか? 冒険者になっていたら顔を出しますよね」

 「そうね……もしかしたら宿かもしれないわ。先に宿へ行かない?」

 ちょっとベッドで休みたいと思っていたルビアが宿行きを提案する。だが、エリィは、

 「宿はどうせ後から行きますし、まずはギルドですよ!」

 と言ってすたすたと歩き始め、ルビアは慌てて追いかける。

 「私たちより先に出たとはいえ、ほとんどタイムラグは無いでしょ? 絶対休んでいるって!」

 「それを確認するためにもギルドですよ!」

 エリィはルビアの意見に耳を貸さず突き進んでいく。ため息を吐きながら追うルビアだったが、ギルドへ到着するとエリィが正しかったことが証明された。

 「あのう、この町にレオスという男の子が来ませんでしたか?」

 「レオスだとぅ……」

 受付カウンターでエリィが訪ねると、受付の後ろにいた大男がゆらりと振り返りエリィの前に立ち、すかさずルビアがかばうように間に入った。

 「あ、あの?」

 「あいつの知り合いか?」

 「ええ」

 間髪入れずに答えるルビアを見て顎に手を当てて少し考えた後口を開く大男。

 「……俺はギルドマスターのサッジだ。居場所は分かるが、おいそれと教えてやることはできん。用件を言え」

 「や、やっぱり居るんですね! 私は賢聖のエリィと申します! レオス君の護衛をするため追いかけてきたんです! はい許可証です!」

 すると聞き耳を立てていた周りの冒険者がざわつき始める。

 「静かにしろ! ……確認できた、ありがとうよ。それにしても護衛か、あいつに必要なのか? 魔族相手にやりあえるのに」

 サッジの言葉にルビアが驚愕する。

 「魔族!? う、嘘でしょう? 冒険者になったって言ってもただの商人が魔族と戦えるわけが――」

 「ああ、本当に商人なのかあいつ……いいだろう、レオスのところに連れて行ってやる」

 「え、急にどうして?」

 「昨日、その魔族とやりあう状況があったんだが、坊主の強さは一線を画していた。そん時に『お前は何者だ』と聞いたら『商人です』ときやがった。誤魔化すにも言いようがあるだろうと、呆れたもんだがまさか本当だったとはな」

 「前の町でもそうでしたけど、レオス君に一体何が……」

 「本当ね……」

 「おら、行くぞお嬢さん方」

 二人が困惑していると、サッジが入り口で付いて来いと指で合図するのを見て慌てて後をついていく。やがて立派な建物の前に立つ。
 
 「でかい屋敷ねー。貴族のところに居るの?」
 
 「ああ、領主だ。俺だ、サッジだ! 誰かいないか!」

 サッジが馬鹿でかい声で叫ぶと、パタパタと音を立てて女の子が顔を覗かせ、声をかけてきた。

 「ああ、ギルドマスターさん!」

 「おう、ソーニャさんか。もういいのか?」

 「あ、はい。ちょっとご飯を食べていなかっただけなのでゆっくり休んで回復しましたよ! 領主様ですね、こちらへどうぞ!」

 ソーニャという子に案内され、エリィ達は来賓室で待つように言われた。

 「高そうなツボねえ。どうして貴族ってツボを置きたがるのかしら?」

 ルビアが室内をうろうろしながら物色をしていると、口ひげを生やした男が室内へと入ってきて笑顔で挨拶をする。そのあとに若い男女が続いて入り、会釈をしてエリィ達の向かいに座った。

 「待たせたな! 今日は何の用だ? グレゴールの馬鹿が暴れでもしたか?」

 「あの男にそんな度胸がねえのはお前が一番よく知っているだろうに。レオスは居るか? この二人、あいつの知り合いで護衛を依頼されているらしいんだが……」

 「エリィです」

 「ルビアです」

 ぺこりと手早く自己紹介をすると、領主と思わしき人物が「え?」という顔でサッジに言う。

 「え? レオスは今朝早く旅立ったぞ。もう襲撃は無さそうだと思って報酬も渡したし」

 「な、なに!? 旅立つ前には俺のところに来るよう言っておいたんだぞ!?」

 するとソファに座っている女の子がポンと手を打って口を開く。

 「あ、そういえば、そんなことを言ってましたっけ?」
 
 「全然忘れてたな……あ、サッジさん、これ依頼完了の書状です」

 男の子がサッジに紙を手渡すと、乱暴にひったくり、ポツリと呟く。

 「ありがとよ! ……ったく、俺からも報酬を用意していたんだがな……。というわけらしいお嬢さん方、今朝ならまだ間に合うんじゃないか?」

 「そうですね! 情報ありがとうございます!」

 「国境を越えると言っていたから関所でかち合うんじゃないかね? 本当に助かったと伝えておいてくれ」


 領主達に見送られ、エリィ達は再びギルドへ。

 「もうレオスが何なのか本当に分からなくなってきたんだけど……」

 「会って確かめればいいじゃありませんか。それでサッジさん、私たちに何か?」

 サッジに連れられて戻ってきたエリィは早く移動したいのを我慢して付いてきていた。ルビアは休めると安堵していたが、

 「(多分このまま町を出ちゃうんだろうなあ……お風呂入りたい……)」

 諦めの境地に入っていた。

 「おう、さっき言ってた報酬の件だ。ゲルデーン……領主の依頼とは別に、街道を襲うゴブリンと野盗を壊滅させてくれたからその分だ。レオスに必ず渡してくれ。さて、後始末するかな……」

 革袋をエリィに渡し、サッジは奥へと戻っていく。エリィは椅子から立ち上がり、ルビアの手を引っ張りながら言う。

 「さ、行きますよ! 徒歩なら今度こそ絶対追いつきます! あ、でもルビアはここで待っていてもいいですよ?」

 「行くわよ、行きますー! もう、大魔王討伐より積極的じゃない……」

 「えへへ」

 「褒めてないわよ!? とっとと追いついて宿に泊まるわよ! レオスに奢らせてやるんだから」

 「報酬もありますしね。それではレッツゴーゴーゴー!」

 
 ――結局乗合馬車の都合がつかなく、エリィ達も徒歩で町を出る。

   そしてついに……!




 ◆ ◇ ◆


 <少し前の領主邸>


 (え? レオスは今朝早く旅立ったぞ。もう襲撃は無さそうだと思って報酬も渡したし)

 「なるほど……」

 「もう旅立ったのね」

 ほっかむりをして来賓室の窓枠から顔を覗かせている怪しい二人組がポツリと呟き、サッと顔を見合わせる。

 「それにしても行動が早いですねえ」

 「そうね。でもどちらかと言えばギルドで話していた『魔族』が気になるわ。何のために領主を襲ったのか……大魔王が倒された今、派手に行動を起こせば叩かれるわ」

 「別にわたしら無敵ってわけでもないですしね。大魔王様だって倒されたわけですし」

 「あんたなんか捕まったらいいおもちゃでしょうね」

 「怖いこと言わないでくださいよ……それじゃ、追いますか」

 「もちろんよ。このわたしの美貌で彼を虜にしないといけないんだし」

 「ぶふっ! 美貌……! そのちんちくりんな体で! 虜! げひゃひゃ勘弁して……くださ痛たたた!?」

 「この辺の森には性欲旺盛なオークは居なかったかしら」

 「いやぁぁぁぁ!?」

 「ふう……馬鹿なこと言ってないで追うわよ。この二人より先に見つけないと厄介なことになるわ。近くならもうナビはいらないし」

 「ふう……助かった……」

 「あんたの罪は後程ね」

 「終わってなかった!?」


 怪しげな二人組はエリィ達よりも早く、レオス追跡を開始したのだった。
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