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第二章:実家はまだ遠い
~Side2~ レオスの足跡
しおりを挟むミドラの町へ到着したエリィとルビアの二人は、早速聞き込みを開始していた。ここで姿を見かけた者がいなかったら絶望的……来た道を戻ってもう一度探すしかない、そう思っていたのだが――
「あの、金髪を後ろで束ねて、こういうコートを着て肩掛けのカバンを持った男の子を見かけませんでしたか?」
「え? ああ、ちょっと前まで広場で"ぽっぷこーん"とかいうのを売っていた子がそんな風貌をしていたようなきがするな」
「え!? ほ、本当に!?」
「多分、だけどね。結構評判だったから他にも聞いてみるといいかもね」
「ありがとうございます! ルビア、行きましょう!」
「ほいきた! おじさん、ありがとね!」
二人は情報を探るため、広場へと向かうがそこにはレオスらしき人影はどこにも無かった。
「……居ませんね」
がっかりするエリィをよそに、ルビアは広場にいた三人組に声をかけていた。
「そこの人達、ちょっといいかな?」
「わ、ナイスバディ……マリーヌさんといい勝負じゃないかしら……えっと、なんでしょう?」
シーフっぽい子だなと思いながら、ルビアは女の子に尋ねる。
「これこれこういう子を見かけなかった? 気弱そうな感じの子なんだけど」
そこで首を傾げながら男が口を開く。
「ん? それってまさかレオスのことかな? あ、でも気弱そうってなら違うか……」
「「それー!!」」
「うお!? んだべ、そったらでけ声出したらおっかねぇべ!?」
男が二人の剣幕に押されて、尻餅をつくと大人しそうな女の子が驚きながら話しかけてきた。
「レ、レオスさん、ですか? あの人なら一昨日この町を出て行きましたよ?」
「レオス『さん』……あの人……? その話、詳しく聞かせてくれませんか?」
「ヒッ……!?」
ぞっとする笑みを浮かべるエリィに戦慄する女の子。慌てて男が立ち上がって間に立った。
「な、何かよくわからんけどレオスのことを知りたいのか? ならギルドへ行こう。ギルドマスターなら無関係じゃないし。オレはエコール、レオスに助けてもらったEランクの冒険者」
「アタシはリラ。で、こっちが……」
「セ、セラと申します。もしかしてあなたがエリィさん、ですか?」
「え?」
セラの言葉に目をぱちくりさせるエリィ。そのまま二人はギルドへ連れられ、ギルドマスターの部屋へ通された。
「あんた達がレオスを探しているって女の子か? 俺はギルドマスターのヒューリだ」
「はい。エリィと申します」
「あたしはルビア」
それを聞いてヒューリは目を点にして二人の顔をもう一度よく見てみると――
「け、賢聖エリィに拳聖ルビアじゃないか!?」
「え!?」
「マジ!?」
ヒューリの言葉にエコールとリラが同時に驚愕の声をあげ、エリィ達は気にした風も無く反応した。
「あ、ご存じなんですね」
「まあ、顔までは知れ渡っていないと思ってたけど、流石はギルドマスターってところね」
ルビアが感心してドヤ顔をしていると、ヒューリは咳払いを一つして話を続ける。
「ゴホン! で、どうして大魔王を倒した勇者パーティの二人がレオスを?」
「あ、レオス君は私達の――むぐ!?」
「(ストップよエリィ! レオスが国王と約束してたでしょ? あいつは大魔王退治に参加していなかった、そういう約束を。もしそれがバレたらレオスがどうなるか分からないわよ?)」
「(そ、そうでした……)」
「(暗殺されちゃうかもしれないから気を付けてね)」
「(は、はい!)」
ひそひそとルビィが注意する中、ヒューリはなおも言葉を発する。
「あいつは確かに強いが、ついこの前冒険者試験に受かったばかりだが――」
「はあ!? 冒険者ですか!? レオス君が!?」
「嘘でしょ、あの気弱なレオスが冒険者!?」
「ん? 気弱? そんなことないだろ。レオスは稀にみる逸材で、ここの試験をトップで合格したぞ。なあ?」
ヒューリが、ははは、と、陽気にエコールへ尋ねる。
「ええ、オレ達はレオスに助けてもらわなかったら合格できていなかったかもしれないです。試験中に出てきたウッドゴーレムを倒したのも多分レオスでしょうね」
「トップ成績のウッドゴーレム!?」
「エリィ、混ざってる混ざってる。……うーん、嘘を言っているようには見えないし……本物のレオスかしら?」
「おいおい、何で探しているのか知らないけど、あいつは間違いなく逸材だ。その内何かの聖職につけるくらいはあるぞ。少なくとも俺はCランク以上はあると睨んでいて、まだ力を隠していると思う」
「Cランク……それはよっぽどですね。分かりました、彼はもう出て行ったのですね?」
エリィが困惑した顔で誰ともなく聞くと、セラが手を上げて答える。
「は、はい! 多分徒歩ですからすぐ追いつくと思います! あ、あのエリィさん、レオスさんとお幸せに!」
「ええ!? ど、どういうことですか!? 私とレオス君はそんな関係じゃありませんよ!」
「エリィ、にやけてるにやけてる。まあ、そういうわけだけど、どうしてそう思ったの?」
「どうも心の中にはすでに誰か想い人がいる、そう感じたんです。たまに話に出て来るからてっきりエリィさんのことだと……あ、でも違いますよね、賢聖様なら貴族とか王族の方とご結婚されますよね!」
「……い、いえ、そうとも限りませんけど……でも分かりました、レオス君は町を出たのですね。そして徒歩で次の町へ。なら追いつけますね、ルビア」
「そうね、急ぎましょう」
「もう行くのか? 慌ただしいな、レオスの何がそんなに――」
「あ、もう行きますね! では情報ありがとうございました!」
「あ、ちょっと!」
言い訳を考えていたエリィはそそくさと、リラに止められる前に逃げだした!
「……なんだったんだ?」
「でも聖職と知り合いだなんて、やっぱり只者じゃなかったわね」
「まああいつが何かの聖職だって言われても気にならないけどな」
「……やっぱりレオスさんにモーションかけておけばよかった……」
「だったら残ってくれたかもしれないから……いや、さっきのエリィさんが怖い。多分あれは――」
◆ ◇ ◆
「ふう! 色々大発見でした。さ、それじゃ追いましょう!」
レオスが生きていて直近まで居たことを聞き、元気に歩き出そうとするエリィ。それにルビアがちょっと待ったをかける。
「待って待って」
「どうしましたか?」
「信じられないけど、レオスって冒険者になったのよね? それもかなり強いみたいだし」
「そうみたいですね、私達と旅をして強くなったんでしょう! さ、それじゃ行きましょう!」
やはり元気よく出発しようとするエリィにデジャヴを感じながらルビアはエリィの首根っこを掴んで止める。
「だから待ってって! そんなに強いんだったら送る必要なくない? 追いかけなくてもいいでしょ」
「……」
「あ、怖い。急に能面みたいな顔になるのやめて? お姉さん拳を極めたのにぶるっとしちゃった。……はあ、いいじゃない、別に好意があるわけでもないんでしょ?」
「あ、えっと……その……」
顔を真っ赤にしてもじもじするエリィにルビアが肩を掴んで驚く。
「え!? マジで!? あの冴えない超弱気で味方がやられたら気力が下がりそうなレオスを好きなの!?」
「あ、ちょ、ちょっと違うんですけど……笑いませんか?」
「……自信ないけど……続けてどうぞ?」
「安心するんですよ」
「安心?」
「はい。レオス君を抱き枕にして寝るととても安らぐんです」
「ふーん抱きまくらにねえ……って!? あんたそんなことしてたの!? いつよ!」
ルビアがガクガクと肩を揺すると、エリィは「えへへー」といった顔でガクガクしながら答える。
「宿屋に泊った時とかですね。レオス君はアレン達とは別部屋を取らされるから好都合でした。野営の時が本当に惜しいくらいで……良かった、笑われるかと思ったから」
「笑うどころかお姉さんガチドン引きなんですけど」
真顔で目のハイライトを消したルビアがそう言うと、エリィは困った顔で頭を下げた。
「ごめんなさい、気持ち悪いですよね……でも、アレを手放すのはとても惜しいんです……なんていうかこう、本当に安心するんですよ。レオス君は一度寝たら起きないから先に起きて自分の部屋に戻ってたからバレなかったんですよね」
「へえ……」
もはや言葉もない。
「私の我儘にこれ以上付き合ってもらう訳にも行きませんね。レオス君が強いなら二人でも大丈夫かもしれません! ルビアは故郷へ戻ってください! 今までありがとうございました!」
ぺこりとおじぎをして歩き出すエリィ。呆然と見送るルビア。
「(まさかエリィにそんな性癖が……あたしも故郷に戻るかな。あ、いや、でも戻ってもやることないしなー。旅の方が面白いし、いい男が見つかるかもしれないわね!)」
そう胸中で思い、ルビアはエリィを追いかけた。
「待ってー! あたしも行くわー!」
◆ ◇ ◆
「……どこにも居ないじゃない」
「お、おっかしいなー、この宿に泊まってたんですけどー……」
「ったく、気付かれて逃げられたんじゃないの? 見失ったら探すの大変なんだけど……とりあえずあんたは縛られたまま男に襲われる刑ね」
「後生です! わたしまだ経験ないんです! せめて最初は自分で選ばせてくださいぃぃぃ」
「次は無いわよ?」
「は、はい! ……っと、お嬢様、あれを」
「! あれは、勇者パーティの女ども……城に居たはずだけどどうしてこんなところに……? ちょっと近づいてみましょう」
(レオス君は町を出たのですね。そして徒歩で次の町へ。なら追いつけますね、ルビア)
「……なるほど、彼はもう町を出たんですね」
「そのようね。そして彼女達は行き先を知っている? よし、つけるわよバス子」
「へっへっへ……血の雨が見れそうですねえ……」
「最後に笑うのはこの私よ……!」
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